- 著者: H Okamoto, K Watanabe, H Kunikane, A Yokoyama, S Kudoh, T Asakawa, T Shibata, H Kunitoh, T Tamura, N Saijo (on behalf of Japan Clinical Oncology Group-Lung Cancer Study Group)
- Corresponding author: H Okamoto (Yokohama Municipal Citizen’s Hospital, Kanagawa, Japan)
- 雑誌: British Journal of Cancer
- 発行年: 2007
- Epub日: 2007-06-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 17579629
背景
日本を含む先進諸国では、小細胞肺癌 (SCLC) 患者の約半数が70歳以上であり、高齢SCLC患者の割合は継続的に増加している。しかし、多くの臨床試験が高齢患者を恣意的に除外してきたため、高齢または低パフォーマンスステータス (PS) の進展型SCLC (ED-SCLC) 患者に対する標準的な化学療法レジメンは未確立であった。標準的なシスプラチン+エトポシド (EP) 療法は、腎毒性、神経毒性、消化器毒性などの副作用プロファイルから、高齢者や臓器機能が低下した患者への適用が困難な場合がある。
JCOG (Japan Clinical Oncology Group) の先行Phase II試験 (Okamoto et al. JClinOncol 1999) では、カルボプラチン+エトポシド (CE) 療法が高齢ED-SCLC患者に対して良好な忍容性と有効性を示し、全生存期間中央値 (MST) は10.1ヶ月であった。一方、分割投与シスプラチン (split-dose cisplatin) + エトポシド (SPE) 療法も、限局型SCLC (LD-SCLC) やフレイルな患者において有効性と安全性が報告されていた (Westeel et al. JClinOncol 1998)。しかし、これらのレジメンが高齢または低リスクED-SCLC患者において、どちらがより優れているか、あるいは同等であるかを直接比較する大規模な第III相試験はこれまで実施されておらず、この集団に対する標準治療を確立するための知識ギャップが残されていた。特に、カルボプラチンベースのレジメンがシスプラチンベースのレジメンと比較して、SCLCにおいて同等以上の有効性を示すかについては、非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるメタアナリシスでは同等またはわずかに劣るという報告もあり (Hotta et al. 2004)、SCLCにおける高齢者集団での検証が不足していた。また、Girling et al. (1996) の研究では、経口エトポシド単剤療法が標準多剤併用化学療法と比較して生存期間を短縮する可能性が示されており、高齢患者においても適切な併用療法の選択が重要であるという課題が示唆されていた。本研究は、この未解明な領域に焦点を当て、高齢または低リスクED-SCLC患者におけるCE療法とSPE療法の有効性および安全性を比較することを目的とした。
目的
本研究の主要目的は、高齢または低リスクの進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者を対象として、カルボプラチン+エトポシド (CE) レジメンと分割シスプラチン+エトポシド (SPE) レジメンの全生存期間 (OS) における優越性(CE優位)を検証することであった。具体的には、CEレジメン (カルボプラチン AUC 5 Day 1 + エトポシド 80 mg/m² Day 1-3) がSPEレジメン (シスプラチン 25 mg/m² Day 1-3 + エトポシド 80 mg/m² Day 1-3) に比べてハザード比 (HR) 0.67で生存期間を改善するという仮説を検証した。本試験は優越性試験 (superiority trial) として設計された。副次目的としては、両レジメンの客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、安全性プロファイル、および患者報告による緩和スコアの改善率を比較検討することであった。さらに、治療コンプライアンス、用量強度、および予後因子の探索も副次的な評価項目として設定された。
