• 著者: Li Li, Shanshan Tang, Jiani C. Yin, Lihua Dong, Zhe Yang, Yueping Liu, Jie Ma, Pengyu Chang, Jiaohui Pang, Hua Bao, Dianbin Mu, Xiaoli Zheng, Reyida Aishajiang, Kewen He, Shaotong Zhang, Meng Ni, Xue Wu, Xiaonan Wang, Yang Shao, Jun Wang, Hong Ge, Jinming Yu, Shuanghu Yuan
  • Corresponding author: Yang Shao; Jun Wang; Hong Ge; Jinming Yu; Shuanghu Yuan (Shandong Cancer Hospital and Institute)
  • 雑誌: International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics
  • 発行年: 2022
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34942313

背景

限局型小細胞肺がん (SCLC) は全肺がんの約15%を占め、その高い増殖率と早期転移により、約3分の1の患者が限局期で診断される極めて進行が早く予後不良な疾患である。限局型SCLCに対する根治的化学放射線療法 (dCRT) は、最も効果的な局所制御手段として確立されており、化学療法単独と比較して疾患制御と患者アウトカムを改善することが示されている Pignon et al. NEnglJMed 1992Warde et al. JClinOncol 1992。しかし、dCRTは毒性の増加と関連しており、一部の患者は治療後に急速に再発し、また重篤な放射線誘発胸部毒性 (RITT:radiation-induced thoracic toxicity、主に放射線性肺臓炎や食道炎) を発症することがあり、治療の継続が困難となる場合がある。dCRTの奏効や予後を予測する分子バイオマーカーはほとんど確立されておらず、個別化治療戦略の基盤が不足していた。

放射線毒性の発生には患者間のかなりのばらつきがあり、これが投与可能な最大線量を制限する要因となっている。遺伝子多型 (SNP) が放射線毒性に関与することは長らく認識されており、DNA損傷修復 (DDR) 経路遺伝子や活性酸素種消去、アポトーシス、炎症反応に関わる遺伝子の多型が放射線誘発毒性の発生に関与することが示唆されてきた。しかし、これらのSNPが個々に臨床的に関連するほど強い効果を発揮するかどうかは議論の余地があり、その予測的価値は未解明な点が多かった。同様に、遺伝的異質性がCRT後の疾患進行の差を説明する可能性も指摘されているが、RTへの反応に関連する遺伝子変異を特定するための候補遺伝子アプローチやゲノムワイド関連解析 (GWAS) など、複数のアプローチが試みられてきたものの、説得力のある臨床的適用性を持つバイオマーカーは未だ特定されておらず、この分野の研究は手薄である。

近年、次世代シークエンシング (NGS) 技術の進歩と普及により、がんおよび放射線応答関連遺伝子の包括的プロファイリングが可能となり、個別化医療の時代においてCRT反応の根底にある個々の違いを解明する新たな機会が提供されている。特に、体細胞変異と放射線毒性の関連については、これまで大規模な検討が不足しており、知識のギャップが残されていた。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。

目的

本研究の目的は、中国の多施設からなる限局型SCLCの大規模コホートにおいて、474遺伝子パネルNGSを用いた包括的なゲノムプロファイリングを実施し、dCRT後の生存および胸部放射線誘発毒性 (RITT) リスクに関連する新規の臨床的、遺伝学的、ゲノム的バイオマーカーを同定することである。具体的には、再発リスクと毒性リスクを予測する分子マーカーを特定し、限局型SCLC患者の個別化治療戦略の最適化に貢献することを目指す。

結果

患者背景と全体成績: 本研究コホートは231例の患者で構成され、年齢中央値は59歳、男性が162例 (70.1%)、喫煙歴がある患者が128例 (55.4%) であった (Table 1)。dCRT施行後のPFS中央値は12.7ヶ月、OS中央値は34.2ヶ月であった。最も頻繁に変異していた遺伝子はTP53 (94.4%) とRB1 (80.5%) であり、これはSCLCの既知の変異プロファイルと一致する George et al. Nature 2015。NOTCH1およびNOTCH2変異もそれぞれ13.9%および14.7%の患者で高頻度に観察された。また、EGFR (14/231, 6%) やKRAS (4/231, 1.7%)、BRCA1/2、MET、ERBB2などの潜在的に治療標的となりうる変異が、計38例 (16.5%) で認められた。TMB中央値は12.1 mut/Mbであった (Fig. 1B)。一塩基置換とその三塩基コンテキストの解析では、C>AおよびC>T置換の優位性が示された。変異シグネチャー解析では、喫煙関連シグネチャーがSCLCで優勢であり、加齢シグネチャーやDNA修復欠損 (ミスマッチ修復欠損、BRCAシグネチャーなど) のシグネチャーもかなりの割合で同定された (Fig. 1C)。

