• 著者: Satoshi Igawa, Sakiko Otani, Shinichiro Ryuge, Tomoya Fukui, Yoshiro Nakahara, Yasuhiro Hiyoshi, Mikiko Ishihara, Seiichiro Kusuhara, Shinya Harada, Hisashi Mitsufuji, Masaru Kubota, Jiichiro Sasaki, Noriyuki Masuda
  • Corresponding author: Satoshi Igawa (Kitasato University School of Medicine)
  • 雑誌: Investigational New Drugs
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-06-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28631097

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は、肺癌全体の約15%を占める悪性腫瘍であり、他の肺癌と比較して化学療法に対する感受性が高いことが特徴である。しかし、初期の治療が奏功した後も、多くの患者で薬剤耐性腫瘍細胞の出現により再発を経験する。特に日本では、SCLC患者の約半数が70歳以上であり、この高齢者層に対する効果的かつ安全な治療法の開発が喫緊の課題となっている。従来の治療法として、カルボプラチンとエトポシドの併用療法が高齢SCLC患者において有効かつ毒性が低いことがOkamoto et al. JClinOncol 1999により報告されている。また、シスプラチンとエトポシドの減量または分割投与による併用療法 (SPE: split doses of cisplatin plus etoposide) も、高齢または不良パフォーマンスステータス (PS) のSCLC患者に対して安全かつ有効であることが示されてきた。Okamoto et al. BrJCancer 2007による第III相試験では、SPEレジメンがカルボプラチンとエトポシドの併用療法に代わる選択肢となり得ることが示され、これらのレジメンが高齢日本人SCLC患者の標準治療として確立されている。しかし、高齢SCLC患者の割合は増加の一途をたどっており、新たな治療選択肢の開拓が重要性を増している。

アムルビシン塩酸塩は、DNAトポイソメラーゼIIを阻害し、トポイソメラーゼIIを介した切断複合体を安定化させることで細胞毒性効果を発揮する合成9-アミノアントラサイクリン系薬剤である。アムルビシンは、未治療のSCLCに対して高い奏効率 (ORR 79%) と良好な中央値生存期間 (MST 11.0ヶ月) を示すことがYana et al. InvestNewDrugs 2007によって報告されており、SCLC治療の重要な薬剤として期待されている。しかし、これらの先行研究のデータは、高齢者や不良PSの患者に直接適用できるかは未解明であった。我々の以前のレトロスペクティブ研究では、高齢または不良PSの進展型SCLC (ES-SCLC) 患者に対するアムルビシン (35または40 mg/m²) の有効性を評価し、ORR 70%、無増悪生存期間 (PFS) 6.6ヶ月、OS 9.3ヶ月という結果を得ているが、これはあくまで後方視的な検討であり、前向き研究による検証が不足していた。特に、化学療法未治療の高齢者や不良PSのES-SCLC患者におけるアムルビシン単剤療法の有効性と安全性に関する前向きな評価はこれまで報告されておらず、この知識のギャップを埋めることが課題として残されていた。本研究は、この特定の患者集団におけるアムルビシンの一次治療としての役割を明確にすることを目的とした。

目的

本研究の目的は、化学療法未治療の進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者のうち、高齢者 (70歳以上) または不良パフォーマンスステータス (PS) (Eastern Cooperative Oncology Group PS > 1) の患者を対象として、アムルビシン単剤療法の有効性と安全性を前向きに評価することである。主要評価項目は客観的奏効率 (ORR) とし、副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および有害事象のプロファイルを評価した。特に、これらの患者群におけるアムルビシンの忍容性と、その後の二次治療への移行可能性に与える影響についても検討することを目的とした。本研究は、高齢または不良PSのES-SCLC患者に対する一次治療としての新たな選択肢を提供し、臨床現場における治療戦略の改善に貢献することを目指した。

結果

患者特性と治療サイクル: 2011年3月から2015年8月にかけて、合計36名の患者が本研究に登録され、全患者が有効性および安全性の解析対象となった (Table 1)。患者の年齢中央値は74歳 (範囲51-90歳) であり、男性28名、女性8名であった。PSが2または3の患者は20名 (55.6%) を占めた。全患者に対して合計125サイクル (患者あたりの中央値は4サイクル、範囲1-6サイクル) のアムルビシン治療が実施された。5名の患者でアムルビシンの用量減量 (35 mg/m²へ) が必要となったが、これは主にグレード4好中球減少症 (n=2) または発熱性好中球減少症 (n=3) に起因するものであった。2回目の用量減量 (30 mg/m²へ) が必要となった患者はいなかった。治療中止の主な理由は病勢進行 (n=35) であり、1名の患者は治療拒否により中止した。重篤な毒性によるプロトコール治療の中止は認められなかった。

