• 著者: M. Paesmans, J.P. Sculier, J. Lecomte, J. Thiriaux, P. Libert, R. Sergysels, G. Bureau, G. Dabouis, O. Van Cutsem, P. Mommen, V. Ninane, J. Klastersky (European Lung Cancer Working Party)
  • Corresponding author: M. Paesmans (Institut Jules Bordet, Brussels, Belgium)
  • 雑誌: Cancer
  • 発行年: 2000
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (プール解析・予後因子研究)
  • PMID: 10931451

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約20%を占める極めて悪性度の高い神経内分泌腫瘍であり、初期の化学療法に対する感受性は極めて高いものの、大部分の症例で早期に再発を来し死亡に至る予後不良な疾患である。過去30年間にわたる多角的な臨床研究や新規治療開発の試みにもかかわらず、患者全体の2年生存率は10%未満にとどまるのが現状であった。個々の患者における生存期間や治療反応性には大きな不均一性が存在することが知られており、診断時の疾患範囲 (限局期 [LD] vs 進展期 [ED]) は最も強力な予後因子として広く認識されてきた。しかし、この疾患範囲の分類内においても生存分布には著しいばらつきが存在し、例えば Southwest Oncology Group (SWOG) による2580例の大規模データベース解析では、進展期患者の2年生存率が2%を超えない一方で、限局期患者では20%を超えるなど、同一病期内における予後予測因子の不均一性が強く示唆されていた Albain et al. JClinOncol 1991

SCLC患者における治療前の予後予測因子を正確に同定することは、複数の重要な臨床的意義を持つ。第一に、臨床試験のデザインにおいて患者集団を適切に層別化し、治療群間における背景因子の均一性を担保することが可能となる。第二に、予後不良なサブグループを特定することで、治療強度の調整や新規治療アプローチの個別化に寄与する。第三に、患者や家族に対してより正確な予後予測情報を提供し、意思決定を支援する上で不可欠な基盤となる。

しかしながら、これまでの予後因子解析の多くは単一施設での検討や症例数の限られた単一の臨床試験に基づくものが多く、追跡期間も不十分であったため、得られた知見の一般化可能性や信頼性には課題が残されていた。特に、5年以上の長期追跡データを有する大規模な前向き研究は極めて稀であり、長期生存や臨床的治癒に関連する因子の解析は圧倒的に不足していた。この長期予後予測における知識のギャップを埋めることが、当時の胸部腫瘍学における重要な課題であった。

先行研究である Wolf et al. BrJCancer 1991Kawahara et al. JpnJClinOncol 1997 などの大規模解析においても、治療前因子の重要性は指摘されていたものの、長期生存例の posttreatment 特性に関する詳細な検討や、日常臨床で得られる炎症性血液マーカーの予後的意義については依然として「未解明」な領域であり、臨床的に「controversial」な議論が続いていた。このように、5年以上の長期追跡データを有する大規模な前向きコホートを用いた包括的な多変量解析は「不足」しており、生存期間を実用的に階層化できる高精度な予後分類システムの構築に向けた「課題が残されている」のが現状であった。

European Lung Cancer Working Party (ELCWP) は、1982年から1993年にかけてSCLC患者を対象とした4本の連続する前向き臨床試験を実施し、全登録患者において最小5年間の追跡期間を達成した。本研究は、この極めて貴重かつ大規模な前向きコホートのデータセットを活用し、日常臨床で評価可能な21項目の治療前変数について詳細な多変量解析を行うことで、化学療法への奏効、全生存期間 (OS)、および2年以上の長期生存に関連する独立した予後因子を同定し、臨床的に実用的な予後分類システムを構築することを目的に計画された。

目的

本研究の目的は、ELCWPが1982年から1993年にかけて実施した4つの連続する前向き臨床試験に登録された未治療のSCLC患者763例を対象として、以下の3つの主要な臨床アウトカムに関連する独立した治療前予後因子を多変量解析によって同定することである。 (1) 導入化学療法に対する最良の腫瘍奏効 (完全奏効 [CR] または部分奏効 [PR])。 (2) 全生存期間 (OS)。 (3) 2年以上の長期生存 (Long-term survival)。

