- 著者: Mark A. Socinski, Egbert F. Smit, Paul Lorigan, Kartik Konduri, Martin Reck, Aleksandra Szczesna, Jennifer Blakely, Piotr Serwatowski, Nina A. Karaseva, Tudor Ciuleanu, Jacek Jassem, Mircea Dediu, Susan Hong, Carla Visseren-Grul, Axel-R Rainer Hanauske, Coleman K. Obasaju, Susan C. Guba, Nicholas Thatcher
- Corresponding author: Mark A. Socinski (Lineberger Comprehensive Cancer Center, University of North Carolina, Chapel Hill, NC, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2009
- Epub日: 2009-10-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 19720897
背景
小細胞肺がん (SCLC: small-cell lung cancer) は進行が極めて早く、診断時すでに遠隔転移を有する進展型小細胞肺がん (ES-SCLC: extensive-stage small-cell lung cancer) が全体の6割から7割を占める。この疫学的動向については、Govindan et al. JClinOncol 2006による大規模データベース解析でも詳細に報告されている。ES-SCLCに対する初回化学療法の標準治療は、長年にわたりエトポシドとシスプラチンまたはカルボプラチンの併用療法であり、高い奏効率を示すものの、奏効期間は短く、生存期間中央値は9〜11ヶ月にとどまっていた。この予後不良な状況を打破するため、新規薬剤の導入が強く望まれていた。
ペメトレキセドは、チミジル酸シンターゼ (TS: thymidylate synthase)、ジヒドロ葉酸還元酵素 (DHFR: dihydrofolate reductase)、およびグリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ (GARFT: glycinamide ribonucleotide formyltransferase) などの複数の葉酸代謝経路酵素を標的とする多標的葉酸拮抗薬である。非小細胞肺がん (NSCLC: non-small-cell lung cancer) においては、Scagliotti et al. JClinOncol 2008やHanna et al. JClinOncol 2004の臨床試験により、非扁平上皮癌に対する優れた有効性と良好な安全性プロファイルが確立されていた。
しかしながら、SCLCにおけるペメトレキセドの有効性や、標準治療であるエトポシド併用療法に対する優位性については、これまで大規模な第III相試験による検証が行われておらず、その臨床的価値は未解明であった。特に、毒性が低く脱毛や骨髄抑制が少ないペメトレキセドをエトポシドの代替として用いるアプローチが、生存期間を損なわずに患者の生活の質 (QOL: quality of life) を改善できるかという点については、十分な検証データが不足していた。先行する第II相試験ではペメトレキセドとカルボプラチンの併用療法 (Pem-Cb: pemetrexed-carboplatin) が良好な生存期間を示したものの、これは単一アームの小規模なデータに基づいたものであり、標準治療であるエトポシドとカルボプラチンの併用療法 (E-Cb: etoposide-carboplatin) に対する非劣性を証明するには至っていなかった。このように、ES-SCLCの初回治療におけるペメトレキセド併用療法の位置づけには大きな gap が残されており、検証が急務の課題となっていた。
目的
本研究の目的は、化学療法未治療の進展型小細胞肺がん (ES-SCLC) 患者を対象に、ペメトレキセドとカルボプラチンの併用療法 (Pem-Cb群) が、標準治療であるエトポシドとカルボプラチンの併用療法 (E-Cb群) に対して、全生存期間 (OS: overall survival) において非劣性であることを検証することである。非劣性マージンはハザード比 (HR: hazard ratio) 1.176と設定され、Pem-Cb群がE-Cb群に対して生存期間を著しく悪化させないことを統計学的に証明することを目指した。また、副次的な目的として、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival)、客観的奏効率 (ORR: objective response rate)、健康関連QOL、安全性プロファイル、および腫瘍組織や血液サンプルを用いたバイオマーカーの探索的解析を行い、両レジメンの臨床的有用性を多角的に比較評価することである。
結果
中間解析における劣性検出と試験の早期中止: 2006年8月から2007年12月までに、合計908例の患者が登録され、Pem-Cb群にn=453、E-Cb群にn=455が割り付けられた (Table 1)。2007年12月に実施された事前規定の中間解析 (登録患者n=733時点) において、主要な有効性評価項目である無増悪生存期間 (PFS) に関して、Pem-Cb群のE-Cb群に対する明確な劣性が示された。中間解析におけるPFSのハザード比は HR 1.79 (90% CI 1.49-2.15) であり、信頼区間の下限が1.0を大きく上回ったため、試験の継続は無益であると判断され、独立データモニタリング委員会の勧告に基づき新規患者登録は早期中止された (Fig 1B)。最終的な解析対象は、登録中止までにランダム化された全908例の意図治療 (ITT: intent-to-treat) 集団とされた。