奏効率 (ORR): 独立評価委員会による腫瘍反応評価の結果、36名の患者中19名で部分奏効 (PR) が認められた。安定病変 (SD) は6名、病勢進行 (PD) は10名であった。1名の患者は早期治療中止のため評価不能であった。これにより、全体の客観的奏効率 (ORR) は52.8% (95% CI: 37-69%) であった (Table 2)。このORRは、高齢または不良PSのES-SCLC患者に対する一次治療として有望な結果を示している。36名の患者のうち22名 (61%) が二次治療としてプラチナ製剤ベースの化学療法 (カルボプラチン+エトポシド19名、シスプラチン+イリノテカン3名) を受けた。二次治療を受けた22名中9名で部分奏効が認められ、二次治療の奏効率は40.9%であった。

生存期間: 全患者における無増悪生存期間 (PFS) の中央値は5.0ヶ月 (95% CI: 3.4-6.6ヶ月) であった (Figure 1a)。全生存期間 (OS) の中央値は9.4ヶ月 (95% CI: 5.2-13.6ヶ月) であった (Figure 1b)。中央値追跡期間は10.4ヶ月であった。二次治療としてプラチナ製剤ベースの化学療法を受けることができた22名の患者におけるOS中央値は13.5ヶ月 (95% CI: 9.0-18.0ヶ月) であった。これは、二次治療への移行が可能な患者群で良好な生存期間が達成されたことを示唆する。

安全性プロファイル: グレード3以上の重篤な有害事象のプロファイルは、主に血液毒性であった (Table 3)。最も頻繁に観察されたのはグレード3または4の好中球減少症で、69.4% (n=25) の患者に発生した。内訳はグレード3が30.6% (n=11)、グレード4が38.9% (n=14) であった。次いで、白血球減少症が38.9% (グレード3が33.3%、グレード4が5.6%)、血小板減少症が16.7% (グレード3が13.9%、グレード4が2.8%) であった。発熱性好中球減少症は5名 (13.9%) の患者に発生したが、全てグレード3であり、グレード4の発熱性好中球減少症は認められなかった。非血液毒性は比較的軽度であった。グレード3の非血液毒性としては、食欲不振 (11.1%)、低ナトリウム血症 (8.3%)、高尿酸血症 (2.8%)、肺炎 (2.8%)、悪心 (2.8%)、胆嚢炎 (2.8%) が報告された。治療中止に至るような許容できない毒性や、治療関連死は本研究では発生しなかった。これらの結果は、アムルビシン単剤療法が、この脆弱な患者集団において管理可能な安全性プロファイルを持つことを示している。

パフォーマンスステータス (PS) の変化: アムルビシン単剤療法を一次治療として受けた後、二次治療としてプラチナ製剤ベースの化学療法を受けた22名の患者において、PSの変化を評価した。二次治療開始時において、22名中19名 (86%) の患者で、一次治療開始時と比較してPSが維持または改善されていた (Figure 2)。このPSの変化はWilcoxon signed-rank testにより統計学的に有意であった (p=0.027)。この結果は、アムルビシン単剤療法が患者の全身状態を良好に保ち、その後の治療継続を可能にする可能性を示唆している。特に、PSが維持または改善された患者群では、二次治療後のOS中央値が13.5ヶ月と良好な結果を示しており、PSの維持が治療成績に寄与することが強く示唆された。

考察/結論

本研究は、化学療法未治療の高齢または不良PSの進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者に対するアムルビシン単剤療法を評価した初めての前向き第II相試験である。本研究の結果、アムルビシン単剤療法は52.8%の客観的奏効率 (ORR)、中央値5.0ヶ月の無増悪生存期間 (PFS)、および中央値9.4ヶ月の全生存期間 (OS) を示した。これらの結果は、Okamoto et al. BrJCancer 2007などの先行研究で報告された、高齢または不良PSのES-SCLC患者に対するカルボプラチンとエトポシドの併用療法と同等の治療成績であり、アムルビシンがこれらの患者群にとって臨床的に有用な治療選択肢となり得ることを示唆している。

先行研究との違い: 従来のSCLC治療では、プラチナ製剤とトポイソメラーゼI阻害剤が主に用いられてきたが、アムルビシンの抗腫瘍メカニズムはこれらとは異なり、DNAトポイソメラーゼII阻害作用を持つ。このため、アムルビシンは主に既治療SCLC患者に用いられてきた経緯がある。しかし、本研究は、化学療法未治療の高齢または不良PS患者という特定の集団において、アムルビシン単剤療法が一次治療として有効であることを示した点で、これまでの報告とは異なる知見を提供する。特に、Asao et al. JpnJClinOncol 2015Onoda et al. JClinOncol 2006の既治療SCLC患者を対象とした研究では、アムルビシン40-45 mg/m²の用量で有効性が示されているが、本研究では一次治療としての40 mg/m²の用量が、高齢または不良PS患者においても許容可能な安全性プロファイルを持つことを確認した。

