• 著者: Kim HS, Lee JH, Nam SJ, Ock CY, Moon JW, Yoo CW, Lee GK, Han JY (Drs. Kim and Lee contributed equally)
  • Corresponding author: Ji-Youn Han, MD, PhD (Center for Lung Cancer, Research Institute and Hospital, National Cancer Center, 323 Ilsan-ro, Ilsandong-gu, Goyang-si Gyeonggi-do 10408, Republic of Korea; jymama@ncc.re.kr)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-02-03
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29378266

背景

肺の高悪性度神経内分泌癌 (HGNEC: high-grade neuroendocrine carcinoma) は、小細胞肺癌 (SCLC) と大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) から構成され、全肺癌の約 15% を占める極めて予後不良な疾患群である。これらは急速な増殖能と早期転移能を特徴とし、初期の化学療法感受性は比較的高いものの、速やかに耐性化を来す。外科切除、放射線、化学療法を組み合わせた多角的治療を施しても、5年生存率は 10-20% にとどまっており、治療選択肢の拡大が強く望まれている。

近年、がん免疫療法の進展に伴い、HGNEC における免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) の有用性に期待が寄せられている。その背景として、SCLC や LCNEC は喫煙との関連が深く、遺伝子変異量が非常に高いことが挙げられる。先行研究である Rizvi et al. Science 2015 では、高い腫瘍変異量 (TMB) がネオアンチゲンの形成を促し、抗 PD-1 療法に対する感受性を高めるバイオマーカーとなることが示されている。また、SCLC 患者において自己抗体を介する傍腫瘍症候群 (Lambert-Eaton 症候群) を合併する例で予後が良好であるという知見も、内因性の抗腫瘍免疫応答が存在することを示唆している。さらに、Ott et al. JClinOncol 2017 の KEYNOTE-028 試験や、Antonia et al. LancetOncol 2016 の CheckMate 032 試験などの臨床試験において、一部の HGNEC 患者で ICI が有望な抗腫瘍効果を示すことが報告されている。

しかし、HGNEC における PD-L1 発現や腫瘍浸潤免疫細胞 (IC) の浸潤パターン、およびそれらと遺伝子変異量や臨床病理学的因子との包括的な関連性は依然として未解明であった。特に、腫瘍細胞 (TC) と IC のそれぞれにおける PD-L1 発現の意義や、PTEN 欠損が免疫微小環境に与える影響については、アジア人患者を対象とした大規模な解析データが不足していた。PTEN 欠損は、Peng et al. CancerDiscov 2016 により悪性黒色腫において T 細胞浸潤低下および ICI 耐性と関連することが報告されているが、肺 HGNEC における実態は不明であった。このような背景から、HGNEC における免疫微小環境の特性を詳細に解明し、治療効果予測バイオマーカーを探索するための大規模なコホート研究が必要とされていた。

目的

本研究の目的は、韓国国立がんセンターにおいて治療を受けた肺 HGNEC 患者 192 例 (SCLC 120 例、LCNEC 72 例) の大規模コホートを対象に、腫瘍微小環境における免疫プロファイルを包括的に解析することである。具体的には、(1) 免疫組織化学 (IHC) 染色を用いて、TC および IC における PD-L1 発現状況を個別に評価し、その局在パターンを分類する。(2) IHC 染色により PTEN (phosphatase and tensin homolog) 発現の有無 (loss vs retained) を評価し、臨床病理学的因子との関連を調べる。(3) 409 遺伝子をカバーするターゲット次世代シーケンシング (NGS) パネルを用いて非同義変異 (NS: nonsynonymous) 数を定量化し、PD-L1 発現や IC 浸潤との相関を解析する。(4) これらのバイオマーカーと組織型 (SCLC vs LCNEC)、病期、および患者の無増悪生存期間 (PFS) や全生存期間 (OS) との関連を明らかにし、HGNEC における最適な予後予測因子および免疫療法の治療標的としての妥当性を検証することである。

結果

患者背景と臨床病理学的特徴: 対象となった 192 例の HGNEC 患者のうち、SCLC は 120 例 (62.5%)、LCNEC は 72 例 (37.5%) であった。全体の中央年齢は 66 歳 (範囲 36-89 歳) で、男性が 174 例 (90.6%)、喫煙者が 155 例 (80.7%) であった。組織型別の比較において、SCLC 群は LCNEC 群と比較して、非喫煙者の割合が高く (25.0% vs 9.7%)、ECOG PS 2-3 の割合が高く (29.1% vs 16.6%)、Stage IV の割合が有意に高かった (67.5% vs 25.0%)。また、一次治療として外科手術が施行された割合は、LCNEC 群で 65.6% であったのに対し、SCLC 群では 1.7% にとどまった (Table 1)。

