- 著者: Tsuchiya R, Suzuki K, Ichinose Y, Watanabe Y, Yasumitsu T, Ishizuka N, Kato H
- Corresponding author: Tsuchiya R (Thoracic Surgery Division, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery
- 発行年: 2005
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article (多施設前向き第II相試験)
- PMID: 15867769
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は肺癌全体の約20%を占め、その悪性度の高さから診断時には既に遠隔転移を伴うことが多い疾患である。治療がなければ、SCLCの生存期間中央値はわずか2〜4ヶ月と極めて短い。非小細胞肺癌 (NSCLC) とは異なり、SCLCに対する外科的切除の役割は長らく議論の的であった。1966年のMedical Research Council試験では、SCLCの原発治療として放射線療法が外科的介入よりも優れているとされ、外科手術の適応は限定的であるとの見解が主流であった。しかし、化学療法の進歩に伴い、特に限局型SCLC (LD-SCLC) における外科的切除の意義が再評価されるようになった。
過去の後方視的報告では、限局型SCLC、特にStage Iの患者に対する外科的切除が良好な成績を示す可能性が示唆されていた。例えば、Hansen et al. (1978) やDavis et al. (1993)、Shepherd et al. (1983)、Shields et al. (1982) らの研究では、Stage I SCLC切除例において5年生存率が26%から61%という幅で報告された。これらの報告は外科的切除の有効性を示唆するものであったが、使用された化学療法レジメンが多様であり、標準化された術後補助化学療法の前向きなエビデンスが不足していた。また、SCLCは局所再発率が高いことが知られており、外科的切除単独では長期生存が困難であるという課題も存在した。
1991年当時、シスプラチンとエトポシド (PE) の併用療法は、進展型SCLCを含むSCLCの標準化学療法として確立されていた (Fukuoka et al. 1991)。このPEレジメンを術後補助療法として用いることで、完全切除された限局型SCLC患者の予後を改善できる可能性が考えられた。しかし、この治療戦略の実現可能性、安全性、そして有効性を前向きに評価した大規模な臨床試験は存在せず、この領域には明確な知識のギャップが残されていた。特に、標準化された化学療法を用いた前向き試験の実施が強く求められていた。本研究は、このギャップを埋めることを目的として、完全切除SCLCに対する術後補助PE療法の実現可能性と有効性を評価する前向き第II相試験として計画された。この領域は、以前の研究では十分なデータが不足しており、特に標準化された治療プロトコルを用いた大規模な前向き試験は未解明な点が多かった。
目的
本研究の目的は、完全切除された病理学的Stage IからIIIaの小細胞肺癌 (SCLC) 患者を対象に、術後補助化学療法としてシスプラチン (cisplatin) とエトポシド (etoposide) の併用療法 (PEレジメン) を施行した場合の実現可能性、安全性(毒性プロファイル)、および生存成績を前向きに評価することである。具体的には、この治療戦略がSCLC患者にとって忍容可能であり、かつ良好な生存プロファイルを示すかどうかを検証することを主要な目標とした。また、病理学的ステージ別の生存成績や再発パターンを詳細に分析し、外科的切除と補助化学療法の組み合わせがSCLCの限局期において有効な治療選択肢となり得るかを検討することも目的とした。この第II相試験は、完全切除SCLCに対する術後補助化学療法の標準化されたプロトコルを確立するための重要なステップとして位置づけられた。
結果
患者背景と病理ステージの乖離: 登録された61例の患者背景は、男性が49例 (80%)、年齢中央値は64歳 (範囲22〜74歳) であった (Table 1)。組織型は、WHO分類に基づき、oat cell型が9例、intermediate型が45例、combined型が7例であった。臨床ステージでは、Stage Iが44例 (IA 27例、IB 17例)、Stage IIが9例、Stage IIIAが8例であった。しかし、病理ステージでは、Stage Iが35例 (IA 23例、IB 12例)、Stage IIが8例、Stage IIIAが18例と、臨床ステージと病理ステージの間で大きな乖離が認められた。特に、臨床Stage Iと診断された44例のうち、病理学的にもStage Iであったのは33例 (75%) に過ぎず、6例 (14%) が病理学的Stage IIIAにアップステージされていた (Bowker検定 p=0.011) (Table 6)。この乖離は、術前の縦隔リンパ節評価の困難さを示唆するものであった。
