- 著者: Laura R. Saunders, Alexander J. Bankovich, Wade C. Anderson, Monette A. Aujay, Sheila Bheddah, KristenAnn Black, Radhika Desai, Paul A. Escarpe, Johannes Hampl, Amy Laysang, David Liu, Javier Lopez-Molina, Milly Milton, Albert Park, Marybeth A. Pysz, Hui Shao, Brian Slingerland, Michael Torgov, Samuel A. Williams, Orit Foord, Philip Howard, Jacek Jassem, Andrzej Badzio, Piotr Czapiewski, David H. Harpole, Afshin Dowlati, Pierre P. Massion, William D. Travis, M. Catherine Pietanza, J. T. Poirier, Charles M. Rudin, Robert A. Stull, Scott J. Dylla
- Corresponding author: Scott J. Dylla (Stemcentrx Inc.)
- 雑誌: Science Translational Medicine
- 発行年: 2015
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 26311731
背景
小細胞肺癌 (SCLC) と大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) は肺原発腫瘍の約18%を占める高悪性度肺神経内分泌腫瘍であり、30年以上にわたり新規治療選択肢が登場していない最も致死的な悪性腫瘍の一つである。SCLCは診断時に既に遠隔転移していることが多く、5年生存率は5%未満にとどまる。標準一次治療はシスプラチン+エトポシド (C/E) 化学療法であり、限局型にはこれに同時放射線療法を加えるが、初期奏効後も短期間で再発する。二次治療薬トポテカンの奏効率は約17%、無増悪生存期間中央値3ヶ月、全生存期間7ヶ月未満と極めて不良である (vonPawel et al. JClinOncol 2014)。
SCLCは肺神経内分泌細胞 (PNEC; pulmonary neuroendocrine cell) に由来すると考えられており、転写因子ASCL1 (achaete-scute complex homolog 1) がSCLC腫瘍形成能の維持に重要な役割を果たすことが報告されている。マウスモデルではPNEC前駆細胞へのTrp53/Rb1不活化によりSCLC様腫瘍が発生することが示されており (Sutherland et al. CancerCell 2011)、SCLCとLCNECのゲノム異常としてSOX2増幅など特有の変化も明らかにされている (Rudin et al. NatGenet 2012)。腫瘍内には自己複製能と元の腫瘍不均一性を再構成する能力を持つ腫瘍形成能細胞 (TIC; tumor-initiating cell) が存在し、患者由来腫瘍移植 (PDX; patient-derived xenograft) モデルはこれらのTICを同定・評価するのに優れたシステムである。しかしながら、SCLCおよびLCNECのTICを選択的に標的化しうる表面分子は十分に同定されておらず、既存の化学療法によるTIC排除も達成されていない。ここに根本的な gap in knowledge が存在し、TICを特異的に標的とする新たな治療戦略の開発が不足していた。
目的
SCLCおよびLCNECのPDXモデルにおいてDLL3 (delta-like ligand 3) を腫瘍形成細胞の表面マーカーとして同定・検証し、DLL3標的抗体薬物複合体 (ADC; antibody-drug conjugate) SC16LD6.5が複数のPDXモデルにおいてin vivoでTICを有効に排除しうるかを評価する。
結果
DLL3 mRNAの高悪性度肺神経内分泌腫瘍における著明な過剰発現:全トランスクリプトームおよびqRT-PCR解析により、SCLCおよびLCNEC PDX腫瘍ではDLL3 mRNAが正常7臓器比で100倍以上過剰発現しており、すべてのTIC分画で高発現を示した (Fig 1A)。29例の原発SCLC生検・25株SCLC細胞株・25例正常肺を含む独立データセットでは正常肺比約35倍の発現上昇を確認した (Fig 1E)。14 SCLC PDX・2 LCNEC PDXのマイクロアレイ解析では12正常組織比約120倍の発現上昇が示された (Fig 1F)。DLL3とASCL1の発現はPearson r²=0.66, p<0.0001で強く相関した。正常組織では脳・食道・膵臓に限定的な発現が認められたが、後2者はSCLC比1000分の1以下であった。SCLC cell line encyclopedia (CCLE) データでもSCLC細胞株に特異的な高発現が確認された。
