• 著者: Charles M. Rudin, Mark M. Awad, Alejandro Navarro, Maya Gottfried, Solange Peters, Tibor Csoszi, Antonio Jimenez, Jaafar Bennouna, Pia Kristiansen, Keunchil Park, Sang-We Kim, Javier De Castro, Mikhail Zukov, Dariusz Kowalski, Marcin Poltorak, Vamsi Velcheti
  • Corresponding author: Charles M. Rudin (Memorial Sloan Kettering Cancer Center)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2020
  • Epub日: 2020-04-20
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 32468956

背景

進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) は、全肺癌の約15%を占める神経内分泌腫瘍であり、喫煙との関連が強く、急速な倍加時間と高い増殖率を特徴とする。診断時に約3分の2の患者が転移を伴い、5年生存率はわずか6-7%と極めて予後不良な悪性腫瘍であると報告されている Govindan et al. JClinOncol 2006。過去30年間にわたり、エトポシドとプラチナ製剤 (EP) を用いた化学療法がES-SCLCの標準一次治療として広く用いられてきた。EP療法は高い奏効率を示すものの、その効果は持続的ではなく、大部分の患者が早期に再発し、中央値全生存期間 (OS) は約10ヶ月に留まるという課題があった。このため、ES-SCLCの治療成績を改善するための新たな治療戦略が強く求められていた。

近年、免疫チェックポイント阻害薬、特に抗PD-1抗体であるペムブロリズマブは、再発または転移性SCLC患者に対する単剤療法において、客観的奏効率 (ORR) 19.3%を示すなど、有望な抗腫瘍活性が確認されていた Chung et al. JThoracOncol 2020。この結果に基づき、ペムブロリズマブは2019年に米国FDAによって、2つ以上の前治療歴を有する転移性SCLC患者に対する三次治療以降の選択肢として承認された。また、非小細胞肺癌 (NSCLC) においては、免疫チェックポイント阻害薬と化学療法の併用療法が一次治療として有効性を示すことが報告されており Gandhi et al. NEnglJMed 2018 Paz et al. NEnglJMed 2018、ES-SCLCにおいても同様の併用療法の有効性が期待されていた。しかし、ES-SCLCの一次治療におけるペムブロリズマブと化学療法の併用療法の有効性および安全性を評価する大規模な無作為化二重盲検第III相試験は、当時まだ実施されておらず、その臨床的意義は未解明であった。特に、化学療法単独と比較して、免疫チェックポイント阻害薬の追加がES-SCLC患者の無増悪生存期間 (PFS) およびOSをどの程度改善できるかについては、さらなるエビデンスが不足していた。

目的

本研究 (KEYNOTE-604試験) は、未治療の進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者を対象に、標準的なエトポシドとプラチナ製剤 (EP) 併用化学療法にペムブロリズマブを追加する治療法と、プラセボを追加する治療法を比較し、その有効性および安全性を検証することを目的とした二重盲検無作為化第III相試験である。主要評価項目として、無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) に対するペムブロリズマブ併用療法の効果を評価した。副次評価項目として、客観的奏効率 (ORR)、奏効期間 (DOR)、および安全性を評価し、ES-SCLCの一次治療におけるペムブロリズマブの臨床的有用性を確立することを目指した。

結果

患者背景: 2017年5月15日から2018年7月30日までに、18カ国133施設から453名の患者が登録され、ペムブロリズマブ+EP群にn=228名、プラセボ+EP群にn=225名が無作為に割り付けられた。ベースラインの患者背景および疾患特性は両群間で概ね均衡が取れていた (Table 1)。中央値年齢は65歳であり、74.4%の患者がECOGパフォーマンスステータス1であった。脳転移を有する患者はペムブロリズマブ群で14.5% (n=33)、プラセボ群で9.8% (n=22) であった。PD-L1 CPS (combined positive score) ≥1の患者は、ペムブロリズマブ群で38.6% (n=88)、プラセボ群で43.1% (n=97) であった。

主要エンドポイント (無増悪生存期間; PFS): 中間解析2 (IA2) 時点で、ペムブロリズマブ+EP群のPFS中央値は4.5ヶ月 (95% CI 4.3-5.4ヶ月) であったのに対し、プラセボ+EP群では4.3ヶ月 (95% CI 4.2-4.4ヶ月) であった。ペムブロリズマブ併用群は、PFSを有意に改善し (HR 0.75; 95% CI 0.61-0.91; 片側p=0.0023)、これは事前設定された有意水準 (片側p=0.0048) を下回った (Figure 2A)。12ヶ月PFS推定値は、ペムブロリズマブ群で13.6%、プラセボ群で3.1%と、長期的なPFSの延長効果が顕著に認められた。PFSの改善効果は、ほとんどのサブグループで一貫して観察された (Figure 2B)。

