• 著者: Jean-Pierre Pignon, Rodrigo Arriagada, Daniel C. Ihde, David H. Johnson, Malcolm C. Perry, Robert L. Souhami, Olle Brodin, René A. Joss, Merrill S. Kies, Bernard Lebeau, Tamotsu Onoshi, Klaus Østerlind, Michael H.N. Tattersall, Hans Wagner
  • Corresponding author: Jean-Pierre Pignon, MD (Department of Biostatistics, Institut Gustave-Roussy, 94805 Villejuif Cedex, France)
  • 雑誌: New England Journal of Medicine
  • 発行年: 1992
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 1331787

背景

SCLC (small-cell lung cancer, 小細胞肺癌) は全肺癌の 15-25% を占め、急速な増殖と早期の遠隔転移を特徴とする極めて悪性度の高い腫瘍である。1980 年代当時、LD-SCLC (limited-stage SCLC, 限局型小細胞肺癌) に対する標準治療は多剤併用化学療法 (CAV [cyclophosphamide+doxorubicin+vincristine] や PE [cisplatin+etoposide] など) であったが、化学療法単独での 3 年生存率は 10-15%、5 年生存率は 5-10% にとどまり、局所制御不良 (胸郭内再発が原因死亡の 50-75%) が極めて大きな問題であった。TRT (thoracic radiotherapy, 胸部放射線療法) 追加の理論的根拠として、SCLC が放射線感受性であり、TRT により局所制御が明確に改善することは知られていたが、OS (overall survival, 全生存) への影響については議論の的であった。

1977 年から 1988 年にかけて施行された 16 の無作為化比較試験 (RCT; randomized controlled trial) では、化学療法単独と化学療法併用 TRT を比較したが、その結果は極めて不一致 (inconsistent) であった。5 試験で TRT の有意なベネフィットが示された一方、11 試験では非有意であり、いくつかの試験では有害性の傾向さえ示唆されるという混在した結果であった。この先行研究における混沌は、いくつかの limitations に起因すると考えられた。具体的には、(1) サンプルサイズ不足 (中央値約 150 例で 5-10% の生存差を検出するには不十分であり、6% の OS 改善を検出するには 1,000 例超が必要であった)、(2) 化学療法レジメンの異質性 (CAV、CAV/PE 交互療法、CCNU (lomustine) 含有レジメンなどが混在していた)、(3) TRT の線量 (32-50 Gy)、分割 (8-25 fractions)、スケジュール (concurrent/sequential/alternating)、タイミング (day 1 から day 299 まで) の多様性、(4) 患者選択基準 (年齢制限、PS 基準) の不統一などが挙げられる。

これらの要因により、TRT の OS への影響については依然として未解明な点が多かった。3 つの相互排他的仮説、すなわち (a) TRT 関連の技術的要因 (線量、照射野、タイミング) が重要であり、個々の試験結果の不一致を説明する、(b) TRT は OS に全く効果がなく、個々の試験結果はゼロ効果周辺のランダムな変動に過ぎない、(c) TRT は中程度の OS ベネフィットを持つが、各試験が統計的検出力不足であった、という仮説を区別するには、1,000 例を超える規模の統計的検出力を持つ IPD (individual patient data) pooled meta-analysis が必要であった。本研究は、Pignon 氏らが主導し、14 機関の国際共同研究として実施された。Aupérin 氏や Pignon 氏らは乳がんの補助療法メタアナリシス手法 (1990 年 Lancet) を SCLC TRT 領域に応用した形となる。先行研究である Nicolucci et al. (1992) は肺がん治療の RCT のメタアナリシスは建設的ではないと結論付けていたが、これは 1987 年以前に完全な論文として発表された試験のみに基づいていた点が本研究とは異なる。

目的

本研究の目的は、1988 年 12 月以前に登録が完了した、化学療法単独と化学療法併用胸部放射線療法 (TRT) を比較する全ての無作為化比較試験 (RCT) の個別患者データ (IPD) を統合し、メタアナリシスを行うことであった。これにより、以下の点を検証することを目指した。

(1) 主要仮説として、限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) において TRT の追加が「中程度」の全生存期間 (OS) の改善 (6% の絶対改善、ハザード比 [HR] 0.84 を想定) をもたらすかを検証すること。