さらに、同定された独立した予後因子を用いて、RECPAM (Recursive Partitioning and Amalgamation: 再帰的分割統合) アルゴリズムを適用することにより、生存期間に関して統計的に均質な予後サブグループを同定する実用的な予後グループ分類システムを構築することを目指した。これにより、臨床現場での客観的な予後予測、治療戦略の最適化、および将来の臨床試験における層別化因子の確立に寄与する高精度な評価ツールを提供することを目的とした。

結果

全体の生存成績と長期生存の実態: 登録された763例のうち、最終更新時点で718例 (94%) の死亡が確認された。中央追跡期間は118か月 (範囲: 1〜149か月) であり、全患者における全生存期間中央値 (mOS) は45週 (95% CI 42-47週) であった (Figure 1)。全体の2年生存率は9% (95% CI 7-11%)、5年生存率は3% (95% CI 2-4%) であり、長期予後は極めて不良であった。病期別では、限局期 (LD) 患者 (n=365) のmOSが52週、2年生存率13%、5年生存率4%であったのに対し、進展期 (ED) 患者 (n=398) のmOSは37週、2年生存率6%、5年生存率3%であった。2年以上の長期生存を達成した患者は66例 (9%) であったが、そのうち47例が死亡し、33例 (70%) の死因がSCLCの再発・進行によるものであった。2年生存時点からの追加の進行までの期間中央値は23か月 (Figure 4)、追加の全生存期間中央値は72週 (Figure 5) であり、2年生存が必ずしも治癒を意味しないことが示された。5年以上の無病生存を達成し、臨床的「治癒」とみなされた完全奏効患者は14例 (1.9%) のみであった (Table 7)。

化学療法奏効に関する独立予後因子: 意図した治療 (intent-to-treat) 解析における客観的奏効率 (CR+PR) は64% (490/763例) であり、評価可能患者 (n=702) における奏効率は70% (CR率20%) であった (Table 3)。単変量解析において、Karnofsky PS ≥80 (72% vs 64%, p=0.03)、限局期 (74% vs 66%, p=0.03)、脳転移なし (70% vs 52%, p=0.004)、好中球率 ≤75% (73% vs 64%, p=0.02) が高い奏効率と有意に関連していた。多重ロジスティック回帰分析の結果、化学療法奏効に関する独立した良好な予測因子として、女性性別 (OR 1.88, 95% CI 1.00-3.52, p=0.05)、限局期 (OR 1.38, 95% CI 1.00-1.92, p=0.05)、および正常好中球率 (≤75%) (OR 1.46, 95% CI 1.03-2.08, p=0.04) の3因子が同定された。また、完全奏効 (CR) の達成に限定した多変量解析では、限局期 (OR 2.51, 95% CI 1.66-3.79, p=0.001)、女性性別 (OR 1.82, 95% CI 1.00-3.34, p=0.05)、および貧血なし (ヘモグロビン値 ≥12 g/dL) (OR 3.26, 95% CI 1.58-6.72, p=0.001) が独立した予測因子であった。

全生存期間 (OS) に関する独立予後因子: 単変量解析において、年齢60歳未満 (p=0.009)、体重減少5%未満 (p=0.006)、Karnofsky PS ≥80 (p<0.0001)、限局期 (p<0.0001)、肝転移なし (p<0.0001)、骨転移なし (p<0.0001)、副腎転移なし (p<0.0001)、脳転移なし (p=0.0001)、皮膚転移なし (p=0.02)、転移部位数1 (p<0.001)、正常好中球率 (p<0.0001)、正常白血球数 (p=0.02)、正常LDH値 (p=0.03) が有意な予後良好因子であった (Table 4)。データが完全に揃った714例を対象とした多変量Cox比例ハザード解析の結果、OSの独立した予後因子として以下の4因子が抽出された (Table 5)。

