• 著者: Ulrik Lassen, Kell Østerlind, Mikael Hansen, Per Dombernowsky, Bengt Bergman, Heine H. Hansen
  • Corresponding author: Ulrik Lassen (Finsen Centre, Copenhagen University Hospital, Denmark)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 1995
  • Epub日: 1995-05-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 7738624

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は、その高い化学療法感受性にもかかわらず、大部分の患者が診断後数年以内に再発・進行により死亡する極めて予後不良な疾患として知られている。1970年代から1980年代にかけて、CAV (cyclophosphamide-doxorubicin-vincristine) やEP (etoposide-cisplatin) などの多剤併用化学療法の導入により、奏効率は80%以上に達し、中央生存期間も未治療の2-3ヶ月から8-16ヶ月へと大幅に改善された。しかし、5年生存率は依然として4%程度と極めて低く、多くの癌種で「治癒」のベンチマークとされる5年生存を達成する患者はごく少数であった (Hansen HH. Lancet 1992, Seifter EJ, Ihde DC. Semin Oncol 1988)。この少数派である「長期生存者 (long-term survivor)」の存在は認識されていたものの、その臨床的特徴、長期的な予後因子、治療後の晩期合併症(特に晩期再発や二次悪性腫瘍)の発生頻度、および死因に関する大規模かつ詳細なデータは当時、不足していた。

SCLCの治療成績向上には、長期生存者の特性を理解し、彼らが直面する特有のリスクを明らかにすることが不可欠であると考えられた。特に、5年生存を達成した患者がその後も継続的な死亡リスクに曝されるのか、あるいは「治癒」と見なせるプラトーに達するのかは未解明な点であった。デンマークでは、1970年代からSCLCの診断と治療が比較的統一されたプロトコルに基づいて行われており、Finsen Centreを中心に連続症例のプロスペクティブなレジストリが維持されていた。これにより、大規模な患者コホートを用いた長期的な自然史の解析が可能であった。

先行研究では、SCLC患者の18ヶ月時点での無病生存に関連する予後因子が解析されており、進展期、男性、低尿酸血症などが陰性予後因子として報告されていた (Osterlind et al. Cancer Res 1986, Osterlind et al. J Clin Oncol 1986)。また、パフォーマンスステータス (PS)、乳酸脱水素酵素 (LDH) およびアルカリホスファターゼ (ALP) 値、低ナトリウム血症なども重要な予後因子として挙げられていた (Johnson et al. Am J Med 1988, Cerny et al. Int J Cancer 1987, Spiegelman et al. J Clin Oncol 1989)。しかし、これらの研究は主に短期・中期的な生存に焦点を当てており、5年を超える長期生存者の詳細な特性や、晩期再発、二次悪性腫瘍の発生率、およびそれらが長期生存に与える影響については知識ギャップが残されていた。本研究は、この大規模コホートデータを用いて、SCLCの長期自然史と長期生存者の特性を体系的に明らかにすることを目的とした。

目的

本研究の目的は、1973年から1991年にかけて治療されたSCLC連続症例1,714例を対象とした大規模な後ろ向き解析を通じて、以下の点を明らかにすることである。

  1. SCLC患者全体の5年および10年全生存率を算出し、病期(限局期 [LD] および進展期 [ED])別の生存率を比較すること。
  2. 5年以上生存を達成した長期生存者 (long-term survivors) の臨床的・治療的特性を詳細に記述し、長期予後に関連する因子を特定すること。特に、診断時の年齢、性別、パフォーマンスステータス、病期、生化学的マーカー、および治療内容(化学療法レジメン、胸部放射線照射、予防的全脳照射 [PCI] の有無、外科的切除の有無)が長期生存に与える影響を評価する。
  3. 5年生存者における治療後の晩期合併症、特にSCLCの晩期再発 (late relapse) および二次悪性腫瘍 (secondary malignancy) の発生頻度、発症までの期間、およびその種類を明らかにすること。
  4. 長期生存者の主要な死因を特定し、SCLC再発、二次悪性腫瘍、および非癌関連死因の相対的な寄与を評価すること。
  5. 長期生存者の追跡期間における生存曲線(特に5年以降の条件付き生存率)を解析し、SCLCが「治癒」に至る疾患であるか、あるいは継続的な死亡リスクが存在するのかを検討すること。
  6. これらの知見に基づき、SCLC長期生存者に対する適切なフォローアップ戦略とサバイバーシップケアの必要性を提言すること。

