• 著者: Masaaki Kawahara, Masahiro Fukuoka, Nagahiro Saijo, Yutaka Nishiwaki, Hiroshi Ikegami, Tomohide Tamura, Masanori Shimoyama, Kaichi Suemasu
  • Corresponding author: Masaaki Kawahara (National Kinki-Central Hospital for Chest Diseases, 1180 Nagasone, Sakai, Osaka 591, Japan)
  • 雑誌: Japanese Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 1997
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 9255270

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は化学療法に対して高い感受性を示し、初回奏効率 (ORR) は70-80%に達するものの、治療成功率には大きな変動が見られる疾患である。1990年代には治療効果が頭打ちとなり、中央生存期間 (MST) は1年未満、3年生存率は15-20%にとどまっていた。この生存不良の主な原因は、治療中の薬剤耐性獲得であると考えられていた。薬剤耐性克服のため、日本ではLung Cancer Chemotherapy Study Group (LCCSG) / Japan Clinical Oncology Group (JCOG 8502) が、1985年から1988年にかけて、CAV (cyclophosphamide+adriamycin+vincristine)、PE (cisplatin+etoposide)、および両者交替療法 (CAV-PE) を比較するランダム化第III相試験 (RCT) を実施した。しかし、治療法のみでは劇的な生存改善は得られず、治療効果をより正確に評価するためには、患者背景因子(予後因子)の体系的な評価と調整が必要であるという認識が高まっていた。

当時、欧米ではSCLCの予後因子に関する複数の研究が報告されており、例えばAlbain et al. JClinOncol 1990は2,580例のSWOGデータベースを解析し、4つの予後クラスを提案した。また、Sagman et al. JClinOncol 1991はNCI-Canadaの614例のデータから5つの予後クラスを構築し、Rawson et al. (1990) は英国のコホートで予後因子を評価していた。これらの先行研究はSCLCの予後予測に重要な知見をもたらしたが、日本人SCLC患者における予後因子の検証と、日本人集団に特化した予後分類モデルの構築は未確立であった。特に、人種間での遺伝的背景や生活習慣の違いが予後に影響を及ぼす可能性も指摘されており、日本人コホートでの独立した検証が強く求められていた。このような状況において、日本におけるSCLC患者の予後因子に関する包括的な解析は不足しており、臨床試験における患者層別化や治療戦略の最適化に資するエビデンスが不足しているという課題が残されていた。

本研究は、JCOG 8502試験に登録された日本人SCLC患者286例を対象とした付随解析論文であり、以下の点で重要な意義を持つ。第一に、日本人SCLC患者における治療前予後因子を多変量解析により同定すること。第二に、長期生存(3年生存)の予測因子を特定すること。第三に、再帰分割統合解析(RPA)という統計手法を用いて、予後が有意に異なる患者サブグループを客観的に分類するモデルを構築することである。これにより、日本のSCLC臨床試験における患者層別化や治療戦略の最適化に資するエビデンスを提供することが期待された。

目的

本研究の目的は、JCOG 8502試験に登録された286例の小細胞肺癌 (SCLC) 患者を対象として、以下の3点を明らかにすることである。(1) 治療前の臨床的および検査値変数の中から、Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析により独立した予後因子を同定すること。(2) ロジスティック回帰分析を用いて、長期(3年)生存を予測する因子を特定すること。(3) Recursive Partitioning and Amalgamation (RPA) 解析を適用し、予後が統計学的に有意に異なる患者サブグループを分類する、実用的な予後分類システムを構築すること。これらの目的を達成することで、SCLC患者の層別化、臨床試験デザインの最適化、および個別化医療への貢献を目指した。

結果

多変量解析による独立予後因子: 全286例を対象としたCox比例ハザードモデル(治療前変数および治療レジメンを含む)の結果、以下の4つの因子が独立した予後不良因子として同定された (Table 2)。

  1. PS (Performance Status) 2-3 (PS 0-1と比較): 相対リスク (RR) 2.02 (95% CI 1.47-2.78, p=0.0001)
  2. 血清LDH (lactate dehydrogenase) 高値 (正常値と比較): RR 1.96 (95% CI 1.48-2.59, p=0.0001)
  3. 血清AlkP (alkaline phosphatase) 高値 (正常値と比較): RR 1.70 (95% CI 1.21-2.38, p=0.0002)
  4. 進展型病期 (Extensive Disease, ED) (限局型病期 (Limited Disease, LD) と比較): RR 1.54 (95% CI 1.14-2.09, p=0.0046) CEA高値、転移部位数2箇所以上、性別(女性が良好)もmarginally significantであったが、Bonferroni補正後には有意とはならなかった。

Univariate解析によるMST差: 各予後因子のunivariate解析では、PS 0-1群のMSTは12.8ヶ月に対し、PS 2-3群は7.8ヶ月 (p<0.0001) であった。LD群のMSTは14.4ヶ月に対し、ED群は8.8ヶ月 (p<0.0001) であった。LDH正常群のMSTは14.3ヶ月に対し、LDH高値群は8.0ヶ月 (p<0.0001) であった。AlkP正常群のMSTは11.6ヶ月に対し、AlkP高値群は8.5ヶ月 (p<0.0002) であった。血清Naレベルも有意な差を示し、Na ≥136 mmol/L群のMSTは11.4ヶ月に対し、Na <136 mmol/L群は9.1ヶ月 (p=0.0072) であった (Table 1)。

