• 著者: Noura J. Choudhury, Emelie Gezelius, Andrea Arfe, Marina Baine, Christina J. Falcon, Helena Yu, Natasha Rekhtman, Charles M. Rudin
  • Corresponding author: Charles M. Rudin (Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York; rudinc@mskcc.org)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2026
  • Epub日: 2026-06-17
  • Article種別: Original Article (Brief Report)
  • DOI: 10.1016/j.jtho.2026.104061

背景

肺大細胞神経内分泌癌 (LCNEC; large cell neuroendocrine carcinoma) は、形態・免疫組織化学・分子マーカーにより小細胞肺癌 (SCLC; small cell lung cancer) と区別される高悪性度神経内分泌癌であり、肺癌診断の約 3% を占める希少疾患である。LCNEC の臨床管理は SCLC を含む他の肺癌組織型からの外挿に大きく依存し、SCLC の薬剤開発が加速する一方で LCNEC 患者は SCLC 試験から除外されることが多く臨床的進歩が停滞している。先行研究では LCNEC の分子亜型が提唱され、Rekhtman et al. 2016 と George et al. 2018 が体細胞ゲノム変異に基づく「NSCLC-like」「SCLC-like」の二値分類を報告したが (Rekhtman et al. 2016 は次世代シーケンスで SCLC 様・非小細胞様サブセットを同定)、この分類に基づく治療個別化の有用性を支持するデータは限定的である。加えて、EGFR-TKI 等の標的治療下での組織学的変化 (histological transformation) は主に SCLC への転換として記述され (Quintanal-Villalonga et al. 2020 が lineage plasticity を耐性の共通経路として整理)、LCNEC への転換は稀にしか報告されていない。既存の LCNEC コホートは分子分類に沿った転帰解析・混合組織型の包括・transformed LCNEC (tLCNEC) の系統的記述のいずれかを欠いており、「分子分類が実際に治療選択と転帰に寄与するか」「tLCNEC がどのような臨床像を呈するか」という点が未解明であった。すなわち、分子分類に基づく治療最適化の臨床的検証と、de novo・transformed 双方を統合した実臨床データが不足していた。本研究はこの gap in knowledge を、単施設大規模後ろ向きシリーズで臨床転帰と分子解析を統合することで埋める。

目的

本研究は、① 新規診断された転移性 LCNEC 患者の臨床転帰を定義すること、② NSCLC-like / SCLC-like の分子分類に基づいて治療を整合させることが転帰を改善するかを検証すること、③ transformed LCNEC (tLCNEC) という distinct な患者群の臨床像を記述すること、を目的とする。これらの知見に基づき、この希少で標準治療が未確立な患者集団の unmet needs に対応する前向き試験開発のガイドラインを提唱する。

結果

コホート構成と分子分類の分布:計 137 例が組み入れられ (n=137)、122 例が de novo LCNEC、15 例が transformed disease (tLCNEC、先行する腺癌診断・治療あり) であった。37 例が混合組織型 (mixed histology) 腫瘍で、tLCNEC 15 例のうち 12 例が腺癌・SCLC あるいは双方との admixed histology を示した。患者は男性優位 (n=75、55%)、白人 (n=104、76%)、喫煙歴あり (n=123、90%) が主体で、transformed disease の 80% も喫煙歴を持ち、経過中に 60% が脳転移を有するか発症した。腫瘍ゲノムプロファイリングは 115 例 (84%) で施行され、65 例 (56%) が NSCLC-like (tLCNEC 15 例を含む)、43 例 (37%) が SCLC-like、7 例が unclassifiable であった。NSCLC-like と SCLC-like の双方が純型・混合組織型のいずれにも観察され、LCNEC + 肺腺癌 (LUAD) 群は純型 LCNEC 群より NSCLC-like ゲノムの頻度が高かった (85% vs 53%、p=0.04)。最頻の oncogenic driver は KRAS (n=21) と EGFR 変異 (n=19) であった (Fig 1B、Table 1)。

