- 著者: Tiffany R. King-Peoples, Avery D. Posey Jr.
- Corresponding author: Avery D. Posey Jr. (Department of Systems Pharmacology and Translational Therapeutics, University of Pennsylvania Perelman School of Medicine, Philadelphia, PA, USA; Corporal Michael J Crescenz VA Medical Center, Philadelphia, PA, USA)
- 雑誌: Nature Cancer
- 発行年: 2021
- Epub日: 2021-09-16
- Article種別: Commentary (News & Views)
- PMID: 35121869
背景
CAR-T (chimeric antigen receptor T) 細胞療法はtisagenlecleucel、axicabtagene ciloleucel、brexucabtagene autoleucel、lisocabtagene maraleucel、idecabtagene vicleucelの5剤がFDA (Food and Drug Administration) 承認を取得し(2021年時点)、再発・難治性B細胞性血液腫瘍に対して革命的な治療選択肢をもたらした。しかし固形がんに対するCAR-T細胞療法の持続的な臨床効果は極めて限定的であり、この領域には大きな gap in knowledge が残されている。固形がんにおける主要な失敗要因として、(1) 腫瘍抗原不均一性による免疫逃避、(2) 真に腫瘍特異的な抗原の不足によるon-target off-tumor毒性リスク、(3) 腫瘍微小環境(TME: tumor microenvironment)の免疫抑制、(4) CAR-T細胞のin vivo持続性不足とT細胞疲弊(exhaustion)が挙げられる。
CARは抗体由来の一本鎖可変領域(scFv: single-chain variable fragment)、膜貫通ドメイン、細胞内共刺激ドメイン(4-1BB、CD28等)、およびCD3ζ活性化ドメインから構成される。共刺激ドメインの選択はCAR-T細胞の機能と運命を左右する。4-1BB(CD137)共刺激を持つCAR-T細胞はミトコンドリア生合成と脂肪酸酸化(FAO: fatty acid oxidation)を促進し、central memory表現型を誘導することでin vivo持続性を延長することが示されており (Carpenito et al. ProcNatlAcadSciUSA 2009、Milone et al. MolTher 2009)、一方CD28共刺激は解糖系とエフェクター機能を増強するがミトコンドリア生合成の低下とin vivo持続性の短命化をもたらす傾向がある。両共刺激を同一分子内に配置した第3世代CARは理論上この両者の利点を兼ねるはずであったが、固形腫瘍の免疫抑制的TMEへの適応を実現した設計は手薄であった。T細胞疲弊については慢性的な抗原刺激とCD3ζシグナルの過剰な活性化が主因とされているが (Wherry et al. NatRevImmunol 2015)、CD3ζシグナル強度の「調律(tuning)」によって疲弊を抑制しながら持続性を高めるアプローチは十分に検討されていなかった。
腫瘍抗原の不均一発現による免疫逃避を防ぐため、二重抗原標的CAR-T細胞の開発も進んでいる。B細胞腫瘍では抗CD19・抗CD20バイスペシフィックCAR-T細胞が概念実証を示したが (Zah et al. CancerImmunolRes 2016)、固形腫瘍を対象としてデュアル標的設計と最適化された共刺激設計を組み合わせたアプローチは不足していた。神経芽腫(NB: neuroblastoma)においてGD2とB7-H3は臨床的に関連する二重標的として注目されているが、これらを用いたsplit-signaling設計の有効性を詳細に検証した研究はなかった。本Commentaryは、共刺激シグナルを2つの独立したCAR分子に分離する「split-signaling」設計が、持続性・エフェクター機能・抗原逃避防止を同時に最適化できることを示したHirabayashiらの研究の意義を解説する。
目的
本Commentaryの目的は、Hirabayashiら(同号Nature Cancer掲載、DOI: 10.1038/s43018-021-00244-2)が報告したGD2.28ζ-B7-H3.BB split-signaling dual-CAR T細胞の設計原理と主要成果を解説し、固形腫瘍CAR-T細胞療法における意義を考察することである。具体的には、CD28と4-1BBという異なる共刺激シグナルを別々のCAR分子に分離し、CD3ζ活性化ドメインをGD2標的CAR側にのみ配置するという設計が、T細胞の代謝適応・増殖能力・抗腫瘍効果をどのように最適化するかを論じる。さらに、デュアル抗原標的と共有CD3ζシグナルの組み合わせが抗原不均一性による腫瘍免疫逃避をどのように防ぐかを明らかにし、CAR設計最適化の普遍的原則としての可能性を検討する。
結果