TC および IC における PD-L1 発現と IC 浸潤の頻度: 腫瘍細胞 (TC) における PD-L1 陽性 (TC1/2/3、すなわち発現率 1% 以上) は 192 例中 29 例 (15.1%) と低頻度であった。一方、腫瘍浸潤免疫細胞 (IC) の浸潤は 66 例 (34.4%) で認められ、IC における PD-L1 陽性 (IC1/2/3) は 60 例 (31.3%) で観察された (Table 2)。IC 浸潤陽性と IC における PD-L1 発現の間には極めて強い正の相関が認められたが (p<0.01)、TC における PD-L1 発現は IC 浸潤 (p=0.68) および IC PD-L1 発現 (p=0.39) のいずれとも有意な相関を示さず、独立した事象であることが示された (Fig. 2)。

組織型および病期による免疫プロファイルの相違: 組織型別の解析において、IC 浸潤陽性率は LCNEC 群で 57.6% (38/72) であったのに対し、SCLC 群では 23.3% (28/120) と有意に低かった (p<0.01) (Table 2)。同様に、IC における PD-L1 陽性率も LCNEC 群で 45.8% (33/72) であったのに対し、SCLC 群では 22.5% (27/120) と有意に低値を示した (p<0.01)。多変量ロジスティック回帰分析の結果、SCLC 組織型は IC 浸潤の低下と独立して相関していた (OR 0.34, 95% CI 0.18-0.64, p<0.01)。さらに、病期別の解析では、Stage IV 群における IC 浸潤陽性率 (20.8%) および IC PD-L1 陽性率 (21.8%) は、Stage I-III 群 (それぞれ 47.3%, 41.8%) と比較して有意に低下していた (それぞれ p=0.01, p<0.01)。

PTEN 欠損と免疫プロファイルおよび遺伝子変異: PTEN 欠損 (loss) は評価可能であった 189 例中 18 例 (9.5%) で認められ、SCLC で 11.3%、LCNEC で 6.9% であった。PTEN 欠損の有無は、TC PD-L1 発現 (p=1.00)、IC 浸潤 (p=0.80)、IC PD-L1 発現 (p=0.60) のいずれとも有意な相関を示さなかった (Table 3)。しかし、ターゲット NGS を施行した 102 例の解析において、PTEN 欠損群 (n=10) は PTEN 維持群 (n=92) と比較して、非同義変異 (NS) 数が有意に高値であった (平均 170.70 ± 61.38 vs 85.62 ± 15.26, p=0.007) (Table 4)。また、PTEN 欠損群では IRS2 (insulin receptor substrate 2)、NUMA1 (nuclear mitotic apparatus protein 1)、CRTC1 (CREB regulated transcription coactivator 1) などの遺伝子変異頻度が有意に高く (Fig. 4)、KEGG パスウェイ解析では B細胞受容体シグナルやケモカインシグナル経路の変異シグネチャーが濃縮されていた (Fig. 5)。

遺伝子変異量と免疫微小環境の相関: ターゲット NGS を施行した 102 例において、TC における PD-L1 発現と NS 変異量との間に関連は認められなかった (p=0.20)。しかし、IC 浸潤陽性群は陰性群と比較して、NS 変異量が有意に高かった (平均 132.14 ± 34.04 vs 72.37 ± 13.57, p=0.030) (Table 4)。同様に、IC における PD-L1 陽性群も陰性群と比較して、有意に高い NS 変異量を示した (平均 141.28 ± 37.89 vs 71.62 ± 12.90, p=0.023) (Table 4)。

生存期間における予後予測因子としての意義: 生存解析の結果、TC における PD-L1 発現の有無は PFS および OS のいずれとも相関しなかった (Fig. 3A)。これに対し、IC 浸潤陽性群は陰性群と比較して、無増悪生存期間 (PFS) が有意に良好であった (中央値 11.3 vs 6.8ヶ月、HR 1.15, 95% CI 0.76-1.73, p<0.01) (Fig. 3B)。また、IC における PD-L1 陽性群 (IC1/2/3) も陰性群 (IC0) と比較して、有意に良好な PFS を示した (中央値 11.3 vs 7.0ヶ月、HR 1.15, 95% CI 0.76-1.73, p=0.03) (Fig. 3C)。全生存期間 (OS) については、これらの免疫バイオマーカーによる有意差は認められなかった。多変量 Cox 回帰分析では、PFS の独立した予後不良因子として SCLC 組織型 (HR 1.86, 95% CI 1.31-2.65, p<0.01) および Stage IV (HR 2.10, 95% CI 1.44-3.06, p<0.01) が抽出された。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、肺 HGNEC 患者 192 例という大規模なアジア人コホートを対象に、TC と IC のコンパートメント別に PD-L1 発現を厳密に評価し、ターゲット NGS による遺伝子変異量との関連を初めて包括的に明らかにした点で、従来の小規模な報告と大きく異なる。過去の報告では、HGNEC における TC の PD-L1 陽性率に 0% から 83% までの極めて広いばらつきが存在していたが、これは使用抗体やカットオフ値の不統一に起因すると考えられる。本研究では、検証された抗体クローンと厳格なスコアリング基準を用いることで、TC における真の PD-L1 陽性率が 15.1% と比較的低頻度である一方、IC における発現 (31.3%) や IC 浸潤 (34.4%) がより高頻度であり、臨床的意義が高いことを示した。

