• 著者: R.Y. Tay, L. Fernández-Gutiérrez, D.G. Foy, L. Carter, S. Mouliere, A. Guttery, D. Thibault, M. Ayres, R. Taniere, D. Lorigan, F. Blackhall, C. Faivre-Finn, C.F. Dive
  • Corresponding author: F. Blackhall (The Christie NHS Foundation Trust / University of Manchester, Manchester)
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 31020334

背景

肺癌は世界的な癌死亡の主要な原因であり、その中でも小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約13%を占める。SCLCは急速な倍加時間、早期転移傾向、高い再発率および治療耐性化を特徴とする。患者の約3分の1は限局型 (LS-SCLC) として診断され、良好なパフォーマンスステータス (PS) を有するLS-SCLC患者に対する同時化学放射線療法 (CCRT) が最善の治療法とされている。しかし、この積極的な治療にもかかわらず、多くのLS-SCLC患者は治療後に再発を経験し、長期的な生存率は依然として低い。例えば、2年および5年生存率はそれぞれ51-56%および31-34%と報告されているが、これは依然として改善の余地があることを示している。LS-SCLC患者において、早期再発のリスクが高い患者や長期奏効・治癒を達成できる患者を特定するための客観的な方法は、現在のところ確立されていないのが現状である。

循環腫瘍細胞 (Circulating Tumour Cells; CTCs) は、腫瘍の血行性播種をリアルタイムかつ非侵襲的に評価できる液体生検の一形態である。CTCsの予後的意義は、転移性乳癌、去勢抵抗性前立腺癌、大腸癌、非小細胞肺癌 (NSCLC) など、様々な癌種で検証されてきた。SCLCにおいても、過去の研究でCTC数が予後と相関することが示唆されており、例えばCTC ≥2個やCTC ≥50個といったカットオフ値が予後不良と関連することが報告されている Govindan et al. JClinOncol 2006。しかし、これらの先行研究は、限局型 (LS-SCLC) と進展型 (ES-SCLC) が混在した不均一な患者集団を対象としており、LS-SCLC単独におけるCTCの予後的意義は未解明であった。特に、LS-SCLC患者に特化したCTCの最適なカットオフ値や、他の臨床因子とは独立した予後因子としてのCTCの役割については、詳細な検討が不足していた。

CONVERT試験 (NCT00433563) は、LS-SCLC患者を対象に、1日2回照射と1日1回照射の同時化学放射線療法 (CCRT; Concurrent Chemoradiotherapy) を比較した国際的な第III相無作為化比較試験である。この試験は、1日2回照射のCCRTが標準治療であることを確認し、合計547例の患者が登録された。CONVERT試験は、LS-SCLC患者のみを対象とした大規模な臨床試験であり、前向きにCTC採取が可能であったため、LS-SCLCに限定したCTCの予後解析を行う上で貴重な機会を提供した Pignon et al. NEnglJMed 1992。本研究は、このCONVERT試験のサブスタディとして、LS-SCLC患者におけるCTCの予後的価値を詳細に評価することを目的とした。これにより、既存の臨床因子では捉えきれない疾患の層別化に役立つ新たなバイオマーカーの同定が期待される。

目的

本研究は、CONVERT試験の探索的サブスタディとして、限局期小細胞肺癌 (LS-SCLC) 患者における治療前の血中循環腫瘍細胞 (CTC) の存在およびその数が、全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS) に対する独立した予後因子であるかを検討することを目的とした。具体的には、LS-SCLC患者集団に特異的な最適なCTCカットオフ値を同定し、その予後予測能を評価することを目指した。これにより、既存の臨床因子では不十分であったLS-SCLC患者の疾患層別化を改善し、将来の臨床試験デザインや治療意思決定に資する新たなバイオマーカー情報を提供することを意図した。また、CTC測定がLS-SCLCの臨床管理において実用的なツールとなり得るかについても検討した。

結果

CTC検出率と臨床特性との関連: 解析対象の75例中45例 (60%) でCTCが検出された (CTC ≥1個)。CTC数の中央値は1個で、範囲は0個から3750個であった。TNM Stage IIIの患者はStage I-IIの患者と比較してCTC数が高い傾向にあったが、統計的有意差は認められなかった (p=0.081)。同様に、ECOG PS 1の患者はPS 0の患者と比較してCTC数が高い傾向にあったが、これも統計的に有意ではなかった (p=0.088)。CTC数とgross tumour volume (GTV) の間には、統計的に有意ではあるが弱い正の相関が認められた (Spearman r=0.35, p=0.0072)。女性患者はCTC ≥2個 (p=0.035) およびCTC ≥15個 (p=0.0017) と有意に関連していた (Table 2)。年齢、治療群 (1日2回 vs 1日1回放射線療法)、TNM病期、PET施行の有無は、いずれのCTCカットオフ値とも有意な関連を示さなかった。

