• 著者: M Wolf, R Holle, K Hans, P Drings, K Havemann
  • Corresponding author: M Wolf (Philipps-University of Marburg, Department of Internal Medicine, Division of Hematology/Oncology, Germany)
  • 雑誌: British Journal of Cancer
  • 発行年: 1991
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 1648949

背景

小細胞肺がん (SCLC) は1980年代においても平均中央値生存期間が約1年、2年生存率が全患者の5-10%程度に留まり、化学療法レジメンの改良にもかかわらず長期予後の改善が停滞していた時代背景がある (Minna et al. 1985, Havemann et al. 1987a, Wolf et al. 1987, Havemann et al. 1987b)。SCLCの予後を規定する因子として、病期 (限局型LD vs 進展型ED) と performance status (PS) の2因子のみが一貫した重要因子として認識されていたが (Morstyn et al. 1984, Livingston et al. 1978, Osterlind et al. 1986, Souhami et al. 1985, Kalter et al. 1984, Vogelsang et al. 1985, Ihde et al. 1981, Rawson et al. 1990)、これ以外の予後因子の独立した意義については議論が続いていた。特に、性別の予後的役割については見解が分かれており、性差が生存に影響しないとする報告 (Souhami et al. 1985, Ihde et al. 1981, Vincent et al. 1987, Rawson et al. 1990) と、女性に良好な予後を認めるとする報告 (Osterlind et al. 1986, Maurer et al. 1981, Sagman et al. 1988, Dearing et al. 1988, Spiegelman et al. 1989) が混在していた。

このような見解の相違が生じる理由として、いくつかの要因が考えられる。第一に、SCLC患者における女性の割合は全体で15-20%と比較的少ないため、小規模な臨床試験では統計的検出力が不十分となり、性差を検出できない可能性があった。第二に、性別の予後効果が、限局型病期や良好なPSなど、他の有利な予後因子を持つサブグループにおいて特に強く発現する可能性が指摘されていた。この場合、全体集団での解析では性差が希薄化され、有意差が認められにくくなる。第三に、性別の効果が特に長期生存に重要であるにもかかわらず、SCLCの予後不良性から早期死亡が多い集団では、長期生存における性差が観察されにくいという課題があった。これらの要因により、性別がSCLCの独立した予後因子であるか否かは未解明な点が多かった。先行研究では、性別の予後効果に関する知識ギャップが残されており、特に大規模なコホートを用いた詳細な解析が不足していた。

本研究は、ドイツの15施設が参加した3つの連続多施設無作為化試験のデータプールを活用し、766例という当時としては大規模なコホートで性別を含む複数の予後因子を体系的に多変量解析した。これにより、先行研究で不足していた大規模なデータに基づく検証を行い、性別の独立した予後因子としての意義を明確にすることを目的とした。さらに、年齢と性別の交互作用という新たな視点を加えることで、どのサブグループで女性の予後優位性が最も強く発現するかを詳細に分析し、先行研究にはない独自の貢献を提供した。

目的

ドイツ多施設試験参加SCLC 766例において、性別・病期・PS・喫煙歴・体重減少・年齢の各因子について単変量解析および多変量Cox比例ハザードモデルを用いて独立した予後的意義を評価し、特に性別が独立した予後因子であるかを検証する。さらに、性別と年齢の相互作用を明らかにし、どのサブグループで女性の予後優位性が最も強く発現するかを記述的に明らかにする。本研究の主要な目的は、SCLCにおける性別の予後予測因子としての役割を、大規模な患者コホートを用いて統計学的に厳密に評価することである。具体的には、女性患者が男性患者と比較して、治療奏効率、中央値生存期間、および長期生存率において優位性を示すかどうかを検証する。また、多変量解析により、性別が他の既知の予後因子(病期、PS、喫煙歴など)から独立して生存に影響を与えるかを明らかにする。最終的に、性別と年齢の組み合わせがSCLC患者の予後に与える影響を詳細に解析し、特に若年女性における予後優位性のメカニズムに関する仮説を提示することを目的とする。