DLL3タンパク質の腫瘍細胞表面発現とIHCによる組織学的定量:MSDサンドイッチELISAでは28正常組織すべてでDLL3タンパク質が検出限界 (0.37 ppm) 以下であったのに対し、SCLC PDXでは平均3.7 ppm、LCNEC PDXではさらに高値を示した (Fig 2C)。組織マイクロアレイIHCにより、正常肺および扁平上皮癌は全例H-score陰性で、治療歴なしSCLCの72% (120/167例)・再発/難治性SCLCの85% (17/20例)・LCNECの65% (37/57例) がH-score >100を示した (Fig 2E)。肺腺癌の3.7% (3/82例) にも低発現が認められ、神経内分泌分化成分の存在と整合した。フローサイトメトリーでLU149 SCLC PDXおよびLU37 LCNEC PDXの腫瘍細胞表面にDLL3が直接確認された (Fig 2F)。
ADC SC16LD6.5の抗原依存的内在化と強力な細胞毒性:DLL3発現HEK-293T.hDLL3細胞へのSC16LD6.5曝露後に蛍光免疫染色でSLP-1 (stomatin-like protein-1) 陽性の後期エンドソームへの共局在を確認し、DLL3依存的な内在化と毒素デリバリーを実証した (Fig 3B)。in vitro細胞毒性試験ではSC16LD6.5がHEK-293T.hDLL3細胞に対してEC50=7.8 pMを示し、フリー薬物D6.5 (EC50=46.9 pM) の約6倍の効力を発揮した (Fig 3D)。LU64 SCLC PDX細胞では内因性DLL3によりEC50=8.3 pMの高い細胞毒性が確認された (Fig 3E)。一方、DLL3をshRNAノックダウンしたLU37.D3hp細胞はSC16LD6.5に完全に抵抗性を示し (Fig 3G)、細胞毒性活性の厳密な抗原依存性が実証された。
複数のSCLC・LCNECモデルにおける持続的in vivo腫瘍退縮:SC16LD6.5 1 mg/kg Q4D×3 (1回4日おき・計3回腹腔内投与) により、LU64 SCLC PDX (DLL3 4.25 ng/mg) では5/5匹全例が完全奏効を達成し、144日間の観察期間中腫瘍再発なしであった (Table 1, Fig 4A)。同モデルにおいてC/E化学療法は86% %TGIの初期奏効を示したものの18日で再発した (Fig 4D)。C/E難治性モデルLU86 (DLL3 3.05 ng/mg) でもSC16LD6.5 dTTP=32日の有効性が示され、C/Eの%TGI 39% (dTTP=0日) と対照的であった (Fig 4B/4E)。LCNEC LU37 PDXではdTTP=132日と際立った持続効果が得られ、シスプラチン単独のdTTP=4日と対照的であった (Fig 4C/4F)。10 SCLC・2 LCNEC PDX計12株の全成績ではSCLC中央値dTTP=71日 (SEM±18日)、LCNEC中央値dTTP=87日を示し、DLL3発現量と治療効果はPearson r²=0.58, p=0.006で有意に相関した (Table 1, Fig 4G)。C/E再発後の二次治療としてSC16LD6.5を投与したLU64モデルでも5/5匹完全奏効が得られ、一次治療と同等の効果が示された (Fig 4H)。
制限希釈連続移植法によるTIC排除の直接証明:SC16LD6.5単回投与 (1 mg/kg) 5日後にLU64 PDX腫瘍から生細胞をFACsで単離し、限界希釈法でTIC頻度を推定したところ、未治療群1:189に対してSC16LD6.5処置後1:1136へと約6倍の低下が示された (Fig 5C, Table 1)。対照群IgG1LD6.5は1:78とわずかに増加し、C/E化学療法は1:248と有意な変化を示さなかった。LU95 SCLC PDX (TIC頻度1:60) でも同様の顕著なTIC低下が確認された (Fig S9A/B)。一方、DLL3低発現モデルLU80ではSC16LD6.5によるTIC頻度の変化は認められず (Fig S9C/D)、効果の発現がDLL3発現に依存することが確認された。これらの機能的データは、SC16LD6.5によるin vivo腫瘍増殖抑制および持続的腫瘍退縮がDLL3発現TICの有効な標的化と排除によって達成されることを直接証明している。
考察/結論
本研究は、DLL3がSCLCおよびLCNECの腫瘍形成細胞を含む腫瘍細胞表面に広く発現する新規治療標的であることを確立し、DLL3標的ADC SC16LD6.5が複数のPDXモデルにわたってTICを効果的に排除することをin vivoで本研究で初めて証明した。制限希釈移植実験により、SC16LD6.5が標準化学療法C/Eとは対照的にTIC頻度を著明に低下させることが機能的に示された点は、本研究の最大の新規知見である。これまでの研究においてSCLC化学療法はTIC頻度に有意な影響を与えないことを示す直接的な機能的証拠は乏しく、本知見は化学療法後の急速再発という臨床パターンを説明する機序として重要である。
