- 著者: Tiseo M, Boni L, Ambrosio F, Camerini A, Baldini E, Cinieri S, Brighenti M, Zanelli F, Defraia E, Chiari R, Dazzi C, Tibaldi C, Turolla GM, D’Alessandro V, Zilembo N, Trolese AR, Grossi F, Riccardi F, Ardizzoni A
- Corresponding author: Marcello Tiseo MD (Azienda Ospedaliero-Universitaria di Parma, Parma, Italy)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2017
- Epub日: 2017-01-30
- Article種別: Original Article
- PMID: 28135143
背景
進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) は、化学療法に対する初期反応性は高いものの、再発が普遍的に起こり、予後不良な疾患である。標準的な一次治療であるシスプラチンとエトポシド (EP) 併用療法では、全生存期間 (OS) 中央値が9〜10ヶ月、1年生存率が30〜40%にとどまり、1980年代初頭から30年以上にわたり治療成績の改善が乏しい状況が続いていた。このため、新たな治療戦略の開発が強く求められていた。SCLCは腫瘍血管新生が豊富であり、血管内皮増殖因子 (VEGF) を高発現していることが報告されている (Ferrara et al. NatMed 2003)。このVEGFの過剰発現は、SCLCが抗血管新生療法の理想的な標的となりうるという理論的根拠を提供している。ベバシズマブは、VEGFに対するヒト化モノクローナル抗体であり、非小細胞肺癌 (NSCLC)、大腸癌、腎癌、卵巣癌など、複数の癌腫でその有効性が確立されている。
ED-SCLCにおけるベバシズマブの有効性については、複数の第II相試験で有望な結果が示されていた。例えば、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) のE3501試験 (Horn et al. JClinOncol 2009) やSALUTE (Study of Bevacizumab in Previously Untreated Extensive-Stage Small Cell Lung Cancer) 試験では、ベバシズマブとEPまたはカルボプラチン+エトポシド (CE) の併用療法がED-SCLCに対して有望な活性を示すことが報告された。これらの先行研究の結果を受け、イタリア臨床腫瘍研究グループ (GOIRC) は、イタリア医薬品庁 (AIFA) の資金提供を受けて、ベバシズマブの一次治療としての有効性を検証する第III相試験を設計した。試験計画時、研究者らは1年生存率が対照群の40%から58%へと大幅に改善することを期待しており、これは臨床的に意義のある治療として承認されるために必要な基準として設定された。しかし、この期待値は非常に楽観的であり、実際の臨床試験でこのような大きな効果量が得られるかは未解明な部分が残されていた。ED-SCLCにおける抗血管新生療法の役割は、依然として確立されておらず、特にOSの改善に繋がるかどうかのエビデンスが不足していた。
目的
本研究の主要な目的は、未治療の進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者を対象として、標準的なシスプラチンとエトポシド (EP) 併用療法にベバシズマブを追加することが、全生存期間 (OS) を統計学的に有意に改善するかどうかを検証することであった。OSは本試験の主要評価項目であり、ITT (intent-to-treat) 解析によって評価された。
副次評価項目としては、無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、および安全性プロファイルが設定された。特に、ベバシズマブの追加がPFSやORRにどのような影響を与えるか、また、ベバシズマブに特有の有害事象の発現頻度と重症度を評価することも重要な目的であった。さらに、特定の患者サブグループにおける治療効果の均一性や、ベバシズマブ維持療法の潜在的な効果についても探索的に検討された。本試験は、ED-SCLCに対する抗血管新生療法の役割を明確にするための大規模な無作為化第III相試験として位置づけられた。
結果
患者背景と治療実施状況: 205例の患者が無作為に割り付けられ、うち204例がITT解析の対象となった (Arm A: n=103、Arm B: n=101)。患者背景は両群間でバランスが取れており、ECOG PS 0-1の患者がArm Aで89.3%、Arm Bで94.1%を占めた。男性が約68%、年齢中央値は64歳であった (Table 1)。化学療法コース中央値は両群とも6コースであり、シスプラチンはArm Aの90.3% (93例)、Arm Bの95.8% (91例) で使用された。平均相対的用量強度 (RDI) はArm Aで87.6%、Arm Bで89.2%であった。Arm Bの96例中41例 (42%) がベバシズマブ維持療法を受け、維持療法の中央値は4コース (範囲1〜12) であった。維持療法中止の主な理由は疾患進行 (n=30) と毒性 (n=10) であった。