病期別サブグループ解析: 病期別にCox比例ハザードモデルによる多変量解析を実施した (Table 3)。

  • LD患者 (n=143): LDH高値 (RR 2.50, 95% CI 1.68-3.71, p=0.0001) とPS 2-3 (RR 2.23, 95% CI 1.37-3.63, p=0.0013) が独立した予後不良因子であった。AlkP高値もmarginally significantであった (p=0.0148)。stepwise解析では、治療レジメン(CAV-PE交替療法が他のレジメンより有利、RR 0.63, 95% CI 0.42-0.92, p=0.0182)が有意因子として加わった。
  • ED患者 (n=135): PS 2-3 (RR 1.79, 95% CI 1.19-2.68, p=0.0050) とLDH高値 (RR 1.78, 95% CI 1.18-2.70, p=0.0063) が独立した予後不良因子であった。AlkP高値と性別(女性が有利)はmarginally significantであった。治療レジメンは予後因子ではなかった。

3年長期生存予測: 全患者286例中、33例 (11.5%) が3年以上生存した。内訳はLD患者28例、ED患者5例であった。LD患者における3年無病生存率 (DFS) は19.2% (28/146) であり、ED患者では3.5% (5/142) であった。LD患者を対象とした多変量ロジスティック回帰分析では、PS (p=0.029) とWBC (p=0.044) が3年生存の独立予測因子として同定された。WBC ≥10×10³/μLの患者はより良好な予後を示した。stepwise解析では、LDH (p=0.029)、PS (p=0.041)、および治療レジメン(CAV-PE交替療法が有利、p=0.043)が有意な予測因子であった (Table 4)。ED患者では3年生存例が少なすぎたため、同様の多変量解析は実施できなかった。

RPA予後分類モデル: 全284例を対象としたRPA解析により、3つの予後クラスが構築された (Figure 1)。最初の分岐は血清LDHレベル (正常 vs 上昇) であった。LDH正常群はさらにPSと血清Naレベルで分岐し、LDH上昇群はPSのみで分岐した。最終的に形成された3つの予後クラスは以下の通りである (Figure 2, Table 5)。

  • 予後クラスI (最良): LDH正常 + PS 0-1 + Na正常 (n=107)。MST 16.0ヶ月、2年生存率31%、3年生存率22%、5年生存率19%であった。完全奏効率 (CR) はLD群で27.4% (20/73)、ED群で17.6% (6/34) であった。
  • 予後クラスII (中間): クラスIとIIIに属さない患者 (n=116)。MST 9.4ヶ月、2年生存率6%、3年生存率5%、5年生存率2%であった。CR率はLD群で11.1% (7/63)、ED群で11.3% (6/53) であった。
  • 予後クラスIII (最不良): LDH上昇 + PS 2-3 (n=61)。MST 6.6ヶ月、2年生存率2%、3年生存率0%、5年生存率0%であった。CR率はLD群で0% (0/11)、ED群で4.0% (2/50) であった。 これら3つのクラス間の生存期間には統計学的に有意な差が認められた (log-rank test, p<0.0001)。また、CR率も3クラス間で有意差があった (p=0.0004)。

欧米モデルとの比較: 本研究で構築された3クラスモデル (LDH+PS+Na) は、先行する欧米のモデルと比較された。Sagman et al. JClinOncol 1991のNCI-Canada研究 (614例) では5クラスが同定され、MSTは5.5-13.6ヶ月であった。Albain et al. JClinOncol 1990のSWOG研究 (2580例) では4クラスが同定され、MSTは6.3-19.0ヶ月であった。本研究のモデルは、より少ない変数でシンプルに3つの予後クラスを定義しており、日本人集団に適用しやすい設計であると考えられた (Table 6)。

考察/結論

本研究は、JCOG 8502試験に登録された日本人SCLC患者286例を対象とした詳細な予後解析であり、SCLCの予後予測における重要な知見を提供した。多変量解析により、PS、血清LDH、血清AlkP、および病期(LD vs ED)が独立した予後不良因子であることが明確に示された。これらの因子は、先行する欧米の報告(例えば、Albain et al. JClinOncol 1990Wolf et al. BrJCancer 1991)とも概ね一致しており、SCLCの生物学的特性が人種を超えて共通の予後因子に反映される可能性を示唆している。

新規性: 本研究で特に新規性が高いのは、Recursive Partitioning and Amalgamation (RPA) 解析を用いて、血清LDH、PS、および血清Naレベルに基づいた3つの予後クラス分類システムを構築した点である。このモデルは、最も良好なクラスIのMSTが16.0ヶ月、中間クラスIIが9.4ヶ月、最も不良なクラスIIIが6.6ヶ月と、各クラス間で統計学的に極めて有意な生存差 (p<0.0001) を示した。これは、これまで報告されていない日本人SCLC患者に特化した、実用性の高い予後分類モデルの確立を意味する。特に、血清Naレベルが予後因子として組み込まれた点は、SCLC患者にしばしば見られる抗利尿ホルモン不適合分泌症候群 (SIADH) や脳転移との関連性を示唆しており、興味深い知見である。

