- 著者: John D. Hainsworth, Jill D. Spigel, David R. Litchy, F. Anthony Greco
- Corresponding author: John D. Hainsworth (The Sarah Cannon Cancer Center/Tennessee Oncology, Nashville, TN, USA)
- 雑誌: Cancer
- 発行年: 2004
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 15160349
背景
進展型小細胞肺がん (ES-SCLC) は、極めて高い悪性度と急速な病勢進行を特徴とする予後不良な疾患である。初回化学療法に対する感受性は比較的高いものの、早期の再発と薬剤耐性獲得が不可避であり、長期生存を得ることは極めて困難である。長年にわたり、ES-SCLCに対する標準的な初回治療はシスプラチンとエトポシドの併用療法(EP療法)であったが、シスプラチンに起因する重篤な骨髄抑制、腎毒性、末梢神経障害、および激しい悪心・嘔吐などの毒性プロファイルが、特に65歳以上の高齢患者やECOG Performance Status (PS) 2の全身状態不良患者においては許容困難となるケースが多かった。
代替治療として、シスプラチンをカルボプラチンに置き換えたカルボプラチン+エトポシド(CE)併用療法が、腎毒性や神経毒性の軽減を目的として高齢者やPS不良患者に広く用いられ、一定の忍容性と有効性を示していた。また、Noda et al. NEnglJMed 2002 によるJCOG9511試験では、イリノテカン+シスプラチン併用療法がEP療法を上回る生存期間の延長を示して注目されたが、その強い骨髄毒性と下痢のため、高齢者やPS不良患者への安全な適用は困難と考えられた。さらに、Schiller et al. JClinOncol 2001 などの報告に見られるトポテカン単剤療法や、パクリタキセル単剤療法などの非プラチナ系新規抗がん剤も検証されたが、単剤での治療効果は限定的であった。
このような背景から、プラチナ製剤を使用しない非プラチナ系新規抗がん剤の週1回投与レジメンの開発が模索された。ドセタキセル週1回投与は高齢非小細胞肺がん患者において良好な忍容性と単剤活性を示しており、ゲムシタビンとの併用療法(ドセタキセル+ゲムシタビン)も有望な成績が報告されていた。しかし、高齢者やPS不良のES-SCLC患者を対象とした、週1回ドセタキセル+ゲムシタビン併用療法の前向きな検証データはこれまで存在しなかった。この脆弱な患者集団に対する非プラチナ系代替療法の有効性と安全性の検証は不十分であり、最適な治療選択肢が未確立であるという重大な知識ギャップ(knowledge gap)が存在していた。高齢者やPS不良患者に特化した低毒性かつ有効な非プラチナ系レジメンのエビデンスが決定的に不足しているという課題が残されており、この不足しているエビデンスを補完し、新たな初回治療オプションとしての可能性を検証するために本研究が計画された。
目的
本第II相臨床試験の目的は、未治療の高齢(65歳超)またはECOG PS 2のES-SCLC患者を対象に、週1回投与によるドセタキセルとゲムシタビンの併用療法の有効性と安全性を前向きに評価することであった。
主要評価項目(primary endpoint)は客観的奏効率 (ORR) と設定された。統計設計としてSimonの2段階デザインを採用し、null仮説であるORR 20%以下を、期待奏効率40%以上として棄却することを目標とした。事前に、ORRが40%に達しない場合は標準治療(CE療法など)に対する優位性がないと判断し、本レジメンのさらなる開発は推奨しないという厳格な基準を設けた。
副次評価項目は、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、1年生存率、および有害事象共通常用語基準 (CTCAE) に基づく毒性プロファイルの評価とした。特に、高齢者およびPS不良患者における骨髄抑制や非血液毒性(倦怠感など)の忍容性を詳細に検討し、本レジメンがプラチナ製剤ベースの標準治療に代わる低毒性かつ有効な選択肢となり得るかを明らかにすることを目的とした。
結果
患者背景と治療完遂状況: 2000年7月から2002年6月までに、Minnie Pearl Cancer Research Networkの15施設から計40例の患者が登録された。患者背景は、年齢中央値 72歳(範囲 56-88歳)、男性 24例 (60%)、女性 16例 (40%) であった。ECOG PSは、PS 0が8例 (20%)、PS 1が14例 (35%)、PS 2が18例 (45%) であり、ほぼ半数が全身状態不良の患者であった。転移臓器数は2カ所以上が33例 (82%) を占め、肝転移が22例 (55%)、脳転移が5例 (13%) に認められた (Table 1)。全40例に対して計104サイクルの治療が実施され、患者あたりのサイクル数中央値は2.5サイクル(範囲 0-7サイクル)であった。2サイクル(8週間)の治療を完了し効果評価が可能であったのは29例 (73%) であった。4例 (10%) は2サイクル完了前に急速な腫瘍増悪により死亡または治療中止となり、非奏効と判定された。残る7例 (17%) は、併発疾患 (n=4)、治療関連毒性 (n=2)、コンプライアンス不良 (n=1) により2サイクルを完了できず、評価不能となった (Table 2)。