治療遵守性と安全性: 全61例中、42例 (69%) が計画された4コース全ての補助化学療法を完遂した (Table 2)。残りの19例が治療を完遂できなかった理由は、病勢進行が3例、有害事象が7例、患者の拒否が8例、肺炎による死亡が1例であった。この肺炎による死亡は化学療法とは関連がないと判断された。治療関連死亡は0例であり、本治療戦略の忍容性は良好であった。化学療法関連のGrade 4毒性は9例 (15%) に認められた (Table 3)。具体的には、白血球減少が4例 (6.5%)、血小板減少が2例 (3.2%)、悪心・嘔吐が2例 (3.3%)、心不全が1例 (1.7%) であった。
全体生存成績: 追跡期間中央値65ヶ月の時点で、61例中35例が生存していた。全患者の推定3年生存率は61%、5年生存率は57%と良好な長期成績を示し、生存期間中央値 (mST) は未到達であった (Figure 1)。これは、完全切除SCLCに対する術後補助化学療法の前向き試験として、当時の既報エビデンスと比較して優れた成績であった。
病理ステージ別・臨床ステージ別生存: 臨床ステージ別の5年生存率は、Stage IAで66%、Stage IBで65%、Stage IIで56%、Stage IIIAで13%であった (p=0.02) (Figure 2)。臨床Stage IIIAの患者のみが顕著に予後不良であり、生存期間中央値は530日 (約17.7ヶ月) であったのに対し、他の臨床ステージ群では生存期間中央値は未到達であった。病理ステージ別の5年生存率は、Stage IAで73%、Stage IBで67%、Stage IIで38%、Stage IIIAで39%であった (Figure 3)。特に病理学的Stage IAおよびIBの患者で非常に良好な成績が得られた。病理学的Stage IAの患者の5年生存率は73% (95% CI 51-87%)、Stage IBの患者では67% (95% CI 35-86%) であった。病理学的Stage IIIAにアップステージされた症例でも、5年生存率39%という比較的良好な結果が示されたことは注目に値する (Table 4)。
再発パターン: 再発は全患者の26例 (43%) に認められた (Table 5)。局所再発は6例 (10%) であり、内訳は縦隔リンパ節が4例、気管支断端が2例であった。局所再発は病理学的Stage IIIAの患者でより頻繁に認められる傾向があり (22% vs Stage I/IIの5〜8%)、気管支断端再発はStage IIIAの患者のみで観察された。遠隔再発は22例 (36%) に認められ、最も多かったのは脳転移で9例 (15%)、次いで肝転移が7例 (11%) であった。脳転移は病理学的Stage IAの患者でも4例 (17%) に認められた。骨転移は3例で、全て病理学的Stage IIIAの患者であった。この結果は、予防的全脳照射 (PCI) を施行しなかったにもかかわらず、早期ステージのSCLC患者においても脳転移が発生することを示している。
考察/結論
JCOG9101試験は、完全切除されたStage I〜IIIAのSCLC患者に対する術後補助PE化学療法4コースの実現可能性と有効性を評価した、初めての前向き多施設第II相試験である。本研究は、全体で5年生存率57%、3年生存率61%という良好な生存成績を示した。特に病理学的Stage IAおよびIBの患者では、それぞれ5年生存率73%および67%に達しており、根治的切除と標準化された補助化学療法の組み合わせが、特にStage I SCLCに対して非常に有力な治療戦略となり得ることを強く支持する結果である。
先行研究との違い: 先行の後方視的研究 (Shepherd et al. 1983; Shields et al. 1982) と比較して、本研究の5年生存率は同等かそれ以上であり、PEレジメンを用いた標準化された補助化学療法の有用性が前向きに確認された。これまでの研究が多様な化学療法レジメンを使用していたのに対し、本研究は標準化されたPEレジメンを用いた術後補助療法の有効性を前向きに示した点で新規性がある。
新規性: 本研究で初めて、完全切除SCLCに対する術後補助PE療法が、特に病理学的Stage Iの患者において優れた生存成績を達成することを前向きに実証した。病理学的Stage IIIAの患者では3年生存率39%と比較的良好な数値であったが、臨床Stage IIIAの患者では3年生存率13%と極めて不良であった。この臨床ステージと病理ステージの間の大きな乖離 (臨床Stage IIの患者のうち56%が病理学的Stage IIIAにアップステージされた) は、術前診断における正確なリンパ節評価の重要性を強調する。この結果は、術前縦隔鏡検査などのより詳細な術前評価が、治療戦略の決定において不可欠であることを示唆しており、これまでの診断プロセスに対する重要な課題を提示している。
