- 著者: Stephen G. Spiro, Lindsay E. James, Robin M. Rudd, Carl W. Trask, Jeffrey S. Tobias, Michael Snee, David Gilligan, P. Ann Murray, M. Carmen Ruiz de Elvira, Kieran M. O’Donnell, Nicholas H. Gower, Peter G. Harper, Allan K. Hackshaw (London Lung Cancer Group)
- Corresponding author: Stephen G. Spiro (University College London Hospitals, London, UK)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2006
- Epub日: 2006-09-20
- Article種別: Original Article (Randomized Phase III + Meta-Analysis)
- PMID: 16921033
背景
限局型小細胞肺がん (LD-SCLC) の治療において、化学療法と胸部放射線療法 (TRT) の併用が標準治療として確立されている。しかし、TRTの最適なタイミング(早期開始か晩期開始か)については、長年にわたり議論が続いていた。1992年のPignon et al. NEnglJMed 1992によるメタアナリシスでは、化学療法単独と比較して化学療法とTRTの併用が生存にわずかながら有意な優位性を示すことが報告された。この結果を受け、TRTはLD-SCLC治療に不可欠な要素となった。
TRTのタイミングに関する最初の重要な報告は、Murray et al. JClinOncol 1993によるNational Cancer Institute of Canada (NCIC) 試験である。この試験では、早期TRT(化学療法2サイクル目と同時併用)が晩期TRT(最終6サイクル目と同時併用)と比較して、全生存期間 (OS) 中央値で21.2ヶ月 vs 16.0ヶ月と有意な生存優位性を示した。この結果は、早期TRTの優位性を示す強力なエビデンスとして広く受け入れられた。
しかし、NCIC試験以降に実施された複数のランダム化比較試験では、早期TRTの生存優位性を一貫して再現することはできなかった。例えば、Perry et al. (1987) の試験では早期TRTの優位性は示されず、Jeremic et al. (1997) やWork et al. (1997)、Takada et al. (JCOG 9104, 2002) の試験でも結果はまちまちであった。これらの不均一な結果の原因として、TRTのタイミング、分割照射法、併用される化学療法レジメンの多様性が指摘されていた。特に、化学療法の種類(プラチナ製剤の有無)、用量強度、完遂率がTRTの効果に影響を与える可能性が示唆されていた。
2004年にはFried et al.によるシステマティックレビューが発表され、早期TRTの意義は限定的であるとの結論が示された。このような背景から、London Lung Cancer Group (LLCG) は、NCIC試験と可能な限り同一のプロトコルを用いて、英国で早期TRTの生存優位性を再現できるかを検証する目的で本試験を計画した。本試験は、早期TRTが化学療法完遂率に与える影響、およびそれが生存アウトカムに及ぼす影響を詳細に評価することを意図していた。先行研究で示された「早期TRTの利益は化学療法を十分量完遂できる場合に限られる」という仮説を検証するため、本試験は重要な位置付けにあった。この時期、LD-SCLCの治療戦略において、TRTの最適なタイミングと化学療法との相互作用に関する知識ギャップが残されており、特に化学療法完遂率と生存の関連性は未解明な部分が多かった。本試験は、この知識の不足を補完し、より明確な臨床的指針を提供することを目指した。
目的
本研究の主要な目的は、限局型小細胞肺がん (LD-SCLC) 患者において、早期胸部放射線療法 (TRT) と晩期TRTが全生存期間 (OS) に与える影響を比較検証することである。具体的には、化学療法第1サイクルと同時併用する早期TRTと、化学療法第3サイクルと同時併用する晩期TRTのOS差異を評価する。
副次的な目的として、以下の項目を評価した。
- 無増悪生存期間 (PFS)、奏効率、局所制御率、および遠隔転移パターンにおける両群間の差異を比較すること。
- 治療関連毒性、特にGrade 3-4の非血液毒性および血液毒性の発生率を評価すること。
- 化学療法およびTRTの完遂率、ならびに化学療法の用量強度 (dose intensity) における両群間の差異を分析し、これらの治療完遂度が生存アウトカムに与える影響を検討すること。
