- 著者: Kenmotsu H, Niho S, Tsuboi M, Wakabayashi M, Ishii G, Nakagawa K, Daga H, Tanaka H, Saito H, Aokage K, Takahashi T, Menju T, Kasai T, Yoshino I, Minato K, Okada M, Eba J, Asamura H, Ohe Y, Watanabe S
- Corresponding author: Kenmotsu H (Division of Thoracic Oncology, Shizuoka Cancer Center, Japan); Watanabe S (Department of Thoracic Surgery, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-11-02
- Article種別: Original Article
- PMID: 33136471
背景
肺の神経内分泌腫瘍は、WHO(World Health Organization:世界保健機関)分類において小細胞肺がん(SCLC:small-cell lung cancer)、大細胞神経内分泌がん(LCNEC:large-cell neuroendocrine carcinoma)、定型カルチノイド、非定型カルチノイドの4種に分類される(Govindan et al. JClinOncol 2006)。このうち、SCLCとLCNECは高悪性度神経内分泌がん(HGNEC:high-grade neuroendocrine carcinoma)に包括され、極めて予後不良な疾患群として知られている。臨床病期I期の早期SCLCに対しては、外科的切除と術後補助化学療法の併用が生存率を改善することが後方視的研究から示唆されており(Rea et al. EurJCardiothoracSurg 1998)、完全切除後の標準補助化学療法としてエトポシド+シスプラチン(EP:etoposide plus cisplatin)療法が広く用いられてきた(Tsuchiya et al. JThoracCardiovascSurg 2005)。一方、進行期SCLCを対象とした第III相試験(JCOG9511)において、イリノテカン+シスプラチン(IP:irinotecan plus cisplatin)療法がEP療法に対して生存期間の有意な延長を示した(Noda et al. NEnglJMed 2002)。この知見から、切除後HGNECの術後補助療法においてもIP療法がEP療法を凌駕するのではないかという期待が寄せられたが、これを検証するランダム化比較試験は存在せず、エビデンスが不足していた。特に、術後補助療法における最適な化学療法レジメンは未確立であり、切除後の再発抑制におけるIP療法の優越性は未解明のままであった。このように、切除後HGNECに対する術後化学療法の最適な治療戦略に関する臨床的エビデンスが不十分であり、大規模な検証的試験による解決が望まれていた。
目的
本研究の目的は、病理学的病期I-IIIA期の完全切除肺高悪性度神経内分泌がん(HGNEC:high-grade neuroendocrine carcinoma)患者を対象として、術後補助化学療法におけるイリノテカン+シスプラチン(IP:irinotecan plus cisplatin)療法の有効性と安全性を、標準治療であるエトポシド+シスプラチン(EP:etoposide plus cisplatin)療法と直接比較し、主要評価項目である無再発生存期間(RFS:relapse-free survival)におけるIP療法の優越性を検証することである。また、副次評価項目として、全生存期間(OS:overall survival)、治療完遂率、有害事象、および再発パターンの評価を行い、切除後HGNECに対する最適な術後補助化学療法の標準治療を確立することを目指した。
結果
患者背景および治療完遂率の比較: 2013年4月から2018年10月までに、合計221例の患者が登録され、EP群に111例、IP群に110例がランダムに割り付けられた(ITT解析対象)。患者背景は両群間で均等に維持されており、年齢中央値はEP群65歳(範囲39-74歳)、IP群66歳(範囲39-74歳)であった。男性の割合はEP群84.7%(94/111例) vs IP群84.5%(93/110例)であり、喫煙者の割合はEP群100%(111/111例) vs IP群95.5%(105/110例)であった。組織型は、SCLCが78例(35%)、混合型SCLCが39例(18%)、LCNECが74例(33%)、混合型LCNECが30例(14%)であった。病理学的病期は、I期が119例(54%)、II期が64例(29%)、IIIA期が38例(17%)であった。治療完遂率(4サイクル完遂)は、EP群で87%(97/111例)であったのに対し、IP群では73%(80/110例)であり、EP群において有意に高かった(p=0.007、Table 1)。術後補助療法としての忍容性はEP群でより良好であることが示された。
