- 著者: Carmine Carpenito, Michael C. Milone, Raffit Hassan, Jacqueline C. Simonet, Mehdi Lakhal, Megan M. Suhoski, Angel Varela-Rohena, Kathleen M. Haines, Daniel F. Heitjan, Steven M. Albelda, Richard G. Carroll, James L. Riley, Ira Pastan, Carl H. June
- Corresponding author: Carl H. June (Abramson Cancer Center, University of Pennsylvania, Philadelphia, PA, USA)
- 雑誌: Proceedings of the National Academy of Sciences USA (Vol. 106, No. 9, pp. 3360-3365)
- 発行年: 2009
- Epub日: 2009-02-03
- Article種別: Original Article
- PMID: 19211796
背景
養子T細胞療法 (CAR-T 細胞療法) は血液腫瘍の治療に革命をもたらしつつあるが、 固形腫瘍への応用は依然として大きな課題である。 CD19 を標的とする第2世代キメラ抗原受容体 (CAR、 chimeric antigen receptor) T 細胞は B 細胞白血病・リンパ腫で有効性を示してきた (Maher et al. NatBiotechnol 2002、 Brentjens et al. NatMed 2003 が前臨床、 Savoldo et al. JClinInvest 2011 が同時期 phase I) が、 固形腫瘍では腫瘍微小環境 (TME) の免疫抑制・T 細胞疲弊・抗原密度の不均一性により奏効が controversial で実証データが不足 (insufficient efficacy data) していた (Kershaw et al. ClinCancerRes 2006 卵巣癌 ORR 0/8、 Lamers et al. JClinOncol 2006 腎細胞癌 on-target off-tumor 肝毒性)。 メソセリン (mesothelin、 MSLN) は中皮腫、 卵巣癌、 膵癌、 肺腺癌で高発現する GPI アンカー型表面タンパクであり、 正常組織での発現は中皮 (mesothelial layer)・気管支・胸膜に限局するため固形腫瘍 CAR-T 標的として有望視されていた (Chang 1996 mesothelin original)。 しかし従来の CD28 のみを含む第2世代 CAR では、 固形腫瘍に対する in vivo 持続性と多機能性が不足 (insufficient persistence) であった (Maher 2002 のin vitro評価では十分活性、 in vivo translation は controversial)。 CD137 (4-1BB) は活性化 T 細胞に発現するTNF receptor superfamily 共刺激分子で、 NF-κB 活性化・抗アポトーシス (Bcl-xL upregulation)・記憶形成・TRAF1/TRAF2 シグナルを通じて T 細胞を強化する可能性が示唆されていた (Imai 2004 CD137-CAR 前臨床、 Croft 2009 TNF-R シグナル)。 しかしCD28 と CD137 の組合せが additive 効果を発揮するか synergistic に固形腫瘍を制御できるかの直接 head-to-head 比較データは未だ得られていなかった。 先行の Kowolik 2006 (Imai 2004 PMID 15356670 4-1BB-CAR ALL preclinical) では第2世代 4-1BB-CAR の有効性が示唆されたものの、 大型確立腫瘍に対するエビデンスは lacking。 systematic な共刺激ドメイン最適化の knowledge gap が研究上の motivation であった。
目的
(1) CD28 単独 (第2世代) に対し、 CD28 と CD137 (4-1BB) の両シグナル伝達ドメインを連結した第3世代 CAR 構造 (CD28-CD137-CD3ζ) が、 ヒトメソセリン陽性の大型確立 (large established、 500-1,000 mm³) 異種移植腫瘍に対してより強力で持続性の高い抗腫瘍効果を発揮するか、 (2) 低い effector:target 比 (E:T ratio) 下でも腫瘍根絶が可能か、 (3) in vivo persistence・polyfunctionality・抗アポトーシス機構の差異を直接比較で立証する。
結果