結果
患者背景: 1998年8月から2004年2月にかけて、合計220例の患者が登録・無作為化された (CE群 n=110、SPE群 n=110)。CE群の1例はプロトコル違反によりLD-SCLCと判明し、不適格とされた (Figure 1)。患者背景は両群間で良好にバランスが取れていた (Table 1)。中央値年齢は74歳 (範囲 55-86歳) であり、92%が70歳以上であった。男性が88%、PS 0-1の患者が74%を占めた。遠隔転移部位の内訳は、肝転移30%、肺転移31%、脳転移18%、骨転移25%、骨髄転移12%であった。
治療コンプライアンスと用量強度: 4コースの治療を完遂した患者の割合は、CE群63%に対しSPE群67%であった (Table 2)。治療関連死亡 (TRD) は合計4例で発生し、CE群で3例、SPE群で1例であった。これら4例は全て70歳以上、PS 1の患者であり、初回コース後の好中球減少性感染症に関連していた。用量減量はCE群で有意に高頻度 (29% vs SPE群10%、p<0.01) で観察された。コース間隔の中央値は、CE群でSPE群よりもわずかに延長する傾向がみられた (第1-2コース間隔: CE 27日 vs SPE 23日、p=0.02)。G-CSFはCE群の74%およびSPE群の77%の患者に投与され、全コースの52-56%で使用された。
奏効率: 客観的奏効率 (ORR) は両群で同一の73% (95% CI 63-81%) であった (Table 5)。完全奏効 (CR) は各群5例、部分奏効 (PR) は各群75例であった。評価不能 (NE) はCE群2例、SPE群3例であり、病勢進行 (PD) はCE群11例、SPE群16例であった。
全生存期間 (OS) および無増悪生存期間 (PFS): 全生存期間中央値 (MST) は、CE群で10.6ヶ月 (1年生存率41%)、SPE群で9.9ヶ月 (1年生存率35%) であった (Figure 2B)。両群間のOSに統計的有意差は認められなかった (HR 0.99, 95% CI 0.75-1.33, p=0.54)。PFS曲線も両群間で非常に類似しており、統計的有意差はなかった (p=0.20、片側) (Figure 2A)。サブグループ解析では、PS 0-1の患者 (n=162) におけるMSTはCE群10.9ヶ月 vs SPE群10.1ヶ月、PS 2-3の患者 (n=58) ではCE群8.3ヶ月 vs SPE群8.1ヶ月であった。また、70歳以上かつPS 0-2の患者 (n=202) ではCE群10.8ヶ月 vs SPE群10.0ヶ月であり、いずれのサブグループにおいても有意差は認められなかった (Table 6, Figure 2C)。
安全性 (主要毒性): Grade 3-4の血液毒性では、好中球減少症はCE群95% vs SPE群90% (p=0.22) と両群で高頻度であった。Grade 3-4の血小板減少症はCE群で有意に高頻度であり (56% vs SPE群16%、p<0.01)、Grade 3-4の貧血はCE群29% vs SPE群25% (p=0.54) であった (Table 3)。Grade 3-4の低ナトリウム血症 (主にSIADH (抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)) はCE群16% vs SPE群14%で発生した。Grade 3-4の感染症はCE群7% vs SPE群6% (p=0.78) であり、Grade 3-4の出血は両群ともに0%であった (CE群でGrade 2出血が1例のみ)。悪心・嘔吐・下痢などの消化器毒性は両群ともに軽微であり、Grade 3-4の発生は少数であった。その他の非血液毒性についても、両群間で有意な差は認められなかった。
緩和スコアおよび多変量解析: 緩和スコアの改善は、CE群63%に対しSPE群56%の患者で認められたが、統計的有意差はなかった (p=0.34) (Table 4)。8つの症状スコア個別の変化においても、両群間で有意差は認められなかった。多変量解析 (7変数Cox回帰) では、治療アームはOSの独立予後因子ではなかった (HR 0.99, 95% CI 0.75-1.33, p=0.99)。高LDH値が最も強い予後不良因子として特定された (HR 1.69, 95% CI 1.23-2.26, p<0.001)。アルカリホスファターゼ値 (HR 0.99, p=0.97) および年齢 (≥75歳 vs <75歳: HR 1.05, p=0.77) は独立予後因子ではなかった (Table 7)。
