• 著者: Dingemans A-MC, Früh M, Ardizzoni A, Besse B, Faivre-Finn C, Hendriks LE, Lantuejoul S, Peters S, Reguart N, Rudin CM, De Ruysscher D, Van Schil PE, Vansteenkiste J, Reck M
  • Corresponding author: ESMO Guidelines Committee, ESMO Head Office, Via Ginevra 4, CH-6900 Lugano, Switzerland
  • 雑誌: Annals of Oncology
  • 発行年: 2021
  • Epub日: 2021-04-20
  • Article種別: Review
  • PMID: 33864941

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は肺癌の中でも極めて攻撃的な生物学的特性を持つ高悪性度神経内分泌腫瘍であり、初期の化学療法 (ChT) や放射線療法 (RT) に対する感受性は高いものの、早期に治療抵抗性を獲得することから 5 年生存率は 10% 未満にとどまる。SCLC の疫学動向に関して、Govindan et al. JClinOncol 2006 の報告によれば、米国および欧州における発生率は近年減少傾向にあるが、依然として全肺癌の約 15% を占め、欧州では人口 10,000 人あたり 1-5 人の有病率を持つ孤児病 (orphan disease) に指定されている。また、高齢患者の割合は増加しており、70 歳以上の患者比率は 1975 年の 23% から 2010 年には 44% へと上昇している。

CT スクリーニングによる早期発見の試みもなされてきたが、SCLC の急速な発育速度に起因してスクリーニング間隔の間に発生する中間期癌が多く、生存率の改善には寄与しないことが複数の臨床試験で示されている。病期分類においては、従来の限局型 (limited disease) および進展型 (extensive disease) という単純な二分法から、予後予測能がより高い TNM 第 8 版分類への移行が推奨されている。しかし、臨床試験の適格基準や実臨床の意思決定においては依然として限局型・進展型の分類が広く用いられており、治療戦略の選択において混乱が生じやすい。

特に、限局型 SCLC に対する同時化学放射線療法 (CRT) の最適な照射スケジュールや、進展型 SCLC における免疫チェックポイント阻害薬の統合方法、さらには再発時における治療選択肢の優先順位については、多くの臨床的課題が未解明のままであった。これまでのガイドラインでは、新規治療薬のエビデンス統合が不十分であり、実臨床における標準治療の確立に向けた知見が不足していた。本ガイドラインは、診断、病期分類、初期治療、再発時治療、およびフォローアップに至る包括的な推奨事項を提示し、エビデンスの不足している領域を明確にすることを目的として策定された。

目的

本ガイドラインの目的は、SCLC の診断、治療、およびフォローアップに関する最新の臨床実践指針を提供し、エビデンスに基づいた治療選択を標準化することである。具体的には、TNM 第 8 版に基づく正確な病期分類ワークアップの推奨、限局型 SCLC に対する同時化学放射線療法における最適な放射線照射スケジュール (1日2回照射 vs 1日1回照射) の提示、および進展型 SCLC に対する 1 次治療としての PD-L1 阻害薬併用化学療法の位置付けを明確にすることである。さらに、予防的脳照射 (PCI) の適応基準、再発期における topotecan や新規薬剤 lurbinectedin の推奨グレード、および EGFR 遺伝子変異陽性肺腺癌から SCLC への形質転換 (transformation) 例に対する治療指針を確立し、実臨床における治療成績向上と生存者ケアの最適化を目指す。

結果

限局型 SCLC に対する同時化学放射線療法の至適化: 限局型 SCLC (stage I-III) に対する標準治療は、cisplatin + etoposide (cisplatin 60-80 mg/m² day 1、etoposide 100-120 mg/m² days 1-3、3 週間ごと) と同時胸部放射線療法の併用である。CONVERT 試験 (Table 2) では、45 Gy b.i.d. (30 分割、3 週間) と 66 Gy o.d. (33 分割、6.5 週間) を比較し、2 年 OS 率は b.i.d. 群 56% vs o.d. 群 51%、5 年 OS 率は b.i.d. 群 34% vs o.d. 群 31% であり、統計的有意差は認められなかった。しかし、歴史的データ Turrisi et al. NEnglJMed 1999 と比較して、現代の 3D-CRT や強度変調放射線治療 (IMRT) 技術を用いることで毒性は大幅に低減しており、grade 3-4 の食道炎発生率は両群ともに 19%、grade 3-4 の放射線肺炎は b.i.d. 群 3% vs o.d. 群 2% であった。したがって、45 Gy b.i.d. スケジュールが標準治療として強く推奨される。