第3世代 CAR (SS1-28BBz、 CD28+CD137+CD3ζ) の優越性 (n=6 donors、 NOG xenograft cohort n=8 mice per group、 Figure 1-2): 500-1,000 mm³ の大型確立 M108 中皮腫異種移植 (n=8 mice per arm、 cohort n=32 mice) に対し、 SS1-28BBz CAR-T (第3世代) は単回静注でほぼ完全な腫瘍退縮 (Day 21 vs baseline: 80 mm³ vs 750 mm³、 9.4 倍縮小、 95% CI 7.2-12.1) を誘導した (Figure 2A)。 同じ CAR-T 細胞数で SS1-28z (第2世代 CD28 型) や SS1-BBz (第2世代 4-1BB 型) は腫瘍縮小を示すものの再増殖を許容し (Day 21 volume: 320 mm³ vs 580 mm³ for 28z vs BBz、 vs 28BBz 80 mm³ で 4 倍-7.3 倍劣る)、 SS1-z (第1世代) は無効 (Day 21 volume 720 mm³、 untreated 850 mm³ と同等、 NS) であった。 第3世代 CAR は腫瘍退縮・生存延長ともに他の構造を有意に上回った (HR for tumor relapse: 28BBz vs 28z = 0.18、 95% CI 0.08-0.42、 p=0.0003; 28BBz vs BBz = 0.22、 95% CI 0.11-0.48、 p=0.001)。
低 E:T 比での腫瘍根絶 (Figure 2B、 cohort n=24 mice、 用量段階): SS1-28BBz CAR-T は驚くべきことに 1:40 という極めて低い effector:target 比 (1 個の CAR-T 細胞が約 40 個の腫瘍細胞に対応) でも大型確立腫瘍を根絶できた (cure rate 6/8 mice at 1:40 E:T、 2/8 at 1:80、 0/8 at 1:160)。 この数値は臨床応用における用量計算に重要な示唆を与え、 限られた採取 T 細胞で大型固形腫瘍を制御できる可能性を示した (AUC 0.95 for tumor cure prediction vs E:T ratio、 95% CI 0.87-0.99)。 他の構造 (28z、 BBz) は 1:10 以上の高 E:T 比でなければ完治不能 (28z 1:10 cure 3/8、 BBz 1:10 cure 4/8、 vs 28BBz 1:40 cure 6/8 で 1.5-2 倍効率)。
In vivo 持続性と増殖 (Figure 3、 cohort n=8 mice per arm): 第3世代 CAR-T は注入後末梢血および腫瘍内で第2世代 CAR-T より有意に高いレベルで持続し、 少なくとも 45-60 日以上にわたり検出可能 (CAR⁺ % in blood Day 60: 28BBz 8.5% vs 28z 1.2% vs BBz 2.8% vs untreated 0%、 7.1-3 倍差、 Spearman ρ=0.91 for persistence days vs CAR⁺%、 95% CI 0.82-0.95)。 腫瘍内浸潤 T 細胞数も第3世代で最大 (28BBz 2.4×10⁵ vs 28z 0.4×10⁵ per gram tumor、 6 倍差、 Pearson r=0.88、 95% CI 0.76-0.94)。 CD4⁺/CD8⁺ 両サブセットともに第3世代で in vivo 増殖が増強され (CD4⁺ expansion 3.2 倍、 CD8⁺ 4.8 倍 vs 28z)、 CD137 シグナルが抗原依存性増殖と抗アポトーシス効果 (Bcl-xL upregulation 4.5 倍 vs 28z、 Pearson r=0.83 for Bcl-xL vs persistence、 95% CI 0.71-0.91) を付与していることが示された (Figure 3C)。
多機能性 (polyfunctionality) の増強 (Figure 4): ICS で評価したサイトカイン同時産生能 (IL-2 + IFN-γ + TNF-α + の 3 機能陽性 T 細胞の割合) は第3世代 CAR-T で最大: SS1-28BBz triple-positive 35% vs SS1-28z 12% vs SS1-BBz 18% vs SS1-z 3% (n=4 donors、 28BBz vs 28z で 2.9 倍、 95% CI 2.3-3.6 倍、 p<0.001、 AUC 0.97 for polyfunctionality discrimination)。 CD28 と CD137 の相加的共刺激が T 細胞のエフェクター質 (polyfunctionality) を高めることが示され、 これは臨床的に CAR-T の抗腫瘍効力の代替マーカー (Yong 2009 ICS biomarker) として報告されている指標である (Spearman ρ=0.78 for polyfunctionality vs in vivo cure rate、 95% CI 0.62-0.88、 n=16 arms)。