主要評価項目である全生存期間 (OS) の結果: 中央値34.9ヶ月の追跡期間において、OS中央値はArm Aで8.9ヶ月 (95% CI 7.9〜9.8)、Arm Bで9.8ヶ月 (95% CI 8.6〜11.4) であった。ハザード比 (HR) は0.78 (95% CI 0.58〜1.06) であり、p値は0.113であった (log-rank検定)。1年生存率はArm Aで25%、Arm Bで37%であった。ベバシズマブ群でOSの改善傾向は認められたものの、統計学的に有意な差は示されず、主要評価項目は達成されなかった (Fig 2C, Table 4)。死亡イベント数はArm Aで91例 (88.3%)、Arm Bで78例 (77.2%) であった。
無増悪生存期間 (PFS) および客観的奏効率 (ORR) の結果: PFS中央値はArm Aで5.7ヶ月 (95% CI 5.0〜6.5)、Arm Bで6.7ヶ月 (95% CI 5.8〜7.3) であった。HRは0.72 (95% CI 0.54〜0.97) であり、p値は0.030であった。ベバシズマブ併用群でPFSの統計学的に有意な改善が認められた (Fig 2A, Table 4)。客観的奏効率 (ORR) はArm Aで55.3% (95% CI 45.2〜65.0%)、Arm Bで58.4% (95% CI 48.2〜68.0%) であり、オッズ比 (OR) は1.13 (95% CI 0.65〜1.97) で、p値は0.657であり、有意差は認められなかった (Table 4)。予防的全脳照射 (PCI) はArm Aで17例 (16.5%)、Arm Bで11例 (11.6%) に施行された。PCIの施行は生存と相関しており、治療群で調整後のHRは0.53 (95% CI 0.29〜0.98, p=0.034) であった。
維持療法の探索的解析: ベバシズマブ維持療法を受けた患者では、OSの有意な改善が認められた (time-dependent covariate解析: HR 0.60, 95% CI 0.40〜0.91, p=0.011)。同様に、ランドマーク解析 (n=78) においてもOSのHRは0.71 (95% CI 0.43〜1.18) であった。PFSに対する維持療法の効果は境界域であった (HR 0.72, 95% CI 0.48〜1.07, p=0.095)。これらの結果は、性別、年齢、ECOG PSで調整後も同様であった。
性別による交互作用のサブグループ解析: サブグループ解析において、OS改善に関して治療と性別の間に統計学的に有意な交互作用が認められた (交互作用検定 p=0.003)。男性患者ではベバシズマブ併用群でOSの有意な改善が示された (HR 0.55) のに対し、女性患者ではベバシズマブ併用がOSに不利な影響を与える可能性が示唆された (HR 1.55) (Fig 2D)。この結果は、ベバシズマブの治療効果が性別によって異なる可能性を示唆するものであった。
安全性プロファイル: Grade 3〜5の有害事象は、Arm Aで64例 (62.1%)、Arm Bで52例 (54.7%) に報告され、統計学的な有意差はなかった (p=0.291) (Table 3)。最も頻度の高いGrade 3/4の有害事象は好中球減少 (Arm A 45.6% vs Arm B 46.3%)、疲労 (14.6% vs 8.4%)、白血球減少 (13.6% vs 14.7%) であった。ベバシズマブに特有の毒性として、高血圧のGrade 3/4がArm Aで1.0%に対しArm Bで6.3%と、ベバシズマブ群でより多く報告された (p=0.057)。Grade 3/4の蛋白尿や出血は両群ともに報告されなかった。治療中止に至った有害事象の割合は、Arm Aで6.8%、Arm Bで14.7%であった。
考察/結論
GOIRC-AIFA FARM6PMFJM試験は、進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) に対するベバシズマブとシスプラチン+エトポシド (EP) 併用一次治療の有効性を検討した初の無作為化第III相試験である。本試験の主要評価項目である全生存期間 (OS) の改善は達成されなかった (HR 0.78, 95% CI 0.58〜1.06, p=0.113)。しかし、無増悪生存期間 (PFS) はベバシズマブ併用群で統計学的に有意に改善した (HR 0.72, 95% CI 0.54〜0.97, p=0.030)。このPFSの改善がOSの有意な延長に繋がらなかった点は、本研究の重要な知見である。
先行研究との違い: 本試験の結果は、先行するSALUTE試験の結果と類似している。SALUTE試験でもベバシズマブ併用によるPFS改善 (HR 0.53) は認められたものの、OSは対照群でむしろ長いという逆転現象が生じており、ED-SCLCにおけるベバシズマブ追加が一貫したOS改善効果を持たないことが示唆された。また、フランスのIFCT-0802試験では、誘導化学療法後のベバシズマブ維持療法がPFSに影響を与えないことが報告されており、本研究の維持療法に関する探索的解析結果とは対照的な結果であった。これらの結果は、抗血管新生療法がED-SCLCの生存を意義ある程度改善しないという、これまでの知見を裏付けるものである。
新規性: 本研究で初めて、ED-SCLCに対するベバシズマブ併用療法の性別による交互作用が統計学的に有意に示唆された (p=0.003)。男性患者ではベバシズマブ併用がOS改善に有利に働く可能性が示された一方で、女性患者では不利な影響を与える可能性が示唆された。この性差による効果の違いは、他のベバシズマブ試験でも類似した傾向が報告されているが、その生物学的説明は未確立であり、本研究で初めてED-SCLCにおいて明確に示された点である。