(2) 感度分析として、Copenhagen 試験および GETCB (Groupe d’Etude et de Traitement des Cancers Bronchiques) 試験の除外、3 年時点での追跡期間打ち切り、進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) を含む全 2,536 例での解析を行うことで、結果の頑健性を評価すること。

(3) 間接比較として、早期 (治療開始後 60 日以内) vs 晩期 (治療開始後 60 日以降) の TRT、および逐次 (sequential) vs 非逐次 (concurrent/alternating) の TRT スケジュールが治療効果に与える影響を評価すること。

(4) サブグループ解析として、年齢 (<55 歳 / 55-59 歳 / 60-64 歳 / 65-69 歳 / ≥70 歳)、性別、パフォーマンスステータス (PS; WHO 0-1 vs 2-4) ごとの治療効果を評価すること。Type I および Type II エラーをそれぞれ 0.05 (両側検定) と仮定した場合、6% の OS 改善を検出するには 1,000 例を超える患者数が必要であり、本研究は 2,140 例の LD-SCLC 患者を対象とすることで十分な統計的検出力を有すると判断された。

結果

限局型小細胞肺癌における死亡リスクの有意な低減: 本メタアナリシスには 13 の RCT が含まれ、合計 2,573 例の患者が登録された。このうち 433 例の進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者は除外され、2,140 例の限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) 患者が主要解析の対象となった (Table 1)。データが完全に利用可能であったのは 2,103 例であり、このうち 1,862 例 (88.5%) が死亡した。生存患者の追跡期間中央値は 43 か月であった。治療割り付けの内訳は、化学療法単独群が 992 例 (47%)、化学療法併用 TRT 群が 1,111 例 (53%) であった。解析対象の 2,103 例中、化学療法併用 TRT 群では 1,111 例中 972 例が死亡し、化学療法単独群では 992 例中 890 例が死亡した (Fig. 1)。化学療法併用 TRT 群の化学療法単独群に対する死亡の pooled relative risk (RR) は 0.86 (95% CI 0.78-0.94, p=0.001) であり、これは死亡リスクの 14% 減少に相当した。3 年全生存率 (OS rate) は、化学療法併用 TRT 群が 14.3±1.1% であったのに対し、化学療法単独群は 8.9±0.9% であり、3 年生存率の絶対差は 14.3% vs 8.9% (絶対差 +5.4±1.4%, p=0.001) であった (Fig. 2)。

感度分析による結果の頑健性確認: 異質性の主要な原因と考えられた Copenhagen 試験を除外して解析を行ったところ、pooled RR は 0.82 (95% CI 0.75-0.91, p<0.001) となり、死亡リスクの 18% 減少を示した。この場合、試験間の異質性検定 (chi-square 検定) の p 値は 0.76 となり、異質性は完全に消失した。Copenhagen 試験では、完全腫瘍切除の割合 (化学療法群 11/76 例 vs 併用療法群 3/72 例, p=0.047) および年齢分布 (平均±SD: 58.5±6.9 歳 vs 60.8±6.2 歳, p=0.04) に不均衡があり、交絡因子が疑われた。また、1986-1988 年に患者登録を行った GETCB 試験を除外しても、pooled RR は 0.85 (95% CI 0.78-0.94) となり、主要結果は不変であった。追跡期間のバイアスを排除するため、3 年で追跡期間を打ち切って解析を行ったところ、pooled RR は 0.83 (95% CI 0.76-0.92, p<0.001) となり、結果の頑健性が確認された。さらに、除外された 433 例の ED-SCLC 患者を含めて解析を行ったところ、pooled RR は 0.86 (95% CI 0.79-0.94, p<0.001) となり、主要結果と同等であった。