  • 疾患範囲: 限局期は進展期と比較して HR 0.66 (95% CI 0.57-0.78, p<0.001) と有意に良好であった。
  • Karnofsky PS: PS ≥80はPS ≤70と比較して HR 0.73 (95% CI 0.60-0.86, p<0.001) と有意に良好であった。
  • 性別: 女性は男性と比較して HR 0.71 (95% CI 0.54-0.94, p=0.02) と有意に良好であった。
  • 好中球率: 好中球率 ≤75%は>75%と比較して HR 0.80 (95% CI 0.67-0.96, p=0.05) と有意に良好であった。

RECPAM解析による予後リスクグループ分類: Coxモデルで同定された予後因子に年齢を加味したRECPAM解析により、患者は生存期間に関して統計的に最も明確に分離される4つの予後グループに分類された (Figure 2, Table 6)。

  • グループI (n=137): 限局期、Karnofsky PS ≥80、かつ年齢60歳未満の患者群。mOSは60週、2年生存率は19%と最も良好な予後を示した。
  • グループII (n=228): 限局期でKarnofsky PS ≥80かつ年齢60歳以上、または限局期でKarnofsky PS ≤70、または進展期でKarnofsky PS ≥80かつ好中球率 ≤75%の患者群。mOSは47週、2年生存率は10%であった。
  • グループIII (n=238): 進展期でKarnofsky PS ≥80かつ好中球率 >75%、または進展期でKarnofsky PS ≤70かつ女性の患者群。mOSは36週、2年生存率は7%であった。
  • グループIV (n=160): 進展期でKarnofsky PS ≤70かつ男性の患者群。mOSは28週、2年生存率は2%と極めて不良な予後を示した。 これら4つのグループ間における生存曲線は極めて明確に分離しており (Figure 3)、最良群 (グループI) と最不良群 (グループIV) の間にはmOSで32週の顕著な差が認められた。

考察/結論

本研究は、1980年代から1990年代のプラチナ製剤併用化学療法時代におけるSCLC患者の長期予後を、全例5年以上の確実な追跡期間を有する大規模前向き臨床試験データを用いて包括的に明らかにした点で極めて重要な価値を持つ。

先行研究との違い: 疾患範囲およびKarnofsky PSがSCLCにおける最も強力な予後因子であることは、本研究を含む500例以上の大規模既報シリーズすべてにおいて一貫して証明されている。性別に関しても、Wolf et al. BrJCancer 1991 などの先行研究と同様に、多変量解析において女性が男性に対して有意に予後良好 (HR 0.71) であることが確認された。これまでの小規模研究では性別の予後的意義について議論が分かれていたが、本研究の大規模データは女性の生存優位性を強く支持する結果となった。

新規性: 本研究で初めて、日常の血液検査で簡便に測定可能な好中球率が、化学療法奏効およびOSの独立した予後因子 (HR 0.80) として機能することを新規に同定した。この因子は、他の大規模予後解析シリーズでは評価されていなかった。好中球増加は、気管支閉塞に伴う閉塞性肺炎などの腫瘍随伴炎症反応を反映している可能性があり、腫瘍微小環境における炎症性免疫応答がSCLCの進展や治療抵抗性に深く関与していることを示唆する先駆的な知見である。

臨床応用: Cox比例ハザードモデルとRECPAM解析の双方で一貫した予後因子が同定されたことは、本解析結果の極めて高い信頼性を示している。構築された4つのRECPAM予後グループ分類 (Table 6) は、生存期間中央値において28週から60週までの明確な階層化を可能にしており、臨床現場における患者への病状説明や、今後の臨床試験における層別化因子として直接的な臨床的有用性を持つ。また、「2年生存は必ずしも治癒を意味しない」という長期追跡に基づく実証データは、SCLCにおける真の臨床的治癒を評価するための閾値として、従来の2年ではなく3年以上の無病生存期間を設定すべきであるという重要な方法論的指針を提示した。

残された課題: 本研究の限界 (limitation) として、対象患者が臨床試験の厳格な適格基準 (Karnofsky PS ≥60など) を満たした集団であり、全身状態不良例を含む実臨床の全SCLC患者への一般化には慎重を要する点が挙げられる。また、血清LDH値は単変量解析で有意な予後因子であったものの、欠損データが多かったため多変量解析モデルに組み込めなかった。今後の検討課題として、今回同定された好中球率の予後的意義について、現代の免疫チェックポイント阻害薬併用療法コホートを用いた外部バリデーションを行うこと、および分子生物学的・遺伝子解析データを取り入れた新規予後予測モデルの構築が必要である。