進展型 SCLC における PD-L1 阻害薬併用療法の生存ベネフィット: 進展型 SCLC (stage IV) の 1 次治療において、免疫チェックポイント阻害薬の併用が新たな標準治療として確立された。IMpower133 試験 (Table 3) では、atezolizumab + carboplatin + etoposide 群 (n=201) が placebo + ChT 群 (n=202) と比較して生存期間を有意に延長し、中央値 OS は 12.3 vs 10.3 ヶ月、HR 0.70 (95% CI 0.54-0.91, p=0.0069) であった Horn et al. NEnglJMed 2018。18 ヶ月生存率は atezolizumab 群 34% vs placebo 群 21% であった Liu et al. JClinOncol 2021。また、CASPIAN 試験 (Table 3) において、durvalumab + platinum + etoposide 群は ChT 単独群と比較して、中央値 OS 12.9 vs 10.5 ヶ月、HR 0.75 (95% CI 0.62-0.91, p=0.0032) と有意な改善を示した Paz-Ares et al. Lancet 2019。これに対し、KEYNOTE-604 試験における pembrolizumab 併用は、PFS を有意に改善したものの (HR 0.75)、OS の有意差閾値には達しなかった (HR 0.80, 95% CI 0.64-0.98, p=0.0164) Rudin et al. JClinOncol 2020

再発時治療における topotecan と lurbinectedin の位置付け: 再発 SCLC に対する第 2 選択肢として、欧州で唯一承認されている topotecan は、プラチナ感受性再発 (治療終了後 3 ヶ月以上の無治療期間である TFI [treatment-free interval] あり) で奏効率 20-30%、プラチナ耐性再発 (TFI 3 ヶ月未満) で 15% の有効性を示す。経口 topotecan はベストサポーティブケア (BSC) 単独と比較して、中央値 OS を 25.9 vs 13.9 週へと有意に延長した (p=0.0104) OBrien et al. JClinOncol 2006。新規薬剤である RNA ポリメラーゼ II 阻害薬 lurbinectedin は、第 II 相試験 (n=105) において全体で 35.2% の奏効率 (プラチナ感受性例で 45.0%、プラチナ耐性例で 22.2%)、中央値 OS 9.3 ヶ月 (95% CI 6.3-11.8) を示し、新たな治療選択肢として推奨される (Table 4)。

予防的脳照射 (PCI) および外科的切除の役割: 限局型 SCLC で初期治療後に完全奏効 (CR) を得た患者に対する PCI (25 Gy/10 分割) は、脳転移発生率を低下させ、3 年 OS 率を 5.4% 絶対値で改善する。一方、進展型 SCLC における PCI の意義については、日本の第 III 相試験において、化学療法後に脳 MRI で転移のないことを確認した症例 (n=224) を対象とした結果、PCI 群と MRI 経過観察群との間で OS に有意差は認められなかった (p>0.05) Takahashi et al. LancetOncol 2017。外科的切除については、臨床病期 I-II 期 (cT1-2N0M0) の極めて早期の症例において、縦隔リンパ節生検による陰性確認を前提として、術後補助化学療法を組み合わせるマルチモダリティ治療の一部として考慮され得る。

EGFR変異陽性肺腺癌からの形質転換 (transformed SCLC): EGFR 阻害薬治療中に抵抗性を獲得し、SCLC へ組織型が形質転換する現象は 3-5% の頻度で発生する Yu et al. ClinCancerRes 2013。これら形質転換後の腫瘍に対する治療として、プラチナ製剤 + エトポシド併用療法は 54% の奏効率を示し、タキサン系薬剤単剤は 50% の奏効率を示す一方、免疫療法単剤での奏効例は認められておらず、化学療法が優先される。

追加の臨床データと詳細なサブグループ解析: 臨床試験 STIMULI (n=150) では、限局型 SCLC に対する同時化学放射線療法後の nivolumab + ipilimumab 併用による維持療法が検証されたが、生存期間の有意な改善は示されなかった。また、診断時の血液検査における CBC (complete blood count) スクリーニングや LDH 値の上昇、低ナトリウム血症 (SIADH 合併例) は、いずれも治療予後を悪化させる独立した不良因子であることが多変量解析により確認されている。

