• 著者: Anna Gregor, Peter Drings, Jean Burghouts, Pieter E. Postmus, David Morgan, Tahar Sahmoud, Anne Kirkpatrick, Otilia Dalesio, Giuseppe Giaccone (EORTC Lung Cancer Cooperative Group)
  • Corresponding author: Anna Gregor (Western General Hospital, Edinburgh, UK)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 1997
  • Epub日: 1997-08-01
  • Article種別: Original Article (Phase III Randomized Trial)
  • PMID: 9256127

背景

限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) に対する化学療法と胸部放射線治療 (TRT) の併用は、1990年代において標準治療として確立されつつあった。しかし、両者の最適なスケジューリング、すなわち順序やタイミングについては、依然として未解明な課題が残されていた。理論的な治療選択肢としては、(1) 同時併用 (concurrent)、(2) 逐次併用 (sequential: 化学療法全コース終了後にTRT)、(3) 交互併用 (alternating: 化学療法サイクル間にTRTを挟み込む)、(4) split-course TRTなどが存在した。交互投与は、化学療法耐性クローンへの放射線による早期介入、腫瘍縮小後の早期TRT導入、そして同時併用よりも毒性軽減といった理論的利点が期待されていた。特に、Pignon et al. NEnglJMed 1992によるメタアナリシスでは、TRTの追加がLD-SCLC患者の生存率を約5%改善することが示され、TRTの重要性が認識されていた。

先行研究として、Arriagadaらによる小規模な非ランダム化研究では、交互投与群で良好な奏効と生存期間が報告され、交互投与の優位性が示唆されていた。しかし、この結果をより大規模な第III相試験で検証する必要性が指摘されていた。また、同時期のMurray et al. JClinOncol 1993による研究では、TRTの開始時期が治療成績に影響を与える可能性が示唆されており、最適なスケジューリングの確立は喫緊の課題であった。当時の知見では、化学療法と放射線治療の併用による骨髄抑制が大きな問題となることが多く、特に交互投与ではそのリスクが増大する可能性が懸念されていた。このため、理論的優位性が期待される交互投与が、実臨床においてその利点を維持しつつ、安全かつ効果的に実施可能であるかを検証する上で、大規模なランダム化比較試験によるエビデンスが不足していた。

EORTC (European Organization for Research and Treatment of Cancer) Lung Cancer Cooperative Groupは、CDE (cyclophosphamide-doxorubicin-etoposide) レジメンを化学療法の骨格として使用し、交互投与と逐次投与を直接比較する大規模な第III相試験を計画した。この試験の目的は、交互投与が逐次投与と比較して生存期間の優位性を示すか、またその毒性プロファイルが許容範囲内であるかを評価することであった。本試験は、先行研究で示唆された交互投与の優位性を大規模なランダム化比較試験で検証し、LD-SCLCの標準治療確立に資するエビデンスを提供することを目指した。

目的

本研究の目的は、限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) 患者において、CDE化学療法と胸部放射線治療 (TRT) の交互投与 (alternating schedule) と逐次投与 (sequential schedule) のいずれがより優れているかを、全生存期間 (OS)、無病生存期間 (PFS)、局所制御率、および毒性プロファイルの観点から比較検討することである。特に、交互投与が理論的に期待される生存期間の延長や局所制御の改善をもたらすか、またその際の血液毒性を含む有害事象の発生頻度と重症度を評価することを目的とした。本試験は、先行研究で示唆された交互投与の優位性を大規模なランダム化比較試験で検証し、LD-SCLCの標準治療確立に資するエビデンスを提供することを目指した。

結果

患者背景と治療完遂率: 総登録数349例のうち、適格患者335例がランダム化され、A群 (交互投与) に167例、S群 (逐次投与) に168例が割り付けられた。患者背景は両群間で均等であり、中央年齢は61歳、男性が66%、ECOG PS 0-1が約92%を占めた (Table 1)。化学療法5サイクルを完遂した患者の割合はS群で91%に対し、A群では81%と有意に低かった (P = .019)。放射線治療の完遂率 (計画線量の95%以上) は、A群で77% (n=117)、S群で93% (n=142) であり、S群で有意に高かった (P = .002)。治療の中止は、A群で19% (25例)、S群で6% (6例) が毒性により早期中止しており、A群で有意に高頻度であった (P = .004)。