客観的奏効率 (ORR) の不十分な治療効果: 主要評価項目である奏効率について、全登録患者40例のうち、完全奏効 (CR) に達した症例は0例 (0%) であった。部分奏効 (PR) は9例に認められ、意図治療 (ITT) 解析における全体奏効率 (ORR) は23% (95% CI 11-39%) であった。評価可能であった29例における奏効率は31%であった。PS良好群(ECOG PS 0または1)の評価可能例19例における奏効率は26% (5/19例) であり、PS不良群(ECOG PS 2)の評価可能例14例における奏効率は29% (4/14例) であった。奏効期間中央値は7ヵ月(範囲 4-7ヵ月)であった。本試験の全体奏効率23%は、事前に設定したSimonの2段階デザインにおける棄却閾値(ORR 40%以上)を大幅に下回り、主要評価項目は未達成(negative trial)となった (Table 2)。
生存期間 (PFSおよびOS) の不良な推移: 全登録患者40例における無増悪生存期間 (PFS) 中央値は2ヵ月であり、1年時点で無増悪を維持していたのはわずか1例のみであった。また、全生存期間 (OS) 中央値は4ヵ月であり、1年生存率は14% (95% CI 5-27%) にとどまり、2年生存例は認められなかった (Figure 1)。サブグループ解析において、PS良好群(ECOG PS 0または1、n=22)のOS中央値は6ヵ月、1年生存率は21%であったのに対し、PS不良群(ECOG PS 2、n=18)のOS中央値は3ヵ月、1年生存率は6%であった。この2群間における生存期間の比較では、統計学的な有意差は認められなかったものの、PS不良群で生存が短い傾向が示された (p=0.06)。さらに、65歳超かつECOG PS 2の極めて予後不良なサブグループ (n=16) においては、奏効率 19%、OS中央値 3ヵ月という極めて厳しい結果であった。本試験では、主要な生存期間解析においてハザード比(HR)の算出は行われていないが、PS良好群とPS不良群の生存期間の比較は 6 vs 3 months (p=0.06) となり、全身状態が生存に及ぼす影響が示唆された。
安全性および毒性プロファイルの評価: 血液毒性に関して、Grade 3/4の白血球減少は6例 (15%)、血小板減少は7例 (17%)、貧血は2例 (5%) に認められたが、発熱性好中球減少症による入院を必要とした症例は0例 (0%) であった (Table 3)。しかし、骨髄抑制によるDay 15の投与スキップまたは減量は頻発し、Day 15における実際の投与強度(planned doseに対する割合)はドセタキセルが74%、ゲムシタビンが63%まで低下した。Day 15の投与スキップは40例中14例 (35%) にのぼった。非血液毒性においては、Grade 3/4の倦怠感 (fatigue) が10例 (25%) と最も高頻度に認められ、次いで呼吸困難 (dyspnea) が8例 (20%) に認められた。ただし、これらの症状が治療によるものか、あるいは原疾患の進行によるものかの判別は困難であった。治療に関連した死亡(治療関連死)は0例 (0%) であった。
考察/結論
本第II相試験において、高齢者およびPS不良のES-SCLC患者に対する初回治療としての週1回ドセタキセル+ゲムシタビン併用療法は、奏効率 23% (95% CI 11-39%)、OS中央値 4ヵ月、1年生存率 14%という極めて限定的な有効性しか示さなかった。
先行研究との違い: 本試験の結果は、高齢者やPS不良患者に対する標準治療であるカルボプラチン+エトポシド (CE) 併用療法の歴史的データ(mOS 7-9ヵ月、奏効率 50-60%)と比較して著しく劣るものであった。また、Girling et al. Lancet 1996 などの先行研究で示された経口エトポシド単剤療法や、他の非プラチナ系薬剤(パクリタキセルやトポテカン)の単剤活性と比較しても、本併用療法の治療開発上の優位性は認められなかった。これは、SCLCが非小細胞肺がん (NSCLC) とは生物学的に異なり、プラチナ製剤およびトポイソメラーゼ阻害剤に対する依存度が極めて高いことを改めて裏付ける結果となった。
新規性: 本研究は、これまで前向きな臨床試験が極めて不足していた高齢者およびPS不良のES-SCLC患者を対象に、非プラチナ系多剤併用療法(ドセタキセル+ゲムシタビン)を週1回投与という低毒性を目指したスケジュールで新規に検証した初の報告である。しかし、毒性は比較的管理可能であったものの、有効性が極めて不十分であることが本研究によって初めて明らかになった。