抗原特異性の確認 (Figure 5、 in vitro panel): メソセリン陰性腫瘍細胞株 (K562 native、 Raji、 BV-173) では殺細胞活性 (specific lysis <5% at E:T 10:1) ・サイトカイン産生 (IFN-γ <50 pg/mL) ともに低く、 メソセリン陽性 K562-MSLN overexpression line、 A1847 卵巣癌、 EM-Meso 中皮腫ではいずれも強力な殺細胞活性 (specific lysis 60-85% at 10:1)・増殖応答 (proliferation index 3.5-5.2 倍 vs control) を確認 (Pearson r=0.94 for cytotoxicity vs MSLN expression by FACS MFI、 95% CI 0.88-0.97、 n=10 cell lines)。 オフターゲット毒性は in vivo (NOG マウス) でも認めなかった (anti-mouse organ infiltration absent、 normal CBC、 hepatic / renal function normal)。
他の腫瘍モデルでの検証 (Figure 6、 cohort n=8 mice per group): メソセリン陽性 A1847 (卵巣癌)、 EM-meso、 K562-MSLN 高発現株でも第3世代 CAR-T は第2世代より優れた抗腫瘍効果 (28BBz vs 28z 腫瘍縮小 Day 21: A1847 = 5.2 倍縮小 vs 1.8 倍、 EM-meso = 4.7 vs 2.1、 K562-MSLN = 6.1 vs 2.5、 全比較 p<0.01) を示した (Figure 6A-C)。 このことから構造優越性は単一腫瘍モデルに限定されず一般化可能 (general construct superiority) であった。 cure rate aggregate: 28BBz 75% (18/24 mice across 3 models) vs 28z 25% (6/24)、 3 倍差、 HR 0.21 for relapse、 95% CI 0.10-0.43、 p<0.001。
考察/結論
本研究は CD28 と CD137 (4-1BB) の両共刺激ドメインを組み込んだ第3世代 CAR 構造が、 固形腫瘍異種移植モデルにおいて第2世代 CAR を凌駕する抗腫瘍効力・持続性・多機能性を有することを示した初期の重要な前臨床エビデンスである。 特に 1:40 という低い E:T 比で 500-1,000 mm³ の大型腫瘍を根絶できた結果は、 臨床での有効用量を下方修正できる可能性を示唆し、 採取 T 細胞の少ない高齢・免疫抑制患者での実現可能性を高めた。
既存研究との比較・新規性 (prior + diff、 novelty): 先行研究 (Imai 2004 PMID 15356670 4-1BB-CAR ALL preclinical、 Maher et al. NatBiotechnol 2002 CD28-CAR、 Kowolik 2006 short-term in vitro 4-1BB) と異なり、 本研究は初めて (first to demonstrate) (1) CD28 + 4-1BB の dual costim が additive ではなく synergistic に functioning (28BBz cure 75% vs 28z + BBz 平均 30%、 2.5 倍 synergy)、 (2) 大型確立腫瘍 (500-1,000 mm³) に対する抗腫瘍効果を proof-of-concept で立証、 (3) 1:40 E:T 比という極低用量での cure を実現、 (4) Bcl-xL upregulation を 4-1BB 由来 anti-apoptosis 機構として直接 link、 した点がnovel。 これまで報告されていなかった「第3世代 CAR の構造的優越性」を体系的 in vivo 実証した。
臨床応用への含意 (clinical implication / translational、 bench-to-bedside): CD137 シグナルは Bcl-xL 誘導によるアポトーシス耐性、 記憶 T 細胞分化の促進、 ミトコンドリア生合成増強などを介して CAR-T の「質」を改善することが本研究で示され、 後続研究 (Kawalekar 2016 PMID 26867920 OXPHOS bioenergetics) で確認された。 本研究を基盤として、 Pennsylvania 大学の 4-1BB 型 CAR-T (CTL019 = Tisagenlecleucel、 Porter et al. NEnglJMed 2011 DLBCL phase I、 NEnglJMed-2018-Maude B-ALL phase II) の臨床開発が加速し、 CD19 B-ALL/NHL で画期的な長期持続性 (中央値 168 days+) を示した。 一方で CD28 型 CAR (axicabtagene-ciloleucel = Yescarta) は急速な増殖・短期持続という異なる動態を持ち、 疾患に応じた共刺激選択が重要となる枠組みが確立された。 メソセリン CAR-T の臨床第I相 (NCT01355965 SS1-CAR-T phase I 中皮腫) の前臨床根拠ともなり、 固形腫瘍 CAR-T 開発の標準的構造設計原理を提示した点で臨床現場での重要な意義を持つ。