主要評価項目(RFS)における優越性の未達成: 第2回中間解析時点(フォローアップ期間中央値24.1ヶ月)において、再発または死亡イベントはEP群で33例(30%)、IP群で34例(31%)に認められた。主要評価項目である3年RFS率は、IP群 69.0% vs EP群 65.4% (HR 1.076, 95% CI 0.666-1.738, p=0.619) であり、IP群のEP群に対するRFSの優越性は示されなかった(Fig 2A)。両群の生存曲線はほぼ重なり合っており、術後補助化学療法においてイリノテカンを追加する臨床的意義は確認されなかった。予測確率から優越性を証明できる可能性が極めて低い(15.9%)と判断されたため、データ安全性モニタリング委員会の推奨に基づき、試験は無効中止(futility termination)となった。
組織型別および病期別のサブグループ解析: 組織型別のサブグループ解析において、SCLC(混合型を含む、n=117)における3年RFS率は IP群 66.5% vs EP群 65.2% (HR 1.029, 95% CI 0.544-1.944) であった(Fig 4A)。LCNEC(混合型を含む、n=104)における3年RFS率は IP群 72.0% vs EP群 66.5% (HR 1.072, 95% CI 0.517-2.222) であった(Fig 4B)。いずれの組織型においてもIP群の優越性は認められなかった。一方、病理学的病期別の解析では、I期(n=119)においてIP群が良好な傾向を示したのに対し(HR 0.641, 95% CI 0.288-1.426, Fig 4C)、II-IIIA期(n=102)ではEP群が良好な傾向を示した(HR 1.487, 95% CI 0.806-2.740, Fig 4D)。年齢別(70歳未満 vs 70歳以上)やECOG PS別(0 vs 1)の解析でも、IP群の明確な優越性を示すデータは得られなかった(Fig 3)。
全生存期間(OS)および再発パターンの解析: OSデータは解析時点で未成熟であったが、死亡例はEP群で13例、IP群で19例であり、3年OS率は IP群 79.0% vs EP群 84.1% (HR 1.539, 95% CI 0.760-3.117, p=0.228) であり、両群間に有意差は認められなかった(Fig 2B)。再発を来した62例における再発部位の分布は両群で類似しており、局所再発はEP群10例(31%) vs IP群8例(27%)、骨転移はEP群4例(13%) vs IP群5例(17%)であった。脳転移による再発はEP群で15例(47%)、IP群で15例(50%)と最も頻度が高かった。この高い脳転移再発率は、切除後HGNECにおける脳転移制御の重要性を浮き彫りにした。
有害事象および安全性の評価: 安全性評価対象となった218例(EP群109例、IP群109例)において、毒性プロファイルは両群で大きく異なっていた(Table 2, Table 3)。血液毒性において、Grade 3-4の好中球減少症はEP群で97%(105/108例)に認められ、IP群の36%(39/109例)と比較して有意に高頻度であった(p<0.001)。これに伴い、Grade 3-4の発熱性好中球減少症もEP群で20%(22/109例)に達し、IP群の4%(4/109例)と比較して高頻度であった。一方、非血液毒性においては、Grade 3-4の食欲不振(EP群6% vs IP群11%)および下痢(EP群1% vs IP群8%)がIP群でより多く観察された。なお、IP群において1例(1%)の治療関連死(気管出血による死亡)が報告された。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究は、進行期SCLCにおいてIP療法がEP療法に対して生存期間の優越性を示したJCOG9511試験(Noda et al. NEnglJMed 2002)の知見と異なり、完全切除後の術後補助化学療法においてはIP療法がEP療法に対してRFSを改善しないことを示した。これは、進行期肺がんで有効であった化学療法レジメンが、必ずしも術後補助療法の臨床現場において優越性を示すわけではないという、非小細胞肺がん(NSCLC)を対象とした先行研究(Wakelee et al. LancetOncol 2017、Kenmotsu et al. JClinOncol 2020)と同様の対照的な結果である。
