- 著者: Hiroaki Okamoto, Koshiro Watanabe, Yutaka Nishiwaki, Koichi Mori, Yasumasa Kurita, Ichiro Hayashi, Masaharu Masutani, Kenji Nakata, Satoshi Tsuchiya, Hiroshi Isobe, Nagahiro Saijo (Japan Clinical Oncology Group [JCOG] Lung Cancer Study Group)
- Corresponding author: Hiroaki Okamoto (Yokohama Municipal Citizen’s Hospital / National Cancer Center Hospital, Japan)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 1999
- Epub日: 1999-11-01
- Article種別: Original Article (Phase II Trial)
- PMID: 10550152
背景
高齢者(70歳以上)の小細胞肺がん(SCLC)患者は、全SCLC患者の約25%を占めると報告されており、実臨床でその数は増加傾向にある。しかし、多くの主要な臨床試験では高齢者が除外されることが多く、この集団に対するエビデンスに基づいた標準治療が未確立であった。特に、標準的なエトポシドとシスプラチン(EP)併用療法は、シスプラチンに起因する腎毒性、重度の悪心・嘔吐、聴力障害、末梢神経障害などの治療関連毒性が高く、高齢患者では骨髄予備能の低下、腎機能の低下、心機能の併存症などの影響により、治療の完遂が困難な場合が多かった。例えば、Roth et al. JClinOncol 1992やFukuoka et al. (1991) のような大規模なSCLC臨床試験では、高齢患者のデータが限定的であった。
一方、カルボプラチン(CBDCA)はシスプラチンのアナログでありながら、腎毒性が低く、悪心・嘔吐も比較的軽度であるため、高齢患者に適した薬剤として注目されていた。しかし、CBDCAは腎排泄性であり、腎機能が低下している高齢者において、従来の体表面積(BSA)に基づいた投与量設定では、過量投与による重篤な骨髄抑制や、逆に過少投与による治療効果の減弱のリスクが懸念されていた。この課題に対し、Calvert式(CBDCA dose [mg] = target AUC × [GFR + 25])を用いたAUC(血漿中濃度時間曲線下面積)ベースの投与量設定は、個々の患者の腎機能に応じた個別化投与を可能にする手法として開発された。このCalvert式は、Jodrell et al. JClinOncol 1992やSorensen et al. (1991) の研究で、卵巣がん患者におけるCBDCAのAUCが骨髄抑制の程度や奏効率と良好に相関することが示されており、より安全で有効な投与設計を提供する可能性が示唆されていた。
高齢SCLC患者に対する治療戦略としては、経口エトポシド単剤療法も検討されたが、Girling et al. Lancet 1996やSouhami et al. (1997) の無作為化比較試験では、標準的な多剤併用化学療法と比較して毒性が高く、QOLが低下し、生存期間も劣ることが示され、単剤療法は推奨されない状況であった。したがって、高齢SCLC患者において、標準的な化学療法と同等の有効性を維持しつつ、毒性を軽減できる新たな治療レジメンの開発が喫緊の課題として残されていた。特に、シスプラチンベースのレジメンで高齢患者の治療完遂が困難であるという知識ギャップが存在し、より忍容性の高い治療法の開発が不足していた。
本研究は、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)肺がん研究グループが主導し、この知識ギャップを埋めることを目的とした。AUCベースのCBDCAと標準用量のエトポシドを併用する治療法が、高齢SCLC患者においてどの程度の有効性と忍容性を示すかを前向きに評価する国内第II相試験として実施された。
目的
