• 著者: Albain KS, Crowley JJ, LeBlanc M, Livingston RB
  • Corresponding author: Southwest Oncology Group Operations Office, San Antonio, TX, USA
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 1991
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 1651993

背景

1970年代から1980年代にかけて、広範期非小細胞肺癌 (ENSCLC) の治療にシスプラチンベースの化学療法が導入され、患者の生存期間が改善したという報告が蓄積されてきた。しかし、この見かけ上の生存改善には、いくつかの交絡因子が関与している可能性が指摘されており、その真の寄与については議論が続いていた。第一の交絡因子は「ステージ移動 (Will Rogers現象)」である。これは、より高精度な画像診断技術(CTスキャンや核医学スキャンなど)の普及により、以前は限局期と診断されていた少数の遠隔転移巣を持つ患者が進行期として分類されるようになり、結果的に進行期患者集団の予後が統計的に改善したように見える現象を指す (Feinstein et al. 1985)。この現象は、がん統計における生存率の解釈に誤解を招く可能性があると指摘されている Feinstein et al. N Engl J Med 1985。第二に、患者集団の変化が挙げられる。近年の臨床試験では、より良好なパフォーマンスステータス (PS)、女性、転移巣が少ないなど、予後が有利な患者集団がより多く組み込まれる傾向が見られた。これらの患者特性の組み合わせが、治療とは独立して生存ポテンシャルを高める可能性があった。例えば、Bonomi et al. JClinOncol 1989Rapp et al. JClinOncol 1988 の研究でも、患者背景因子の重要性が指摘されている。第三の因子は、化学療法自体の真のベネフィットである。シスプラチン含有療法が、ステージ移動や患者選択の変化といった交絡因子を調整した後も、独立して生存期間を延長する真の治療効果を持つのかどうかは、当時の時点では未解明であった。この点に関して、多くの小規模研究では結論がcontroversialであり、大規模な検証が不足していた。

Southwest Oncology Group (SWOG) は、1974年から1988年にかけて実施された多数の第II相および第III相臨床試験を通じて、ENSCLC患者2,531例という大規模なデータベースを構築していた。この膨大な患者データを統合解析することで、従来の小規模な研究では困難であった、予後因子間の複雑な相互作用を厳密に制御し、シスプラチンベースの化学療法の独立した生存改善効果を検証する機会が生まれた。特に、多変量解析手法を用いることで、ステージ移動や患者背景の変化といった交絡因子を調整した上で、シスプラチンの真の治療効果を定量的に評価することが可能になると考えられた。このような大規模な後ろ向き解析は、当時のENSCLC治療における重要な知識ギャップを埋める上で不可欠であった。

目的

本研究の目的は、SWOGの広範期非小細胞肺癌 (ENSCLC) 患者登録データ (1974年から1988年までの2,531例) を用いて、以下の3点を明らかにすることである。

  1. Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、患者の人口統計学的特性、腫瘍関連予後因子、および治療内容が、それぞれ独立した生存決定因子であるかどうかを同定すること。特に、シスプラチン含有化学療法が、他の予後因子や登録年といった交絡因子を調整した後も、独立して生存を改善するかどうかを評価する。
  2. 再帰分割併合解析 (RPA) を適用し、臨床的に利用可能な情報に基づいて、異なる生存ポテンシャルを持つ予後サブグループを客観的に定義すること。これにより、ENSCLC患者の予後層別化に有用なツールを提供することを目指す。
  3. シスプラチン含有療法の生存ベネフィットが、RPAによって定義された各予後サブグループにおいて普遍的に観察されるかどうかを検証すること。これにより、特定の患者集団がシスプラチンベースの治療からより大きな恩恵を受けるのか、あるいはその効果が幅広い患者層に及ぶのかを明らかにすることを目指す。

結果

全体成績と経時的変化: 全コホート (n=2,531) の中央全生存期間 (mOS) は5.1ヶ月であり、試験ごとの範囲は2.5ヶ月から9.2ヶ月であった (p<0.001)。1年全生存率 (OS) は全体で16% (試験ごとの範囲は5%から30%) であった。第III相試験の経時的推移を見ると、mOSは初期の3.7ヶ月 (1年OS 10%) から後期の5.1ヶ月 (1年OS 18%) へと緩やかな改善が認められた。2年以上生存した患者では、37%が女性であり、80%がシスプラチン含有療法を受けていた。これは、全集団における女性の割合23%およびシスプラチン治療の割合62%と比較して顕著な差であった。全体の2年OSは5%未満であった。