分子分類・治療レジメン別の全生存に有意差なし:1 次治療開始からの全生存 (OS) 中央値は de novo LCNEC 群 10.0 ヶ月 (95% CI 8.6-11.9) vs tLCNEC 群 16.3 ヶ月 (95% CI 9.4-40) で (stratified HR 0.85、95% CI 0.49-1.49、p=0.6、Fig 2A)、群間差は有意でなかった。NSCLC-like 群 12.1 ヶ月 (95% CI 10.0-17.6) vs SCLC-like 群 9.4 ヶ月 (95% CI 6.3-11.2) と有意な OS 差はなく (HR 1.2、95% CI 0.78-1.75、p=0.5、Fig 2B)、化学療法への免疫療法追加も生存を改善しなかった (chemoimmunotherapy 群 9.9 ヶ月 [95% CI 7.7-13.9] vs chemotherapy 群 10.4 ヶ月 [95% CI 8.6-14.1]、HR 1.1、p=0.6、Fig 2C)。NSCLC-like と SCLC-like のゲノム分類間でも OS に差はなかった (mOS 9.9 vs 8.3 ヶ月、HR 1.01、p>0.9)。ゲノム分類に沿った治療を行っても OS 改善は認めなかった。ただし、全サブグループで NSCLC-like 治療が数値的に長い生存を示した点は注目される (SCLC-like ゲノム群で mOS 10.5 vs 8.2 ヶ月、NSCLC-like ゲノム群で 10.3 vs 6.2 ヶ月)。de novo LCNEC では 70 例 (57%) が化学療法、41 例 (34%) が chemoimmunotherapy を受けた。SCLC-like ゲノム患者は SCLC-like レジメン (34/52、65%) を NSCLC-like レジメン (13/52、25%) より多く受けた一方、NSCLC-like ゲノム患者は両レジメンをほぼ均等に受けた (29/63 [46%] vs 30/63 [48%]、Fig 1C)。

Transformed LCNEC の driver 変異と oligometastatic に対する局所治療の有効性:tLCNEC 15 例の driver 変異は EGFR (n=13)、RET fusion (n=1)、KRAS G12C (n=1) で、全例が transformation 前に一致した標的治療を受けていた。最初の腺癌生検から LCNEC 生検までの期間中央値は 24.4 ヶ月 (16.4-45.2) で、LCNEC transformation 後の OS 中央値は 16.3 ヶ月 (95% CI 9.4-39.9) であった (Fig 2A)。数例では transformation が oligometastatic progression として生じ、切除・放射線などの局所治療の併用で transformation 後治療の期間が延長した (Fig 2D)。Patient 95 (EGFR exon 19 del) は oligometastatic な生検確定 LCNEC transformation を切除後、osimertinib を 33.6 ヶ月継続した。Patient 111 (EGFR exon 19 del) は LCNEC 切除後に補助的 cisplatin + etoposide を行い osimertinib を 8.0 ヶ月再開した。Patient 126 (EGFR L858R) は nivolumab 25 ヶ月後に LCNEC transformation を来し、局所 LCNEC 切除後に nivolumab を 4 ヶ月継続した。これらは進行時 re-biopsy による組織学的転換の同定と、oligoprogressive 症例での局所治療優先の重要性を示す。