先行研究との違い: 欧米で報告された予後分類モデル(例: Sagman et al. JClinOncol 1991)と比較して、本研究のモデルはより少ない変数(LDH、PS、Naの3つ)で構成され、3つのシンプルなクラスに分類される点が対照的である。これにより、臨床現場での適用が容易であり、日本人SCLC患者の特性をより適切に捉えている可能性が考えられる。また、本研究では治療レジメンが全体解析における独立予後因子とはならなかったが、LD患者のサブグループ解析ではCAV-PE交替療法が有利な傾向を示した点は、Roth et al. JClinOncol 1992などの先行研究とも一部共通する。

臨床応用: 本予後分類システムは、SCLCの臨床試験のデザイン、実施、および結果の解釈において極めて有用である。例えば、高リスク患者群を対象とした新規治療法の開発や、低リスク患者群における治療強度の最適化など、個別化医療の推進に貢献しうる。また、患者への予後説明や治療方針決定の際の客観的な指標としても活用可能である。特に、LDHという簡便な血液検査項目が最初の分岐点となるため、実臨床での適用性が高い。

残された課題: 本研究は1990年代のデータに基づくものであり、その後のSCLC治療の進歩(例: 免疫チェックポイント阻害薬の導入)を考慮すると、本モデルの再検証が今後の課題である。特に、免疫チェックポイント阻害薬の効果予測因子としてのLDHやPSの意義は継続的に研究されており、本モデルとの統合的な評価が求められる。また、分子マーカー(例: TMB、ASCL1/NEUROD1/POU2F3/YAP1サブタイプ、SLFN11)や循環腫瘍DNA (ctDNA)、炎症バイオマーカー(NLR、PLR、CRP/albumin ratio)などの新たな予後因子との組み合わせによる、より精密な予後予測モデルの構築も今後の研究方向性として挙げられる。高齢患者やPS不良患者における予後モデルの最適化も重要な検討課題である。本論文は、1997年の発表以降、日本のSCLC研究における予後モデルの基盤として広く参照されており、SCLCのエビデンスベース医療の確立に大きく貢献した歴史的業績である。

方法

本研究では、1985年4月から1988年5月の間に、日本の5施設からJCOG 8502試験に登録された300例のSCLC患者のうち、適格基準を満たした286例を解析対象とした。これは多施設共同ランダム化第III相試験であり、患者は無作為に3つの化学療法レジメンに割り付けられた:CAV (cyclophosphamide, adriamycin, vincristine) 群97例、PE (cisplatin, etoposide) 群97例、CAV/PE交替療法群92例である。本研究の主要エンドポイントは全生存期間 (OS) であった。

評価項目として、治療前の13種類の変数(Performance Status (PS)、病期 (Limited Disease (LD) または Extensive Disease (ED))、年齢、性別、転移部位数、ヘモグロビン (Hgb)、白血球数 (WBC)、血清アルブミン、血清乳酸脱水素酵素 (LDH)、アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT)、アルカリホスファターゼ (AlkP)、血清ナトリウム (Na)、癌胎児性抗原 (CEA))および治療レジメンが用いられた。これらの変数は、各々適切なカットオフ値でカテゴリー化された。例えば、血液学的・生化学的変数は各施設の正常上限値がカットオフとして使用された。

生存期間の解析には、Kaplan-Meier法が用いられ、群間の有意差はログランク検定 (log-rank test) により評価された (p<0.05)。多変量解析にはCox比例ハザードモデルが適用され、予後因子を同定した。多重比較の問題を考慮し、Bonferroni補正が適用された。具体的には、13の治療前変数のみを解析に用いる場合はp値<0.0039 (0.05/13) を有意とし、治療レジメンを加えた14変数を用いる場合はp値<0.0036 (0.05/14) を有意とした。p値が0.05未満であるがBonferroni補正後の閾値を超えない場合は「marginally significant」と定義された。長期(3年)生存の予測因子はロジスティック回帰分析により評価された。

予後分類モデルの構築には、Recursive Partitioning and Amalgamation (RPA) 解析がSASソフトウェアを用いて実施された。RPA解析では、まず全患者集団を最も生存差を生じる変数でサブクラスに分割し、このプロセスを各サブクラスで繰り返す。分割は、有意な生存差が生じなくなるか、サブクラスのサイズが小さくなりすぎるまで継続された。その後、生存に有意差のないサブクラスを統合(amalgamation)し、最終的な予後クラスを形成した。このRPA解析は、Coxモデルとは異なり、予後因子間の相互作用を自動的に探索し、直感的な患者グループ化を可能にする利点を持つ。病期(LDとED)別にサブグループ解析も実施され、それぞれの病期における独立予後因子が評価された。