• 著者: Elegbede AA, Gibson AJ, Fung AS, Cheung WY, Dean ML, Bebb DG, Pabani A
  • Corresponding author: Pabani A (Tom Baker Cancer Center, Calgary, Alberta, Canada)
  • 雑誌: JTO Clinical and Research Reports
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-10-28
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 34877555

背景

小細胞肺がん (SCLC) は肺がんの約13%を占める悪性度の高い疾患であり、診断時の約3分の2が進展型 (ES-SCLC) と診断される。遠隔転移を有するES-SCLC患者の5年生存率はわずか3%と極めて予後不良であり、治療法の改善が長年の課題であった。20年以上にわたり、ES-SCLCの標準治療は白金製剤とエトポシドを組み合わせた化学療法 (PE化学療法) であったが、その生存期間の改善は限定的であり、新たな治療戦略が強く求められていた。

近年、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) の登場により、ES-SCLCの治療成績は大きく進展した。特に、PD-L1阻害薬であるアテゾリズマブは、IMpower133試験においてカルボプラチン-エトポシド化学療法との併用で、PE単独療法と比較して全生存期間 (OS) 中央値を12.3ヶ月(PE単独群10.3ヶ月)に有意に延長することが示された Horn et al. NEnglJMed 2018。この画期的な結果は、ES-SCLCに対するICIの一次治療としての初の承認につながり、その後の治療ガイドラインに大きな影響を与えた。同様に、別のPD-L1阻害薬であるデュルバルマブもCASPIAN試験でOS中央値12.9ヶ月と生存利益を示し Paz-Ares et al. Lancet 2019、PD-1阻害薬であるペムブロリズマブもKEYNOTE-604試験で無増悪生存期間 (PFS) の改善を示したが、OSの有意な改善には至らなかった Rudin et al. JClinOncol 2020。これらの大規模臨床試験により、ICIと化学療法の併用療法がES-SCLCの標準治療として確立された。ES-SCLCにおけるアテゾリズマブと化学療法の併用は、18ヶ月時点での生存率が約3分の1に達するなど、従来の化学療法単独と比較して顕著な改善をもたらしている Liu et al. JClinOncol 2021

しかし、これらのピボタル試験は厳格な患者選択基準(ECOG PS 0〜1、良好な臓器機能など)を設けており、実臨床で治療を受けるSCLC患者の多様な背景(高齢、不良なパフォーマンスステータス、複数の合併症など)を十分に反映しているとは言えないというギャップが指摘されていた。そのため、実臨床におけるICI併用療法の有効性や安全性に関するデータは不足しており、そのリアルワールドでの有用性は未解明な点が残されていた。

カナダでは、2019年8月から2020年2月にかけて、ロシュ社のOnCare特別アクセスプログラム (SAP) を通じてアルバータ州のES-SCLC患者にアテゾリズマブが提供された。この機会は、厳格な臨床試験の枠を超えた実臨床環境において、アテゾリズマブ併用療法の効果を評価する貴重な機会を提供した。また、ES-SCLCに対する胸部放射線療法 (tRT) の役割も議論の的であり、特に免疫療法との併用における安全性と有効性は未確立であった。放射線療法とICIの相乗効果を示唆する前臨床データが存在する一方で、ES-SCLCにおける併用療法の臨床的エビデンスは手薄である。本研究は、この実臨床データを用いて、アテゾリズマブ併用療法の有効性と安全性を評価し、IMpower133試験の結果を実証するとともに、tRTの影響を探索することを目的とした。本研究は、実臨床における多様な患者背景(例えば、ECOG PS 2以上の患者、高齢者、脳転移を有する患者など)におけるアテゾリズマブの有効性と安全性を評価し、臨床試験では得られなかった知見を提供することで、ES-SCLCの治療戦略における知識ギャップを埋めることを目指す。

目的

本研究の目的は、カナダ・アルバータ州の実臨床における進展型小細胞肺がん (ES-SCLC) 患者を対象に、アテゾリズマブとプラチナ-エトポシド化学療法の併用療法(アテゾリズマブ群)とプラチナ-エトポシド単独化学療法(化学療法群)の有効性および安全性を比較評価することである。具体的には、主要評価項目として無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) を比較し、IMpower133試験で報告された成績との整合性を検証する。