結果

全体的な生存成績の性差: 全766例の治療成績は3試験間で有意差を認めなかったため (中央値OS 10.6ヶ月、2年生存率10%) プールして解析した。性別別の成績は、女性114例 (15.0%) で中央値OS 12.1ヶ月、CR率35%、2年生存率19%に対し、男性652例 (85.0%) では中央値OS 9.8ヶ月、CR率25%、2年生存率8%であり、女性群が有意に良好であった (病期・PS層別化log-rank検定p=0.0001)。喫煙歴を追加層別化因子としてもp=0.0002と同様の有意差が保持された。この結果は、女性患者が男性患者と比較して、より高い奏効率と長期生存率を示すことを明確に示している (Figure 1)。

多変量Cox回帰分析における独立した予後因子: 4変数をCox比例ハザードモデルに投入した解析では、性別 (回帰係数0.40, 標準誤差0.11, p=0.0003)、病期 (回帰係数0.61, 標準誤差0.08, p=0.0001)、PS (回帰係数0.45, 標準誤差0.10, p=0.0001)、喫煙歴 (回帰係数0.44, 標準誤差0.15, p=0.0026) の4変数が独立した有意な予後因子として確認された (Table III)。一方、体重減少 (p=0.071) と年齢 (p=0.17) は全体集団では有意な独立因子ではなかった。回帰係数の大きさから影響力の順序は、病期>PS≒喫煙歴≒性別の順であった。この結果は、性別が他の主要な予後因子から独立してSCLC患者の生存に影響を与えることを示唆している。特に、性別はHR 0.67 (95% CI 0.54-0.83, p=0.0003) であり、男性と比較して女性の死亡リスクが有意に低いことを示唆している。

サブグループ別の性差: 病期別では、限局型 (男性244例、女性52例) において女性のCR率44% vs 男性37%、中央値OS 15.2ヶ月 vs 12.0ヶ月、2年生存率29% vs 11% (p=0.0015) と女性優位が有意に確認された。進展型 (男性402例、女性63例) でも中央値OS 10.2ヶ月 vs 8.7ヶ月、2年生存率9% vs 3% (p=0.0005) と両病期で女性優位が有意に確認された。PS別では Karnofsky 80-100%群 (男性519例、女性90例) においてCR率39% vs 28%、中央値OS 13.4ヶ月 vs 10.4ヶ月、2年生存率24% vs 7% (p=0.0001) と女性が顕著に優れ、Karnofsky 50-70%群では中央値OS 9.0ヶ月 vs 5.9ヶ月とやはり女性が良好ではあるが2年生存率の差は小さかった。喫煙者 (n=698) では女性の中央値OS 11.8ヶ月 vs 9.7ヶ月 (p=0.0025)、非喫煙者 (n=63) では女性16.9ヶ月 vs 男性11.0ヶ月 (p=0.065、例数少なく有意差なし) であった (Table IV)。これらのサブグループ解析は、女性の予後優位性が様々な臨床的特徴を持つ患者群で一貫して観察されることを示している。

年齢別サブグループ解析 (最重要所見): 女性の生存優位は60歳未満の患者群で特に顕著であった。60歳未満では女性65例・男性404例で中央値OS 13.3ヶ月 vs 10.1ヶ月 (p=0.0001)、2年生存率26% vs 5%であり、女性の優位性が高統計的有意差をもって示された (Figure 2)。このサブグループにおける女性の死亡リスクはHR 0.60 (95% CI 0.47-0.77, p=0.0001) であった。一方、60歳以上では女性49例・男性249例で中央値OS 9.3ヶ月 vs 9.1ヶ月 (p=0.12、有意差なし) であり、女性の優位性は消失した (Figure 3)。年齢を3分類した場合、男性では年齢による予後差はほとんど認められなかった (中央値OS 10.5、10.0、9.2ヶ月) のに対し、女性では50歳未満 (中央値OS 15.2ヶ月、2年生存率18%)、50-59歳 (中央値OS 12.1ヶ月、2年生存率32%)、60歳以上 (中央値OS 9.3ヶ月、2年生存率8%) と明確な年齢依存的変化を示した。性別別のCox回帰では、男性においては病期・PS・喫煙歴が有意な予後因子 (年齢p=0.46) であったのに対し、女性では病期・PS・喫煙歴に加えて年齢 (回帰係数0.49, p=0.017) も有意な独立予後因子として浮上した (Table V)。この結果は、女性の予後優位性が年齢によって異なることを初めて明確に示したものである。