新規性: 本研究で初めて、HGNEC において IC 浸潤および IC における PD-L1 発現が、腫瘍の非同義変異 (NS) 量と正に相関することをヒト臨床検体で定量的に証明し、新規に同定した。これは、変異 burden の高さがネオアンチゲン形成を介して腫瘍局所への免疫細胞浸潤を誘導するという免疫原性のメカズムを裏付けるものである。さらに、LCNEC が SCLC よりも有意に “hot tumor” (免疫細胞浸潤が豊富で PD-L1 発現が高い) の性質を有していることを示し、両組織型間における免疫微小環境の生物学的相違を浮き彫りにした。また、PTEN 欠損が HGNEC において高い変異量と相関し、特定のシグナル伝達経路の変異蓄積を伴うことを新規に見出した。

臨床応用: 本研究の知見は、HGNEC に対する免疫療法戦略において重要な臨床的含意を持つ。TC の PD-L1 表明のみならず、IC 浸潤および IC の PD-L1 発現を組み合わせた評価が、患者の予後 (PFS) を予測するバイオマーカーとして極めて有用であることが示された。特に LCNEC は SCLC よりも免疫活性化状態にあり、ICI の恩恵を受けやすい可能性が示唆されるため、今後の臨床試験設計において組織型を層別化する臨床的有用性を支持する。また、PTEN 欠損ステータスが化学療法抵抗性や変異蓄積と関連することから、個別化医療における補助的マーカーとしての臨床応用が期待される。

残された課題: 本研究における主な limitation として、第一に単一施設における後ろ向き解析であるため、選択バイアスの影響を排除できない点が挙げられる。第二に、ターゲット NGS 解析が全体の約半数 (102例) でのみ実施されたため、ゲノムデータの解析規模に制限がある。第三に、本コホートの患者は ICI による治療を受けていないため、提示された免疫バイオマーカーが ICI の直接的な「治療効果予測因子」であるか、あるいは純粋な「予後予測因子」であるかを完全に区別することは困難であり、今後の検討課題として残されている。今後の方向性として、ICI 治療を受けた HGNEC 患者の前向きコホートにおいて、IC 浸潤や変異量が治療奏効性と直接相関するかを検証する必要がある。

方法

本研究は、2001年3月から2014年4月までに韓国国立がんセンターで治療を受けた肺 HGNEC 患者 192 例を対象とした単一施設の後ろ向きコホート研究 (retrospective cohort) である。本研究は同センターの機関倫理委員会 (IRB) の承認 (NCC2014-0156) を得て実施された。組織型は 2004 年 WHO 分類に基づき、CD56、chromogranin、synaptophysin の IHC 染色により神経内分泌分化を確認した上で、SCLC (n=120) および LCNEC (n=72) に分類された。本研究の主要評価項目 (primary endpoint) は無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) と設定された。

IHC 染色には、Benchmark XT 自動染色機 (Ventana Medical Systems) を使用した。PD-L1 染色には抗ヒト B7-H1 (PD-L1) 抗体 (R&D Systems, MAB1561) を用い、PTEN 染色にはマウスモノクローナル抗体 (Clone 28H6, Novocastra) を用いた。PD-L1 発現は、細胞膜の染色パターンに基づき、陽性細胞の割合に応じて TC0/IC0 (1%未満)、TC1/IC1 (1%以上10%未満)、TC2/IC2 (10%以上50%未満)、TC3/IC3 (50%以上) の 4 段階でスコア化した (TC0-3およびIC0-3)。IC 浸潤は、腫瘍巣内、間質、または浸潤辺縁におけるリンパ球や骨髄系細胞の浸潤の有無で評価した。PTEN 発現は、周囲の正常細胞を内部対照として、腫瘍細胞全体で発現が著明に低下または消失している場合を loss、維持されている場合を retained と判定した。

遺伝子変異解析は、サンプルが利用可能であった 102 例を対象に、Ion AmpliSeq Comprehensive Cancer Panel (ThermoFisher Scientific) を用いて実施された。本パネルは 409 個のがん関連遺伝子の全コーディングエキソンをカバーする。Ion Proton シーケンサーを用いてディープシーケンシングを行い、Torrent Suite (v3.4.2) および Genome Analysis Toolkit (v2.3.9Lite) を用いてバリアントコールを行った。生殖細胞系列変異やアーチファクトを除外するため、Korean Personal Genomes Project データベース等を用いてフィルタリングを行い、SnpEff (v4.1a) により非同義変異 (NS) を抽出して変異量を算出した。

統計解析には SPSS 18 ソフトウェアを使用し、カテゴリカル変数の比較には Fisher’s exact test、連続変数の比較には Mann-Whitney U test を用いた。生存解析は Kaplan-Meier 法および log-rank test (ログランク検定) を用い、多変量解析には Cox proportional hazards regression (コックス比例ハザード回帰モデル) を適用した。有意水準は p<0.05 と定義した。なお、本研究は後ろ向き観察研究であるため、事前設計による sample size calculation (サンプルサイズ計算) は行わず、対象期間内に条件を満たした全連続症例を解析対象とした。