副次的に、実臨床における患者背景の多様性(ECOG PS 2以上の患者、高齢者、脳転移を有する患者など)が治療成績に与える影響を評価する。さらに、胸部放射線療法 (tRT) の併用が生存期間に及ぼす影響、およびアテゾリズマブ併用療法における有害事象 (AE) の発生率と治療中止率を詳細に分析し、実臨床での安全性プロファイルを明らかにすることも目的とする。これらの評価を通じて、ES-SCLCに対するアテゾリズマブ併用療法のリアルワールドでの有用性と、今後の治療戦略における胸部放射線療法の位置づけに関する知見を提供することを目指す。本研究は、IMpower133試験の厳格な組み入れ基準では捉えきれなかった、より広範な患者集団におけるアテゾリズマブの臨床的有用性を実証し、実臨床での治療選択に資するエビデンスを確立することを目指す。

結果

患者背景と治療特性: 合計67例の患者が特定され、アテゾリズマブ群34例、化学療法群33例であった (Table 1)。両群間のベースライン特性に顕著な差は認められなかった。年齢中央値は両群ともに65歳であった。アテゾリズマブ群ではECOG PS 2以上の患者が24% (PS 2: 15%、PS 3: 9%)、化学療法群では15% (PS 2: 12%、PS 3: 12%、PS 4: 3%) 含まれていた。脳転移はアテゾリズマブ群で8例 (24%)、化学療法群で5例 (15%) に認められた。遠隔転移 (M1c) はアテゾリズマブ群で18例 (53%)、化学療法群で18例 (55%) であった。追跡期間中央値18ヶ月の時点で、アテゾリズマブ群では12例 (35%)、化学療法群では1例 (3%) が生存していた。アテゾリズマブ群の74% (n=25) は、特別アクセスプログラムの利用遅延のため、アテゾリズマブ開始前に少なくとも1サイクルのプラチナ-エトポシド化学療法(うち21%はシスプラチン-エトポシド)を受けていた。診断からアテゾリズマブ開始までの期間中央値は37日 (範囲12〜128日) であった。アテゾリズマブ治療期間中央値は136日 (範囲2〜406日) であった。

無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) の改善: アテゾリズマブ群のPFS中央値は6.0ヶ月、化学療法群は4.3ヶ月であり、アテゾリズマブ群で有意な改善が認められた (p=0.03) (Figure 1A)。OS中央値はアテゾリズマブ群で12.8ヶ月、化学療法群で7.1ヶ月であり、こちらもアテゾリズマブ群で有意な改善が示された (p=0.01) (Figure 1B)。多変量Cox回帰分析では、アテゾリズマブ投与はOS改善の独立した予後因子であり、化学療法と比較したハザード比 (HR) は0.42 (95% CI 0.20-0.88, p=0.02) であった。PFSのHRは0.53 (95% CI 0.28-1.02, p=0.06) であった。維持アテゾリズマブ療法を受けた患者 (n=27) のOS中央値は13.3ヶ月であり、維持療法を受けなかった患者 (n=7) の6.0ヶ月と比較して有意に長かった (p=0.01)。先行するPE化学療法がシスプラチンベースかカルボプラチンベースかによる生存期間の差は認められなかった (OS中央値9.8ヶ月 vs 13.3ヶ月, p=0.21)。

ECOG PS別の生存期間: ECOG PS 2の患者群では、アテゾリズマブ群のOS中央値は5.9ヶ月、化学療法群は6.3ヶ月であり、両群間に有意な差は認められなかった (p=0.97)。一方、ECOG PS 0〜1の患者群では、アテゾリズマブ群のOS中央値は未到達であった (p=0.07)。多変量Cox解析では、ECOG PS 2はOS不良の独立した予後因子であり、ECOG PS 0と比較したHRは7.72 (95% CI 1.32-45.01, p=0.02) であった。ECOG PS 4の患者では、OSのHRが26.15 (95% CI 1.63-418.98, p=0.02) と極めて不良な予後が示された (Table 2)。これは、不良なPSの患者ではアテゾリズマブ追加による生存利益が限定的である可能性を示唆する。

胸部放射線療法 (tRT) の影響: アテゾリズマブ群においてtRTを受けた患者 (n=4、12%) のPFS中央値は12.5ヶ月、tRTを受けなかった患者のPFS中央値は5.8ヶ月であった (p=0.095)。OS中央値はtRT群で未到達、非tRT群で11.5ヶ月であった (p=0.095)。化学療法群でもtRTを受けた患者はPFS中央値6.0ヶ月 vs 4.0ヶ月 (p=0.22)、OS中央値9.5ヶ月 vs 6.5ヶ月 (p=0.08) と、tRTを受けた患者で良好な傾向が認められた (Figure 1C, 1D, 1E, 1F)。多変量解析では、tRTの受療はOS改善の独立した予後因子であり、HRは0.33 (95% CI 0.13-0.88, p=0.03) であった (Table 2)。ただし、tRTを受けた患者群は、tRTを受けなかった患者群と比較して、診断時の遠隔転移 (M1c) の割合が低い傾向にあった (29% vs 60%, p=0.06)。tRTはアテゾリズマブ群の維持療法中に実施され、中央値5サイクル (範囲1〜9サイクル) の化学免疫療法後に開始された。tRTの線量中央値は30 Gy (範囲20〜40 Gy)、分割回数中央値は10回 (範囲5〜16回) であった。

