- 著者: George J, Lim JS, Jang SJ, Cun Y, Ozretic L, Kong G, Leenders F, Lu X, Fernandez-Cuesta L, Bosco G, Schöttle J, Brambilla C, Brambilla E, Lantuejoul S, Zainal M, Bhirde A, Cheng P, Rekhtman N, Jones DR, Rudin CM, Pao W, Bhatt DL, Hirsch FR, Mehmood A, Kühnen P, Schultheis AM, Wolf J, Peifer M, Thomas RK
- Corresponding author: Thomas RK (University of Cologne); Peifer M (University of Cologne)
- 雑誌: Nature
- 発行年: 2015
- Epub日: 2015-08-05
- Article種別: Original Article
- PMID: 26168399
背景
ゲノム不安定性を極めて高度に示すSCLCは肺癌全体の約15%を占め、重喫煙者に発生し最も致死的ながんの一つである。化学療法 (シスプラチン+エトポシド) に対する初期奏効率は60〜80%と高いが急速な再発を示し、大半の患者が診断から2年以内に死亡する。Govindan et al. 2012は非小細胞肺癌のゲノムプロファイルを大規模に記述したが、SCLCの包括的WGS研究は当時存在しなかった。Peifer et al. 2012 (n=29) およびRudin et al. 2012 (n=39) はエクソームシーケンシングにより、TP53・RB1の高頻度二アレル性不活化とCREBBP/EP300変異を同定した先駆的研究であるが、検体数が少なく全ゲノム規模の構造変異・クロモスリプシス・非コード領域変異の解析には不十分であった。Iwakuma et al. 2011はマウスSCLC発生に三重KOが必要であることを示したが、ヒトSCLCでのNOTCHシグナルの役割やクロモスリプシスの機能的意義は未解明であった。より大規模なWGSコホートによる再編成ホットスポット解析、腫瘍進化・サブクローン構造の定量的評価、機能実験による新規発がん経路の実証が不足していた。
目的
110例のヒトSCLC検体のWGSを実施し、全ゲノムレベルの変異・コピー数変化・構造変異・クロモスリプシスを包括的に同定することで、SCLCの発がんに関わる主要なゲノム事象と潜在的治療標的を明らかにすること。マウスモデルを用いた機能実験により、同定された異常の腫瘍生物学的意義を実証することも目指した。
結果
TP53/RB1の普遍的二アレル性不活化とクロモスリプシス型代替経路:SCLC n=110 cases (腫瘍細胞純度中央値84%、平均8.62非同義変異/Mb、C:G>A:Tトランスバージョン28%) において、クロモスリプシスを来した2例を除く108例でTP53は100%、RB1は93%で二アレル性不活化が確認された (Fig. 1a)。不活化機序は点変異に加え、複雑なゲノム転座・スプライスサイト変異 (RNAシーケンシングで確認)・ホモ接合性欠失・コピー中立LOHなど多様であり、古典的Knudson型「二ヒット」モデルに合致した (Fig. 2a)。CGARSで同定されたクロモスリプシス2例 (症例S02297など) では、3番・11番染色体間の大規模再編成の結果、CCND1 (サイクリンD1) が保持・過剰発現 (n=81例中の発現分布でIHC確認) し、CDK4/6-Rb経路を通じてRb1喪失の代替機序として機能していた (Fig. 2b-e)。このクロモスリプシス型CCND1過剰発現はRB1野生型SCLCにおける新規クロモスリプシス発がん経路を示す重要な知見である。コピー数解析 (n=142例; Affymetrix SNP 6.0) では3p (FHIT/ROBO1領域) の欠失とMYCファミリー増幅が再発性変化として確認された。
TP73の癌遺伝子型ゲノム再編成:ゲノム再編成のホットスポット解析により、TP73遺伝子座 (chr1p36) 内の再編成が7% (n=8例) に同定された (Fig. 3a-b)。イントロン1・2・3内の反復する切断点により、エクソン2またはエクソン2+3を欠くN末端切断型変異体 (p73 Delta-ex2・p73 Delta-ex2/3) が生成された (Fig. 3c-d)。これらはTP73の癌遺伝子型変異体であり、野生型p73・p53に対してドミナントネガティブ作用を持つin vivoオンコジーンとして機能する。TP73は点変異と再編成を合わせると全体の13% (n=14例) に異常が認められた。この精密なゲノム再編成による癌遺伝子型変異体の生成は従来の点変異とは異なる新規発がん機序であり、ゲノム不安定性が構造的ドライバーを創出する典型例といえる。
NOTCHファミリー遺伝子の腫瘍抑制機能の機能的実証:NOTCH1/2/3遺伝子の不活化型変異 (主に細胞外ドメインの機能喪失型) が25%のヒトSCLCおよびマウスSCLC腫瘍に同定された。転写解析 (n=69例; 教師なしクラスタリング) ではASCL1/DLK1高発現群 (n=53例) と低発現群 (n=16例) の2クラスターが得られ (Fig. 4a)、低発現群にNOTCH変異が濃縮した (Pearson r=0.61、NOTCH変異陽性 vs ASCL1発現低下)。Trp53;Rb1;Rbl2三重KOマウスへのN2ICD導入は腫瘍数を有意に減少させ (n=8 vs n=8、unpaired t検定 p<0.001)、生存期間中央値を274日に延長した (対照210日、差64日; log-rank検定) (Fig. 4c-d)。N1ICDもSCLC細胞株KP1で増殖を有意に抑制し (paired t検定 p<0.05; n=9/群)、Hes1/Hey1/Hey2などのNotch標的遺伝子を誘導し、神経内分泌マーカー (CHGA・GRP・ASCL1) の発現を抑制した (Fig. 4e-f)。不活化変異が細胞外ドメインに集中していることがこの腫瘍抑制機能と対応する (Fig. 4b)。SCLCでNOTCHが組織型特異的腫瘍抑制因子として機能することを機能的に初めて実証した。