新規性: 本研究で初めて、アムルビシン単剤療法が、化学療法未治療の高齢または不良PSのES-SCLC患者において、PSの維持または改善に有意に寄与することを示した (p=0.027)。二次治療開始時に86%の患者でPSが維持または改善されており、これは患者がその後の治療を継続できる可能性を高めるという点で新規の重要な所見である。SCLC治療においてPSの維持は長期生存に不可欠であり、限られた治療選択肢の中で、アムルビシンがPSを良好に保ちながら効果を発揮することは、この患者集団における治療戦略において新たな視点を提供する。

臨床応用: 本研究の結果は、化学療法未治療の高齢または不良PSのES-SCLC患者に対するアムルビシン単剤療法が、標準治療と同等の有効性を示しつつ、許容可能な毒性プロファイルを持つことから、臨床現場における新たな治療選択肢となり得ることを強く示唆する。特に、血液毒性、特に好中球減少症は高頻度であったものの、適切なG-CSFサポートにより、用量減量や治療遅延の必要性が少なく、治療関連死も発生しなかったことは、これらの脆弱な患者群にとって重要な臨床的有用性を持つ。PSの維持・改善効果は、患者がその後のプラチナ製剤ベースの二次治療へ移行できる可能性を高め、全治療プロセスにおける生存期間の延長に寄与する可能性がある。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。まず、単一施設での実施であったため、患者登録が緩やかであった点である。また、高齢または不良PSの患者を対象としたにもかかわらず、患者のQOL (生活の質) に関する評価は行われなかった。今後の検討課題として、本研究で示されたアムルビシン単剤療法の有効性と安全性を、カルボプラチンとエトポシドの併用療法などの標準治療と比較する前向きな多施設共同試験が望まれる。これにより、アムルビシンの最適な位置付けを確立し、特定の患者集団における個別化された治療戦略の発展に貢献できると考えられる。

方法

本研究は、単一施設で実施された単アーム第II相臨床試験としてデザインされた。対象患者は、組織学的または細胞学的に小細胞肺癌と診断され、Union for International Cancer Control TNM分類第7版に基づくステージIIIb (切除不能かつ根治的放射線療法不適応) またはステージIVの進展型SCLC患者とした。年齢が70歳を超える、またはEastern Cooperative Oncology Group PSが2以上である化学療法未治療の患者が適格基準に含まれた。その他、RECIST ver1.0に基づく測定可能病変の存在、期待余命3ヶ月以上、良好な骨髄機能 (白血球数 ≥ 4000 /mm³、好中球数 ≥ 2000 /mm³、血小板数 ≥ 100,000/mm³、ヘモグロビン ≥ 9.5 g/dl)、適切な肝機能 (ASTおよびALTが正常上限値の2.5倍以下、総ビリルビン ≤ 1.5 mg/dl)、適切な肺機能 (PaO2 ≥ 60 Torrまたは室内気で酸素飽和度 ≥ 90%)、治療を要する異常所見のない心電図が求められた。重篤な感染症、活動性のがん、大量の胸水・腹水・心嚢水、間質性肺炎または肺線維症の既往、中枢神経症状を伴う脳転移 (ステロイド等で症状がコントロールされていれば適格)、糖尿病のコントロール不良、薬物アレルギーの既往がある患者は除外された。

治療プロトコルでは、アムルビシンを40 mg/m²の用量で3日間連続して静脈内投与し、21日ごとに繰り返すサイクルとした。治療は4〜6サイクルまで実施可能とし、担当医の裁量により5サイクル目および6サイクル目の継続を決定した。病勢進行、許容できない有害事象の発生、または患者の治療中止希望があった場合に治療を中止した。主要評価項目であるORRは、独立評価委員会によるRECIST ver1.1に基づき、完全奏効 (CR) と部分奏効 (PR) の合計として算出された。副次評価項目として、PFS、OS、および安全性プロファイルが設定された。有害事象の評価は、Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) バージョン4.0に従って行われた。アムルビシンの減量基準は、4日以上持続するグレード4好中球減少症、発熱性好中球減少症、グレード4血小板減少症、または悪心、食欲不振、体重減少、クレアチニン、低ナトリウム血症、高血糖を除くグレード3以上の非血液毒性とした。これらの有害事象が発生した場合、次サイクルからアムルビシン量を5 mg/m²減量し、さらに必要であれば30 mg/m²まで減量可能とした。G-CSF (顆粒球コロニー刺激因子) は、日本における国民健康保険の適用基準に従い、発熱性好中球減少症や重度好中球減少症に対して投与された。

統計解析は、2017年2月1日をデータカットオフ日として実施された。PFSおよびOSの評価にはKaplan-Meier法が用いられた。二次治療を受けた患者におけるPSの変化は、Wilcoxon signed-rank testを用いて解析された。統計解析にはSPSSソフトウェアバージョン23.0が使用され、p値が0.05未満を有意と判断した。本研究はヘルシンキ宣言、日本の薬事法、およびICH-GCPガイドラインに準拠して実施され、北里大学病院の倫理審査委員会によって承認された。全ての患者から文書によるインフォームドコンセントを取得した。本研究はClinicalTrials.gov (UMIN000011055) に登録されている。