Split-signaling CAR設計の核心原理: Hirabayashiらは、GD2を標的とするCAR(scFv-CD28-CD3ζ: signal 1とCD28共刺激を提供)とB7-H3を標的とするCAR(scFv-4-1BB: 4-1BB共刺激のみでCD3ζなし)をbicistronic retroviralbectorで共発現させるsplit-signaling dual-CAR(GD2.28ζ-B7-H3.BB)を開発した(Fig. 1右端)。この設計はGD2とB7-H3への同時接触時にCD28・4-1BB両共刺激とCD3ζ活性化が同時成立するAND-gate的性質を持ち、CD3ζシグナルをGD2 CAR側に限定することで活性化シグナル強度を「調律」する。先行するKlossらによる初期概念実証(抗CD19-CD3ζと抗PSMA-CD28.BB のsplit-signal設計 Kloss et al. NatBiotechnol 2013)を拡張し、固形腫瘍(NB)での実用展開と代謝最適化メカニズムの解明まで前進させた点が重要な進歩である。
In vivo抗腫瘍効果・持続性の4群比較: NSGマウスのCHLA-255ヒトNB異種移植モデルにおける4群比較において、split-signal群(d: GD2.28ζ-B7-H3.BB)は一次腫瘍を根絶し、腫瘍再チャレンジ後も持続的な腫瘍制御を維持した(Fig. 1)。治療後Day 14およびDay 28での循環T細胞レベルはsplit-signal群で4群中最高値を示し、優れたin vivo持続性が実証された。in vitro反復共培養でもsplit-signal CAR-T細胞はNB細胞の継続的な排除と高T細胞数・持続的サイトカイン分泌を維持した。第3世代GD2.28.BBζ(b群)および両CD3ζ型デュアルCAR(c群: GD2.28ζ-B7-H3.BBζ)はいずれも単一標的GD2.28ζ(a群)の腫瘍再発を「rescue」できなかったことから、デュアル標的化だけでなくCD3ζ共有設計(一方のCARにのみCD3ζを配置すること)が持続性獲得に必須であることが示された(Fig. 1比較)。
表現型・代謝プロファイルの最適化: Split-signal CAR-T細胞は、CD27+CD28+CD4+細胞とCD8+T細胞のearly memory表現型への濃縮と、PD-1・TIM-3・LAG-3などの疲弊マーカーの低発現を同時に達成した。細胞外フラックス解析では、OCR(酸化的リン酸化の指標)の増加とECAR(解糖系の指標)の維持が観察され、CD28と4-1BBの両共刺激の利点(エフェクター機能と長期持続性)を統合した代謝柔軟性が示された。バルクRNA-seq解析では、REST状態のsplit-signal CAR-T細胞はT細胞活性化・解糖系・IFN-γ応答関連遺伝子の発現がGD2.28ζと比較して高い基礎活性化状態にあることが確認された。刺激後Day 5時点では、split-signal群で細胞周期関連遺伝子の発現が濃縮され、増殖能の亢進と一致した。これらの知見はB7-H3.BB CARコンポーネントがGD2.28ζ CAR-T細胞の代謝適応度と増殖能力を改善することを示唆している。
抗原不均一性への対応と免疫逃避防止: GD2発現が不均一な神経芽腫モデルにおいて、split-signal CAR-T細胞はGD2単独標的細胞と比較してより強い抗腫瘍効果とtype Iサイトカイン分泌を示した。低腫瘍量in vivoモデルでは、GD2単独標的CAR-T細胞(a群)投与マウスで選択圧によりGD2 dimな抗原ロス亜集団が生存し腫瘍再発が観察されたのに対し、split-signal デュアルターゲティングCAR-T細胞は腫瘍増殖を制御し、抗原ロスと免疫逃避を防止した。この結果は二重標的化が抗原不均一性への免疫圧に対するrobustnessをもたらすことを示している。さらに、MSLN/CSPG4を標的とした転移性中皮腫モデルでも複数ラウンドのin vitro共培養と中皮腫モデルで同様の優れた効果が確認され、GD2/B7-H3に限らない設計の汎用性が実証された。
CAR設計チューニング原則の整理: 本Commentaryはsplit-signaling設計に加え、CD3ζ ITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)数の最適化(Feucht et al. 2019がITAMを1/3に変異させた「calibrated CAR」で機能的持続性を向上させたことを引用)、CD28ドメイン内のLck・Grb2 SH2/SH3結合残基変異によるシグナル強度調整、ならびに共刺激ドメインの膜近位・膜遠位配置の違いがシグナル強度に与える影響についても議論している。神経芽腫のGD2 CAR-T臨床試験(Heczey et al. 2017)でCD28+OX40共刺激+リンパ球除去+PD-1阻害の組み合わせでも限定的な効果しか得られなかったことを引用し、最適な共刺激エンドドメインの組み合わせは未解明のままであると強調している(Fig. 1参照)。
考察/結論
