- 著者: Leora Horn, Suzanne E. Dahlberg, Alan B. Sandler, Afshin Dowlati, Dennis F. Moore, John R. Murren, Joan H. Schiller
- Corresponding author: Joan H. Schiller (University of Texas Southwestern Medical Center, Dallas, TX, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2009
- Epub日: 2009-10-13
- Article種別: Original Article (Phase II)
- PMID: 19826110
背景
小細胞肺癌 (SCLC:small-cell lung cancer) は極めて悪性度が高く、診断時において約3分の2の症例が進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC:extensive-stage disease, small-cell lung cancer) と分類される。ED-SCLCに対する標準的な初回化学療法は、シスプラチン+エトポシド (PE:cisplatin plus etoposide) 療法、あるいはカルボプラチン+エトポシド療法であり、これらは60%から80%という高い奏効率を示すものの、生存期間中央値 (MST:median survival time) は9〜10か月程度に留まり、5年生存率は1%未満と極めて予後不良である。この標準治療の枠組みは、Roth et al. JClinOncol 1992 などの先行研究によって確立されて以来、長年にわたり進展が見られず、新たな治療戦略の確立が急務であった。
腫瘍の増殖や転移において血管新生は不可欠なプロセスであり、血管内皮増殖因子 (VEGF:vascular endothelial growth factor) はその主要な制御因子である。SCLCにおいてもVEGFの高発現や血中VEGF濃度の上昇が予後不良因子であることが既報により示されていた。非小細胞肺癌 (NSCLC) においては、Sandler et al. NEnglJMed 2006 により、標準化学療法に抗VEGF抗体であるベバシズマブ (bevacizumab) を上乗せすることで生存期間が有意に延長することが証明されている。また、Johnson et al. JClinOncol 2004 などの初期の第II相試験でもベバシズマブの併用効果と安全性が示されていた。しかしながら、ED-SCLCにおけるベバシズマブ併用療法の有効性や安全性、さらには治療効果を予測するバイオマーカーの意義については未解明な部分が多く、臨床データが圧倒的に不足しているという課題が存在した。この治療ギャップを埋めるため、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) は未治療のED-SCLC患者を対象に、PE療法にベバシズマブを併用する第II相試験 (ECOG E3501) を実施した。
目的
本研究 (ECOG E3501) の主要な目的は、初回治療の未治療進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者に対するシスプラチン+エトポシド (PE) 療法とベバシズマブの併用療法の有効性を、主要評価項目である6か月無増悪生存 (PFS:progression-free survival) 率によって評価することである。副次的な目的として、全生存期間 (OS:overall survival)、客観的奏効率 (ORR:objective response rate)、および安全性を評価すること、ならびにベバシズマブ併用療法における骨髄抑制や出血などの毒性プロファイルを明らかにすることを掲げた。さらに、治療効果や予後との相関を探索するための付随研究 (correlative studies) として、治療開始前 (ベースライン) および治療開始後の血漿中バイオマーカー、具体的には血管内皮増殖因子 (VEGF)、可溶性細胞粘着分子である血管細胞粘着分子-1 (VCAM-1:vascular cell adhesion molecule-1)、細胞間粘着分子-1 (ICAM-1:intercellular adhesion molecule-1)、E-selectin、および塩基性線維芽細胞増殖因子 (bFGF:basic fibroblast growth factor) の濃度を測定し、臨床アウトカムとの関連性を検証することを目的とした。
結果
患者背景および治療実施状況の分析: 本試験には2004年6月から2006年8月までに計65例の患者が登録され、そのうち病理診断に疑義があった1例と治療を開始しなかった1例を除く計63例が有効性および安全性の評価対象となった (Table 1)。登録患者の年齢中央値は65歳 (範囲:45-83歳) であり、女性が57.1% (36例) を占めていた。ECOG PSは0が31.8% (20例)、1が58.7% (37例)、2が9.5% (6例) であった。治療の実施状況として、投与された化学療法のサイクル数中央値は6サイクル (範囲:1-18サイクル) であった。本試験における患者群の背景因子は、過去のED-SCLCを対象とした臨床試験の患者背景とおおむね同様であり、ベバシズマブ併用療法の忍容性を評価する上で適切な集団が構築された。 (Table 1)