本第II相試験の目的は、70歳以上の未治療小細胞肺がん(SCLC)患者を対象に、AUCベースのカルボプラチン(目標AUC 5 mg・min/mL、Calvert式により算出)と標準用量の静脈内エトポシド(100 mg/m²をday 1-3に投与)を併用する化学療法の有効性および安全性を評価することである。具体的には、主要評価項目として奏効率(ORR)を、副次評価項目として全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)、および治療関連毒性プロファイル(WHO基準)を評価し、高齢SCLC患者に対する標準的代替レジメンとしての妥当性を検討することを目的とした。本研究は、高齢患者におけるシスプラチンベースのレジメンで問題となる腎毒性や消化器毒性を軽減しつつ、治療効果を維持できる可能性を探るものであった。本試験は、高齢SCLC患者に対する新たな治療選択肢を確立するための、重要なフェーズII試験として計画された。
結果
患者背景と治療実施状況: 1995年1月から1996年8月にかけて、36例の患者が本試験に登録され、全例が化学療法を受けた。患者の年齢中央値は73歳(範囲70-80歳)で、男性が32例(89%)、女性が4例(11%)であった。ECOG PSは0または1が27例(75%)、PS 2が9例(25%)であった。病期は限局型(LD)が16例(44%)、広範型(ED)が20例(56%)であった(Table 1)。24時間クレアチニンクリアランス(CrCl)の中央値は75 mL/min(範囲37-119 mL/min)であり、高齢患者における腎機能の多様性が示された。実際に投与されたカルボプラチンの用量中央値は320 mg/m²(範囲229-434 mg/m²)であった。
治療完遂率と中止理由: 治療実施状況では、22例(61%)が4サイクルを完遂し、6例(17%)が3サイクル、8例(22%)が2サイクルを完遂した。全体の78%の患者が3-4サイクルの化学療法を受けた。治療中止の主な理由は、4サイクルの完了(22例、61%)、病勢進行/不変(8例、22%)、患者の拒否(4例、11%)、毒性(1例、3%)、治療関連死(1例、3%)であった。4サイクルの治療を拒否した4例の患者には重篤な毒性は認められなかった。
奏効率: 全36例中、完全奏効(CR)が2例(6%)、部分奏効(PR)が25例(69%)であり、全体の奏効率(ORR)は75%(95%信頼区間 61%-89%)と高値であった(Table 4)。不変(NC)が8例(22%)、進行病変(PD)が1例(3%)であった。奏効期間の中央値は192日(範囲52-851+日)であった。LD患者16例中8例が化学療法後に胸部放射線療法を受け、その結果、1例のPR患者がCRに、1例のNC患者がPRに改善したため、最終的な奏効率は77.8%であった。ED患者の奏効率は75%(CR 10%、PR 65%)であった。
生存期間: 全36例の全生存期間(OS)中央値は10.8ヶ月であった。1年生存率は47.2%、2年生存率は15.4%であった(Figure 1)。病期別のOS中央値は、LD患者で11.6ヶ月、ED患者で10.1ヶ月であった(Figure 2)。ログランク検定では、病期(LD vs ED, p=0.336)および年齢(75歳未満 vs 75歳以上, p=0.977)間で生存率に有意差は認められなかった。
予後因子: 多変量解析では、高LDHレベル(HR 12.99, 95% CI 3.48-48.47, p=0.001)、PS 2(HR 6.22, 95% CI 2.15-18.02, p=0.002)、貧血(HR 5.83, 95% CI 1.32-25.77, p=0.027)、ED(HR 2.73, 95% CI 1.14-6.59, p=0.033)が不良な予後と関連する重要な因子として同定された。年齢は独立した予後因子ではなかった。
血液毒性: 毒性評価は34例で実施された(2例はプロトコル違反のため除外)。Grade 3の白血球減少症が56%、Grade 4が3%で発生した。Grade 3の好中球減少症が47%、Grade 4が44%で発生し、合計91%の患者でGrade 3/4の好中球減少症が認められた(Table 2)。Grade 3の血小板減少症が41%、Grade 4が12%で発生した。Grade 3/4の貧血は認められなかった。
非血液毒性および感染症: 悪心・嘔吐はGrade 3以上が0%と極めて軽度であった(Table 2)。下痢、口内炎、腎毒性(クレアチニン上昇)、聴力障害、末梢神経障害はほとんど認められなかった。Grade 4の低ナトリウム血症が3例で発生したが、全て適切な支持療法により回復した。脱毛はGrade 2以上が70%程度であった。Grade 4の感染症は1例のみで、抗生物質投与により容易に回復した。発熱性好中球減少症の発生率は19%であった。