最適CTCカットオフ値の同定: Bonferroni補正付きログランク検定により、LS-SCLC患者における最適なCTCカットオフ値として15 CTCs/7.5 mlが同定された。この閾値は、患者を「良好な予後群 (CTC <15個、n=58例)」と「不良な予後群 (CTC ≥15個、n=17例)」の2群に最も鋭く層別化した。このカットオフ値は、1年OS予測のROC曲線下面積 (AUC) においても高い予測能を示した。

CTC ≥15の予後的意義 (主要所見): CTC ≥15個の患者群は、CTC <15個の患者群と比較して、PFSおよびOSが有意に不良であった。中央値PFSは、CTC <15群で19.0ヶ月 (95% CI 15.7-32.0ヶ月) であったのに対し、CTC ≥15群では5.5ヶ月 (95% CI 2.2-9.7ヶ月) と著しく短かった。同様に、中央値OSは、CTC <15群で26.7ヶ月 (95% CI 19.5-34.7ヶ月) であったのに対し、CTC ≥15群では5.9ヶ月 (95% CI 3.7-12.8ヶ月) と約4.5倍の顕著な予後差が認められた (p=0.001)。CTC ≥15個の患者では、1年以内の死亡が70%に達し、2年以内の死亡が100%であった。これは、この高CTC群が極めて不良な転帰をたどることを示唆している (Figure 1C, D)。

他のCTCカットオフ値の検証: 既報のCTCカットオフ値であるCTC ≥2個およびCTC ≥50個も、本LS-SCLCコホートにおいてPFSおよびOSと有意に相関することが確認された。

  • CTC ≥2個 vs <2個: 中央値PFSは10.9ヶ月 (95% CI 5.9-16.6) vs 18.5ヶ月 (95% CI 12.3-38.1)、中央値OSは15.1ヶ月 (95% CI 6.7-18.7) vs 26.7ヶ月 (95% CI 19.1-78) であった。
  • CTC ≥50個 vs <50個: 中央値PFSは6.1ヶ月 (95% CI 0.3-12.3) vs 16.7ヶ月 (95% CI 12.3-26.7)、中央値OSは8.6ヶ月 (95% CI 0.3-13.2) vs 20.8ヶ月 (95% CI 17.7-31.6) であった。 これらの結果は、ES-SCLCを含む不均一な集団で報告された過去のデータと比較して、LS-SCLC限定集団ではOS中央値が著しく高いことを示しており、疾患ステージ特異的なCTCカットオフ値の重要性を強調している。例えば、CTC ≥2個の患者におけるOS中央値は、既報の3.9ヶ月に対し、本試験では15.1ヶ月であった (Figure 1A, B, E, F)。

Cox回帰解析: 単変量Cox解析では、3つのCTCカットオフ値 (2個、15個、50個) のすべてがPFSおよびOSと有意に相関した。

  • CTC ≥15個: PFSに対するハザード比 (HR) は7.09 (95% CI 3.64-13.83, p<0.001)、OSに対するHRは7.35 (95% CI 3.77-14.33, p<0.001) であった。
  • CTC ≥2個: PFSに対するHRは1.83 (95% CI 1.10-3.07, p=0.021)、OSに対するHRは2.10 (95% CI 1.23-3.58, p=0.006) であった。
  • CTC ≥50個: PFSに対するHRは4.36 (95% CI 1.96-9.68, p<0.001)、OSに対するHRは4.28 (95% CI 1.94-9.44, p<0.001) であった。 臨床因子では、ECOG PS 1 (vs PS 0) のみがPFS (HR 2.16, 95% CI 1.17-3.97, p=0.014) およびOS (HR 2.29, 95% CI 1.19-4.39, p=0.013) と有意な関連を示した。

多変量解析: 多変量Cox解析では、CTC ≥15個の閾値が、PSで調整した後も独立した予後因子として確認された。15 CTCモデルは、PSをモデルに加えた場合でもAICおよびBICが増加せず (モデル適合度の悪化なし)、CTC ≥15単独モデルがOSに対する最良適合モデル (OS AIC 393.95, BIC 395.98) として選択された。これは、CTC ≥15個がPSとは独立した予後情報を提供することを示している。一方、2 CTCおよび50 CTCモデルでは、PSが有意な追加因子として残ったため、15 CTCモデルのみが他の臨床因子から完全に独立した予後因子であることが示された (Table S2)。

2年生存予測: ベースラインでCTC ≥15個の存在は、患者の2年以内の死亡を100%予測し、1年以内の死亡を70%予測した。この高い予測能は、CTC数がLS-SCLC患者の予後を層別化する上で非常に有用であることを示している。

考察/結論

先行研究との違い: 本CONVERT試験のサブスタディは、限局期小細胞肺癌 (LS-SCLC) 患者において、治療前の血中循環腫瘍細胞 (CTC) 数が独立した予後因子であることを明確に示した。これまでのSCLCにおけるCTCの予後解析は、LS-SCLCと進展型SCLC (ES-SCLC) が混在した不均一な患者集団で行われていたが、本研究はLS-SCLCに限定した患者集団でCTCの予後を評価した点で、これまでの報告と異なり、より疾患ステージ特異的な知見を提供した。また、既報のCTCカットオフ値 (2個や50個) を本LS-SCLCコホートに適用した場合でも予後相関は認められたが、LS-SCLC患者ではOS中央値が著しく改善しており、疾患ステージに応じた最適なカットオフ値の重要性が示された。

