• 著者: Federico Rea, Donatella Callegaro, Adolfo Favaretto, Monica Loy, Adriano Paccagnella, Umberto Fantoni, Giuliana Festi, Francesco Sartori
  • Corresponding author: Federico Rea (Division of Thoracic Surgery, University of Padua, Padova, Italy)
  • 雑誌: European Journal of Cardio-thoracic Surgery
  • 発行年: 1998
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 9845145

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の20〜25%を占める高悪性度腫瘍であり、急速な増殖と早期の血行性転移を特徴とする。診断後5年生存率は8%未満と極めて不良であり、限局型疾患においても長期生存を達成する患者は少ない (Lassen et al. JClinOncol 1995)。外科的切除単独では長期生存率が5%未満に留まるため、1973年の英国医学研究会議 (MRC: Medical Research Council) 比較試験で手術が放射線療法に対して有意な優越性を示せなかったことから、SCLCの初期治療として手術は長らく放棄されてきた。しかし1980年代に Shields らが TNM 病期分類に基づく手術と化学療法の併用による良好な長期成績を報告して以降、SCLC における手術の役割が再評価されるようになった。

SCLCの治療において化学療法が中心的な役割を担うことは確立されているものの、新規薬剤の導入にもかかわらず過去10年間で全生存率や治癒率に有意な改善は見られず、限局型 SCLC 患者の20%未満しか2年以上生存できていない状況が続いていた。また、Lung Cancer Study Group (LCSG) と Eastern Co-operative Oncology Group (ECOG) による唯一の無作為化試験では、化学療法完全奏効後の外科的切除追加が生存を改善しないとの結論が示された (Lad et al. Chest 1994)。しかしこのレジメンには当時新たに有効性が示されつつあったエトポシドおよびプラチナが含まれておらず、個別の TNM サブグループに対する統計学的検出力も不十分との批判が根強かった。

原発巣での局所制御不全が限局型 SCLC 患者の治癒を妨げる最大の障害であり、化学療法後の胸部放射線療法によって胸部再発リスクは最大50%低下するものの、集学的治療後でも20〜36%に局所再発が報告されていた。さらに、SCLC の腫瘍微小環境における不均一な転写制御状態 (Schaff et al. CancerRes 2021) が治療応答の個体差を規定するという生物学的背景の解明が求められており、局所制御と全身治療の最適統合に関するデータの蓄積が必要とされていた。このような背景から、SCLCにおける手術の局所制御への寄与や最適な組み合わせ方法、および長期生存に寄与する予後因子については知見が手薄であり、長期フォローアップを伴う前向きデータが不足していた。本研究は、この gap in knowledge を埋めるべく、手術・化学療法・放射線療法の集学的治療を受けた限局型 SCLC 患者の長期成績を前向きに解析した。

目的

1981年から1995年にかけてパドヴァ大学胸部外科で実施された前向きプロトコールに登録された限局型 SCLC 患者104例を対象に、集学的治療 (手術・化学療法・放射線療法) の長期生存成績を解析すること。とくに臨床病期および術後病理学的病期が長期生存に与える影響の比較、臨床的アンダーステージング (understaging) の頻度と予後への影響、導入化学療法後の病理学的完全奏効 (腫瘍消失) の予後的意義、および術後合併症と周術期安全性を明らかにすることを目的とする。

結果

患者背景と外科的術式の内訳: 104例中96例が男性、8例が女性で、年齢中央値は57歳 (範囲30〜75歳) であった。術式の内訳は肺葉切除66例 (63.5%)、肺全摘29例 (27.9%)、二葉切除8例 (7.7%)、切除不能1例。術前の組織・細胞診では62例 (59.6%) で SCLC が確定されたが、10例は非 SCLC と誤診されており、32例では術前に悪性腫瘍の確定診断が得られなかった。臨床病期はI期35例 (33.6%)、II期16例 (15.4%)、III期53例 (51.0%) であった (Table 1)。術後病理組織では純粋な SCLC が83例、SCLC と非 SCLC 混合型が8例、腫瘍消失が13例 (12.5%) であった。

術後病理学的病期とステージシフト: 術後病理学的病期はI期37例 (35.6%)、II期9例 (8.6%)、III期45例 (43.3%)、腫瘍消失13例 (12.5%) であった (Table 3)。重要な所見として、臨床病期 I-II と判定された51例のうち37% (n=19) が術後病理的に III 期へアップステージングされた。内訳は、臨床 I 期35例中12例が病理 III 期へ、臨床 II 期16例中7例が病理 III 期へ移行した。この高率の臨床的 understaging が臨床病期と長期生存の相関を希薄にする主因であると考えられた。