CDK4およびGATA6変異と予後不良: 単変量解析では、CDK4変異 (主にコピー数増幅) がPFS (HR 2.18, 95% CI 1.29-3.68, p=0.003) およびOS (HR 2.93, 95% CI 1.48-5.8, p=0.001) の独立した予後不良因子として同定された (Fig. 2A, B)。GATA6変異もPFS (HR 2.39, 95% CI 1.15-4.94, p=0.016) およびOS (HR 2.84, 95% CI 1.13-7.14, p=0.02) の不良因子であった。さらに、EGFR活性化変異もPFS (HR 2.26, 95% CI 1.14-4.5, p=0.017) およびOS (HR 2.80, 95% CI 1.19-6.61, p=0.014) と不良な予後との関連が認められた。一方、BMPR1A変異 (PFS HR 0.51, 95% CI 0.27-0.94, p=0.03; OS HR 0.23, 95% CI 0.06-0.94, p=0.03) およびPTEN変異 (PFS HR 0.52, 95% CI 0.29-0.94, p=0.03; OS HR 0.34, 95% CI 0.12-0.94, p=0.03) は予後良好と関連した。多変量解析においても、CDK4およびGATA6の変異は独立した予後不良因子として維持された。これらの結果は、特定の遺伝子変異がdCRT後のSCLC患者の予後を層別化する上で重要な役割を果たすことを示唆している。

高TMBの良好予後との関連: TMB (Tumor Mutational Burden) はネオアンチゲンの代理マーカーであり、免疫細胞によって認識され、抗腫瘍免疫応答を引き起こすと考えられている。CRT治療はDNA損傷を通じてより多くのネオアンチゲンを生成することで、その免疫原性効果をさらに高める可能性がある。本研究では、高TMB (カットオフ値 ≥ 10 mut/Mb) が、PFSの有意な改善と関連した (HR 0.55, 95% CI 0.40-0.76, p=0.0003) (Fig. 2C)。OSについても高TMB群で良好な傾向が認められたが、PFSほど顕著ではなかった (HR 0.67, 95% CI 0.41-1.09, p=0.11) (Fig. 2D)。多変量解析では、TMBはPFSの独立したリスク因子であった。この結果は、dCRT後のSCLCにおける免疫活性化とTMBの関連を示唆し、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) 併用の候補バイオマーカーとしてのTMBの可能性を裏付けるものである Hellmann et al. CancerCell 2018

MAPK/ERK経路活性化によるdCRT耐性: MAPK/ERK経路の活性化変異 (KRAS、BRAF、RAFなどを含む) は、PFS (HR 1.57, 95% CI 1.04-2.39, p=0.03) およびOS (HR 2.17, 95% CI 1.23-3.83, p=0.006) の不良な予後と関連した (Fig. 3B, C)。一方、PI3K/AKT経路変異やDDR経路の2ヒット変異では、有意な予後相関は認められなかった。CDK4、GATA6、MAPK/ERK経路、およびTMBステータスを組み合わせた複合リスクスコアによる層別化では、低リスク群と高リスク群の間で顕著な予後差が示された。具体的には、低リスク群のPFS中央値は18.1ヶ月に対し、高リスク群では10.5ヶ月 (p<0.0001) であり、OS中央値は低リスク群で43.8ヶ月に対し、高リスク群で29.1ヶ月 (p=0.0002) であった (Fig. 3D, E)。これらの結果は、MAPK/ERK経路の活性化がdCRTに対する耐性を引き起こす可能性を示唆している。