主要評価項目である6か月PFS率の達成と生存期間解析: 主要評価項目である6か月PFS率は30.2% (95% CI 18.8-41.5%, p=0.004) であり、歴史的対照群の16%を有意に上回り、事前に設定された主要評価基準を達成した (Fig 1A)。PFS中央値は 4.7 vs 2.3 months (歴史的対照) であった。全生存期間 (OS) 解析においては、OS中央値が10.9か月 (95% CI 7.9-12.2) であり、1年生存率は38.1% (95% CI 26.0-50.1%)、2年生存率は9.5%であった (Fig 1B)。生存期間の予測因子に関する単変量解析では、ECOG PSが唯一の有意な予測因子であり、PS 1-2の患者群はPS 0の患者群と比較して、PFSの悪化リスクが有意に高かった [HR 2.09 (95% CI 1.17-3.70, p=0.01)]。また、PS 1-2の患者群はPS 0の患者群と比較して、OSの悪化リスクも有意に高かった [HR 1.96 (95% CI 1.09-3.50, p=0.02)]。一方、男性 vs 女性のPFS中央値は 5.0 vs 4.6 months (p=0.96) であり、白人 vs 非白人のPFS中央値は 4.7 vs 2.4 months (p=0.17) と、性別や人種、前治療からの体重減少、胸水の有無はPFSおよびOSに有意な影響を与えなかった。 (Fig 1)
腫瘍縮小効果と奏効率の解析: 登録患者63例における客観的奏効率 (ORR) は63.5% (40例) であった。その内訳として、完全奏効 (CR) が1.6% (1例)、部分奏効 (PR) が61.9% (39例) であった (Table 2)。さらに、病勢安定 (SD) を示した患者は15.9% (10例) であり、これらを合わせた病勢コントロール率 (DCR) は79.4%に達した。病勢進行 (PD) を示した患者は12.7% (8例) であり、評価不能は7.9% (5例) であった。奏効期間の中央値は5.3か月であった。本併用療法による奏効率は、過去のシスプラチン+エトポシド (PE) 単独療法における歴史的データ (60-80%) と同等であり、ベバシズマブの上乗せによって奏効率自体が劇的に向上するわけではないものの、奏効の維持や無増悪生存期間の延長に寄与していることが示唆された。 (Table 2)
血液毒性および骨髄抑制のプロファイル: 安全性評価対象となった64例における有害事象 (AE:adverse event) の解析では、Grade 3 of AEが25.0% (16例)、Grade 4 of AEが48.4% (31例) に認められた (Table 3)。最も頻度の高かった血液毒性は骨髄抑制であり、Grade 3の好中球減少症が12.5%、Grade 4が45.3%に達し、合計で57.8%の患者に高度な好中球減少が認められた。また、Grade 3-4の白血球減少症は29.7%、Grade 3-4の血小板減少症は14.1%に認められた。発熱性好中球減少症 (FN:febrile neutropenia) の発生率は7.8% (Grade 3が4.7%、Grade 4が3.1%) であった。これらの血液毒性のプロファイルは、過去のPE単独療法で報告されている骨髄抑制の頻度や重症度と同等であり、ベバシズマブの追加によって化学療法に伴う骨髄抑制が増強されることはないことが確認された。 (Table 3)
ベバシズマブ特異的な有害事象と安全性評価: ベバシズマブの投与に関連すると考えられる特異的な有害事象として、Grade 3の高血圧が7.8% (5例) に認められたが、これらは標準的な降圧薬治療により管理可能であった (Table 3)。出血性事象については、Grade 1-2の軽度な鼻出血が9.4% (6例) に認められた。非小細胞肺癌のベバシズマブ併用療法で懸念される重篤な肺出血については、Grade 3の肺出血が1.6% (1例) に認められたのみであり、Grade 3の腹腔内出血も1.6% (1例) であった。また、Grade 4の心臓虚血が1.6% (1例)、Grade 4の血栓塞栓症が1.6% (1例) に認められた。治療関連死は2例 (3.2%) であり、1例は多臓器不全、もう1例は肺感染症に伴う好中球減少症によるものであった。全体として、ベバシズマブの追加に伴う毒性は十分に許容範囲内であり、安全に投与可能であることが示された。 (Table 3)
血漿バイオマーカーと臨床アウトカムの相関解析: バイオマーカー解析に同意した32例のうち、解析可能なベースライン血漿検体が得られた31例を対象に相関解析を行った (Table 4)。治療開始前の血漿中VEGF濃度の中央値は52 pg/mLであったが、ベースラインのVEGF濃度は客観的奏効率 (p=0.43) やPFS、OSと有意な相関を示さなかった。一方で、可溶性細胞粘着分子である血管細胞粘着分子-1 (VCAM-1) のベースライン濃度高値群は、低値群と比較して、PFSの悪化リスクが有意に高く [HR 2.11 (95% CI 0.99-4.49, p=0.05)]、OSの悪化リスクも有意に高かった [HR 2.69 (95% CI 1.22-5.92, p=0.01)]。多変量解析においても、ベースラインのVCAM-1、ICAM-1、およびbFGF濃度は、PSや体重減少などの臨床因子で調整した後も、予後と独立して有意に関連する因子であることが示された。 (Table 4)
考察/結論
本研究 (ECOG E3501) は、未治療の進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) に対するシスプラチン+エトポシド (PE) 療法へのベバシズマブ併用の有効性と安全性を評価した重要な試験である。主要評価項目である6か月PFS率 30.2% を達成し、歴史的対照群の16%を有意に上回る結果を示した。また、OS中央値 10.9か月という成績も、過去のPE療法単独における代表的な成績 (9〜10か月) と比較して良好な傾向を示した。