主要評価項目である全生存期間の有意な悪化: 最終解析において、主要評価項目である全生存期間 (OS) は、Pem-Cb群でE-Cb群に対して有意に劣っていることが示された (Fig 1A)。OS中央値は、Pem-Cb群で 8.1 months であったのに対し、E-Cb群では 10.6 months であり (8.1 vs 10.6 months)、調整ハザード比は HR 1.56 (95% CI 1.27-1.92, p<0.01) となり、非劣性マージンである1.176を大幅に超過して劣性が確定した (Table 2)。1年生存率はPem-Cb群で 26% (95% CI 20%-32%) 、E-Cb群で 40% (95% CI 33%-48%) であり、2年生存率はPem-Cb群で 5% 、E-Cb群で 14% と、長期生存割合においてもPem-Cb群で著しい低下が認められた。
無増悪生存期間および客観的奏効率の著しい低下: 副次評価項目であるPFSおよび客観的奏効率 (ORR) においても、Pem-Cb群の劣性が顕著であった。PFS中央値は、Pem-Cb群で 3.8 months であったのに対し、E-Cb群では 5.4 months であり (3.8 vs 5.4 months)、ハザード比は HR 1.85 (95% CI 1.58-2.17, p<0.01) と、病勢進行リスクが大幅に上昇した (Table 2)。また、客観的奏効率 (ORR) はPem-Cb群で 31% (95% CI 26%-36%) であったのに対し、E-Cb群では 52% (95% CI 47%-57%, p<0.001) と、腫瘍縮小効果においても 31% vs 52% と有意な差をもって劣っていた (Table 2)。完全奏効 (CR: complete response) はE-Cb群で1例 (0.3%) にのみ認められ、Pem-Cb群では0例であった。
血液毒性および非血液毒性のプロファイル比較: 安全性評価において、治療に関連するGrade 3または4の血液毒性は、全体としてPem-Cb群で軽度であった。Grade 3-4の好中球減少症の発生率は、Pem-Cb群で 11% であったのに対し、E-Cb群では 47% (11% vs 47%, p<0.001) と有意に高頻度であった (Table 3)。同様に、Grade 3-4の白血球減少症 (4.2% vs 8.3%, p=0.012) および発熱性好中球減少症 (FN: febrile neutropenia) (1.4% vs 4.5%, p=0.009) もPem-Cb群で有意に低かった。これに伴い、G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor: 顆粒球コロニー刺激因子) の投与を必要とした患者の割合も、Pem-Cb群で 9.0% vs E-Cb群で 20% (9.0% vs 20%, p<0.001) と有意に少なかった (Table 4)。一方で、Grade 3-4の貧血はPem-Cb群で 11% vs E-Cb群で 7.4% (11% vs 7.4%, p=0.049) とPem-Cb群で有意に高頻度であり、Grade 3-4の血小板減少症は両群間で同等であった (9.5% vs 10%, p=0.735)。非血液毒性では、全Gradeの脱毛症がPem-Cb群で 6.0% vs E-Cb群で 34% (6.0% vs 34%, p<0.001) とPem-Cb群で極めて低かったが、Grade 3-4の悪心はPem-Cb群で 2.5% vs E-Cb群で 0.2% (2.5% vs 0.2%, p=0.003) と有意に高かった (Table 3)。
サブグループ解析における一貫した劣性傾向: 事前に規定された臨床的背景因子に基づくOSのサブグループ解析 (年齢、性別、ECOG PS、LDH値、転移部位数、脳転移の有無) において、いずれのサブグループにおいてもPem-Cb群がE-Cb群を上回る、あるいは非劣性を示す結果は得られなかった。例えば、予後不良因子とされるECOG PS 2のサブグループ (n=109) における全生存期間の中央値は、Pem-Cb群で 5.5 months 、E-Cb群で 7.4 months であり (5.5 vs 7.4 months)、ハザード比は HR 1.61 (95% CI 1.01-2.57, p=0.04) であり、主要評価項目と同様にPem-Cb群の劣性が一貫して示された。治療開始後30日以内の死亡率は、Pem-Cb群で 19.6% 、E-Cb群で 15.2% (19.6% vs 15.2%, p=0.91) であり、このうち治療関連死と判断されたのはPem-Cb群で4例 (1.0%) 、E-Cb群で1例 (0.2%) であった。
考察/結論
本GALES試験は、進展型小細胞肺がん (ES-SCLC) の初回治療において、ペメトレキセドとカルボプラチンの併用療法 (Pem-Cb) が、標準治療であるエトポシドとカルボプラチンの併用療法 (E-Cb) に対して、生存期間および無増悪生存期間のいずれにおいても明確に劣ることを示した、極めて重要な否定的試験である。
先行研究との違い: 本研究の結果は、ペメトレキセドとプラチナ製剤の併用療法がヒストリカルコントロールと同等の良好な生存期間を示した先行の第II相試験の結果と異なり、直接比較において標準治療に対する明確な劣性を示すものとなった。この乖離が生じた要因として、先行第II相試験が単一アームの小規模試験であったため、選択バイアスが排除できていなかった可能性が極めて高い。非小細胞肺がん (NSCLC) においてペメトレキセドが示した劇的な治療効果とは対照的に、小細胞肺がん (SCLC) においてはペメトレキセドの有効性が著しく低いことが浮き彫りとなった。