結果

全体の長期生存率: 1,714例のSCLC患者全体における5年全生存率 (5y OS) は3.5% (n=60) と極めて低く、10年全生存率 (10y OS) はさらに低い1.8% (n=31) であった。病期別にみると、限局期 (LD) 症例 (n=828) での5y OSは4.8% (n=40)、進展期 (ED) 症例 (n=886) では2.3% (n=20) であった。これは、LD患者でも約20人に1人、ED患者では約40人に1人しか5年生存できないというSCLCの厳しい予後を定量的に示している。10年生存率も同様に、LDで2.5% (n=11/443)、EDで1.2% (n=5/431) であった。

長期生存者の臨床特性と予後因子: 5年以上生存した長期生存者 (n=60) の診断時特徴を解析した (Table 1)。性別では男性38例 (3.2%)、女性22例 (4.3%) と女性でやや高い傾向が見られたが、統計的有意差は認められなかった (p=0.33)。年齢では60歳以下30例 (3.8%)、60歳超30例 (3.3%) で有意差はなかった (p=0.65)。パフォーマンスステータス (PS) は、PS < 2の患者で5年生存率が4.0% (n=54) であったのに対し、PS > 2の患者では1.6% (n=5) と有意に低かった (p<0.05)。病期では、LD患者の5年生存率4.8% (n=40) がED患者の2.3% (n=20) よりも有意に高かった (p=0.006)。生化学的マーカーでは、LDH < 450 U/Lの患者で5.5% (n=38)、LDH > 450 U/Lで2.2% (n=21) と、LDH高値が有意な陰性予後因子であった (p<0.001)。ALPも同様に、ALP < 275 U/Lで4.5% (n=45)、ALP > 275 U/Lで2.2% (n=15) と、高値が陰性予後因子であった (p=0.02)。治療面では、化学療法前に外科的切除を受けた患者 (n=86) の5年生存率は18.6% (n=16) と、手術を受けなかった患者 (n=1,628) の2.7% (n=44) と比較して極めて有意に高かった (p<0.0001)。しかし、胸部放射線照射 (TI) や予防的全脳照射 (PCI) の有無は、単変量解析では5年生存率に有意な影響を与えなかった (TI: 3.2% vs 3.6%, PCI: 3.8% vs 3.5%)。多変量ロジスティック回帰分析 (Table 6) では、骨髄転移が独立した陰性予後因子であることが示された (HR 1.88 for both stages, p<0.05)。限局期ではLDH高値が陰性予後因子であり、性別が女性で生存率が高い傾向が認められた (HR 0.65, p=0.06-0.07)。

進展期長期生存者の転移パターン: 進展期SCLCで5年生存を達成した20例の転移パターンを解析した (Table 2)。診断時に肝転移陽性であった患者の5年生存率は1.2% (n=4) であったのに対し、陰性患者では3.5% (n=12) であった。骨髄転移陽性患者の5年生存率は0.8% (n=3) であったのに対し、陰性患者では3.3% (n=17) であった。脳転移陽性患者の5年生存率は2.8% (n=3) であったのに対し、陰性患者では2.2% (n=17) であった。これらの転移部位は、単変量解析では有意な差を示さなかったが、多変量ロジスティック回帰分析では骨髄転移が独立した陰性予後因子であることが示された (Table 6)。

晩期再発 (late relapse) の頻度と特徴: 5年以上生存した長期生存者60例中、9例 (15.0%) にSCLCの晩期再発が認められた (Table 4)。再発までの期間中央値は治療開始から77ヶ月 (範囲: 25〜131ヶ月) であった。再発部位は肺、脳、肝臓、骨、リンパ節など多岐にわたり、多くが再発により死亡した。最も遅い再発は治療開始から131ヶ月後に発生しており、SCLCが5年生存後も再発リスクが継続することを示している。