考察/結論

先行研究との違い: 本ガイドラインは、進展型 SCLC の 1 次治療において、従来の標準治療であったプラチナ製剤 + エトポシド併用療法に対し、PD-L1 阻害薬 (atezolizumab または durvalumab) を上乗せする治療法を最上位の推奨 (レベル I, A) として位置付けた点で、これまでの ESMO ガイドラインと決定的に異なる。過去数十年間にわたり生存ベネフィットの向上が見られなかった SCLC 治療において、免疫療法の統合による生存期間の有意な延長を大規模第 III 相試験データに基づき体系的に推奨した。

新規性: 本ガイドラインでは、SCLC における新規治療薬 lurbinectedin の第 II 相試験成績を反映し、プラチナ耐性および感受性再発における新たな治療選択肢として新規に推奨に加えた。また、限局型 SCLC に対する CONVERT 試験の結果に基づき、1日2回照射 (45 Gy) と1日1回照射 (66 Gy) の生存ベネフィットが同等であることを示し、実臨床における照射スケジュールの柔軟な選択を可能にした。さらに、EGFR 変異陽性肺腺癌からの形質転換例に対する治療アプローチを初めて明記した。

臨床応用: 臨床現場において、進展型 SCLC かつ PS 0-1 の患者に対しては、禁忌がない限り atezolizumab または durvalumab を併用したプラチナダブレットを標準治療として開始すべきである。限局型 SCLC では、忍容性がある限り 45 Gy b.i.d. の同時化学放射線療法を早期 (第 1 または第 2 サイクル) に開始することが推奨される。再発時には、TFI に応じて topotecan や lurbinectedin、あるいは初回治療の rechallenge を選択するアルゴリズムが実臨床に直結する。

残された課題: 今後の検討課題として、免疫療法の効果を予測するバイオマーカーの同定が挙げられる。IMpower133 および CASPIAN 試験の解析では、PD-L1 発現や腫瘍遺伝子変異量 (TMB) の予測能が不十分であることが示されており、より精密な患者選択を可能にする指標の確立が急務である。また、限局型 SCLC における同時化学放射線療法への免疫療法の併用効果 (STIMULI 試験など) は未だ確立されておらず、最適な併用シーケンスの解明が必要である。さらに、高齢者や PS 不良患者における免疫療法の安全性データの蓄積、および PCI 施行時における高次脳機能低下を防ぐ海馬保護照射 (hippocampus-sparing) 技術の検証が今後の課題として残されている。

方法

本ガイドラインは、欧州臨床腫瘍学会 (ESMO) の標準操作手順書に従って作成された。多国籍の専門家パネルによって系統的な文献レビューが実施され、PubMed、Embase、Cochrane Library などの主要データベースから 2021 年 3 月までに発表された臨床試験データおよびメタアナリシスが抽出・評価された。新規治療法の臨床的有用性の評価には、ESMO-MCBS (ESMO-Magnitude of Clinical Benefit Scale) v1.1 が用いられ、承認薬のスコアリングが行われた。

エビデンスレベルおよび推奨グレードは、米国予防医療サービス対策委員会 (USPSTF) のシステムを改変した基準に基づき分類された。限局型 SCLC における同時化学放射線療法の評価では、1日2回照射 (b.i.d.) と1日1回照射 (o.d.) を比較した CONVERT 試験 (n=547) のデータが主要エビデンスとして用いられた。進展型 SCLC における 1 次治療としての免疫療法併用化学療法の評価では、atezolizumab を検証した IMpower133 試験 (n=403、NCT02763579) および durvalumab を検証した CASPIAN 試験 (n=539、NCT03043872) のランダム化比較試験 (RCT) データが統合された。

再発治療の評価においては、topotecan の第 III 相試験、および lurbinectedin の第 II 相バスケット試験 (n=105) の成績を検証した。統計解析手法としては、生存解析における Kaplan-Meier 法、群間比較における log-rank テスト、およびハザード比 (HR) 算出のための Cox 比例ハザード回帰モデル (Cox regression) が用いられた臨床試験データを精査した。