新規性: 本研究は、ES-SCLC患者の大規模コホートを対象とした第III相ランダム化比較試験において、ペメトレキセド併用療法の劣性を本研究で初めて厳格に証明した。これまで、SCLCにおけるチミジル酸シンターゼ (TS) の役割やペメトレキセドの感受性に関する大規模な臨床データは存在しなかったが、本試験により、SCLCがトポイソメラーゼII阻害薬であるエトポシドに対して極めて高い感受性と依存性を有していることが再確認された。また、SCLC腫瘍組織における高いTS発現がペメトレキセド耐性に関与しているという仮説を支持する臨床的証拠を提示した点も、これまで報告されていない重要な知見である。
臨床応用: 本試験の臨床的意義は、毒性の低さやQOLの維持 (例えば、脱毛や骨髄抑制の回避) のみを優先して、有効性が確立されていないレジメンを安易に導入すべきではないという強い警告を臨床現場に与えた点にある。ペメトレキセドは非扁平上皮NSCLCにおいて標準治療として広く臨床応用されているが、腫瘍生物学的に全く異なるSCLCにおいては、その治療開発パターンを単純に適用することはできない。したがって、ES-SCLCの初回治療における標準骨格は、依然としてプラチナ製剤とエトポシドの併用療法に限定されるべきであり、その後の免疫チェックポイント阻害薬の上乗せへと繋がる治療開発の基盤を再確認する結果となった。
残された課題: 本試験における残された課題および今後の検討方向性として、SCLCにおける薬剤耐性メカズムのさらなる解明が挙げられる。本試験のlimitationとしては、オープンラベル試験であったため、毒性評価やQOL評価においてバイアスが排除しきれなかった点、および中間解析での早期中止により長期生存データの追跡が一部制限された点が挙げられる。今後の研究においては、本試験で収集された腫瘍組織および血液サンプルを用いたトランスレーショナルリサーチ (TS発現量やその他のバイオマーカーと治療効果との相関分析) を完遂し、SCLCの生物学的特性に基づいた個別化医療の可能性を模索することが不可欠である。
方法
本試験 (GALES試験: Global Analysis of Pemetrexed in SCLC Extensive Stage、ClinicalTrials.gov識別番号: NCT00366327) は、世界25カ国125施設で実施された、オープンラベル、無作為化、第III相非劣性臨床試験である。
適格基準は、組織学的または細胞学的に確認された進展型小細胞肺がん (ES-SCLC) を有し、化学療法、免疫療法、または生物学的製剤による前治療歴のない18歳以上の患者とした。また、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) バージョン1.0に基づく測定可能病変を1つ以上有し、ECOG PS (Eastern Cooperative Oncology Group performance status) が0〜2であり、適切な骨髄、肝、腎機能 (計算されたクレアチニンクリアランスが45 mL/min以上) を有することを条件とした。
登録された患者は、Pocock and Simonの最小化法を用いて、ECOG PS (0/1 vs 2)、乳酸脱水素酵素 (LDH) 値 (基準値以下 vs 基準値超)、転移部位数 (2カ所以下 vs 3カ所以上)、脳転移の既往 (有無)、年齢 (65歳以下 vs 65歳超)、性別、および実施施設を調整因子として、1:1の割合で以下の2群に無作為に割り付けられた。
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Pem-Cb群: ペメトレキセド 500 mg/m² およびカルボプラチン AUC (area under the curve: 薬物血中濃度時間曲線下面積) =5を第1日に投与し、3週間ごとに最大6サイクル繰り返す。ペメトレキセドの毒性軽減のため、葉酸 (350〜1000 μg/日) の連日経口投与とビタミンB12 (B12: vitamin B12) (1000 μg) の9週間ごとの筋肉内注射を初回投与の1〜2週間前から開始し、治療終了後3週間まで継続した。また、皮膚毒性予防のためにデキサメタゾン (4 mgを1日2回、投与前日、当日、翌日の3日間) を毎サイクル併用した。
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E-Cb群: エトポシド 100 mg/m² を第1〜3日に連日投与し、カルボプラチン AUC=5を第1日に投与し、3週間ごとに最大6サイクル繰り返す。
主要評価項目は全生存期間 (OS) であり、副次評価項目は無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、安全性、およびQOLとした。統計解析では、OSおよびPFSの比較にKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成し、層別Cox比例ハザードモデル (Cox regression) を用いてハザード比 (HR) およびその95%信頼区間 (CI) を算出した。治療群間のOSの非劣性検定は、片側有意水準0.025で行われ、HRの95%信頼区間の上限が1.176未満である場合を非劣性と定義した。また、奏効率の比較にはFisher’s exactテストおよび正規近似を用いた検定を行い、安全性データの比較には記述統計を用いた。独立データモニタリング委員会による事前規定された中間解析が、約700例の登録時点で実施される計画であった。