DLL3のADC標的としての適格性については、既報ではDLL3がゴルジ体や細胞質小胞に局在するとされていたが、本研究ではIHCおよびフローサイトメトリーによりヒト高悪性度肺神経内分泌腫瘍細胞表面でのDLL3タンパク質発現を明確に示し、この認識と異なる重要な知見を提示した。治療歴なしSCLCの72%・再発/難治SCLCの85%・LCNECの65%がIHCで高発現 (H-score >100) を示しており、DLL3が正常成人組織に検出されないこととあわせて優れた治療窓を有する標的と言える。DLL3とASCL1の強い発現相関 (r²=0.66) は、ASCL1が高悪性度肺神経内分泌腫瘍形成を駆動する系統的腫瘍遺伝子として機能し、その下流標的としてDLL3が誘導されるモデルを支持する。
臨床応用の観点から、SC16LD6.5の前臨床毒性試験ではラットおよびカニクイザルにおいて可逆的な三血球系骨髄抑制・軽度腎変性・皮膚肥厚/色素沈着が認められたが、いずれもPBDリンカー薬のオフターゲット毒性であり正常組織でのDLL3発現がないため標的依存性毒性は生じなかった。これらの臨床的意義ある前臨床プロファイルと複数PDXモデルでの有効性データにより、再発/難治性高悪性度肺神経内分泌腫瘍患者を対象とした第1相臨床試験 (NCT01901653) が開始された。
残された課題として、本研究のPDXモデルはすべて治療歴のない患者由来であり、実臨床で遭遇する多治療歴患者の腫瘍不均一性を必ずしも反映しない。SC16LD6.5が血液脳関門を通過できないため脳転移への対応は未解明であり、今後の検討が必要である。大腫瘍内でのADC浸透効率、長期投与でのDLL3下方調節による耐性出現の可能性についても future research として取り組む必要がある。さらに、DLL3がASCL1依存的な「乗客遺伝子」として発現誘導されるのか、Notch経路抑制を介して独立して腫瘍形成を促進する「ドライバー」であるのかは不明であり、その解明が耐性機序の理解と克服に直結する。
方法
主要実験系としてSCLC 10株 (LU64・LU73・LU80・LU86・LU95・LU100・LU117・LU124・LU129・LU149) とLCNEC 2株 (LU37・LU240) の計12 PDXモデルを使用した。in vivo実験にはNOD/SCIDマウス (nonobese diabetic/severe combined immunodeficiency; 5-7週齢雌、Harlan Laboratories/Charles River Laboratories) を用い、皮下移植後に腫瘍体積140-200 mm³で各群5-8匹に無作為化した。腫瘍体積はデジタルノギスで長軸・短軸を計測し、楕円体体積式 (0.5×長軸×短軸²) で算出した。
DLL3発現解析はSOLiD 4.5/5500xlシステムによる全トランスクリプトーム解析、FluidigmプラットフォームでのTaqMan qRT-PCR (DLL3・ASCL1・NEUROD1)、Agilent SurePrint GE Human 8x60 v2マイクロアレイ、Meso Scale Discovery (MSD) サンドイッチELISAの4つの手法を併用した。IHCは正常肺9例・非SCLC (腺癌82例・扁平上皮癌13例)・LCNEC 57例・SCLC 187例を含む組織マイクロアレイに対して実施し、H-score (0-300; 発現強度×陽性細胞率) で定量した。
SC16LD6.5はDLL3特異的ヒト化IgG1抗体 (SC16) にカテプシンB切断型バリン-アラニンジペプチドリンカーおよびPEG8スペーサー経由でPBD (pyrrolobenzodiazepine) ダイマー毒素D6.5を結合させたADCであり、薬物対抗体比 (DAR; drug-to-antibody ratio) =2。in vitro細胞毒性試験にはHEK-293T・HEK-293T.hDLL3 (DLL3安定発現株)・LU64・LU37細胞を使用し、4-7日培養後にCellTiter-Gloで生存率を測定した。抗原依存性確認のためshRNA (short hairpin RNA) によるDLL3ノックダウン株 (LU37.D3hp) を作製した。
TIC頻度は、SC16LD6.5・IgG1LD6.5・C/E・vehicle処置5日後の腫瘍から生細胞をFACSで単離し、限界希釈 (2500→3細胞) の連続移植をNOD/SCIDマウスに施して、腫瘍陰性率をL-Calc (Stem Cell Technologies) のポアソン分布統計 (Poisson distribution statistics) で解析した。有効性評価指標として腫瘍増殖抑制率 (%TGI; percent tumor growth inhibition) と腫瘍進行までの時間差 (dTTP; delta time to tumor progression) を算出した。統計解析はPearson相関 (GraphPad Prism) および両側unpaired t検定を実施し、p<0.05を有意とした。