- 既報の8つのランダム化比較試験(本試験を含む)を統合したメタアナリシスを実施し、早期TRTの生存効果が化学療法完遂率によって修飾される可能性を評価すること。このメタアナリシスを通じて、早期TRTの一般化可能性と、その効果を最大化するための条件を明らかにすることを目指した。
- 予防的全脳照射 (PCI) の実施率と、それが脳転移発生率に与える影響を評価すること。
本研究は、NCIC試験の結果を英国の多施設環境で再現できるかを検証するとともに、早期TRTの臨床的意義をより広範なエビデンスに基づいて再評価することを目的とした。特に、化学療法完遂率が早期TRTの生存利益に与える影響に焦点を当て、今後のLD-SCLC治療ガイドラインに貢献する知見を得ることを目指した。
結果
患者背景と治療完遂率: 本第III相臨床試験には1993年から1999年にかけて英国の25施設から325例の患者が登録された。早期TRT群に159例、晩期TRT群に166例が無作為に割り付けられた。両群間でベースラインの患者特性に有意な差は認められなかった (Table 1)。治療完遂率に関して、早期TRT群では69% (n=110/159) の患者が計画された6サイクルの化学療法を完遂したのに対し、晩期TRT群では80% (n=132/166) の患者が完遂した。この差は統計学的に有意であった (P=.003)。早期TRT群で化学療法完遂率が低かった主な理由として、毒性による治療中止や臨床的に治療継続が困難と判断された患者が多かったことが挙げられる (Table 3)。化学療法薬の平均投与量(dose intensity)も、エトポシドとシスプラチンにおいて早期TRT群で有意に低かった (シスプラチン: 早期TRT 70% vs 晩期TRT 79%, P=.01) (Table 4)。一方、TRTの完遂率は早期TRT群で92% (n=147/159) と、晩期TRT群の82% (n=136/166) よりも有意に高かった (P=.01)。PCIは早期TRT群の60% (n=96/159) と晩期TRT群の71% (n=118/166) に実施され、晩期TRT群で有意に高かった (P=.04)。
全生存期間 (OS) と無増悪生存期間 (PFS): 全患者の追跡期間中央値は63ヶ月であった。OS中央値は、早期TRT群で13.7ヶ月、晩期TRT群で15.1ヶ月であった (Figure 2)。ハザード比 (HR) は1.16 (95% CI 0.91-1.47, P=.23) であり、早期TRT群と晩期TRT群の間で統計学的に有意なOSの差は認められなかった。層別因子で調整した後も、HRは1.23 (95% CI 0.96-1.58) であり、結果に大きな変化はなかった。1年生存率は早期TRT群56% vs 晩期TRT群61%、2年生存率は22% vs 31%、3年生存率は16% vs 22%であった。数値的には晩期TRT群がやや良好な傾向を示したが、統計的有意差はなかった。PFS中央値は、早期TRT群で10.6ヶ月、晩期TRT群で11.3ヶ月であった (Figure 3)。HRは1.18 (95% CI 0.93-1.49, P=.17) であり、PFSにおいても両群間に有意差は認められなかった。
再発パターンと奏効率: 再発パターンを見ると、胸部での初発再発率は早期TRT群で26% (n=41/159) と、晩期TRT群の37% (n=61/166) よりも有意に低かった (P=.03)。また、脊椎再発率も早期TRT群で2% (n=4/159) と、晩期TRT群の8% (n=14/166) よりも有意に低かった (P=.02)。この結果は、早期TRTが局所制御を改善する可能性を示唆するものの、OSの改善には繋がらなかった。脳再発率については、早期TRT群24% vs 晩期TRT群17% (P=.12) で有意差は認められなかった (Table 6)。最良総合奏効率 (完全奏効 + 部分奏効) は、早期TRT群で81% (完全奏効54%、部分奏効27%)、晩期TRT群で80% (完全奏効57%、部分奏効23%) であり、両群間で有意差はなかった (Table 5)。
治療関連毒性: Grade 3-4の非血液毒性(悪心、感染、粘膜炎、心臓毒性、疼痛、食道炎など)の発生率は、早期TRT群で39% (n=62/159) と、晩期TRT群の23% (n=38/166) よりも有意に高かった (P=.001) (Table 7)。特に、Grade 3-4の食道炎は早期TRT群で12%と、晩期TRT群の5%よりも高かった。一方、Grade 3-4の血液毒性(貧血、白血球減少、血小板減少、好中球減少など)の発生率は、早期TRT群31% (n=49/159) vs 晩期TRT群30% (n=50/166) であり、両群間で有意差は認められなかった (P=.89)。治療関連死は早期TRT群で5例 (3%)、晩期TRT群で4例 (2%) であった。