主要エンドポイント (全生存期間; OS): 最終解析時点でのOS中央値は、ペムブロリズマブ+EP群で10.8ヶ月 (95% CI 9.2-12.9ヶ月) であったのに対し、プラセボ+EP群では9.7ヶ月 (95% CI 8.6-10.7ヶ月) であった。ハザード比は0.80 (95% CI 0.64-0.98; 片側p=0.0164) であり、OSの延長は認められたものの、事前設定された有意水準 (片側p=0.0128) をわずかに上回り、統計的有意性は達成されなかった (Figure 3A)。しかし、24ヶ月OS推定値は、ペムブロリズマブ群で22.5%、プラセボ群で11.2%と、ペムブロリズマブ群で約2倍の長期生存率が認められた。OSのサブグループ解析では、脳転移を有する患者および転移部位が3未満の患者を除き、全てのHRがペムブロリズマブ群に有利な傾向を示した (Figure 3B)。

客観的奏効率 (ORR) および奏効期間 (DOR): 最終解析時点でのORRは、ペムブロリズマブ+EP群で70.6% (95% CI 64.2-76.4%)、プラセボ+EP群で61.8% (95% CI 55.1-68.2%) であった (Table 2)。奏効した患者におけるDOR中央値は、ペムブロリズマブ群で4.2ヶ月 (範囲 1.0+〜26.0+ヶ月)、プラセボ群で3.7ヶ月 (範囲 1.4+〜25.8+ヶ月) であった。12ヶ月時点での奏効持続率は、ペムブロリズマブ群で19.3%、プラセボ群で3.3%と、ペムブロリズマブ群で奏効の持続性が顕著に高く、長期的な奏効を示す患者が存在することが示された (Figure 4)。

安全性: 治療サイクル中央値は、ペムブロリズマブ群で7サイクル (範囲 1-35サイクル)、プラセボ群で6サイクル (範囲 1-35サイクル) であった。いずれかの原因による有害事象 (AE) は、ペムブロリズマブ群の全患者 (n=223) で100%、プラセボ群で99.6% (n=222) に発生した。Grade 3-4のAE発現率は、ペムブロリズマブ群で76.7% (n=171)、プラセボ群で74.9% (n=167) と同程度であった。Grade 5 (致死的) のAEは、ペムブロリズマブ群で6.3% (n=14)、プラセボ群で5.4% (n=12) であった。AEによるいずれかの治験薬の中止は、ペムブロリズマブ群で14.8% (n=33)、プラセボ群で6.3% (n=14) に認められた。

両群で最も頻繁に観察されたGrade 3-4のAEは、好中球減少症 (ペムブロリズマブ群43.5%、プラセボ群40.8%)、貧血 (ペムブロリズマブ群15.7%、プラセボ群15.2%)、血小板減少症 (ペムブロリズマブ群13.9%、プラセボ群11.2%)、白血球減少症 (ペムブロリズマブ群11.7%、プラセボ群9.4%) であった (Table 3)。ペムブロリズマブ群でより頻繁に発生したAE (発現率10%以上) には、発熱 (15.2% vs 6.7%)、甲状腺機能低下症 (10.3% vs 2.2%)、めまい (14.3% vs 6.7%)、発疹 (13.5% vs 5.8%) が含まれた。免疫関連有害事象 (irAE) は、ペムブロリズマブ群で24.7% (n=55)、プラセボ群で10.3% (n=23) に発生し、主に甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、肺炎などが含まれた。Grade 3のirAEは、ペムブロリズマブ群で7.2% (n=16)、プラセボ群で0.9% (n=2) であった。ペムブロリズマブ群でGrade 4または5のirAEは認められなかった。全体として、ペムブロリズマブ+EP療法における予期せぬ毒性は観察されず、安全性プロファイルは既報のペムブロリズマブ単剤療法と一致していた。

考察/結論

KEYNOTE-604試験は、未治療の進展型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者に対する一次治療として、ペムブロリズマブとエトポシド/プラチナ併用療法が、プラセボと化学療法の併用と比較して、無増悪生存期間 (PFS) を有意に改善することを示した。PFSのハザード比 (HR) は0.75 (95% CI 0.61-0.91, p=0.0023) であり、統計的有意性が達成された。また、12ヶ月PFS率はペムブロリズマブ群で13.6%と、プラセボ群の3.1%と比較して顕著な改善を示し、一部の患者において長期的な疾患コントロールが得られる可能性が示唆された。

先行研究との違い: 全生存期間 (OS) に関しては、HR 0.80 (95% CI 0.64-0.98, p=0.0164) とペムブロリズマブ群で延長傾向が認められたものの、事前設定された統計的有意水準 (片側p=0.0128) をわずかに上回り、主要評価項目としての統計的有意性は達成されなかった。この結果は、同時期に実施されたIMpower133試験 (アテゾリズマブ+EP; OS HR 0.70, p=0.007) やCASPIAN試験 (デュルバルマブ+EP; OS HR 0.73, p<0.001) がOSの主要エンドポイントを達成したのとは対照的である Horn et al. NEnglJMed 2018 Paz et al. Lancet 2019。この差異は、試験間の患者背景の違いに起因する可能性がある。KEYNOTE-604試験では、IMpower133やCASPIANと比較して、脳転移を有する患者やECOGパフォーマンスステータス1の患者の割合が高く、腫瘍径が大きい、LDH高値、3つ以上の転移部位を有する患者が多いなど、より予後不良な患者集団が登録されていたことが示唆される。