全生存成績と病理学的病期の予後的意義: 追跡期間中央値76ヶ月の時点で26例が生存、78例が死亡した。全体の5年生存率は32% (95% CI: 23-41%) であり、median survival time は28ヶ月であった。臨床病期別の5年生存率は I 期39.5%、II 期46.6%、III 期24.3%であり、群間に統計学的有意差は認められなかった (p=0.0748)。一方、術後病理学的病期別では I 期52.2% (95% CI: 36-68%)、II 期30%、III 期15.3% (95% CI: 5-26%) と段階的な低下を示し、群間に統計学的に有意な差が確認された (p<0.001) (Figure 1)。この結果から、臨床病期ではなく術後病理学的病期が長期生存の真の決定因子であることが示された。

サブグループ解析: 臨床的 understaging の影響: 臨床病期 I-II かつ術後病理的にも I 期と確認された27例では5年生存率62.6%という良好な成績が得られた (Table 4)。これに対し、臨床病期 I-II でありながら術後病理的に III 期へアップステージングされた19例の5年生存率は16.7%と著しく不良であり、最初から臨床病期 III かつ術後病理 III 期の26例 (5年生存率14.5%) と同程度の予後を示した (Table 4)。病理 III 期患者では、手術先行群と導入化学療法後手術群との間で生存率に有意差は認められなかった (16.7% vs 14.5%)。このデータは、臨床的 understaging によって本来は化学療法先行すべき症例が手術先行群に振り分けられている現状を示している。

導入化学療法後の病理的完全奏効群: 臨床病期 III の53例における導入化学療法に対する臨床的奏効は、完全奏効 (CR) 21例 (45.6%)、部分奏効 (PR) 25例 (54.4%) であり (7例は評価不能)、全 CR 率は45.6%であった。導入化学療法後に摘出標本で腫瘍残存が認められなかった13例 (12.5%) の5年生存率は41%と、臨床病期 III 全体 (24.3%) を大幅に上回る良好な成績を示した (Figure 1)。この病理的腫瘍消失群では臨床的 CR 率も76%と高く、化学療法による腫瘍の完全制御が長期予後改善に直結することが示唆された。

術後合併症と周術期安全性: 術後30日死亡率は2% (n=2例、いずれも心肺不全) であり、標準的な肺切除手術と同等の水準であった。術後合併症は14例 (13.4%) に発生した (Table 2)。内訳は気管支胸膜瘻9例 (手術先行群n=2、導入化学療法後手術群n=7)、心肺不全2例、膿胸1例、血胸1例、乳び胸1例であった。手術先行群の合併症率9.8% (n=5/51) に対し、導入化学療法後の二期的手術群では16.9% (n=9/53) と高率であり、特に気管支胸膜瘻の発生が導入化学療法後群に集中した。

再発パターンと局所制御効果: 全体で51例 (49%) に再発を認めた。再発部位の内訳は局所のみ16例 (15.4%)、局所と遠隔部位の同時再発9例 (8.7%)、遠隔転移のみ26例 (25%) であった。局所単独再発率15.4%は、化学療法後の高い局所再発率 (90%近傍) や、化学療法と胸部照射の併用後でも20〜36%に局所再発が見られるという先行データと比較して良好な値であり、手術による局所制御の有効性を支持した。遠隔転移が最多の再発形式 (25%) であり、全身化学療法の継続的な重要性も再確認された。

考察/結論

本研究は限局型 SCLC に対する集学的治療において、術後病理学的病期が長期生存の真の予測因子であることを、長期の前向きデータにより明確に示した。最も重要な知見は、臨床病期が長期生存と統計的有意差を示さない (p=0.0748) のに対し、術後病理学的病期は生存と強固な有意相関を示す (p<0.001) という対照であり、これは37%の症例に存在する臨床的 understaging に起因する。この観察は、これまでの研究と異なり、臨床病期と病理学的病期の系統的乖離を定量化した点において新規の貢献をなしている。同様の集学的治療を用いた Shepherd らの Toronto グループ報告や Muller らの報告と比較して全体の成績 (5年生存率32%、median survival 28ヶ月) は一致しており、既報データの再現性も確認された。

先行研究との違い: 本研究以前の多くの報告では臨床病期が主要な予後因子として提示されてきたが、本研究では臨床 I-II 期であっても病理 III 期へアップステージされた症例の予後 (5年生存率16.7%) が臨床 III 期 (14.5%) と相違なく、臨床病期が真の予後を反映していないことを明確に示した。対照的に、病理的 understaging を除いた上での解析 (臨床 I-II かつ病理 I 期の27例) では5年生存率62.6%が達成されており、正確な病期診断の下では手術を含む集学的治療の恩恵が大きい患者群が存在することが示唆された。また、局所再発率15.4%という良好な局所制御は、化学療法単独後の高い局所再発率と対照的であり、手術の局所制御への寄与を裏付けるデータを提供している。