治療関連死亡と用量調整: 治療関連死亡は1例(3%)で、第2サイクル中にGrade 3の血小板減少症に伴う喀血が原因であった。各化学療法コースの中央間隔は28日であった(Table 3)。8%から15%の患者が前回の化学療法による血液毒性のため用量減量を受けた。用量減量の主な原因はGrade 4の好中球減少症であった。年齢(75歳未満 vs 75歳以上)と主要な毒性(白血球減少症、好中球減少症、貧血、血小板減少症、消化器毒性、腎毒性、肝毒性、感染症)の間には、χ²検定で有意差は認められなかった。
考察/結論
本JCOG第II相試験は、70歳以上の高齢SCLC患者に対し、AUCベースのカルボプラチン(Calvert式、目標AUC 5)と標準用量のエトポシド併用療法が、若年患者に対する標準EP療法と遜色ない有効性を示すことを前向きに示した重要な研究である。奏効率75%、全生存期間中央値10.8ヶ月、1年生存率47.2%という結果は、高齢者集団における治療成績として非常に有望である。特に、広範型SCLC患者のOS中央値10.1ヶ月は、他の研究者によって報告された成績と比較しても良好な結果であった。
先行研究との違い: 本研究の最大の臨床的意義は、非血液毒性、特にシスプラチンに起因する腎毒性、重度の悪心・嘔吐、末梢神経障害が著明に軽減された点にある。これは、従来のシスプラチンベースのレジメンで高齢患者にしばしば見られた重篤な非血液毒性プロファイルと対照的である。これにより、高齢患者のQOLを損なうことなく、治療完遂率を維持できたと考えられる。Grade 3/4の好中球減少症が91%と高頻度であったものの、Grade 4の感染症は1例のみであり、全体として忍容性は許容範囲内であった。これは、AUCベースのカルボプラチン投与が、個々の腎機能に応じた適切な薬物曝露を可能にし、過度な毒性を回避しつつ、十分な抗腫瘍効果を発揮したことを示唆する。
新規性: 本研究は、高齢SCLC患者においてAUCベースのカルボプラチンと標準用量のエトポシドを併用する治療法の有効性と安全性を評価した、これまで報告されていない初の第II相試験である。AUCベースの投与設計は、体表面積ベースよりも個別最適化されるため、腎機能が大きく異なる高齢者集団において特に有利であった。また、カルボプラチン用量の中央値が320 mg/m²と、標準的な体表面積ベースの投与量(350-400 mg/m²)と比較して10-20%減量されたにもかかわらず、良好な有効性と忍容性が得られたことは新規な知見である。
臨床応用: 本研究の結果は、その後のJCOG 9702試験(Okamoto et al., JCO 2007)において、高齢SCLC患者に対する分割投与EP療法とカルボプラチン+エトポシド併用療法の比較が行われ、両群のOSが同等であることが確認されたことで、AUCベースのカルボプラチン+エトポシド併用療法が現代日本の高齢SCLC患者に対する標準治療の一つとして確立される基盤となった。このレジメンは、高齢SCLC患者の臨床現場における治療選択肢を拡大する上で重要な臨床的意義を持つ。
残された課題: 今後の検討課題としては、本研究では70歳以上の患者を対象としたが、80歳以上の超高齢患者におけるさらなる有効性・安全性データの蓄積が必要である。また、患者の併存疾患やフレイルティを考慮したGeriatric Assessment (G8, CGAなど) を用いた症例選別アルゴリズムの最適化も今後の検討課題である。さらに、近年導入された免疫チェックポイント阻害剤(ICI)との併用療法(例:アテゾリズマブ、デュルバルブ)における高齢者へのトリプル併用(カルボプラチン+エトポシド+ICI)の安全性と有効性の確認も今後の研究方向性である。IMpower133試験では広範型SCLC一般集団で有効性が示されたが、高齢者サブグループのデータは限定的である。カルボプラチンの最適ターゲットAUC設定(AUC 4 vs AUC 5)に関するさらなる検討も必要とされる。本試験は、日本発のJCOG試験として、高齢SCLC治療に国際的な影響を与えた先駆的エビデンスである。
方法
本研究は、JCOG肺がん研究グループが主導した多施設共同第II相臨床試験であり、Simonのミニマックスデザインに基づく単群試験として実施された。