先行研究との違い: 本試験の治療成績は、ベバシズマブを併用しない過去の標準的な化学療法単独試験の成績と異なり、無増悪生存期間および全生存期間の双方において数値的な改善傾向を示した。特に、非小細胞肺癌 (NSCLC) を対象とした先行研究である Sandler et al. NEnglJMed 2006 (ECOG 4599試験) で懸念された重篤な肺出血などの毒性について、本試験ではGrade 3の肺出血が1.6% (1例) に留まり、SCLC患者においてもベバシズマブ併用療法が安全に管理可能であることを示した点で対照的な結果となった。
新規性: 本研究で初めて、ED-SCLC患者におけるベバシズマブ併用療法下での予後予測バイオマーカーとして、治療開始前の血漿中VCAM-1 (vascular cell adhesion molecule-1) 濃度高値がPFSおよびOSの有意な不良と関連していることを新規に同定した。これまで報告されていないこの知見は、SCLCにおける血管新生および細胞粘着分子の生物学的役割を解明する上で学術的に極めて高い価値を有する。
臨床応用: 本試験で得られた知見の臨床的意義として、抗血管新生療法をSCLCの初回治療に組み込むことの妥当性が示された。しかしながら、その後の検証試験である SALUTE (Study of Angiogenesis Inhibition with Bevacizumab in Patients with Small Cell Lung Cancer) 試験やIFCT-0802試験などのランダム化第II相・第III相試験においては、ベバシズマブの追加によりPFSの有意な延長は再現されたものの、OSの有意な延長効果は一貫して示されず、結果としてベバシズマブはSCLCの標準治療として臨床現場に定着するには至らなかった。この生存ベネフィットの乖離の原因として、SCLCの極めて急速な腫瘍増殖能や、初期化学療法に対する高い感受性による早期のレスキュー効果、さらにはVEGF以外の代替血管新生経路の活性化などが考えられている。現在、ED-SCLCの初回標準治療は免疫チェックポイント阻害薬を併用した免疫化学療法へと移行しているが、VCAM-1などのバイオマーカーを用いた患者選択による個別化医療の臨床応用は、今後の治療開発において依然として重要なアプローチとなり得る。
残された課題: 本試験における最大の limitation は、単群の第II相試験であり症例数が63例と限定的であること、およびバイオマーカー解析の対象が31例とさらに少なかったことである。したがって、VCAM-1の予後予測因子としての真の価値を確定するためには、より大規模な前向きコホートでの検証が必要であり、これが今後の課題として残されている。また、現在の標準治療である免疫化学療法に抗血管新生療法を上乗せする3剤併用療法の開発や、血管新生依存性の高い特定のサブグループ (angiogenic-driven SCLC) を同定するためのトランスレーショナルリサーチの推進が、今後の研究の方向性として求められる。
方法
本試験は、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) が主導した多施設共同の単群第II相臨床試験 (single-arm phase II trial) である (試験識別子:NCT00075439)。対象患者の主な適格基準は、組織学的または細胞学的に確認された未治療の進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) であり、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) に基づく測定可能病変を有し、ECOG PS (performance status) が0〜2、かつ適切な骨髄、肝、腎機能を有することとした。脳転移を有する患者、喀血 (1回あたり小さじ半分以上の鮮血) の既往がある患者、抗凝固療法を施行中の患者、およびコントロール不良の高血圧を有する患者などは除外された。
治療プロトコルとして、患者はシスプラチン 60 mg/m² (Day 1、静脈内投与) およびエトポシド 120 mg/m² (Day 1-3、静脈内投与) を3週毎に最大4サイクル投与された。ベバシズマブ 15 mg/kg は、化学療法終了後に Day 1 に静脈内投与された。化学療法終了後、病勢進行 (PD) または許容できない毒性が発現するまで、ベバシズマブ 15 mg/kg 単独による維持療法を3週毎に最長1年間継続することが許容された。
主要評価項目 (primary endpoint) は6か月PFS率であり、歴史的対照群 (ECOG 7593試験の観察群、Schiller et al. JClinOncol 2001) のPFS中央値 2.3か月 (6か月PFS率 16%) から、本治療群でPFS中央値 3.8か月 (6か月PFS率 33%) への改善を検出するように設計された。この改善を検出するために、検出力93%、片側有意水準8%として、必要症例数を設計した。統計解析には、修正2段階デザイン (modified two-stage design) が用いられた。生存時間分布の推定には Kaplan-Meier 法が用いられ、標準誤差の算出には Greenwood の公式が適用された。共変量調整後のハザード比 (HR) の算出には Cox 比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) が用いられ、カテゴリカル変数間の関連性の検定には Fisher’s exact テストが使用された。血漿バイオマーカーの測定は、治療開始前および2サイクル終了後 (7週目) に採取された検体を用いて、酵素結合免疫吸着測定法 (ELISA:enzyme-linked immunosorbent assay) により実施された。