年齢依存性の治療効果とサブグループ解析: 治療効果と年齢の間に強い交互作用が認められた (Fig. 3)。55 歳未満の患者では RR 0.72 (95% CI 0.56-0.93) となり、死亡リスクが 28±8% 減少した。一方、55-59 歳では RR 0.79 (95% CI 0.66-0.94)、60-64 歳では RR 0.84 (95% CI 0.69-1.01)、65-69 歳では RR 0.99 (95% CI 0.79-1.24) であった。70 歳以上の患者では RR 1.07 (95% CI 0.70-1.64) となり、むしろ死亡リスクが増加する傾向 (-7±17%) が示唆された。年齢上昇に伴い TRT のベネフィットが消失する傾向は、傾向性検定で p=0.01 と有意であった。3 年 OS 率は、55 歳未満の患者で 17.4% vs 9.2% (化学療法併用 TRT 群 17.4±2.2% vs 化学療法単独群 9.2±1.9%) であったのに対し、70 歳以上の患者では 8.7% vs 10.2% (化学療法併用 TRT 群 8.7±2.7% vs 化学療法単独群 10.2±3.4%) であった。女性 (n=667) の pooled RR は 0.79 (95% CI 0.66-0.94) であったのに対し、男性 (n=1,434) では 0.88 (95% CI 0.78-0.98) であったが、性別と治療効果の間に有意な交互作用は認められなかった。WHO PS 0-1 の患者 (n=1,808) では pooled RR 0.86 (95% CI 0.77-0.95) であったのに対し、WHO PS 2-4 の患者 (n=237) では pooled RR 0.76 (95% CI 0.57-1.01) であった。

考察/結論

先行研究との違い: 本メタアナリシスは、SCLC 領域で初めて 2,000 例を超える IPD pooled analysis により TRT 追加の OS ベネフィットを決定的に証明した歴史的な論文である。過去 16 の RCT が個別に「controversial (議論の的)」と結論付けていたのと異なり、本研究は (1) 13 試験の 2,140 例の LD-SCLC 患者で十分な統計的検出力を持つこと、(2) 個別患者データに基づく厳密な ITT 解析 (無作為化後の除外によるバイアスを排除) を行ったこと、(3) 感度分析およびサブグループ解析による包括的な評価を行ったこと、(4) 乳がんのメタアナリシス手法を SCLC 領域に拡張した Pignon methodology を適用したこと、という 4 点で過去のナラティブレビューや集計データによるメタアナリシスを凌駕した。3 年 OS の 5.4% 絶対改善 (8.9% から 14.3% へ) は控えめではあるが、LD-SCLC 患者の生存率を大きく改善する臨床的に意義のある結果である。

新規性: 本研究で新規な点は、(a) IPD メタアナリシス手法を SCLC 領域で実装したこと、(b) 年齢と治療効果の交互作用 (傾向性検定 p=0.01) を定量的に実証したことである。特に 55 歳未満の患者で 28% の死亡リスク減少が認められたのに対し、70 歳以上の患者ではベネフィットがほぼ消失するという年齢効果の大きさを示した。これは、高齢患者における TRT の適応を慎重に検討する必要があることを示唆する。また、(c) 早期 vs 晩期 TRT および逐次 vs 非逐次 TRT の間接比較では「最適なタイミング」を識別できないことを示した。

臨床応用: 本研究の知見は、LD-SCLC において化学療法と同時併用 (または逐次) TRT が標準治療として確立される上で決定的な役割を果たした。NCCN、ESMO、ASCO などのガイドラインで、LD-SCLC 患者全例への化学放射線療法の推奨が一般化された。化学療法はシスプラチン/カルボプラチンとエトポシド (PE/CE) が標準であり、TRT の追加により OS が化学療法単独の 12-16 か月から化学放射線療法の 18-24 か月へと延長する治療開発の基盤となった。

残された課題: 本研究は多くの重要な知見をもたらしたが、いくつかの残された課題も存在する。最適な TRT 線量、分割、タイミングは、本メタアナリシスでは決定できなかった。70 歳以上の高齢患者で TRT のベネフィットが消失する機序 (治療関連毒性の増加、併存疾患の影響、あるいはサンプルサイズ不足による統計的検出力不足など) は依然として不明である。ED-SCLC への TRT の適用については、本メタアナリシスでは感度分析のみで扱われたが、Slotman et al. Lancet 2015 の CREST 試験で ED-SCLC に対する地固め TRT が OS ベネフィットを示すまで議論が続いた。今後の検討としては、最新の IMRT (強度変調放射線治療) や陽子線治療による TRT 照射の最適化、および免疫療法時代 (アテゾリズマブ/デュルバルマブと CE 併用一次治療 Horn et al. NEnglJMed 2018) における TRT の役割の再定義などが挙げられる。