単変量解析による予後因子: 単変量解析において、以下の因子が統計学的に有意な予後良好因子として同定された (Table 3)。

  • 良好なPS (0-1) は、mOS 6.4ヶ月 vs 不良PS (2-4) の3.4ヶ月、1年OS 20% vs 9%と有意な差を示した (p<0.01)。
  • 女性は、mOS 5.7ヶ月 vs 男性4.8ヶ月、1年OS 19% vs 14%と有意な予後良好因子であった (p<0.01)。特に70歳以上の女性では1年OS 34%と、45歳未満の女性の11%と比較して高かった。
  • 単一転移巣の患者は、mOS 8.7ヶ月、1年OS 37%と、複数転移巣患者の約2倍の生存率を示した (p<0.01)。
  • 体重減少10ポンド未満、正常LDH、正常アルカリホスファターゼ、ヘモグロビン (Hb) ≥11 g/dLも有意な予後良好因子であった。
  • シスプラチン含有療法は、mOS 5.5ヶ月 vs 非シスプラチン群の3.9ヶ月、1年OS 17% vs 12%と有意な生存改善効果を示した (p=0.0001)。良好PS患者のサブグループでも、シスプラチン群の1年OS 22% vs 非シスプラチン群の16%と有意な差が認められた。
  • 最近の試験への登録も有意な予後良好因子であった (p<0.00005)。 有意ではなかった因子には、マイトマイシン、アントラサイクリン、エトポシド含有療法、男性における年齢、喫煙歴、白人人種、正常カルシウムが含まれた。

Cox比例ハザード回帰モデルによる独立予後因子:

  1. Cox第1モデル (全2,290例):
    • 良好PS (0-1) が最も強力な独立予後因子であり、ハザード比 (HR) 1.7 (95% CI: 1.5-1.8, p<0.00005) であった。
    • シスプラチン含有療法も独立した予後良好因子であり、HR 1.3 (95% CI: 1.1-1.4, p<0.00005) であった。
    • 女性も独立した予後良好因子であり、HR 1.3 (95% CI: 1.1-1.4, p<0.00005) であった。
    • 70歳以上の年齢も独立した予後良好因子であり、HR 1.2 (95% CI: 1.0-1.4, p=0.02) であった。
    • 登録年およびその他の治療グループは、PSと性別で調整後には有意な独立因子ではなくなった (登録年: p=0.31)。これはステージ移動仮説に対する反証となる。
  2. Cox第2モデル (良好PS・最近の試験 n=362):
    • ヘモグロビン >11 g/dLがこのモデルで最も強力な独立因子であり、HR 2.1 (95% CI: 1.4-3.1, p=0.001) であった。
    • 正常LDH: HR 1.4 (95% CI: 1.1-1.8, p=0.002)。
    • 正常カルシウム: HR 1.6 (95% CI: 1.2-2.1, p=0.007)。
    • 単一転移巣: HR 1.6 (95% CI: 1.1-2.3, p=0.02)。
    • シスプラチン含有療法: HR 1.5 (95% CI: 1.0-2.3, p=0.05)。
    • 登録年、性別、年齢、喫煙状況、体重減少、アルカリホスファターゼは有意ではなかった。

RPA解析による予後サブグループの定義:

  1. RPA第1解析 (n=904、最近の試験):
    • PSが最初の最も重要な分岐因子であった (PS 0-1 vs 2-4)。
    • PS 0-1の患者群では、ヘモグロビン値 (>11 g/dL vs ≤11 g/dL) が次の重要な分岐因子であった。
    • ヘモグロビン高値群では、年齢 (>47歳 vs ≤47歳) でさらに分岐した。
    • PS 2-4の患者群では、正常LDHか否かで分岐した。
    • これらの解析により、以下の3つの明確な予後サブグループが定義された (Table 6, p<0.0001)。
      • Group I (最良予後群): PS 0-1、Hb >11 g/dL、年齢 >47歳 (n=410)。mOS 7.6ヶ月、1年OS 27%、2年OS 8%。
      • Group II (中間予後群): PS 0-1で上記以外の患者、またはPS 2-4でLDH正常の患者 (n=277)。mOS 5.1ヶ月、1年OS 16%、2年OS 3%。
      • Group III (最悪予後群): PS 2-4でLDH異常の患者 (n=217)。mOS 3.0ヶ月、1年OS 6%、2年OS 1%。
  2. RPA第2解析 (全2,531例、シスプラチン効果の検証):
    • 全2,531例を対象にPS、性別、年齢のみを用いて構築されたRPAツリーは、6つの末端ノード(均質な予後グループ)を定義した (Figure 2)。
    • 各サブグループにおいてシスプラチン含有療法の生存ベネフィットが検証された結果、全ての6つのサブグループでシスプラチン群が有利な傾向を示し、グループ間の効果の均一性に関するP値は0.75を超えた。
    • 層別Cox解析により、シスプラチン含有療法の効果は統計学的に有意であり、調整済み相対リスクは1.2 (p<0.0001) であった。
    • シスプラチン群では、複数の大規模サブグループで1年OS 20-30%が確認され、非シスプラチン群の歴史的コントロール (1年OS 0-10%) と大きく対比された。
    • 例えば、良好PSの女性でシスプラチン治療を受けたサブグループではmOS 9.3ヶ月であったのに対し、不良PSの男性で非シスプラチン治療を受けたサブグループではmOS 2.7ヶ月と、サブグループ間の生存格差は顕著であった。

考察/結論

本SWOG大規模統合解析 (n=2,531) は、広範期非小細胞肺癌 (ENSCLC) における生存決定因子を系統的かつ厳密に同定した歴史的に重要な報告である。

新規性: 最も重要な知見は、シスプラチン含有療法が、ステージ移動や患者選択の変化といった交絡因子を厳密に制御した後も、独立した生存ベネフィット (HR 1.3, 95% CI: 1.1-1.4, p<0.00005) を示したことである。これは、シスプラチンの「真の治療効果」が、多変量解析によって本研究で初めて大規模に確立されたことを意味する。この結果は、シスプラチンベースの化学療法がENSCLC患者の生存期間を延長するという、当時の議論に明確な根拠を与えた。

先行研究との違い: パフォーマンスステータス (PS) が最も強力な独立予後因子 (HR 1.7, 95% CI: 1.5-1.8, p<0.00005) であったことは、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) やその他の大規模協同グループの報告とも一致する。しかし、本研究では、従来のCox回帰モデルに加えて、再帰分割併合解析 (RPA) という当時比較的新しい統計手法を導入し、少数の変数(PS、ヘモグロビン、年齢、LDH)で容易に定義できる3つの予後グループ(mOS 3.0ヶ月、5.1ヶ月、7.6ヶ月)を同定した点で新規性がある。これは、従来のCoxモデルがハザード比に基づいて患者をグループ化するのに対し、RPAがデータから客観的に分岐点を特定し、直感的な予後サブグループを形成する点で対照的である。

女性の独立した良好予後 (HR 1.3, 95% CI: 1.1-1.4, p<0.00005) の生物学的基盤は1991年時点では不明であったが、後年の研究でEGFR変異が女性や非喫煙者に偏在することが明らかになり (Mitsudomi et al. 2010など)、この性差の一部が分子生物学的に説明されるようになった。また、ヘモグロビン ≥11 g/dLという閾値が、良好PS患者のサブセットにおけるCox回帰モデルで最も強い独立因子 (HR 2.1, 95% CI: 1.4-3.1, p=0.001) として同定されたことは、貧血、炎症、栄養状態を反映した全身状態の重要性を示している。

臨床応用: 本研究でRPAによって同定された予後グループは、その後のSWOG 9509やECOG 1594といった大規模第III相試験の設計や層別化基準として直接反映された。これにより、より均質な患者集団での治療効果評価が可能となり、臨床試験の効率と精度向上に貢献した。RPAは、Cox回帰と比較して、欠損データを許容しつつ(904例中、全変数完全例は539例)、予後グループを自動的かつ視覚的に定義できるという方法論的優位性を示した。RPAで同定された3群、特に最良予後群に相当する患者像(Stage IV NSCLCでも良好PS、Hb高値、高年齢)は、現在のStage IV分類のさらなる細分化の必要性を既に1991年時点で示唆していた。これらの知見は、臨床現場における患者層別化と個別化医療の進展に大きく貢献する。