安全性プロファイルと治療中止率: いずれかのグレードのAE発生率は、アテゾリズマブ群で21例 (62%)、化学療法群で16例 (49%) であった (Table 1)。最も一般的なAEは両群ともに血液関連毒性であり (アテゾリズマブ群35%、化学療法群33%)、アテゾリズマブ群では複数のAEを経験した患者が11例 (32%) であった。重篤な有害事象 (SAE) の発生率は、アテゾリズマブ群で18例 (53%)、化学療法群で13例 (39%) であり、主に血液関連であった (アテゾリズマブ群32%、化学療法群24%)。AEによる一次治療の中断率は、アテゾリズマブ群で11例 (32%)、化学療法群で5例 (15%) と、アテゾリズマブ群で有意に高かった (p=0.02)。これは両群において疾患進行に次ぐ2番目に多い治療中止理由であった。アテゾリズマブ群で治療中止に至った最も一般的なAEは血液関連毒性 (n=4) であり、化学療法群では死亡 (n=3) であった。

免疫関連有害事象 (irAE): アテゾリズマブ群では8例 (24%) がirAEを発症した。内訳は、皮疹または皮膚障害が5例、甲状腺機能低下症が3例、副腎不全が1例、自己免疫性大腸炎が1例であった。irAEの半数 (n=4) が永続的な治療中止につながった。tRT施行例におけるAE関連の一次治療中断率は、アテゾリズマブ群で25%、化学療法群で20%であり、両群間に差は認められなかった。

考察/結論

本研究は、カナダの実臨床におけるES-SCLC患者に対するアテゾリズマブと化学療法の併用療法の有効性および安全性を評価した初のリアルワールド研究であり、その結果はIMpower133試験の成績と匹敵するものであった。アテゾリズマブ併用群のOS中央値12.8ヶ月は、IMpower133試験のアテゾリズマブ群で報告された12.3ヶ月とほぼ同等であった。これは、本研究の患者群が、ECOG PS 2以上の患者 (24%) や高齢者 (65歳以上が約50%) など、臨床試験の厳格な組み入れ基準では除外されがちな多様な背景を持つにもかかわらず、全体として有意なOS改善が維持されたことを示しており、実臨床におけるアテゾリズマブの有用性を強く支持する。

先行研究との違い: 本研究は、IMpower133試験のような厳格な臨床試験とは異なり、実臨床におけるより多様な患者集団を対象とした点で新規性がある。特に、ECOG PS 2の患者群ではアテゾリズマブ追加によるOS利益が消失した (5.9ヶ月 vs 6.3ヶ月) ことは、不良なPSの患者が免疫療法から十分な利益を得られない可能性を示唆しており、患者選択の重要性を浮き彫りにした点で、これまでの臨床試験では十分に評価されていなかった側面を明らかにした。また、化学療法単独群のOS中央値が7.1ヶ月と、IMpower133試験の対照群 (10.3ヶ月) より低かったことは、両群間の未記録の交絡因子(例えば、より不良なPSの患者が含まれていた可能性)や集団背景の差異が存在する可能性を示唆しており、今後の検討課題である。

新規性: 本研究で初めて、多変量解析において胸部放射線療法 (tRT) がOS改善の独立した予後因子 (HR 0.33, 95% CI 0.13-0.88, p=0.03) として示された点は新規の知見である。これは、ES-SCLCにおけるtRTの意義について新たな議論を提起するものであり、免疫療法と放射線療法の相乗効果の可能性を示唆する。tRT群の患者は非tRT群よりも遠隔転移負荷が少ない傾向にあった (M1c: 29% vs 60%) ため、選択バイアスが存在する可能性は否定できないが、免疫療法時代におけるtRTの役割をさらに探求する合理的根拠を提供する。