クローン進化の特異性とその他の再発性異常:クローン進化の観点から、SCLCはLUADと比べてサブクローン多様性が約3倍低く (p=0.00023、Mann-Whitney U検定; n=55 samples 解析可能)、独特の均一なクローン構造を持つことが示された。McFadden et al. Cell 2014のマウスSCLC研究との比較で、CREBBP・EP300 (CBP/p300ヒストンアセチル化酵素) の有意な変異クラスタリングと再発性不活化転座をWGSで大規模に確認した。RBL1・RBL2 (RB1関連タンパク) も不活化転座・変異を示し、TP53/RB1経路の多重破壊が確認された。BRAF・KIT・PIK3CA変異が n=4例に同定され、個別症例への標的療法の可能性が示唆された。独立検証コホート (n=112例: WES 28例+細胞株9例+ターゲットシーケンシング75例) でも主要変異の再現性が確認された (Fig. 5)。
考察/結論
先行するエクソームシーケンシング研究 (Peifer et al. 2012、Rudin et al. 2012) と異なり、本研究はWGSで2例のクロモスリプシス型CCND1増幅という全く新規の発がん経路を発見し、TP73再編成 (7%) とNOTCHの腫瘍抑制機能という先行研究では記述されていなかった発がんドライバーを初めて機能的に実証した。特に、NOTCHがImielinski et al. Cell 2012において活性化シグナルとして機能するのとは対照的に、SCLCでは腫瘍抑制因子として機能するという組織型特異的な役割の逆転は、NSCLC/SCLC間の腫瘍生物学の根本的差異を示す。
本研究で初めて示されたことは3点ある。第一に、TP73の精密な再編成による癌遺伝子型 Delta-ex2/3変異体生成という発がん機序の実証 (n=8例、7%)。第二に、SCLCにおけるNOTCHの腫瘍抑制機能を動物モデルで直接証明したこと (N2ICD導入で生存中央値64日延長、p<0.001)。第三に、全ゲノム規模でのサブクローン解析によりSCLCのクローン構造がLUADと根本的に異なる (サブクローン多様性約3分の1、p=0.00023) ことの定量的実証である。
本研究の臨床的意義として、NOTCHシグナル活性化戦略、BRAF/KIT変異陽性個別症例 (n=4例) への標的薬、CREBBP/EP300変異 (CBP/p300経路) を標的としたHDAC阻害薬・BET阻害薬の適応探索が将来的な治療開発の方向性として示唆される。クロモスリプシス由来のCCND1過剰発現腫瘍ではCDK4/6阻害薬の有効性検討も臨床応用の候補となる。
残された課題として、SCLCの均一なクローン構造と急速な治療耐性の関係の解明 (表現型スイッチング vs 急速クローン選択)、Notch活性化治療仮説の臨床展開、p73 Delta-ex2/3を標的とした戦略の開発、および本研究が示したSCLC-Aなどの分子サブタイプ特異的な治療開発が挙げられる。本研究はその後のSCLC精密医療研究 (SCLC-A/N/P/Y分子サブタイプ確立) の基盤となった重要なランドマーク研究である。
方法
152検体の新鮮凍結SCLC検体 (stage I-IV、原発性n=148・転移性n=4) を収集し、DNA品質・量の基準を満たした110例にマッチドWGSを実施した (腫瘍細胞純度の中央値84%; Affymetrix 6.0 SNPアレイで確認; BWAアライナーでhg19に整列)。全110例に対しAffymetrix SNP 6.0アレイによるコピー数解析も実施 (追加39例を合わせ計142例)。71例+追加10例でトランスクリプトームシーケンシングを実施した。主な解析手法: (1) MutSig2CVに相当するアルゴリズムによる有意変異遺伝子解析 (q<0.05)、(2) 局所変異クラスタリング (p<0.05)、(3) 機能損傷変異の濃縮解析、(4) マウスSCLC腫瘍との比較、(5) 治療標的候補遺伝子のスクリーニングの5カテゴリフィルターを適用した。コピー数解析はCGARSメソッドを用い有意な増幅・欠失をq<0.05で同定した (上位四分位0.25/0.15/0.1/0.05)。サブクローナリティスコアを開発し、任意の点変異がサブクローン性である確率として定義; 55例で解析可能であり肺腺癌との比較をMann-Whitney Uテストで実施した (p=0.00023)。Trp53/Rb1/Rbl2三重KO (TKO) マウスモデル (C57BL/6 と 129 系統マウスの混合遺伝的背景) へのN2ICD (Notch2細胞内ドメイン) の条件付き発現実験: TKO (n=8) とTKO;N2ICD (n=8) 間の腫瘍数を two-tailed unpaired Student’s t検定で評価し、生存期間をlog-rank検定 (TKO n=7 vs TKO;N2ICD n=8) で解析した。N1ICD細胞増殖実験は独立した3回の生物学的反復×3技術反復 (n=9) で two-tailed paired Student’s t検定を使用した。変異の独立コホート (n=112例: WES 28例+細胞株9例+ターゲットシーケンシング75例) での検証も実施した。