奏効率と生存アウトカムに有意差なし: 奏効率 (ORR) は両群間で同等であり、A群で約80% (CR 40%)、S群で約80% (CR 40%) であった。全生存期間 (OS) の中央値は、A群で14ヶ月、S群で15ヶ月であり、両群間に統計学的な有意差は認められなかった (ハザード比 [HR] 0.88, 95% CI 0.7-1.11, P = .288) (Fig 4)。1年生存率はA群60% (95% CI 53%-67%)、S群64% (95% CI 57%-71%)、2年生存率はA群26% (95% CI 19%-33%)、S群23% (95% CI 16%-30%)、3年生存率はA群12% (95% CI 6%-18%)、S群15% (95% CI 9%-21%) であった (Fig 3)。無病生存期間 (PFS) の中央値も両群同等で約10-11ヶ月であり、有意差は認められなかった (Fig 2)。

血液毒性の有意な増強と治療用量強度の低下: 交互投与 (A群) では、TRTと化学療法のオーバーラップによる骨髄予備能への累積的影響から、重篤な血液毒性が有意に高頻度で発生した (Table 4)。WHO grade 3/4の好中球減少症はA群で90% (S群77%, P < .001)、WHO grade 3/4の血小板減少症はA群で33% (S群20%, P < .001) と、いずれもA群で有意に高頻度であった。Grade 4の好中球減少症はA群で72%、S群で42%に認められた (P < .001)。これらの血液毒性は、敗血症エピソードの増加 (A群53% vs S群44%, P = .098) や輸血の必要性の増加 (A群56% vs S群47%, P = .054) にもつながった。G-CSF支持療法が当時は標準導入前であったため、これらの血液毒性は治療休止や化学療法減量の主要原因となった。結果として、A群では計画されたCDEの用量強度達成率がS群に比べて有意に低下した (Table 3)。特に、サイクロホスファミド、ドキソルビシン、エトポシドのいずれにおいても、A群では計画量の95%以上を投与できた患者の割合がS群より有意に低かった (例: エトポシドでA群47% vs S群61%, P = .002) (Table 2)。

非血液毒性と局所制御: Grade 3/4の食道炎はA群で3%、S群で3%と両群で同程度であった。遅発性有害事象として、肺線維症 (RTOG grade 3/4) はA群で39%、S群で37%と両群間で差はなかった (P = .135)。しかし、食道狭窄 (RTOG grade 1-3) はS群で16%に対しA群で6%と、S群で有意に高頻度であった (P = .01)。局所再発は、全患者の約60%で胸腔内が初回再発部位であり、そのうち75%が照射野内再発であった (Table 5)。孤立性局所再発の割合はA群38% (65/170例)、S群35% (57/165例) と両群で同等であり、交互投与による局所制御の優位性は示されなかった。脳転移はA群で20%、S群で16%の患者で初回再発部位として報告された。

サブグループ解析: 病期 (純粋な限局型 vs 対側縦隔浸潤あり)、PS別、年齢別のサブグループ解析でも、交互投与の優位性を示す集団は同定されなかった。女性、良好なPS、若年といった良好予後因子を有する症例では両群とも比較的良好な生存を示したが、交互投与がこれらのサブグループで優位であるとは言えなかった。

考察/結論

本EORTC試験は、限局型小細胞肺癌 (LD-SCLC) に対するCDE化学療法と胸部放射線治療の交互投与が逐次投与を上回る生存期間の優位性を示さないことを明確にした重要な第III相試験である。中央値生存期間がA群14ヶ月、S群15ヶ月という結果は両群同等であり、交互投与による「化学療法耐性クローンへの放射線介入」という理論的利点は臨床アウトカムに反映されなかった。

先行研究との違い: 先行するArriagadaらによる小規模試験では交互投与の優位性が報告されていたが、本大規模試験ではその結果は再現されなかった。これは、交互投与が血液毒性 (grade 3/4好中球減少症 90% vs 77%, P < .001) を有意に増強し、化学療法の用量強度を低下させるという実践的欠点が浮き彫りになったためと考えられる。この結果は、同時期のMurray et al. JClinOncol 1993が早期同時併用 (Week 3) の生存優位性を示したことと対照的である。

新規性: 本研究は、交互投与が生存期間の改善をもたらさないだけでなく、むしろ治療関連毒性を増強し、結果として化学療法の用量強度を低下させるという、交互投与の臨床的限界を大規模なランダム化試験で初めて明確に示した。この知見は、当時のLD-SCLC治療戦略において、交互投与が標準治療として推奨されない立場を確立する上で極めて新規性の高いエビデンスとなった。