胸部放射線誘発毒性 (RITT) の発生率と関連するSNP: Grade 2以上のRITTは全体の45.0% (104例) に発生した (Fig. 4A)。内訳は、放射線性肺臓炎が83例 (35.9%)、食道炎が34例 (14.7%) であった (Table 1)。RITTは治療継続の大きな障壁となるため、個別化された毒性予測の重要性が示された。生殖細胞系列SNP解析では、MTHFR (rs1801133, C>T; 49% vs 30%, p=0.02)、CYP2B6 (rs2279343, A>G; 82% vs 43%, p=0.03; rs3745274, G>T; 86% vs 44%, p=0.05)、NQO1 (rs1131341, C>T; 73% vs 43%, p=0.03)、およびLIG4 (rs1805388, C>T; 36% vs 49%, p=0.06) がRITTリスクアレルとして同定された (Fig. 4B)。これらのSNPは、DNA損傷修復、酸化ストレス、および代謝経路に関与する遺伝子に存在し、放射線誘発毒性の感受性における遺伝的要因の役割を強調する。

体細胞DDR変異とRITTリスク: 体細胞DDR経路の機能喪失変異がRITTリスク増加と関連することが本研究で初めて示された。特に、PALB2変異を有する患者ではRITT発生率が100% vs 43% (p=0.001) と著明に高く、FANC遺伝子変異でも71% vs 43% (p=0.05) と高頻度であった (Fig. 4C)。DDR経路の2遺伝子以上に機能喪失変異を有する群では、高グレードRITTの発生率が79% vs 42% (p=0.003) と極めて高い毒性リスクを示した。この関連は、食道炎よりも放射線性肺臓炎に特異的であった (Fig. 4D)。また、ITGB6 (インテグリンβ6) の体細胞変異はRITTリスクの低下と関連する傾向を示した (26% vs 47%, p=0.1)。これらの結果は、腫瘍におけるDDR欠損が、腫瘍とその周囲の免疫微小環境との複雑な相互作用を通じて、正常組織の放射線応答に影響を与える可能性を示唆している。

考察/結論

本研究は、限局型SCLCに対するdCRT後のアウトカムを層別化するために、標的次世代シークエンシングを用いて臨床的および様々な分子特性を統合した、これまでのところ最大規模の後方視的コホート研究である。本研究は、SCLCにおける潜在的に標的可能な変異のランドスケープを報告し、追加の治療選択肢を提供する可能性を示唆した。

新規性: 本研究で初めて、CDK4およびGATA6の変異がdCRT後のSCLCにおいて独立した予後不良因子であることを大規模コホートで確認した。特にCDK4増幅は、CDK4/6阻害薬との併用療法の可能性を示唆する新規の知見である。また、MAPK/ERK経路の活性化変異がdCRT耐性に関与することを示す初の大規模臨床エビデンスを提供し、RAS-MAPK経路阻害による放射線増感の前臨床データを支持する。さらに、体細胞DDR経路の機能喪失変異 (特にPALB2およびFANC遺伝子) が放射線肺臓炎のリスク増加と関連するという発見は全く新規であり、腫瘍のDDR欠損が局所免疫微小環境を変化させ、RITTリスクに影響を与えるという仮説を提示した。

先行研究との違い: 高TMBとdCRT後の良好な予後の関連は、限局型SCLC患者におけるCRT後のTMBの役割を検討した先行研究が比較的小規模であったのに対し、本研究は大規模コホートでこの関連を初めて確認した。これは、免疫システムによる抗腫瘍活性がCRTと協調することを示唆し、高TMB患者での免疫チェックポイント阻害剤の追加の根拠となりうる。また、SNPと放射線毒性の関連はこれまでも報告されてきたが、本研究ではMTHFR、CYP2B6、NQO1、LIG4、ITGB6などの遺伝子におけるリスクアレルを標的NGSを用いて同時に評価し、その予測的価値を独立して検証した点で、これまでの候補遺伝子アプローチや小規模なGWAS研究とは異なるアプローチをとった。

臨床応用: 本研究で同定されたCDK4、GATA6、MAPK/ERK経路の活性化変異は、dCRT後の再発リスクが高い患者を特定し、治療強化や代替治療戦略の検討に役立つ可能性がある。高TMBは良好な予後と関連しており、免疫チェックポイント阻害剤の併用療法の候補患者を特定するバイオマーカーとして臨床応用が期待される。さらに、体細胞DDR経路変異や特定のSNPに基づくRITTリスク評価は、治療前の患者層別化に有用であり、個々の治療強度調整 (例:放射線線量の最適化、予防的薬物投与) や毒性管理の個別化への臨床的有用性を持つ。これらの知見は、限局型SCLC患者に対する個別化医療の実現に向けた重要なステップとなる。