方法

本研究は、ELCWPが主導した4つの連続する前向き臨床試験 (Phase II試験1本、Phase III試験3本) に登録された患者データを統合したプール解析である。対象となった臨床試験の概要は以下の通りである。

  • 試験A (Phase II、1982年5月〜1984年12月、n=112): シスプラチン (cisplatin)、アドリアマイシン (adriamycin)、エトポシド (etoposide)、シクロホスファミド (cyclophosphamide) を併用するCAVE (Cisplatin, Adriamycin, VP-16, Cyclophosphamide) 療法を4週間間隔で投与。
  • 試験B (Phase III、1984年12月〜1987年12月、n=201): エトポシドとビンデシン (vindesine) の併用療法におけるシスプラチン上乗せの有無を比較するランダム化比較試験。
  • 試験C (Phase III、1987年12月〜1990年6月、n=215): 多剤週次化学療法と標準的3週間隔併用化学療法を比較するランダム化比較試験。
  • 試験D (Phase III、1990年7月〜1993年7月、n=235): イホスファミド (ifosfamide)、エトポシド、エピルビシン (epirubicin) 併用療法後の維持化学療法の有無を比較するランダム化比較試験。

全試験における共通の主要適格基準は、病理学的に確定診断された未治療のSCLC、75歳未満、良好な骨髄機能 (白血球数 ≥3000 または ≥4000/mm³、血小板数 ≥100,000 または ≥150,000/mm³)、肝機能 (血清ビリルビン <1.5 mg/dL)、腎機能 (血清クレアチニン <1.5 mg/dL)、評価可能または測定可能な病変の存在、およびインフォームドコンセントの取得であった。Karnofsky Performance Status (PS) ≥60は試験A、C、Dで必須とされ、脳転移を有する患者は試験Bにおいて除外された。

初期病期診断は、胸部X線、胸部CT、気管支鏡検査、骨シンチグラフィー、骨髄生検、脳CTまたは脳アイソトープスキャン、腹部超音波または腹部CTによって行われた。限局期の定義は、試験Aでは対側鎖骨上窩リンパ節転移や同側胸水を含む一側胸郭内病変とされたが、試験BおよびCでは縦隔および同側鎖骨上窩リンパ節まで、試験Dでは悪性胸水を伴わない範囲へと、時代とともに厳格化された。

解析対象とした治療前変数は、性別、年齢、Karnofsky PS、体重減少、疾患範囲、転移部位 (肺、胸膜、肝臓、骨、副腎、脳、皮膚)、転移部位数、白血球数、好中球率、血小板数、ヘモグロビン値、血清アルカリホスファターゼ、血清クレアチニン、血清LDH (乳酸脱水素酵素)、血清CEA (癌胎児性抗原) を含む21項目である。生物学的変数は標準的な臨床検査基準値に基づき二値化した。BMDP (Biomedical Computer Programs) 統計ソフトウェアパッケージを用いてデータ管理および解析を行った。

統計解析の主要評価項目 (primary endpoint) は全生存期間 (OS) とした。単変量解析では、カテゴリカル変数に対してロジスティック回帰モデル、生存時間データに対しては Kaplan-Meier 法および log-rank test (ログランク検定) を用いた。多変量解析では、化学療法奏効の予測因子同定に多重ロジスティック回帰モデル、OSの予測因子同定には Cox proportional hazards (コックス比例ハザード) モデルを用い、後方ステップワイズ法で変数を採択した。Coxモデルの比例ハザード仮定は、推定累積ハザードの対数差プロットにより検証した。さらに、生存期間に基づいて患者を均質なリスク群に分類するため、RECPAMアルゴリズムを適用した。すべてのP値は両側検定とし、p≤0.05を統計的有意と定義した。本解析は特定の臨床試験登録番号 (NCT番号) が付与される以前のレガシー臨床試験コホートであるが、厳格な前向き Phase III 試験のデザインに準拠して実施された。