臨床応用: 本知見は、ES-SCLC患者に対するアテゾリズマブ併用療法が、臨床試験で示された有効性を実臨床環境でも維持することを示し、その臨床応用を後押しするものである。特に、高齢者や一部のECOG PS不良患者にも治療選択肢として考慮できる可能性を示唆する。しかし、AEによる治療中断率がアテゾリズマブ群で有意に高かった (32% vs 15%) 点は、IMpower133試験でのAE中断率 (11%) より顕著に高く、実臨床での毒性管理とモニタリングの重要性を改めて強調する。irAEの半数が永続的な治療中止につながったことは、免疫関連毒性に対する早期認識と適切な介入が臨床現場で不可欠であることを示唆する。

残された課題: 今後の検討課題として、tRTと化学免疫療法の最適なシーケンスや、特定の患者サブグループ(特にECOG PS不良患者)における免疫療法の真の利益を前向きに検証する必要がある。本研究の主なlimitationは、小規模なサンプルサイズ (n=67)、単一州のデータであること、化学療法群の無作為サンプリングによる潜在的な選択バイアス、および多数のPS未記録例 (50%) が存在することである。これらの限界により、結果の一般化には注意が必要である。しかし、カナダ全土と同様の人口統計を持つ単一支払者医療制度の州からのデータであるため、一定の代表性はあると考えられる。

方法

本研究は、カナダ・アルバータ州のGlansLook肺がん研究 (GLR) データベースから得られたSCLC患者データを対象とした後方視的解析である。GLRデータベースは、University of Calgary研究倫理委員会 (HREBA.CC-16-0574) の承認を得ており、アルバータ州で肺がんと診断または治療を受けた成人患者のデータを収集している。患者データは、アルバータ州がん登録およびアルバータ州保健サービス薬局システムを通じて特定され、詳細な臨床情報はカルテレビューによって収集された。

対象患者とコホート構成: アテゾリズマブ群には、2017年1月1日から2019年12月31日までにES-SCLCと診断され、ロシュOnCare特別アクセスプログラム (SAP) を通じて一次治療としてアテゾリズマブを開始した患者が含まれた。限局型SCLCに対する根治的治療歴のある患者は除外された。比較対照の化学療法群は、2018年にアルバータ州内で一次治療としてプラチナ-エトポシド単独化学療法を受けたES-SCLC患者132例から、Research Randomizerを用いて33例を無作為抽出した。これにより、両群間のベースライン特性における潜在的な交絡因子が回帰モデルによって調整されることを想定した。データカットオフ日は2021年5月21日であった。

データ収集と評価項目: 患者の人口統計学的特性、臨床的・病理学的特徴、治療内容、毒性、およびアウトカムデータが収集された。病期は、診断画像、コンサルテーションノート、病理報告書に基づき、American Joint Committee on Cancer (AJCC) 第8版TNM分類に従って評価された。併存疾患は、Charlson Comorbidity Indexリストおよびその他の関心のある併存疾患(自己免疫疾患、体重減少、上大静脈症候群、傍腫瘍症候群など)の有無に基づいて記録された。

主要評価項目は、一次治療開始からRECIST v1.1基準または臨床的進行、あるいは死亡までの期間として定義される無増悪生存期間 (PFS) と、一次治療開始からあらゆる原因による死亡までの期間として定義される全生存期間 (OS) であった。副次評価項目として、一次治療中に発生した有害事象 (AE) をCommon Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v5.0基準に基づき評価した。AEは、最終一次治療投与後90日目までを対象とし、治療医によって記載された内容や、一次治療の変更(レジメン、用量、スケジュール変更)に関する記録、異常な検査値報告書から特定された。重篤な有害事象 (SAE) は、生命を脅かす、死亡に至る、入院または入院期間の延長、日常生活機能の著しい障害、先天性欠損、またはこれらの結果を防ぐための介入(例:一次治療レジメンまたは用量変更、中断/中止、ステロイドやホルモン補充療法などの薬剤投与)と定義された。免疫関連有害事象 (irAE) は、治療医によって記載されたもの、または一次治療に関連すると判断されステロイド治療を必要とした事象として記録された。

統計解析: PFSおよびOSはKaplan-Meier法を用いて推定され、群間比較にはlog-rank検定が用いられた。生存アウトカムの予測因子を調査するため、多変量Cox比例ハザードモデルが適用され、年齢、ECOG PS、転移部位、脳転移、AE、予防的頭蓋照射 (PCI)、二次治療などの関連する人口統計学的および臨床的因子が共変量として調整された。統計的有意水準はp値0.05未満と定義された。解析はSPSS Statistics for Windows (v27.0; IBM SPSS, Armonk, NY) を用いて実施された。