残された課題: 本研究は後方視的研究であり、小サンプルサイズのサブグループ解析や探索的解析などの限界を持つ。したがって、本研究で得られた結果は、大規模な前向き試験による独立した検証が必要である。また、DDR経路変異がRITTに影響を与えるメカニズム、特に腫瘍免疫微小環境との複雑な相互作用については、今後の詳細な研究が残された課題である。これらの知見は、将来の前向き臨床試験デザインの基礎を提供するものである。

方法

本研究は、2015年2月から2019年2月の間に中国の5施設(山東がん病院・研究所、山東省立病院、鄭州大学付属がん病院、河北医科大学第四病院、吉林大学第一病院)で、切除不能な限局型SCLCに対してdCRT(放射線中央値60 Gy)を施行された231例の患者を対象とした後方視的多施設共同研究である。データカットオフは2020年2月であった。

患者選択基準: 組織学的に限局型SCLCと診断され、重度の胸膜または心膜滲出液がないこと、18歳以上であること、十分な肺、骨髄、腎臓、肝臓、心臓機能を有すること、胸部がんに対する全身治療または放射線治療歴がないこと、および遺伝子検査に十分な治療前生検腫瘍検体があることが含まれた。他の併存がんを有する患者はいなかった。本研究は各施設で倫理的承認を得ており、全ての患者またはその保護者からサンプル収集とシーケンスに関する書面によるインフォームドコンセントを取得した。

次世代シークエンシング (NGS): 治療前の生検FFPE (ホルマリン固定パラフィン包埋) 検体からゲノムDNAを抽出し、CLIA (Clinical Laboratory Improvement Amendments) 認定およびCAP (College of American Pathologists) 認定ラボ (Nanjing Geneseeq Technology Inc.) にてNGSを実施した。カスタムパネル (Radiotron®、Nanjing Geneseeq Technology Inc.) は、がんおよびRT応答関連遺伝子を含む474遺伝子をカバーしている。DNAはCovaris M220超音波処理システムで350 bpに断片化され、KAPA hyper library preparation kitでライブラリが調製された。ライブラリはターゲットエンリッチメントのためにプールされ、Illumina Hiseq4000プラットフォームでシーケンスされた。

シーケンスデータ解析: NGSリードの前処理はTrimmomatic Bolger et al. Bioinformatics 2014 を用いて行われた。リードはBurrows-Wheeler Aligner (v0.7.12) Li et al. Bioinformatics 2009 を用いてヒト参照ゲノムhg19にアラインされた。PCR重複除去はPicardで、インデル周辺の局所再アラインメントと塩基品質スコア再キャリブレーションはGATK3 (Genome Analysis Toolkit 3) McKenna et al を用いて実施された。一塩基変異 (SNV) はMutect Cibulskis et al. NatBiotechnol 2013 で、インデルはScalpelで同定された。コピー数変異 (CNV) はCNVKitを用いて検出された。変異は、最小4リード以上のバリアント支持リード、2%以上のバリアントアレル頻度、1000gまたはExACデータベースでの集団頻度1%以下、および内部のシーケンスエラーリストによるフィルタリング基準でさらにフィルタリングされた。最終的な変異リストはvcf2mafを用いてアノテーションされた。

統計解析: 群間の比率の比較にはFisherの正確検定が用いられた。生存解析には、Kaplan-Meier曲線がログランク検定を用いて推定され、PFS (治療開始から増悪まで) およびOS (治療開始から死亡まで) のハザード比 (HR) はCox比例ハザードモデルによって計算された。Coxモデルの妥当性は、比例ハザード仮定、影響力のある観測値、およびRにおける非線形性のテストによって評価された。腫瘍変異負荷 (TMB) のような非正規分布データの場合、2群間の差はWilcoxon順位和検定を用いて比較された。多変量生存解析はCox回帰モデルを用いて実施された。すべての検定において、両側p値が0.05未満を有意とみなした。すべての統計解析はR (v.3.5.2) で行われた。