メタアナリシスによる早期TRT効果の検証: 本試験を含む8つのランダム化比較試験 (総患者数1,849例) のメタアナリシスを実施した (Table 9, Figure 4)。全体としてのプールされたHRは0.96 (95% CI 0.84-1.10, P=.58) であり、早期TRTの生存優位性は認められなかった。しかし、異質性検定で統計学的有意差 (P=.002) が認められたため、サブグループ解析を行った。サブグループ解析の結果、化学療法完遂率が両群間で同等であった3つの試験(Murray et al. JClinOncol 1993、Jeremic et al. 1997、Takada et al. 2002)では、早期TRT群が有意な生存優位性を示した (プールされたHR=0.73, 95% CI 0.62-0.86, P<.001)。これらの試験では、早期TRT群の患者は平均で6.5ヶ月長く生存した。一方、早期TRT群で化学療法完遂率が有意に低かった5つの試験(本試験、Perry et al. 1987、Gregor et al. JClinOncol 1997、Work et al. 1997、Skarlos et al. 2001)では、早期TRTの生存利益は認められなかった (プールされたHR=1.07, 95% CI 0.97-1.17, P=.17)。これらの試験では、早期TRT群の患者は平均で1.2ヶ月短く生存した。このサブグループ間の相互作用は統計学的に有意であった (P=.0009)。PCIの有無、過分割照射の有無、プラチナ製剤を含む化学療法レジメンの有無といった他のサブグループ因子では、早期TRTの生存効果に明確な差は認められなかった。
考察/結論
本試験は、NCIC試験と類似したプロトコル設計を採用したにもかかわらず、限局型小細胞肺がん (LD-SCLC) における早期胸部放射線療法 (TRT) の生存上乗せ効果を再現できなかった点で重要な否定的結果を示した。OS中央値は早期TRT群13.7ヶ月 vs 晩期TRT群15.1ヶ月であり、HR=1.16 (95% CI 0.91-1.47, P=.23) で有意差は認められなかった。この結果は、NCIC試験で報告された早期TRTの優位性とは対照的である。
本研究の主要な知見は、早期TRT群で化学療法完遂率が有意に低かったこと (69% vs 80%, P=.003) である。早期TRT群では、Grade 3-4の非血液毒性、特に食道炎の発生率が有意に高く (39% vs 23%, P=.001)、これが化学療法の中止や減量に繋がり、結果として化学療法の用量強度を低下させたと考えられる。NCIC試験では早期TRT群の化学療法完遂率が83%と高かったのに対し、本試験では69%に留まったことが、両試験間で生存結果が異なった主要因であると考察される。
本試験のメタアナリシスは、早期TRTの利益が「化学療法を計画通りに、十分な用量で完遂できる場合に限り得られる」という重要な臨床的含意を導き出した。化学療法完遂率が両群で同等であった試験では、早期TRTが有意な生存優位性を示したが (HR=0.73, 95% CI 0.62-0.86)、本試験のように早期TRT群で化学療法完遂率が低下した試験では、その利益は認められなかった (HR=1.07, 95% CI 0.97-1.17)。この結果は、早期TRTの実施に際して、化学療法の用量強度を維持することの重要性を強調する。
本研究の新規性は、NCIC試験の再現を試み、その結果が異なった原因を詳細に分析した点にある。特に、化学療法完遂率の差異が生存アウトカムに与える影響をメタアナリシスを通じて明確に示したことは、これまで報告されていない重要な知見である。早期TRTが局所制御を改善する可能性 (胸部再発率の有意な低下) を示したものの、全身療法である化学療法の用量強度が低下することで、その局所制御の改善がOSの延長に繋がらなかったことは、LD-SCLC治療における全身療法と局所療法のバランスの重要性を示唆する。
臨床的意義として、LD-SCLCの治療においては、単に「早期TRTを併用する」だけでなく、「化学療法をフルコース、計画された用量で完遂すること」が生存利益を得るための前提条件であることが示された。現代のLD-SCLCの標準治療であるTurrisi試験 (NEJM 1999) に基づくエトポシド/シスプラチンと同時併用される加速過分割照射 (45 Gy b.i.d.) は、化学療法完遂を担保しつつ早期TRTの利益を最大化する形で確立されている。本研究の結果は、この標準治療の根拠をさらに強固にするものである。