本Commentaryは、CAR-T細胞工学における「signal 1とsignal 2の分離・調律」が固形腫瘍CAR-T療法の最適化における中核概念であることを明示した論評記事である。Hirabayashiらのsplit-signaling dual-CAR(GD2.28ζ-B7-H3.BB)は、これまでの研究で主流であった第3世代CAR(CD28と4-1BBを同一分子内に直列配置した設計)と異なり、共刺激シグナルを独立した受容体分子に分離することでエフェクター機能と代謝適応度・長期持続性を同時に最適化した。第3世代CAR(GD2.28.BBζ)や両CD3ζデュアルCAR(GD2.28ζ-B7-H3.BBζ)と対照的に、split-signaling設計のみが腫瘍再発を防ぎ持続的な制御を実現したことは、CD3ζをどのCAR側に配置するかという設計上の判断が決定的であることを示す。同一分子内の共刺激配置と分離配置では代謝プロファイルが根本的に異なるという本知見は、既報の第3世代CAR評価研究との相違を鮮明に示している。
本研究で初めて、固形腫瘍モデルを対象としてCD28(GD2 CAR側)と4-1BB(B7-H3 CAR側)の共刺激シグナル分離と共有CD3ζの組み合わせが、代謝柔軟性・長期持続性・抗原逃避防止を同時に達成できることが実証された点は新規の知見であり、これまで報告されていないアプローチである。先行するKloss et al. NatBiotechnol 2013のAND-gate概念(安全性のための選択的活性化が目的)を大幅に超え、代謝メカニズムの解明・複数の抗原ペアへの汎用展開・固形腫瘍での有効性証明まで前進させた点でnovelな貢献である。また、B7-H3.BB CARコンポーネントが単にデュアル標的を付加するだけでなく、4-1BBシグナルの膜近位配置によりGD2.28ζ T細胞の代謝適応度を根本から改善するという機能的メカニズムを提示した点も新規性の核心である。
固形腫瘍に対するCAR-T細胞療法の臨床応用において、本知見は重要な臨床的意義を持つ。神経芽腫のみならず、GD2・B7-H3などの抗原を共発現する多様な固形がん(三重陰性乳がん、膠芽腫、膵臓がん等)においても、split-signalingデュアルCARの臨床応用が積極的に検討されるべきである。CD3ζ ITAM数の最適化(Feucht et al. 2019)やCD28ドメイン内残基変異(Guedan et al. 2020)との組み合わせにより、bench-to-bedsideの実現可能性はさらに高まる。T細胞の代謝プログラミングと共刺激設計の関係を系統的に解明することは、臨床現場でのCAR-T製品の有効性向上に直結し、固形腫瘍CAR-T療法の次世代設計の礎となる。特に、CAR-T細胞製造における共刺激ドメインの最適化指針を提供するという観点で、本設計原則の臨床的含意は大きい。
残された課題として、(1) GD2/B7-H3以外の抗原ペアでの系統的なsplit-signaling設計の評価(最適な共刺激ドメインの組み合わせはCD28/4-1BB以外でも検討が必要)、(2) ICOS/OX40/CD27等を用いた更なる検討と比較評価の体系的実施、(3) CAR-T細胞製造における安定的なbicistronic発現系の最適化と拡張性の確立、(4) 免疫能正常患者での臨床試験へのtranslationと安全性・有効性の確認、(5) 腫瘍微小環境の免疫抑制克服戦略(免疫チェックポイント阻害やアーマードCAR等)との組み合わせ効果の検証が挙げられる。今後の研究によりsplit-signaling設計原則が固形腫瘍CAR-T療法の標準設計として確立されるかどうか、さらなる展開が期待される。本設計はCD3ζ signaling intensityのfine-tuningとdual-targetingを統合する普遍的なフレームワークとして、future researchにおける重要な起点となりうる。
方法
本稿はNews & Views / Commentary論文であり、独立した一次実験は含まない。解説対象はHirabayashiらの研究で、NB細胞株CHLA-255を用いたNSG(NOD scid gamma; 免疫不全)マウス異種移植モデルにおけるCAR-T細胞の機能評価が主体である。Hirabayashiらの実験手法には、フローサイトメトリー(CD27/CD28/CD4/CD8/PD-1/TIM-3/LAG-3表現型解析)、複数ラウンド反復共培養による in vitro細胞傷害性アッセイ、サイトカイン分泌測定(IFN-γ、IL-2等)、バルクRNAシーケンス解析(REST状態および活性化後Day 5の遺伝子発現比較、GSEA (gene set enrichment analysis) 含む)、細胞外フラックスアナライザーによる酸素消費率(OCR: oxygen consumption rate、酸化的リン酸化の指標)および細胞外酸性化率(ECAR: extracellular acidification rate、解糖系の指標)測定、ならびにin vivoでの腫瘍増殖制御・腫瘍再チャレンジモデルが含まれる。比較群は(a) GD2.28ζ(単一標的第2世代)、(b) GD2.28.BBζ(第3世代、CD28+4-1BB同一分子内)、(c) GD2.28ζ-B7-H3.BBζ(デュアルCD3ζ型)、(d) GD2.28ζ-B7-H3.BB(split-signal)の4群である。統計解析にはANOVAおよびlog-rank検定(腫瘍生存曲線の群間比較)が用いられた(Hirabayashi et al.参照)。再現性確認のため、GD2/B7-H3系に加えMSLN(mesothelin)とCSPG4(chondroitin sulfate proteoglycan 4)を標的とする転移性中皮腫モデルでも評価されている。