考察/結論

本 MSK 単施設大規模後ろ向きシリーズは、転移性 LCNEC の臨床転帰が不良であることを明確にした。1 次治療開始後の OS 中央値 10 ヶ月は、SCLC の 1 次 chemoimmunotherapy で報告される生存中央値を下回り (cross-trial 比較には注意を要する)、他の大規模シリーズ (オランダ全国病理登録 PALGA (Pathologisch-Anatomisch Landelijk Geautomatiseerd Archief)-group 7.4 ヶ月〜他報告 15 ヶ月) と併せ集団の変動性を反映する。先行研究との違いとして、これまで LCNEC の複数の後ろ向きコホートが公表されてきたが、本研究はゲノム分類に沿った転帰解析・実臨床を反映する混合組織型の広範な包括・tLCNEC という distinct 群の系統的記述を同時に行う点で対照的である。分子分類 (NSCLC-like/SCLC-like) に沿って化学療法を調整しても明確な便益は示されず、免疫療法の追加も生存を改善しなかった (HR 1.1、p=0.6) — これは転移性腺癌・SCLC で確立された chemoimmunotherapy の恩恵からの departure である。新規性として、本研究は tLCNEC の最大シリーズとして、oligometastatic/oligoprogressive tLCNEC の認識と局所治療優先が durable な疾患制御をもたらしうるという観察を本研究で初めて報告した。臨床応用の観点では、標的治療中の進行時 re-biopsy による組織学的転換の同定が臨床的に重要であり、DLL3 標的 T 細胞エンゲージャー (Wermke et al. 2025 の obrixtamig 等) や SCLC で成功した antibody-drug conjugate が LCNEC の novel therapeutics の有望な出発点となる。免疫療法不応の機序解明には PD-L1 発現・tumor mutational burden・co-mutation 状態といったバイオマーカーの検討が求められる。LCNEC の免疫学的特徴は高悪性度神経内分泌腫瘍の文脈で議論されてきた (Kim et al. JThoracOncol 2018)。SCLC で進展した lurbinectedin + atezolizumab 等の維持療法戦略 (Paz-Ares et al. Lancet 2025) や DLL3 標的療法 (Saunders et al. SciTranslMed 2015) の LCNEC への応用可能性は重要な検討課題である。残された課題として、著者らは新規薬剤を治療歴のない患者に検討する試験を優先すべきと提唱し、混合組織型・脳転移を含む広い適格基準、single-arm phase I/II の許容、包括的なゲノム・トランスクリプトーム・病理プロファイリングの探索的組み込みをガイドライン (Table) として示す。本研究の限界は単施設・後ろ向きデザイン、サンプルサイズ、SCLC-like/NSCLC-like 分類の gold standard 不在による群間変動であり、今後の検討として targetable vulnerability を同定する前向き研究が求められる。

方法

本研究は MSK (Memorial Sloan Kettering Cancer Center) 単施設の後ろ向きシリーズで、Declaration of Helsinki と Good Clinical Practice に準拠し施設審査委員会 (IRB) 承認下で 2010–2022 年に同定された患者を対象とした。組み入れ基準は LCNEC の組織学的診断と、進行病変に対する 1 次全身療法の開始である。全例を経験豊富な MSK 胸部病理医が WHO 胸部腫瘍分類に従い独立レビューし、複数の神経内分泌免疫組織化学マーカー (synaptophysin、chromogranin、CD56、および/または INSM1) と Ki67 を各例で評価した。混合組織型 (mixed histology) 症例も許容した。Transformed disease が疑われる症例は胸部病理医による独立確認を受け、histological transformation は先行する腺癌診断で標的治療を受けたこと・先行組織型に一致する細胞学的特徴の保持に基づき mixed histology と区別した。腫瘍は targeted gene panel sequencing (MSK-IMPACT) でプロファイルし、oncogenic driver の有無 (‘NSCLC-like’) または Rb1 loss (‘SCLC-like’) に基づき階層的に亜型化 (変異なしは ‘unclassified’)、化学療法レジメンも NSCLC-like (pemetrexed/taxane/gemcitabine 含有) と SCLC-like (etoposide 含有) に二値分類した。生存期間は転移性 LCNEC への 1 次全身療法開始から定義し、Kaplan-Meier 法および log-rank 検定 (p 値 <5% を有意) で解析、MSK-IMPACT タイミングに基づく left truncation 補正を行った。組織型・ゲノム分類・治療分類別の pre-specified な転帰差の解析には Wilcoxon rank sum 検定と Fisher exact 検定を用いた。