新規性: 本研究で初めて、PD-1阻害薬であるペムブロリズマブと標準化学療法の併用が、ES-SCLCの一次治療においてPFSを有意に改善し、一部の患者で長期的な奏効持続性をもたらすことを大規模な二重盲検試験で示した。特に、12ヶ月時点での奏効持続率がペムブロリズマブ群で19.3%と、プラセボ群の3.3%と比較して大幅に高かったことは、ペムブロリズマブが一部の患者に持続的な臨床的利益をもたらす可能性を新規に示した。

臨床応用: OSの統計的有意性は達成されなかったものの、24ヶ月OS率がペムブロリズマブ群で22.5%、プラセボ群で11.2%と約2倍の差があったことは、臨床的意義を持つ可能性がある。カプラン・マイヤー曲線は、最初の4-5ヶ月はEP療法の効果を反映して重なるが、その後ペムブロリズマブ群でプラトーが形成され、長期的な利益を示す患者サブセットの存在を示唆している。この知見は、ES-SCLC患者の治療選択肢を拡大し、特に長期生存が期待できる患者を特定するための基盤となる。

残された課題: 本試験のlimitationとして、OSの主要エンドポイントが統計的有意水準を達成できなかった点が挙げられる。これは、統計学的設計上の閾値設定や、後治療における免疫チェックポイント阻害薬の使用が影響した可能性も考えられる。今後の検討課題として、長期奏効を示す患者のバイオマーカーを特定するためのさらなる研究が残されている。腫瘍変異負荷や遺伝子発現シグネチャー、最近提唱されたSCLCの分子サブタイプ Rudin et al. NatRevCancer 2019 の探索的解析を通じて、ペムブロリズマブの恩恵を最も受ける患者集団を特定することが、今後の研究の方向性となる。

方法

本試験は、国際多施設共同の無作為化二重盲検プラセボ対照第III相試験 (KEYNOTE-604、NCT03066778) として実施された。対象患者は、18歳以上で、組織学的または細胞学的に確認された未治療のES-SCLC患者であり、RECIST version 1.1に基づき測定可能な病変を有し Eisenhauer et al. EurJCancer 2009、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) パフォーマンスステータスが0または1であった。脳転移を有する患者も、治療完了後14日以上経過し、新規または増大する脳転移の証拠がなく、7日以上ステロイドなしで神経学的に安定していれば適格とされた。

合計453名の適格患者が、ペムブロリズマブ+EP療法群 (n=228) またはプラセボ+EP療法群 (n=225) に1:1の割合で無作為に割り付けられた。無作為化は、プラチナ製剤の選択 (カルボプラチンまたはシスプラチン)、ベースラインのECOGパフォーマンスステータス (0または1)、およびベースラインの乳酸脱水素酵素 (LDH) 濃度 (正常上限値以下または超える) を層別因子として実施された。

治療プロトコルは以下の通りである。ペムブロリズマブ群の患者には、ペムブロリズマブ200 mgが3週間ごとに最大35サイクル静脈内投与された。プラセボ群の患者には、対応する生理食塩水プラセボが同様に投与された。両群の患者は、最初の4サイクルにおいて、エトポシド100 mg/m² (day 1-3) と、治験責任医師の選択によるシスプラチン75 mg/m² (day 1) またはカルボプラチンAUC5 (day 1) のいずれかのプラチナ製剤を3週間ごとに併用投与された。

主要評価項目は、独立中央判定によるRECIST version 1.1に基づくPFSおよびOSであった。副次評価項目には、ORR、奏効期間 (DOR)、および安全性プロファイルが含まれた。有効性の評価はintention-to-treat (ITT) 集団で実施され、安全性は少なくとも1回の治験薬投与を受けたas-treated集団で評価された。

統計解析では、PFS、OS、およびDORの推定にはカプラン・マイヤー法が用いられた。群間差の評価には、層別ログランク検定が使用され、ハザード比 (HR) および95%信頼区間 (CI) は層別Cox比例ハザードモデルを用いて推定された。多重比較を調整するため、事前設定された有意水準はPFSで片側p=0.0048、OSで片側p=0.0128とされた。非比例ハザードの可能性を考慮し、制限付き平均生存時間 (RMST) 法を用いた探索的解析も実施された Uno et al. JClinOncol 2014。ORRの群間差は、層別Miettinen and Nurminen法を用いて評価された。有害事象は、NCI Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) version 4.0に基づき評価された。