方法

試験デザイン: 本研究は、1989 年 9 月からデータ収集を開始した IPD pooled meta-analysis であり、Gustave-Roussy の Pignon Statistical Methodology に基づいて実施された。本研究は臨床試験のメタアナリシスであり、個別の NCT 番号 (ClinicalTrials.gov 登録番号) は付与されていないが、1970年代から1980年代に実施された 13 の無作為化比較試験 (RCT) を統合した phase III 相当の検証的解析である。

患者および試験の選択基準:

  • Inclusion criteria: (a) 無作為化比較試験 (RCT) であること、(b) 化学療法単独と化学療法併用 TRT を比較していること、(c) 1988 年 12 月 31 日以前に患者登録が終了していること、(d) LD-SCLC 患者を含むこと (ED-SCLC のみを含む試験は除外)。
  • 識別方法: 試験の特定には、研究者間の議論、レビュー論文の精査、MEDLINE 検索、腫瘍学会議の議事録調査の 4 段階のアプローチが用いられた。また、国内外の RCT 登録情報とのクロスチェックも行われた。
  • 最終収載試験: 最終的に 13 の RCT が本メタアナリシスに収載された (Table 1 参照)。これには Copenhagen (Østerlind 1976)、Sydney (Rosenthal 1977)、NCI (Bunn 1977)、SECSG (Southeastern Cancer Study Group) I (Birch 1978)、London (Souhami 1979)、SWOG (Southwest Oncology Group) (Kies 1980)、SAKK (Swiss Group for Clinical Cancer Research) (Joss 1980)、Uppsala (Nou 1980)、CALGB (Cancer and Leukemia Group B) (Perry 1981)、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) (Creech 1981)、Okayama (Ohnoshi 1981)、SECSG II (Birch 1982)、GETCB (Lebeau 1986) が含まれる。データが利用できなかった 3 つの小規模試験 (Copenhagen の 35 例 [うち LD は 12 例]、Israeli の 32 例、その他 1 試験) は除外された。

データ収集: 各患者について、識別情報、病期、治療割り付け、無作為化日、最終追跡日、生存状況、および 3 つの共変量 (性別、年齢、パフォーマンスステータス [PS]) が収集された。PS のコーディングは試験間で異質であったため、(a) WHO PS 0-1 または Karnofsky >60%、(b) WHO PS 2-4 または Karnofsky ≤60% の 2 群に二分化された。治療および追跡データは 98.2% の患者で利用可能であり、性別は 98.2%、年齢は 97.9%、PS は 95.6% の完了率であった。追跡不能 (lost to follow-up) は、1988 年 9 月 1 日以降に情報がない場合と定義され、190 例 (5%) が該当し、そのうち 43 例 (22.6%) は 3 年以上の追跡後に追跡不能となった。無作為化後の除外による潜在的バイアスを避けるため、試験に登録されたが解析から除外された患者のデータも系統的に収集された。

統計解析: 主要 endpoint は全生存期間 (OS) と定義された。解析は ITT (intention-to-treat) 解析が実施され、fixed-effect model を用いた pooled relative risk (RR) が算出された。各試験の O-E (observed-expected death) と分散 V を計算し、それらを合計して grand total (GT) と total variance (V_T) を得た。RR は exp(GT/V_T) として推定され、95% CI は exp(GT/V_T ± 1.96/√V_T) で算出された。p 値は z = GT/√V_T を用いて評価され、死亡リスクの減少率 (%) は 100(1 - exp(GT/V_T)) として報告された。生存曲線の比較には Kaplan-Meier 法および層別 log-rank 検定が用いられた。試験間の異質性は chi-square 検定で評価された。早期 vs 晩期 TRT および逐次 vs 非逐次 TRT の比較、ならびにサブグループ解析における年齢層、性別、PS ごとの治療効果は、交互作用検定および傾向性検定 (trend test) を用いて評価された。全ての p 値は両側検定であり、95% CI および標準偏差 (SD) が報告された。