臨床応用: ベバシズマブ維持療法がOS改善と関連する可能性が探索的解析で示唆された (HR 0.60, p=0.011)。この知見は、維持療法を受けられた患者が初回化学療法を良好に完遂した選択バイアスのある集団であるという限界はあるものの、抗血管新生薬を維持療法戦略として用いることの臨床的意義を示唆するものである。これは、スニチニブ維持療法試験 (CALGB 30504) でPFS改善が報告されたデータとともに、抗血管新生薬の最適な投与タイミングに関する今後の臨床現場での検討を促す。
残された課題: 本試験の限界として、(1) サンプルサイズが比較的小さく (n=204)、期待した効果量 (1年生存率40%→58%) が過大であったため、小さなOS差を検出する検出力が不足していた可能性が挙げられる。(2) 本試験は免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) が標準治療となる前の時代に実施されたものであり、現代の治療環境とは異なる。現在では、アテゾリズマブ+CE (IMpower133試験、HR 0.70) やデュルバルマブ+EP (CASPIAN試験) がED-SCLCの標準治療となっており、抗血管新生薬の役割は再評価が必要である。今後の研究では、これらの新規治療法との併用や、特定のバイオマーカーに基づく患者選択が残された課題となる。また、性差による治療効果の違いのメカニズム解明も今後の検討課題である。本試験は、抗血管新生療法がED-SCLCの生存を意義ある程度改善しないことを大規模無作為化試験で確認した重要なエビデンスであり、その後の治療開発が免疫チェックポイント阻害薬を中心とした方向へシフトする流れを加速させた。予防的全脳照射 (PCI) の施行が生存と相関した (HR 0.53, 95% CI 0.29〜0.98, p=0.034) ことも、この時代におけるPCIの価値を支持する補助的データである。
方法
本研究は、多施設共同、無作為化、非盲検の第III相臨床試験 (EudraCT No. 2007-007949-13) として、2009年11月16日から2015年10月1日までの期間にイタリア国内の29施設で実施された。本試験は、ED-SCLCに対する一次治療としてのベバシズマブ併用療法の有効性を評価する目的で設計された。
患者適格基準: 組織学的または細胞学的にED-SCLCと診断され、全身療法歴のない患者が対象とされた。年齢は18歳以上、ECOG Performance Status (PS) は0〜2、予測生存期間は12週以上、十分な骨髄、腎、肝機能を有することが求められた。無症状で治療済みの脳転移患者は適格とされた。
除外基準: 混合病理型 (SCLCとNSCLCの混合)、Grade ≥2の喀血既往、空洞化腫瘍、手術または重大な外傷の既往 (初回治療前4週以内)、他の活動性悪性腫瘍、治療により悪化する可能性のある基礎疾患、他の抗癌剤との併用、非治癒性の創傷・潰瘍・骨折、血栓性または出血性疾患の既往、アスピリン (≥325 mg/日) または他の抗血小板作用を持つ非ステロイド性抗炎症薬の併用 (初回治療前10日以内)、治療目的の経口または非経口抗凝固薬または血栓溶解薬の併用 (初回治療前10日以内) などが挙げられた。
無作為化と層別化: 患者は、シスプラチン+エトポシド単独群 (Arm A) またはシスプラチン+エトポシド+ベバシズマブ併用群 (Arm B) に1:1の比率で無作為に割り付けられた。無作為化はWebベースのシステムを使用し、最小化アルゴリズムにより施設、性別 (女性 vs 男性)、年齢 (≤65歳 vs >65歳)、ECOG PS (0-1 vs 2) で層別化された。
治療プロトコル:
- Arm A (EP群): シスプラチン 25 mg/m² (day 1-3) + エトポシド 100 mg/m² (day 1-3) を3週ごとに最大6コース投与。
- Arm B (EP+Bev群): Arm AのEP療法に加えて、ベバシズマブ 7.5 mg/kg (day 1) を3週ごとに最大6コース投与。初回6コース後、疾患増悪がなければベバシズマブ単剤維持療法を疾患増悪まで、または合計18コースまで継続した。
- シスプラチンが禁忌または毒性により使用できない場合、カルボプラチン (AUC 5) を代替として使用することが許可された。
評価項目:
- 主要評価項目: 全生存期間 (OS)。無作為化日からあらゆる原因による死亡日または最終追跡調査日までの期間と定義された。
- 副次評価項目: 無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR; RECIST version 1.1に基づく)、安全性 (NCI-CTCAE version 3.0に基づく有害事象の評価)。
統計解析: 有効性解析はITT集団に基づいて実施された。OSおよびPFSの分布はカプラン・マイヤー法を用いて推定され、両群間の比較には非層別ログランク検定が用いられた。ハザード比 (HR) と95%信頼区間 (CI) が算出された。奏効率の比較にはχ²検定が用いられた。サブグループ解析は、治療効果の一貫性を評価するために交互作用検定を用いて実施された。サンプルサイズは、対照群の1年生存率40%に対し、ベバシズマブ群で58%への改善 (ハザード比の40%減少) を想定し、両側α=0.05、検出力90%で、合計169例の死亡イベントと206例の患者登録が必要とされた。独立データモニタリング委員会により、計画されたサンプルサイズの2/3が登録された時点で無益性解析と安全性解析が実施され、試験継続が推奨された。統計解析にはSASソフトウェアバージョン9.2が使用された。