二次悪性腫瘍の発生と種類: 5年以上生存した長期生存者60例中、12例 (20.0%) に二次悪性腫瘍が発生した (Table 5)。二次悪性腫瘍の発症までの期間中央値は治療開始から90ヶ月 (範囲: 20〜131ヶ月) であった。最も多かったのは非小細胞肺癌 (NSCLC) で、特に扁平上皮癌が複数例認められた。その他、非ホジキンリンパ腫、子宮頸癌、前立腺癌、胆管癌、乳癌、皮膚基底細胞癌などが報告された。これらの二次悪性腫瘍の多くは喫煙関連癌であった。二次悪性腫瘍は、晩期再発よりも高頻度で発生し、長期生存者の主要な死亡原因の一つであった。

長期生存者の死因分布と生存曲線: 長期生存者の死因として、SCLC再発が26.5% (n=9)、二次悪性腫瘍が35.2% (n=12) を占め、これらが主要な死亡原因であった。残りの患者は非癌関連死因(心血管疾患、呼吸器疾患など)または追跡不能であった。26例の患者は、治療開始から5年から18年 (中央値9.5年) 経過した時点でも疾患なく生存していた (Fig 1)。Kaplan-Meier曲線 (Fig 1) は、5年生存達成後も生存曲線がプラトーに達せず、10年、18年と継続的な死亡が記録されたことを示している。

就労状況と神経毒性: 51例の長期生存者における就労状況を評価した (Table 3)。診断時には56.9%が就労していたが、治療終了18ヶ月後には33.3%に減少し、5年時点では23.5%にまで低下した。これは、疾患および治療による影響、加齢などが複合的に作用した結果と考えられた。末梢性知覚異常は、治療終了18ヶ月後には40.9% (n=18/44) の患者に認められたが、5年時点では22.7% (n=10) に減少していた。これは主にビンクリスチンによるものと関連付けられた。

考察/結論

本研究は、1973年から1991年にかけて治療された1,714例のSCLC患者という、当時としては極めて大規模なコホートを用いた長期生存解析であり、SCLCの自然史と長期予後を体系的に記述した古典的論文である。5年全生存率3.5%、10年全生存率1.8%という数値は、SCLC治療の厳しい現実を定量的に示し、その後のあらゆる臨床試験やメタ解析におけるベンチマーク値として広く引用されている。限局期 (LD) 症例での5年生存率4.8%、進展期 (ED) 症例での2.3%という結果は、病期別の予後差を明確化し、LDに対する集学的治療(化学放射線同時併用療法や予防的全脳照射 [PCI])の重要性を裏付けるエビデンスともなった。

先行研究との違い: 多くの個別の臨床試験では、LD症例で5年生存率が10-20%程度と報告されることがある。しかし、本研究は選択バイアスのない連続症例を解析したものであり、それらの報告よりも大幅に低い生存率が得られた。この結果は、臨床試験の対象患者が比較的予後良好な症例に偏りがちであることと、実臨床におけるアウトカムとの間に対照的なギャップが存在することを示唆している。また、本研究では胸部放射線照射やPCIが単変量解析で生存に有意な影響を与えなかったが、これは患者数が比較的少なかったためであり、Pignon et al. NEnglJMed 1992Warde et al. JClinOncol 1992による大規模なメタ解析では、胸部放射線照射が2年および3年生存率を約5%改善することが示されている。

新規性: 本研究で初めて、SCLCの5年生存者においても、その後の追跡期間中にSCLCの晩期再発が15.0%に、二次悪性腫瘍が20.0%という高頻度で発生し、これらが長期生存における主要な死亡原因となることを明確に示した。特に、二次悪性腫瘍の多くが非小細胞肺癌やその他の喫煙関連癌であったことは、SCLC患者の多くが重度の喫煙歴を有することに加え、初回治療で投与された化学放射線療法の発癌性も寄与した可能性を示唆しており、これまで報告されていない長期的なリスクを浮き彫りにした。また、5年生存達成後も生存曲線がプラトーに達せず、10年、18年と継続的な死亡が記録されたことは、SCLCが「治癒」に至る疾患ではなく、生涯にわたる継続的な死亡リスクが存在するという新規な知見を提供した。