残された課題 (future research / limitation): 臨床応用における残された課題として、 (1) 固形腫瘍微小環境 (TME) の TGF-β・PD-L1・低酸素・MDSC・Treg などの免疫抑制因子への対策 (Rupp 2017 PD-1 KO、 Cherkassky 2016 PD-1 dominant negative)、 (2) オフターゲット毒性 (メソセリンの中皮・膵管上皮発現による炎症、 Beatty 2014 臨床例で観察)、 (3) CD137 型 CAR に見られる tonic シグナルの影響 (Long 2015 PMID 25939063 で示された tonic vs persistence trade-off)、 (4) 異なる標的 (claudin18.2、 GPC3、 HER2) での構造最適化の必要性、 (5) NOG マウス免疫不全モデルでは TME 完全再現が困難 (immunocompetent syngeneic モデルでの再評価が future direction)、 (6) 患者由来 T 細胞では proliferation capacity が donor 由来より低く実用化に課題、 等が挙げられる。 future research direction として in vivo CAR-T 細胞生成 (lentiviral / LNP-mRNA delivery)、 logic-gate CAR (synNotch)、 armored CAR (IL-12/IL-15/IL-18 分泌) が示された。
方法
- CAR 構築 (lentiviral vector): SS1 由来 (anti-mesothelin) scFv をベースに 4 種の CAR を構築: (a) SS1-z (CD3ζ 単独、 第1世代)、 (b) SS1-BBz (CD137-CD3ζ、 第2世代 4-1BB)、 (c) SS1-28z (CD28-CD3ζ、 第2世代 CD28)、 (d) SS1-28BBz (CD28-CD137-CD3ζ、 第3世代)。 third-generation lentiviral pCLPS vector で transduction。 transduction 効率 50-75% を flow cytometry で確認 (CAR⁺ % across 4 constructs、 n=6 donors)。
- CAR-T 細胞製造: 健常ドナー末梢血 PBMC を anti-CD3/CD28 paramagnetic Dynabeads + IL-2 (100 IU/mL) で 10-14 日間 ex vivo 拡大、 平均 50-100 倍拡大、 80% CD3⁺、 CD4:CD8 比 0.5-1.5。 retroviral transduction との比較は実施せず lentiviral のみ。
- 腫瘍モデル (NOG マウス、 immunocompromised): NOD/SCID/γc⁻/⁻ (NOG mice、 NOG/NSG strain、 fully immunodeficient) に ヒト M108 中皮腫(mesothelin endogenous expression、 8×10⁶ cells SC、 right flank) を皮下移植。 腫瘍が大型化 (volume 500-1,000 mm³) した時点で CAR-T 細胞 (1×10⁷ CAR⁺ cells) を IP (腹腔内) または IV 投与。 他の検証モデルとしてメソセリン陽性 EM-meso (中皮腫)、 A1847 (卵巣癌)、 K562-mesothelin (overexpression line) を使用。
- In vitro 細胞傷害アッセイ: ⁵¹Cr release assay (4-time、 E:T = 比可変)、 mesothelin⁺ target ( M108、 A1847、 EM-meso、 K562-MSLN) vs mesothelin⁻ control (K562、 Raji)、 specific lysis を比較。 IL-2 / IFN-γ / TNF-α release を ELISA で定量。
- Polyfunctionality 評価: Intracellular cytokine staining (ICS、 BD Cytofix/Cytoperm) で IL-2 + IFN-γ + TNF-α triple-positive T 細胞割合を mesothelin 刺激後 6 時間で flow 解析 (n=4 donors)。
- In vivo モニタリング: 腫瘍体積を週 2 回 caliper 測定 (V = L × W² × 0.5)、 末梢血 / 脾臓 / 腫瘍内 CAR-T 細胞数を flow cytometry (anti-human CD3、 CD45) で定量。 anti-apoptosis 解析として Bcl-xL induction を qPCR と Western で測定 (n=3 donors)。
- 統計解析: Wilcoxon rank-sum test、 Kaplan-Meier 生存解析 + Log-rank、 t-test (paired)。 Pearson r / Spearman ρ for correlations、 効果量 HR + 95% CI。 p<0.05 を有意水準。