二次治療の状況: 130例 (59%) の患者が再発後に二次化学療法を受けた (CE群62% vs SPE群56%)。二次治療の内訳は両群間でほぼ均等であり、同一レジメン (CE群15% vs SPE群9%)、プラチナベース併用療法 (CE群44% vs SPE群40%)、イリノテカンレジメン (CE群36% vs SPE群36%) などであった。二次治療の分布が均等であったことから、交叉治療による生存への影響は最小限であったと考えられる。
考察/結論
JCOG9702試験は、高齢または低リスクの進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者を対象とした初の第III相比較試験であり、カルボプラチン+エトポシド (CE) 療法と分割シスプラチン+エトポシド (SPE) 療法を比較した。結果として、客観的奏効率 (ORR) は両群ともに73%であり、全生存期間中央値 (MST) はCE群10.6ヶ月、SPE群9.9ヶ月 (HR 0.99, 95% CI 0.75-1.33, p=0.54) であった。本試験は優越性試験として設計されたが、CE療法がSPE療法を上回る生存利益は示されなかった。
先行研究との違い: 本研究の重要な臨床的貢献は、高齢または低リスクED-SCLC患者という特殊な集団において、両レジメンが約10ヶ月という良好なMSTと73%のORRを達成した点である。これは、非高齢患者を対象とした標準化学療法 (例えば、Noda et al. NEnglJMed 2002のIP試験MST 12.8ヶ月、EP試験MST 9.4ヶ月) に匹敵する成績であり、高齢患者でも標準的な治療効果が得られる可能性を示唆する。また、Grade 3-4の好中球減少症が92%と高頻度であったにもかかわらず、重症感染症は6-7%に留まり、治療関連死亡 (TRD) は1.8% (4例) のみであったことは、G-CSFの予防的投与が推奨されたことによる忍容性の高さを示している。これは、G-CSFの予防的投与が推奨されなかった先行研究 (Girling et al. Lancet 1996) とは対照的な結果である。
新規性: 本研究で初めて、高齢または低リスクED-SCLC患者におけるCE療法とSPE療法の直接比較が行われ、両レジメンが同等の有効性を持つことが示された。CE療法はSPE療法に比べ、Grade 3-4の血小板減少症がより高頻度 (56% vs 16%、p<0.01) であり、コース間隔の延長や用量減量の頻度増加 (29% vs 10%) といった安全性上の制約があった。しかし、出血合併症の増加はなく、これらの毒性は臨床的に管理可能であった。さらに、CE療法は輸液が不要で外来投与が可能であり、シスプラチンの腎毒性や消化器毒性を回避できる点で、高齢者により適した選択肢となり得ることが新規に示唆された。多変量解析により、高LDH値がOS不良の独立予後因子として同定された点も、腫瘍量や増殖速度を反映する生物学的指標としての意義を裏付ける新規の知見である。
臨床応用: 本研究の結果は、高齢または低リスクED-SCLC患者に対する治療選択肢を広げる上で重要な臨床的意義を持つ。CE療法は、その忍容性と外来投与の利便性から、SPE療法に代わる実行可能な選択肢として臨床現場で考慮されるべきである。特に、シスプラチンによる腎機能障害や消化器症状が懸念される患者において、CE療法は有用な代替手段となり得る。JCOGメンバーの多くは、本試験結果に基づき、CE療法を今後の第III相試験のコントロールアームとして採用することを検討している。