臨床応用: 本試験の臨床的意義は大きく、「交互投与 (alternating schedule) は実臨床で採用すべきではない」ことを明示した点にある。これにより、その後のLD-SCLC治療アルゴリズムから交互投与は除外されていった。1990年代後半からは「早期同時併用 (early concurrent chemoradiation)」がLD-SCLCの標準治療として推奨されるようになり、さらにTurrisi et al. (NEJM 1999) の試験では、過分割加速放射線治療 (hyperfractionated accelerated TRT) と同時EP化学療法の優位性が示され、現在のLD-SCLC標準治療の基盤となっている。また、CDEレジメンはドキソルビシンを含むため、同時併用放射線時の心毒性・食道毒性のリスクがあり、この点も現在のEPベース同時併用への移行の一因となった。

残された課題: 今後の検討課題としては、本試験でG-CSF支持療法が標準導入前であったため、血液学的成長因子による支持療法が毒性プロファイルを改善し、用量強度を維持できた可能性が残されている。また、放射線治療の線量や分割方法の最適化、特に局所制御率の改善に向けた研究が引き続き必要である。本試験では局所再発率が高く、放射線治療戦略のさらなる強化が求められる。現代では、化学療法骨格をEPレジメンに統一した場合の早期同時 vs 逐次の再検証 (Skarlos et al. 1994、Takada JCOG 9104 2002) がすでに実施済であり、さらに免疫チェックポイント阻害剤 (デュルバルマブ等) を加えた3者併用 (ADRIATIC試験) による治療成績向上が大きなブレイクスルーとなっている。本EORTC試験は「scheduleの工夫だけでは生存を上回れない」ことを示した歴史的エビデンスとして、LD-SCLC治療戦略の進化に重要な役割を果たした。

方法

本研究は、EORTC Lung Cancer Cooperative Groupが実施した多施設共同の第III相ランダム化比較試験 (NCT00002621に相当) である。対象患者は、組織学的に確認されたLD-SCLC、WHOパフォーマンスステータス (PS) 0-3、年齢18-75歳、十分な臓器機能を有する患者であった。T1N0M0で外科的切除に適格な患者、および巨大な縦隔病変や胸水により放射線治療計画が困難な患者は除外された。

化学療法はCDEレジメン (cyclophosphamide 1000 mg/m²、doxorubicin 45 mg/m²、etoposide 100 mg/m²をday 1-3に静脈内投与) を5サイクル、3週ごとに実施した。放射線治療は50 Gy/20分割/4週の通常分割を用いた。患者は以下の2群にランダムに割り付けられた。

  • A群 (交互投与): 化学療法Cycle 1後にTRT 20 Gy/10分割、Cycle 3後にTRT 30 Gy/15分割を実施した。化学療法と放射線治療の間に7日間の休止期間を設けた。
  • S群 (逐次投与): 化学療法5サイクル完遂後にTRT 50 Gy/20分割を一括照射した。

両群ともに、完全奏効 (CR) または部分奏効 (PR) を達成した全症例に対し、予防的全脳照射 (PCI) 30 Gy/15分割を実施した。放射線治療の計画には、治療前のシミュレーターフィルムまたはCTスキャンが必須とされ、4 MeV以上の放射線品質が義務付けられた。標的体積は2段階アプローチを採用し、Phase Iでは前化学療法病変全体と縦隔リンパ節領域を2cmマージンでカバーし、Phase IIでは病変部に限定した。脊髄線量は37.5 Gy以下に制限された。

主要評価項目は全生存期間 (OS) であり、副次評価項目は無病生存期間 (PFS)、奏効率、局所再発率、および毒性であった。毒性評価はWHO基準に基づき、治療効果判定は8週ごとに実施された。計画登録数は335例 (各群約170例) であり、標準治療 (S群) の2年生存率を15%と仮定し、A群で10%の絶対的生存差 (15%から25%へ) を検出するために、検出力80%、両側αエラー5%で326例の死亡が必要と算出された。最終的に360例の登録を目指した。ランダム化はEORTCデータセンターにより最小化法を用いて行われ、施設およびPS (0 vs 1 vs 2 vs 3) で層別化された。統計解析にはKaplan-Meier法による生存曲線推定、log-rank検定による群間比較、Cox回帰モデルによる調整解析が用いられた。解析はintention-to-treat (ITT) 方針に基づき実施された。毒性発生率の比較にはχ²検定が用いられた。