最良予後サブグループ: 最も良好な予後を示したのは「限局型・60歳未満・女性」であり、このサブグループでは中央値OS 16.4ヶ月、3年生存率32%を達成した。対応する男性サブグループ (限局型・60歳未満) の3年生存率7%と比較して4.6倍の差があった。また非喫煙女性の中央値OS 16.9ヶ月・2年生存率26%も顕著な良好成績を示した。これらの結果は、特定の患者サブグループにおいて、女性であることが極めて強力な予後良好因子であることを強調している。

考察/結論

本研究はドイツ15施設から集積した766例という大規模コホートで、性別がSCLCの独立した予後因子であることを多変量Cox回帰分析によって初めて明確に実証した (p=0.0003)。主要所見を整理すると以下の3点に集約される。第一に、女性のSCLCは中央値OS 12.1ヶ月 vs 9.8ヶ月・CR率35% vs 25%・2年OS 19% vs 8%と男性を有意に上回る成績を示し、病期・PS・喫煙歴調整後も独立性が保持された。第二に、女性の予後優位性は60歳未満の患者にのみ統計的有意差をもって認められ (p=0.0001)、60歳以上では消失する (p=0.12) という年齢依存的パターンが初めて体系的に記述された。第三に、性別の予後的効果は長期生存の予測に特に重要であり、追加的に有利な予後因子を持つサブグループ (LD・良好PS) においてより強く発現する。

先行研究との違い: これまで性別の予後効果については見解が分かれていたが、本研究は大規模なコホートと多変量解析を用いることで、女性が独立した予後良好因子であることを明確に示した点で、性差を否定する先行研究 (Souhami et al. 1985, Ihde et al. 1981, Rawson et al. 1990) とは対照的な結果である。特に、女性の生存優位が60歳未満に限定されるという年齢依存パターンは、これまで報告されていなかった新規の知見である。先行研究では、性別の効果が小規模試験では検出されにくい、あるいは長期生存に限定されるといった方法論的考察がなされていたが、本研究はこれらの課題を克服し、性差の存在とその詳細なパターンを明らかにした。

新規性: 本研究で初めて、SCLCにおける女性の予後優位性が年齢に依存し、特に60歳未満の女性で顕著であることを大規模データで実証した。この性別と年齢の交互作用のパターンは、エストロゲン仮説と整合すると考えられる。女性の平均閉経年齢が45-55歳であることから、60歳以上の女性ではエストロゲン・プロゲステロンが低下しアンドロゲンが相対的に優位となり、若年女性に見られるホルモン保護作用が消失すると推察される。著者らのin vitro実験では、SCLCの8/13細胞株にアンドロゲン受容体が発現し、テストステロン添加が細胞増殖を3倍増加させた一方でエストロゲンは無効であったことが確認された (Maasberg et al. 1989)。さらに 5α-還元酵素活性がほぼ全細胞株で検出され、テストステロンからジヒドロテストステロンへの転換がSCLC細胞で起きることが示された。これらの知見からアンドロゲンによる腫瘍増殖促進 (男性での予後不良要因) というモデルが提唱され、抗アンドロゲン療法・LH-RH (黄体形成ホルモン放出ホルモン) agonist投与という新規治療アプローチの可能性が示唆された。

臨床応用: 本知見はSCLC患者の層別化と個別化治療戦略の臨床応用に重要な含意を持つ。特に、60歳未満の女性SCLC患者は、他の患者群と比較して長期生存の可能性が高いことが示されたため、より積極的な治療や、治療後の長期フォローアップの強化が検討されるべきである。また、アンドロゲンシグナリングがSCLCの腫瘍増殖に関与するという仮説は、抗アンドロゲン療法やLH-RHアゴニストといったホルモン療法をSCLCの新規治療モダリティとして開発する可能性を示唆する。これは、従来の化学療法に限界があるSCLC治療において、新たな治療標的を提供するものであり、臨床現場での治療選択肢を広げる可能性がある。