臨床応用: 本知見は、SCLCの長期生存者に対する生涯にわたる積極的なフォローアップとサバイバーシップケアの必要性を強調する点で、極めて重要な臨床的意義を持つ。特に、晩期再発の早期発見のための定期的な画像検査、二次悪性腫瘍(特に肺癌)のサーベイランス(低線量CT肺癌検診など)、および禁煙支援は必須である。また、化学放射線療法の晩期毒性(心肺機能障害、二次白血病など)のリスクも考慮し、多診療科連携による包括的なケアが求められる。本研究の結果は、SCLCの治療が成功しても、患者の健康管理が継続的に必要であることを臨床現場に強く示唆している。

残された課題: 今後の検討課題として、分子・免疫学的な観点から長期生存者の特性をさらに詳細に解析することが挙げられる。例えば、腫瘍の遺伝子変異プロファイル、宿主の免疫プロファイル、微小残存病変 (MRD) の動態などが長期生存にどのように寄与しているのかを明らかにすることは、個別化医療の発展に繋がる。また、免疫チェックポイント阻害剤が導入された現代の治療環境において、SCLCの長期生存率がどのように変化しているのか、晩期再発や二次悪性腫瘍のパターンに変化があるのかを再評価する必要がある。SCLC生存者における効果的な二次癌予防戦略の構築、特に禁煙支援プログラムの強化や、高リスク患者に対する二次癌スクリーニングの最適化も今後の研究課題である。本論文はSCLCの「治癒の壁」を数値として明示し、以降30年間の研究・診療における基盤データとなり続けている。

方法

本研究は、デンマークのFinsen Institute (Rigshospitalet)、Bispebjerg Hospital、Herlev University Hospital、およびスウェーデンのRenströmska Hospitalの計4施設で1973年から1991年にかけて実施された9つの連続した臨床試験に登録されたSCLC患者1,714例を対象とした、後ろ向きコホート研究である。本研究は、特定の臨床試験プロトコル(例: NCT番号は当時未導入)のデータに基づいているが、患者は連続的に登録された。対象患者はすべて組織学的にSCLCと診断され、多剤併用化学療法(主にCAVまたはEPベースのレジメン)で治療された。

患者選択とデータ収集: 1987年1月以前に登録された患者を対象とし、最低5年間の追跡データが得られるようにした。全ての患者の医療記録をレビューし、診断時の臨床特性(年齢、性別、PS、病期 [LD/ED])、生化学的検査値(血清LDH、ALP、ナトリウムなど)、転移部位、治療内容(化学療法レジメン、胸部放射線照射の有無、PCIの有無、外科的切除の有無)、および追跡期間中のイベント(生存、SCLC再発部位、二次悪性腫瘍発症、死因)を詳細に収集した。

病期分類: 病期は、腫瘍が一側胸郭内(両側鎖骨上リンパ節および同側胸水を含む)に限定される場合をLD、それ以外をEDと定義した。診断時の病期決定には、身体診察、胸部X線、気管支鏡検査、腹腔鏡検査または超音波検査による肝生検、両側骨髄生検・吸引検査などの標準的なステージング手技が用いられた。脳転移のCTスキャンは、症状または臨床所見がある場合にのみ実施された。

治療プロトコル: 化学療法は、1985年までは18ヶ月間、最後のプロトコルでは10ヶ月間実施された。治療終了時に明らかな疾患徴候がない患者は、前述のステージング手技と生化学的検査で再評価された。完全奏効 (CR) を達成した患者は、その後5年から10年間、身体診察、胸部X線、生化学的検査で定期的にモニタリングされた。再発が疑われる場合には、気管支鏡検査などの特殊な手技が実施された。10年以降は定期的なモニタリングは行われなかった。

長期生存者の定義と評価: 5年以上生存した患者を長期生存者と定義し、その詳細な特性を解析した。治療終了時および5年時点での就労状況、神経毒性(末梢性知覚異常など)についても評価した。二次悪性腫瘍は、SCLCとは異なる組織学的特徴を持ち、原発腫瘍とは異なる部位に発生した癌と定義し、組織学的に確認されたもののみを対象とした。

統計解析: 生存曲線はKaplan-Meier法を用いて算出した。予後因子解析には、単変量解析としてχ²検定(連続性補正あり)を用い、多変量解析にはロジスティック回帰モデルを使用した。P値が0.05未満の場合を有意差ありと判断した。スウェーデン人患者 (n=187) は、一部のステージング手技が完全に行われていなかったため、ロジスティック回帰分析からは除外された。