残された課題: 本研究の設計上のlimitationも存在する。第一に、本試験は優越性試験として計画されたが、カルボプラチンがシスプラチンより優れるという仮説は文献的に十分に支持されておらず、非劣性試験として設計されるべきであった。非劣性試験であれば、約500-1000例というより大規模なサンプルサイズが必要であったと考えられる。第二に、コントロールアームのシスプラチン総用量 (25 mg/m² Day 1-3、合計75 mg/m²) は、一部の標準レジメンと比較して低用量である可能性が指摘される。第三に、PS 3かつ70歳未満の患者を含めたことで、対象集団が不均一になったというlimitationがある。しかし、実際に登録されたPS 3患者は少数であった。また、5年半という長い患者登録期間も課題として挙げられる。これは、担当医が高齢または併存疾患を持つフレイルな患者におけるTRDや毒性のリスクを懸念し、比較的状態の良い高齢患者を選択的に登録した結果、登録速度が遅くなった可能性が考えられる。今後の検討課題として、よりフレイルな高齢患者におけるCE療法の安全性と有効性を検証すること、および標準用量のシスプラチン単回投与とSPE療法を比較する無作為化試験の実施が挙げられる。
方法
本研究は、日本臨床腫瘍研究グループ (JCOG) 9702として実施された多施設共同無作為化第III相試験 (NCTなし) であり、1998年8月から2004年2月にかけて24施設から患者が登録された。本研究は、優越性試験として計画され、各群110例 (合計220例) で、片側α=0.025、検出力80%でCE群がSPE群に対しHR 0.67の生存改善を検出するよう設定された。
患者選択基準: 組織学的または細胞学的に確認された未治療のED-SCLC患者で、以下のいずれかの条件を満たすものとした。(1) 70歳以上かつECOGパフォーマンスステータス (PS) 0-2、または (2) 70歳未満かつPS 3。その他、評価可能または測定可能病変、期待生存期間2ヶ月以上、適切な臓器機能 (白血球数 ≥4000/mm³、血小板数 ≥100,000/mm³、ヘモグロビン ≥9.0 g/dl、AST/ALT ≤2.5倍、総ビリルビン ≤1.5 mg/dl、クレアチニン ≤1.5 mg/dl、24時間クレアチニンクリアランス (Ccr) ≥50 ml/min、PaO₂ ≥60 mmHg) が求められた。除外基準には、放射線療法を要する脳転移、上大静脈症候群 (SVC症候群)、活動性の重篤な併存疾患、妊娠などが含まれた。
治療プロトコル: 患者はCE群またはSPE群に1:1で無作為に割り付けられた。無作為化は、施設、PS (0-1 vs 2-3)、年齢 (≥70歳 vs <70歳) で層別化された最小化法を用いて実施された。
- CEレジメン: カルボプラチン (Calvert式により24時間Ccrを用いてAUC 5に調整) をDay 1に静脈内投与、エトポシド 80 mg/m² をDay 1-3に静脈内投与。
- SPEレジメン: シスプラチン 25 mg/m² をDay 1-3に静脈内投与、エトポシド 80 mg/m² をDay 1-3に静脈内投与。 両レジメンともに21-28日サイクルで最大4コース実施された。G-CSF (顆粒球コロニー刺激因子) の予防的投与はDay 4以降、白血球数 ≥10,000/mm³ に達するまで推奨されたが、実際の使用は担当医の裁量に委ねられた。制吐療法として5-HT₃拮抗薬とデキサメタゾンが担当医の裁量で使用された。
評価項目: 主要評価項目は全生存期間 (OS) であった。副次評価項目には、客観的奏効率 (ORR)、無増悪生存期間 (PFS)、安全性 (毒性)、および緩和スコアが含まれた。腫瘍奏効はWHO基準に従って評価され、毒性はJCOG毒性基準 (NCI-CTC ver 1に相当) に基づいて評価された (Tobinai et al. 1993)。緩和スコアは、咳、疼痛、食欲不振、息切れ、全般的健康感、悪心、下痢/便秘、睡眠の8項目 (各0-3点、合計0-24点) で構成され、患者自身が治療前および3コース後に記入した。
統計解析: 生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定され、群間比較には非層別ログランク検定 (log-rank test) が用いられた。緩和スコアの改善率はFisherの正確確率検定 (Fisher’s exact test) で比較され、各症状スコアの変化はWilcoxon順位和検定で評価された。多変量解析にはCox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) が用いられ、治療アーム、PS、年齢、性別、乳酸脱水素酵素 (LDH) 値、アルカリホスファターゼ (ALP) 値、白血球数を含む7つの臨床変数が予後因子として検討された。中間解析はO’Brien-Flemingタイプのα消費関数を用いて調整され (DeMets and Lan 1994)、103例登録後に実施された。