残された課題: 本解析は後ろ向き研究であり、シスプラチン単独の直接的な効果を検証したものではないというlimitationがある。観察されたベネフィットが、シスプラチンと他の薬剤との併用効果による可能性も完全に排除できない。また、シスプラチンの生存ベネフィットの絶対的な大きさは、mOSで数ヶ月程度の改善と「控えめ」であり、統計的有意性が大規模な患者数に起因する可能性も指摘される。しかし、複数の大規模サブグループで1年OSが20-30%に達したことは、歴史的コントロール (1年OS 0-10%) と比較して臨床的に意味のある改善であると考えられる。今後の検討課題として、これらの予後因子と治療効果の相互作用を、より詳細な分子生物学的マーカーと組み合わせて解析することが挙げられる。

方法

本研究は、1974年から1988年の間にSWOGが実施した14の臨床試験(第III相ランダム化比較試験5件、第II相試験9件)に登録された広範期非小細胞肺癌 (ENSCLC) 患者2,531例を対象とした後ろ向き統合解析である。対象患者は、扁平上皮癌、腺癌、大細胞癌、またはこれらの混合型組織型を有していた。全ての患者は、身体診察、血算、生化学検査、胸部X線、胸部断層撮影またはCTスキャン、核医学骨スキャン、腹部CTスキャン、および/または核医学またはCT脳スキャンを含む統一された評価および病期分類基準を満たしていた。測定可能または評価可能な疾患が必須であり、全ての患者は遠隔転移または確定放射線療法後の局所再発を有していた。

患者特性とデータ収集: ほぼ全ての患者について、性別、パフォーマンスステータス (PS; SWOG 0-1を良好、2-4を不良と定義)、年齢 (<45歳、45-69歳、≥70歳)、人種、登録年といった前治療前の特性がコンピューターファイルで利用可能であった。最近の試験(概ね1980年以降)では、体重減少 (<10ポンドまたは≥10ポンド)、喫煙状況、単一転移巣か複数転移巣か、ヘモグロビン値 (<11 g/dLまたは≥11 g/dL)、血小板数、乳酸脱水素酵素 (LDH)、アルカリホスファターゼ、総ビリルビン、SGOT (serum glutamic oxaloacetic transaminase)、カルシウム値(正常または異常)といった追加の検査値も利用可能であった。組織型は、SWOG病理医パネル間での診断再現性の問題から、単変量・多変量解析には含めなかった。

治療グループの定義: 化学療法レジメンは多岐にわたるため、治療変数はシスプラチン含有 (n=1,569、62%)、マイトマイシン含有 (n=810、32%)、アントラサイクリン含有 (n=1,215、48%)、エトポシド含有 (n=354、14%) の有無で分類された。

統計解析: 生存データは1989年11月まで更新された。

  1. 単変量解析: 各予後因子および治療グループ間の生存期間の差は、Kaplan-Meier法による生存曲線とログランク検定 (log-rank test) を用いて評価された。
  2. Cox比例ハザード回帰モデル:
    • Cox第1モデル: 全2,290例(PS、性別、年齢、登録年、治療グループのデータが完全な患者)を対象に、独立した予後因子と治療効果を同定した。ステップワイズ法が用いられ、モデルへの投入P値は0.05、維持P値も0.05と設定された。
    • Cox第2モデル: 良好PSを有し、最近の試験に登録された患者362例のサブセットを対象に、ヘモグロビン、LDH、カルシウム、転移巣数といった追加の検査値の予後影響を評価した。このモデルは、特に良好な予後因子を持つ患者群における詳細な予後因子を特定することを目的とした。
  3. 再帰分割併合解析 (RPA):
    • RPA第1解析: 最近の試験に登録された904例(ほとんどがシスプラチンベースの治療を受けており、ほとんどの検査値データが利用可能)を対象に、実験的な分割変数を用いて予後グループを定義した。ログランク検定を分割基準とし、ブートストラップ再サンプリング法で最適なサブツリーを決定した。
    • RPA第2解析: 全2,531例を対象に、全患者で利用可能な人口統計学的変数(PS、性別、年齢)のみを用いて回帰ツリーを構築し、シスプラチン含有療法の生存ベネフィットが各RPAサブグループで普遍的に観察されるかを検証した。この検証には、層別Cox回帰モデルが用いられた。RPAは、欠損データを持つ症例を完全に除外することなく解析できる利点を持つ。本研究は、特定の試験登録番号(NCT IDなど)は持たないが、SWOGという大規模な協同グループのデータを用いた後ろ向きコホート研究として設計された。