残された課題として、より低毒性で化学療法完遂率を損なわない化学放射線療法レジメンの開発が挙げられる。現代の放射線治療技術(IMRT、陽子線治療など)や、より効果的な支持療法を組み合わせることで、早期TRTの利益を最大化しつつ毒性を軽減できる可能性がある。また、免疫チェックポイント阻害薬(例えばADRIATIC試験で示されたデュルバルマブ地固め療法)を併用した化学放射線療法の最適化も今後の重要な研究課題である。本研究のlimitationとしては、NCIC試験と同様に胸部CTスキャンがルーチンで実施されていなかったため、より詳細な病期診断や放射線治療計画の評価が限定的であった点が挙げられる。また、脳スキャンも全患者で実施されていなかったため、脳転移の正確な評価にも限界があった。
方法
本研究は、英国の25施設で実施された多施設共同無作為化第III相臨床試験である (NCT00002570)。
適格基準: 組織学的に小細胞肺がん (SCLC) と診断され、限局型 (LD-SCLC) と定義される患者が対象とされた。LD-SCLCは、胸郭内および同側鎖骨上窩リンパ節に限局する疾患と定義された。化学療法および放射線療法未施行、75歳未満、ECOG Performance Status (PS) 0-3、測定可能または評価可能な病変を有することが求められた。十分な骨髄機能 (白血球数 ≥ 3,000/μL、血小板数 ≥ 100,000/μL)、腎機能 (クレアチニンクリアランス > 50 mL/min)、肝機能を有することも必須であった。心筋梗塞の既往(3ヶ月以内)や、化学療法・TRTの禁忌となる医学的状態を有する患者は除外された。
病期診断と評価: 患者は身体診察、血液・生化学検査、胸部X線、肝臓超音波またはCTスキャン、脳スキャン(可能な施設のみ)、骨シンチグラフィーを受けた。NCIC試験と同様に、胸部CTスキャンは必須ではなかった。治療中は3週ごとに血液検査と胸部X線を実施し、治療完了後は毎月血液検査と胸部X線を実施した。
治療レジメン: 全ての患者は、以下の化学療法を合計6サイクル、3週ごとに交互に投与された。
- CAVレジメン: シクロホスファミド 1,000 mg/m²、ドキソルビシン 50 mg/m²、ビンクリスチン 2 mg(Day 1)
- EPレジメン: エトポシド 100 mg/m²(Day 1-3)、シスプラチン 25 mg/m²(Day 1-3) CAVとEPを交互に3回ずつ投与する計画であった (CAV→EP→CAV→EP→CAV→EP)。 化学療法薬の用量調整は、前治療前または最低値の好中球数・血小板数、血清クレアチニン値、ビリルビン値に基づいて行われた。例えば、好中球数 < 0.2 × 10⁹/L または血小板数 < 50 × 10⁹/Lの場合、用量を75%に減量した。
胸部放射線療法 (TRT): 患者は以下の2群に無作為に割り付けられた。
- 早期TRT群: EP第1サイクルと同時併用(治療開始から3週目)。早期TRT群では、TRTと化学療法の同時併用による影響を考慮し、EP第1サイクル後のCAV第2サイクルは1週間遅延された。
- 晩期TRT群: EP第3サイクルと同時併用(治療開始から15週目)。 TRTは、コバルト60またはリニアックを用いて、40 Gyを15分割で3週間かけて実施された。放射線治療は、病変の進行がないことを確認した上で、EPの第1サイクルまたは第3サイクルのDay 1に開始された。治療計画は、前化学療法時の腫瘍に基づき、原発腫瘍に2cm以上のマージンを設け、全縦隔を含むように設計された。脊髄への線量低減のため、35 Gyに制限された。
予防的全脳照射 (PCI): TRTおよび全ての化学療法完了後、CT脳スキャンで陰性かつ奏効 (CR/PR) を得た患者には、PCIが実施された。PCIは25 Gyを10分割で2週間かけて行われた。
無作為化と層別化: 患者は、施設、ECOG PS、性別、脳CTスキャン実施の有無を層別因子として、最小化法を用いて無作為に割り付けられた。
評価項目: 主要評価項目は全生存期間 (OS) であり、無作為化日から死亡日までと定義された。副次評価項目は、無増悪生存期間 (PFS)、奏効率 (WHO基準)、治療関連毒性 (WHO基準)、化学療法およびTRTの完遂率、局所制御率であった。
統計解析: OSおよびPFSのKaplan-Meier曲線はログランク検定を用いて比較された。ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) が算出された。層別因子で調整したHRも評価された。毒性はWHO基準を用いて評価された。
メタアナリシス: 1992年から2005年までに発表された、早期TRTと晩期TRTを比較した同様のランダム化比較試験8件(本試験を含む、総患者数2,305例)を対象にメタアナリシスを実施した。メタアナリシスでは、化学療法完遂率が両群で同等であった試験群と、早期TRT群で化学療法完遂率が低下した試験群の2つのサブグループに分けて解析を行った。異質性検定 (P=.002) を実施し、フォレストプロットを用いてサブグループ間の効果の違いを視覚的に評価した。