局所再発率は全体で10% (Stage I/IIでは5〜8%) と比較的低く、術後放射線療法なしでも許容できるレベルであると考えられた。しかし、病理学的Stage IIIAの患者では局所再発率が22%と高かったことから、これらの患者群には術後縦隔照射が有益である可能性が示唆される。また、本試験では予防的全脳照射 (PCI) が施行されなかったにもかかわらず、病理学的Stage IAの患者でも17%に脳転移が認められた。これは、Auperin et alが完全寛解SCLC患者におけるPCIの有効性を報告したことと対照的に、早期ステージのSCLC患者においても脳転移のリスクが高いことを示しており、完全切除SCLC患者全例に対するPCIの適応を検討する必要があることを示唆する。
臨床応用: 本研究の臨床的意義は、完全切除SCLCに対する術後補助化学療法が良好な生存プロファイルを示し、特にStage Iの患者で優れた成績を達成することを初めて前向きに示した点にある。この治療戦略は、臨床Stage I SCLCに対する標準治療アームとして位置づけられる可能性がある。
残された課題: 本研究の最大の限界は、無対照の第II相試験デザインである点であり、化学放射線療法との直接比較は行われていない。しかし、限局型SCLCのStage I/IIの患者数が非常に少ないため、これらの集団で第III相試験を実施することは現実的ではないと著者らは述べている。今後の研究課題としては、より正確な術前病期診断法の確立と、個別化された術後補助療法の最適化が挙げられる。Noda et al. (2000) が同時期に報告したイリノテカンとシスプラチン (CPT-11+cisplatin) のPEレジメンに対する優越性を踏まえ、著者らは将来的にStage II/IIIA切除例へのCPT-11+cisplatinレジメンの応用を提唱している。
方法
対象患者: 1991年9月から1996年12月にかけて、日本の16施設から合計62例の患者が本第II相試験に登録された。うち1例は最終病理診断がSCLCから大細胞癌に変更されたため除外され、最終的に61例が解析対象となった。適格基準は、術後病理診断でSCLCと確認された患者、国際対がん連合 (UICC) のTNM分類に基づく病理学的Stage I、II、またはIIIAの完全切除例、ECOGパフォーマンスステータスが0または1、年齢が20歳から75歳、および十分な血液、腎、肝機能を有することであった。除外基準には、過去3ヶ月以内の心筋梗塞、肝硬変、および酸素療法を必要とする重度の心肺機能障害が含まれた。術前検査として、胸部、上腹部、脳のCTスキャン、気管支鏡検査、胸部単純X線、骨シンチグラフィー、全血球算定、血清生化学検査、および身体診察が実施された。一部の症例では術前縦隔鏡検査も行われた。全ての患者から書面によるインフォームドコンセントが得られた。
治療プロトコル: 手術は、肺葉切除または全肺摘除術を必須とし、Naruke et alのリンパ節マップに基づく完全な肺門・縦隔リンパ節郭清が推奨された。手術により完全切除が確認され、SCLCの病理診断が確定した後、患者は試験に登録された。術後補助化学療法は、シスプラチン100 mg/m² (day 1) とエトポシド100 mg/m² (day 1〜3) のPEレジメンを4週ごとに4コース施行した。薬剤投与量は、治療当日の血球数および腎機能に基づいて調整された。白血球数3000/µL未満または血小板数75,000/µL未満の場合、血球数が回復するまで化学療法は延期された。WHOグレード4の血液毒性が認められた場合、エトポシドの用量を75%に減量した。血清クレアチニン値が2.0 mg/dL以上または血中尿素窒素 (BUN) 値が30 mg/dL以上の場合、化学療法は永久に中止された。治療中の毒性評価のため、毎週少なくとも1回、全血球算定、血清生化学検査 (AST-ALT、BUN、血清クレアチニン)、胸部単純X線、および尿検査が実施された。毒性評価はWHO基準に基づいた。術後放射線療法は、再発が明らかになるまで施行しない方針であった。
フォローアップと再発定義: 患者は術後3ヶ月ごとに外来でフォローアップされ、胸部、上腹部、脳のCTスキャンおよび骨シンチグラフィーが6ヶ月ごとに実施された。再発部位は、初回再発時の臨床的、放射線学的、または組織学的基準に基づいて決定された。局所再発は、原発肺部位または肺門・縦隔リンパ節での再発と定義された。遠隔再発は、対側肺、骨、脳、肝臓、またはその他の胸腔外領域での再発と定義された。
統計解析: 本試験は前向き第II相試験としてデザインされた。主要評価項目は生存率の推定であった。サンプルサイズは30例と設定され、3年生存率が20%から50%へ有意に改善することを検出するために、片側α値0.025、β値0.10で90%の検出力を持つとされた。生存期間は、肺癌の外科的切除日から死亡日または最終追跡調査日までの月数と定義された。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて作成され、群間の比較にはログランク検定が用いられた。生存患者35例の追跡期間中央値は65ヶ月であった。本試験はUMIN000000001として登録された。