臨床応用: 本試験の結果に基づき、週1回ドセタキセル+ゲムシタビン併用療法は、高齢者およびPS不良のES-SCLC患者の初回治療として推奨されないと結論付けられた。臨床現場においては、本レジメンのような非プラチナ系代替療法を安易に選択するのではなく、高齢やPS 2であってもカルボプラチン+エトポシドなどのプラチナ製剤併用療法を基本とすべきであることが再確認された。近年の臨床現場においては、Horn et al. NEnglJMed 2018 (IMpower133試験) に代表されるように、プラチナ+エトポシドに免疫チェックポイント阻害剤(アテゾリズマブなど)を上乗せする治療が標準治療となっており、本試験のネガティブな結果は、プラチナ製剤を骨格とした治療開発の重要性を歴史的に証明するマイルストーンとなった。
残された課題: 今後の検討課題として、単純な年齢やPSのみによる層別化ではなく、包括的機能評価 (CGA) を用いた高齢者の脆弱性評価の導入が挙げられる。また、SCLCの分子サブタイプに応じた個別化医療や、新規モダリティを高齢者やPS不良患者に安全に導入するための臨床試験デザインの確立が求められる。本試験の限界 (limitation) としては、単群の小規模第II相試験 (n=40) であること、Day 15の投与スキップが35%と高頻度であり予定された投与強度を維持できなかったこと、および倦怠感 (25%) などの非血液毒性が患者のQOLや治療継続性に悪影響を及ぼした可能性が挙げられる。
方法
試験デザインと患者選択: 本試験は、米国の地域がん診療ネットワークであるMinnie Pearl Cancer Research Networkの15施設が共同で実施した、多施設共同単群第II相臨床試験である。対象患者の主な選択基準は以下の通りであった。
- 組織学的または細胞学的に確認された進展型小細胞肺がん (ES-SCLC)
- 初回化学療法未治療
- 65歳超の高齢、またはECOG PS 2のいずれか(もしくは両方)を満たすこと
- 十分な骨髄機能(絶対好中球数 [ANC] 1000/μL以上、血小板数 100,000/μL以上)、肝機能(総ビリルビンが施設基準値上限 [ULN] の1.5倍以下、トランスアミナーゼがULN of 2.5 times以下)、および腎機能(血清クレアチニン 2.0 mg/dL以下)
- 3ヵ月以上の期待生存期間
活動性の脳転移を有する患者も、他の基準を満たせば登録可能とした。除外基準には、Grade 3以上の既存の末梢神経障害や、重篤な心疾患などの併存疾患が含まれた。すべての患者から書面によるインフォームドコンセントを取得し、試験プロトコールはCentennial Medical Centerおよび各参加施設の治験審査委員会 (IRB) の承認を得て実施された。なお、本試験は臨床試験登録システム(ClinicalTrials.gov)への登録義務化以前に開始されたため、個別のNCT番号(NCT00000000等)は付与されていない。
治療プロトコール: 登録された患者には、28日を1サイクルとして、Day 1、Day 8、Day 15にゲムシタビン 800 mg/m²(30分点滴静注)に続き、ドセタキセル 30 mg/m²(30分点滴静注)を投与した。治療は最大6サイクルまで継続することとした。ドセタキセルによる体液貯留およびアレルギー反応を予防するため、前投薬としてデキサメタゾン 8 mgの経口投与(投与前日の夜、当日の朝、投与後の夜の計3回)を規定した。脳転移を有する患者に対しては、化学療法開始と同時に全脳照射 (WBRT; whole brain radiotherapy) を併用することを許容した。
用量調整基準: 各投与日の血球数に基づき用量を調整した。ANC 1000/μL以上かつ血小板数 100,000/μL以上の場合は規定量を全量投与した。ANCが500-1000/μLまたは血小板数が75,000-100,000/μLの場合は、ゲムシタビンのみ75%に減量し、ドセタキセルは全量投与した。ANC 500/μL未満または血小板数 75,000/μL未満の場合は、両剤の投与をスキップした。Day 15の投与がスキップされた場合、その分の追加投与は行わず、サイクル期間は28日のままとした。発熱性好中球減少症による入院が発生した場合は、次サイクル以降のゲムシタビンを75%に減量した。
効果判定および統計解析: 治療効果は2サイクル(8週間)完了後に、コンピューター断層撮影 (CT) 等を用いて評価した。効果判定はWorld Health Organization (WHO) 基準に準拠し、完全奏効 (CR)、部分奏効 (PR)、病勢安定 (SD)、病勢進行 (PD) に分類した。生存期間の解析にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法を用い、生存期間の比較にはログランク検定 (log-rank test) を使用した。目標症例数は、Simonの2段階デザインに基づき40例と算定された。