新規性: 本研究で初めて、導入化学療法後に病理的完全奏効 (腫瘍消失) を達成した SCLC 患者群が41%の5年生存率を示すことを prospective な単施設データとして報告した。これは化学療法感受性の高い SCLC サブセットでは手術を含む集学的治療により良好な長期予後が実現できるという新規な知見であり、非小細胞肺癌 (NSCLC) における術前化学療法後の病理完全奏効と予後改善の関係と類似した原則が SCLC にも適用されうることを示唆している。また、臨床 I-II 期でも病理 III 期に understage される症例の予後が臨床 III 期と本研究で初めて系統的に示された点も novel な貢献である。後続の SCLC 化学療法開発では Kelly et al. ClinCancerRes 2001 のような新規レジメンとの組み合わせが検討されることとなる。

臨床応用: 本研究の知見は SCLC に対する集学的治療の臨床現場において、精密な術前病期診断の臨床的有用性を明確に提示している。37%の臨床的 understaging が確認されたことから、手術の候補となりうる SCLC 患者全例に縦隔鏡検査を積極的に実施する必要があると著者らは提言する。また導入化学療法後の病理完全奏効が良好な長期予後と関連するという知見は、化学療法の深度を maximise する治療アプローチの臨床的意義を示唆しており、化学療法奏効度の術前評価に基づく患者選択の精緻化が bridge-to-bedside の臨床応用に繋がる可能性がある。

残された課題: 本研究の limitation として、非ランダム化デザインのため化学療法単独との直接比較ができないこと、14年の長期登録期間中に化学療法レジメンが変更され治療均一性に限界があること、縦隔鏡検査が選択例にのみ実施されており病期診断精度にばらつきがあること、二期的手術で術後合併症率が高い (16.9% vs 9.8%) こと等が挙げられる。今後の検討課題として、正確な術前病期診断手法の確立、現代の白金系化学療法との最適な組み合わせ方法の探索、および SCLC の分子的不均一性 (Schaff et al. CancerRes 2021) を考慮した患者選択基準の構築が future research として残されている。著者らは、SCLC における手術の役割が確立されるまでは化学療法を主体とした管理を継続し、手術は制御された臨床試験のなかで局所制御目的に限定して使用すべきとの結論を示した。

方法

対象: 1981年から1995年の間にパドヴァ大学胸部外科を受診し、組織学的に SCLC と確認された限局型 SCLC 患者104例 (男性96例、女性8例、年齢中央値57歳、範囲30〜75歳)。全例が少なくとも1年間の追跡を受けた。

病期診断: 完全血球算定・肝腎機能・血清電解質・血清カルシウム、胸部X線、気管支鏡検査、縦隔および肺の CT、骨・腹部の核医学検査または CT、脳 MRI または核医学検査、骨髄穿刺を全例に実施した。縦隔鏡検査は CT で縦隔リンパ節腫大を認めた選択例にのみ施行。臨床病期および術後病理学的病期の双方を国際肺癌病期分類 (International Staging System for Lung Cancer) に基づいて評価した。

治療プロトコール (Table 1):

  • 臨床病期 I-II (n=51): 外科的切除 (肺葉切除・二葉切除・肺全摘) を先行し、術後補助化学療法および放射線療法を施行
  • 臨床病期 III (n=53): 導入化学療法を先行し、その後に外科的切除および放射線療法を施行

化学療法レジメン:

  • 1981〜1988年: CAV (Cyclophosphamide 1200 mg/m²、Doxorubicin 50 mg/m²、Vincristine 1 mg/m² — day 1 静注) と DDP-VP16 (cisplatin plus etoposide: Cisplatin 60 mg/m²、Etoposide 120 mg/m² — days 1/3/5) の交互療法
  • 1988〜1995年: PEE (cisplatin, etoposide, epirubicin: Cisplatin 60 mg/m²、Etoposide 120 mg/m²、Epirubicin 50 mg/m² — day 1) の3週毎単一レジメンに変更。術前4コース、術後6コース実施。

放射線療法: 術後病理 III 期の全患者に縦隔照射40 Gy/20分割を化学療法完了後に施行。予防的全脳照射 (PCI: prophylactic cranial irradiation) は治療完了時に36例 (34.6%) に対して17 Gy/2分割で実施。

統計解析: 生存期間は診断日から死亡または最終追跡日まで。生存率は Kaplan-Meier 法で算出し、群間比較は log-rank 検定を実施した。追跡期間中央値は76ヶ月 (範囲15〜166ヶ月)。