新規性: 本研究は、完全切除された肺HGNEC(SCLCおよびLCNEC)患者に対する術後補助化学療法として、IP療法とEP療法を直接比較した世界で初めてのランダム化第III相試験である。これまで、切除後HGNECに対する術後補助化学療法の標準治療は、単アームの第II相試験(Tsuchiya et al. JThoracCardiovascSurg 2005)に基づくEP療法のみであり、より強力なレジメンの優越性を検証した第III相試験はこれまで報告されていない。本研究により、術後補助療法におけるIP療法の位置づけが明確に否定されたことは、学術的にも極めて新規性が高い。
臨床応用: 本試験の結果から、完全切除された肺HGNEC患者に対する術後補助化学療法においては、EP療法が引き続き標準治療として位置づけられるべきであることが臨床的に示された。臨床的意義として、EP療法は骨髄抑制(好中球減少症や発熱性好中球減少症)の頻度が高いものの、治療完遂率は87%と良好であり、管理可能であることが再確認された。一方、IP療法は下痢や食欲不振などの消化器毒性により完遂率が73%に留まり、術後補助療法としての忍容性に課題があることが示された。
残された課題: 今後の課題(limitation)として、本試験は第2回中間解析で早期終了したため、フォローアップ期間が中央値24.1ヶ月と比較的短く、OSデータが未成熟である点が挙げられる。また、再発例の約半数(EP群47%、IP群50%)に脳転移が認められたことから、切除後HGNECにおける予防的全脳照射(PCI:prophylactic cranial irradiation)の臨床的有用性の検証が今後の重要な研究方向性となる。さらに、HGNECの予後をさらに改善するためには、従来の細胞障害性抗がん薬だけでなく、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬を組み合わせた新規治療戦略の開発が必要である。
方法
本試験は、日本の57施設が参加した多施設共同オープンラベル・ランダム化第III相臨床試験(JCOG1205/1206試験)として実施された(Eba et al. JpnJClinOncol 2014)。適格基準は、組織学的に確認された肺HGNEC(SCLC、混合型SCLC、LCNEC、混合型LCNECを含む)の完全切除(R0切除、またはR1[is]、R1[cy1])を受け、術後28〜56日以内に登録可能な20〜74歳の患者とした。病理学的病期はUICC(Union for International Cancer Control)TNM分類第7版に基づくI-IIIA期とし、ECOG PS(Eastern Cooperative Oncology Group performance status:全身状態)が0または1であり、十分な臓器機能を有することを条件とした。
適格患者は、ウェブシステムを用いてEP群またはIP群に1:1の割合でランダムに割り付けられた。層別化因子は、性別(女性 vs 男性)、病理学的病期(I期 vs II-IIIA期)、組織型(SCLC vs LCNEC)、および施設とした。
EP群では、エトポシド 100 mg/m²をDay 1-3に、シスプラチン 80 mg/m²をDay 1に投与し、3週間を1サイクルとして最大4サイクル実施した。IP群では、イリノテカン 60 mg/m²をDay 1, 8, 15に、シスプラチン 60 mg/m²をDay 1に投与し、4週間を1サイクルとして最大4サイクル実施した。
主要評価項目は当初OSであったが、治療法の進歩に伴い死亡イベントの発生が予想を下回ったため、2019年3月のプロトコル改訂によりRFSに変更された。RFSはランダム化から再発または全死因死亡までの期間と定義された。統計解析は意図した治療群(ITT:intention-to-treat)集団を対象とし、生存曲線の推定にはKaplan-Meier法を用い、群間比較には層別log-rank検定を、ハザード比(HR)の算出にはCox比例ハザードモデル(Cox regression)を用いた。本試験は、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)のデータセンターによって管理され、臨床試験登録IDは jRCTs031180216(および UMIN000010298)である。