新規性: 本研究で初めて、LS-SCLC患者における最適なCTCカットオフ値として15個/7.5 mlが同定された。この閾値は、他の臨床因子 (TNM病期、ECOG PS、PET施行の有無、年齢、治療群) とは独立して、PFSおよびOSの不良な転帰を予測する強力な因子であることが示された。CTC ≥15個の患者 (全体の23%) では、中央値OSが5.9ヶ月と極めて短く、1年生存率70%、2年生存率100%が死亡という結果であった。これは、治癒を目的とした同時化学放射線療法にもかかわらず、これらの患者が極めて高リスクなサブグループであることを新規に同定したものである。

臨床応用: 本知見は、LS-SCLC患者の疾患層別化を改善し、将来の臨床試験デザインや治療意思決定に資する重要な臨床的意義を持つ。CTC ≥15個の患者は、標準的な化学放射線療法では治癒が困難な高リスク群として特定されるため、これらの患者に対しては、より積極的な治療強化 (例: 維持療法、免疫療法追加、放射線線量増加) や、早期の新規治療法を評価する臨床試験への参加が検討されるべきである。また、CTC測定はCellSearchシステムを用いることで最短3営業日で結果が得られ、3週間以内のターンアラウンドタイムで臨床ワークフローへの統合が現実的であるとされており、臨床現場での実用性も高い。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationがある。第一に、血液採取が単一施設 (マンチェスター) でのみ行われたため、解析対象が75例という比較的小規模なコホートであったこと。第二に、連続的な血液採取が行われなかったため、治療中のCTC動態 (薬力学的役割) や治療応答のモニタリングについては評価されていないこと。第三に、EpCAMベースのCellSearch法は、EpCAM低発現や上皮間葉転換 (EMT) を経たCTCを検出できない可能性があること。今後の検討課題として、より大規模な多施設共同研究での検証、治療中の連続CTC測定による治療応答のリアルタイムモニタリング、CTC由来のゲノム・プロテオミクス解析による化学療法感受性予測などが挙げられる Carter et al. NatMed 2017。特に、CTC数に基づく治療層別化の前向き検証、すなわちCTC高値患者への積極的な治療介入と、CTC低値患者への治療毒性軽減を目的とした治療の合理化が今後の重要な研究方向性である。

方法

試験デザインと患者集団: 本研究は、CONVERT試験のマンチェスターサイト (The Christie NHS Foundation Trust) において、CONVERT試験に登録されたLS-SCLC患者からCTC測定用に前向きに血液採取を行った探索的サブスタディである。REMARK (REporting recommendations for tumour MARKer prognostic studies) ガイドラインに準拠して実施された。解析対象は、マンチェスターサイトで登録されたLS-SCLC患者75例であった。患者の年齢中央値は62.7歳 (範囲45.1-77.1歳) で、女性が40例 (53%) を占めた。TNM病期分類では、Stage IIIが61例 (81%) と大半を占め、ECOG PS 1の患者が49例 (65%) であった。PET検査は27例 (36%) で施行されていた。CTC解析対象集団は、CONVERT試験の全体集団と比較してPET施行率が低い傾向にあった (36% vs 57%) が、これはPET検査が必須ではなかったことによる施設間の変動の範囲内と解釈された。

CTC測定: 治療開始前に7.5 mlの末梢血を採取し、CellSearch platformを用いてCTC数を測定した。CTCは、EpCAM (上皮細胞接着分子) およびサイトケラチン8、18、19を共発現し、かつCD45陰性の細胞として定義された。このシステムは、転移性乳癌などでその検出能と予後予測能が検証されている標準的な方法である。

統計解析: CTC数と臨床特性との関連は、Fisherの正確検定およびMann-Whitney U検定を用いて評価された。CTC数とgross tumour volume (GTV) との相関は、Spearmanの順位相関係数を用いて解析された。既報のSCLCにおけるCTCカットオフ値 (2個および50個) の予後的意義は、Kaplan-Meier法およびログランク検定により、無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) について検証された。PFSは無作為化日から病勢進行または死亡までの期間、OSは無作為化日からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。LS-SCLCに特異的な最適なCTCカットオフ値は、Bonferroni補正を適用したログランク検定で最も有意なスプリットを示し、かつ1年OS予測におけるROC曲線下面積 (AUC) が最も高い値として決定された。単変量および多変量Cox比例ハザード回帰分析を用いて、CTC数の独立した予後的意義を評価した。多変量モデルの選択には、Akaike Information Criteria (AIC) および Bayesian Information Criteria (BIC) が用いられ、これらのスコアを最小化するモデルが最良適合モデルとされた。すべての統計解析はR version 3.2.3を用いて実施され、p値が0.05未満を有意と判断した。本解析は探索的なものであったが、不利な予後群の患者15例において、片側有意水準0.05で80%の検出力を持つことが推定された。