患者選択基準: 対象患者は、組織学的または細胞学的にSCLCと診断され、化学療法未治療の70歳以上の患者であった。ECOGパフォーマンスステータス(PS)は0-2、期待余命は2ヶ月以上とされた。十分な臓器機能が求められ、具体的には白血球数 ≥ 4,000/μL、血小板数 ≥ 100,000/μL、ヘモグロビン値 ≥ 9.0 g/dL、総ビリルビン値 < 1.5 mg/dL、AST/ALT ≤ 2 × 正常上限値、血中尿素窒素および血清クレアチニン値が正常上限値の2倍未満、クレアチニンクリアランス(CrCl)≥ 30 mL/minが基準とされた。測定可能病変を有し、活動性の重複がんがないことも条件であった。書面によるインフォームドコンセントが全ての患者から取得された。
病期分類: 病期分類は、胸部X線、胸部および脳のCTスキャン、腹部CTまたは超音波、骨シンチグラフィーによって行われた。限局型(LD)は、片側胸腔、縦隔リンパ節、同側および/または対側の鎖骨上リンパ節に限局する疾患と定義された。広範型(ED)は、LDの定義を超える疾患とされ、胸水を有する患者もEDに分類された。
治療プロトコル: 治療は、カルボプラチンとエトポシドの併用療法で行われた。
- カルボプラチン: Calvert式(用量 [mg/body] = 目標AUC × [GFR + 25])を用いて投与量を算出した。目標AUCは5 mg・min/mLとし、GFRの代わりに24時間CrCl値を用いた。カルボプラチンはday 1に60分かけて静脈内投与された。
- エトポシド: 100 mg/m²をday 1、day 2、day 3にそれぞれ60分かけて静脈内投与された。 抗悪性腫瘍薬投与前には、デキサメタゾン(8 mg)とグラニセトロン(40 μg/kg)による制吐剤がday 1-3に静脈内投与された。治療サイクルは4週間間隔で繰り返され、最大4サイクルまで実施された。
用量調整と治療中止: 治療は、白血球数 ≥ 3,000/μL、血小板数 ≥ 75,000/μLに回復した場合に開始された。もしこれらの基準が満たされない場合、治療は回復まで延期された。前回の治療から6週間以上経過しても基準が満たされない場合、患者は試験中止とされたが、解析には含まれた。 Grade 3以上の白血球減少症/好中球減少症が発生した場合、組換え型ヒト顆粒球コロニー刺激因子(rhG-CSF)2 μg/kgが投与された。rhG-CSF投与後もGrade 4の白血球減少症/好中球減少症、またはGrade 4の血小板減少症が発生した患者には、次サイクルでエトポシドを75%に減量(75 mg/m²をday 1-3)して投与した。減量後も同様の血液毒性が観察された場合、患者は試験中止とされたが、解析には含まれた。
放射線療法: LD患者で化学療法後に部分奏効(PR)または完全奏効(CR)を達成した症例には、胸部放射線療法(TRT)が考慮された。骨転移による持続的な疼痛をコントロールするための緩和的放射線療法は、試験期間中も許可された。
評価項目: 腫瘍反応は世界保健機関(WHO)の基準に従って評価された。CRは全ての腫瘍病変の完全消失が4週間以上持続すること、PRは測定可能病変の最大径の積の合計が50%以上縮小し、新病変の出現や既存病変の進行がない状態が4週間以上持続することと定義された。進行病変(PD)は腫瘍面積が25%以上増加するか、新病変が出現すること、その他は不変(NC)とされた。奏効期間は、主要奏効の最初の記録日からPDまたは標的病変に対する次治療開始までの期間として算出された。毒性は日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の基準に従って評価された。
統計解析: 生存期間は、化学療法開始日から死亡または最終追跡評価日までの期間として、Kaplan-Meier法を用いて算出された。病期(LD vs ED)および年齢群(75歳未満 vs 75歳以上)間の生存分布の統計的差は、ログランク検定を用いて比較された。多変量解析はCox比例ハザードモデルを用いて行われ、年齢(75歳未満 vs 75歳以上)、病期(LD vs ED)、性別、PS(0-1 vs 2)、乳酸脱水素酵素(LDH)レベル(正常 vs 異常)、ヘモグロビンレベル(正常 vs 異常)の6つの変数が生存予測因子としての重要性を評価された。全てのP値は両側検定であった。毒性と年齢(75歳未満 vs 75歳以上)の関係はχ²検定を用いて解析された。