残された課題: 今後の検討課題として、本研究で示された性別と年齢の交互作用を、より大規模なコホートで前向きに検証する必要がある。特に、女性患者の割合が766例中114例 (15%) と少なく、年齢別サブグループでは統計的検出力が低下する可能性がlimitationとして挙げられる。また、3試験のレジメンが異なるため治療の交絡が完全には排除できない点も課題である。喫煙量の詳細な定量データが限られていたため、喫煙習慣の性差が予後に与える影響をより詳細に解析することも今後の研究方向性である。さらに、性ホルモンとSCLCの生物学的関連性について、分子レベルでのメカニズム解明を進める必要がある。アンドロゲン受容体発現や5α-還元酵素活性の臨床的意義をin vivoで検証し、ホルモン療法がSCLC患者の生存を改善するかどうかを臨床試験で評価することが、今後の重要な研究課題となる。

方法

本研究は、1981年5月から1986年12月の期間に、ドイツ15施設が参加した3つの連続多施設無作為化臨床試験に登録されたSCLC患者のデータを後ろ向きに解析したレトロスペクティブコホート研究である。合計784例が登録され、組織診断誤り7例、化学療法前外科治療2例、データ欠損10例の計19例を除外し、766例が最終解析対象となった。最小追跡期間は36ヶ月であった。適格基準、病期分類、層別化、再評価基準は全ての研究で共通であり、既報の通りである (Havemann et al. 1987a, Wolf et al. 1987, Havemann et al. 1987b)。

3つの試験の治療レジメンは以下の通りである。

  • 試験I: CAV (シクロホスファミド、アドリアマイシン、ビンクリスチン) 逐次療法と、3種類の薬剤組み合わせ (EVI (エトポシド、ビンクリスチン、イホスファミド)/PAV (シスプラチン、アドリアマイシン、ビンクリスチン)/CMC (シクロホスファミド、メトトレキサート、CCNU)) を用いた交互療法の比較 (Havemann et al. 1987a)。
  • 試験II: シスプラチン+エトポシド (PE) 化学療法とイホスファミド+エトポシド (IE) 化学療法の比較 (Wolf et al. 1987)。
  • 試験III: IEとCAVの固定交互化学療法と、奏効指向型交互化学療法(IEで最大奏効まで治療後、直ちにCAVに切り替え)の比較 (Havemann et al. 1987b)。

いずれの試験においても、限局型 (LD) 患者には化学療法完了後に胸部放射線照射 (45 Gy/23分割/5週間) が施行された。完全寛解 (CR) 例には予防的全脳照射 (30 Gy/10分割) が化学療法3サイクル後またはCR達成時に実施された。CR達成患者に対する維持療法は行われなかった。

統計解析はKaplan-Meier法を用いて生存曲線を算出し、プロットした。男性患者と女性患者の生存曲線の統計的比較には、主要な予後因子である病期とPSで層別化したlog-rank検定 (Peto et al. 1977) を用いた。異なる予後因子の相対的影響を比較分析するために、Cox比例ハザードモデル (Cox 1972) を使用した。予後因子を特定する解析は探索的であり、P値は多重検定の影響について補正されていないため、記述的なものとして解釈されるべきである。しかし、p<0.001のP値は、変数の予後値に関する統計的証拠を明確に意味すると考えられた。

性別に加え、病期、PS、年齢、喫煙歴、体重減少の6因子を多変量解析に投入した。年齢に関しては、当初18-49歳、50-59歳、60歳以上の3カテゴリーで解析した後、女性における年齢効果の明確なパターンから、60歳未満・60歳以上の2値分類に集約して解析した。Coxモデルの比例ハザード仮定の検証も行い、PSと性別がこの仮定を部分的に満たさない可能性が示唆されたが、性別が予後に本質的に関連することを確認できた。