• 著者: Efstratios N. Koletsis, Christos Prokakis, Menelaos Karanikolas, Efstratios Apostolakis, Dimitrios Dougenis
  • Corresponding author: Dimitrios Dougenis (Cardiothoracic Surgery Department, University Hospital of Patras, School of Medicine, Rion, Patras 26500, Greece)
  • 雑誌: Journal of Cardiothoracic Surgery
  • 発行年: 2009
  • Epub日: 2009-06-25
  • Article種別: Review
  • PMID: 19589150

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は肺癌全体の約15〜20%を占め、急速な腫瘍増殖と早期遠隔転移のため診断時にはすでに広範な病変を有することが多い。化学療法および放射線療法が治療の礎石であるが、化学療法への高い初期反応率にもかかわらず、ほとんどの患者は数ヶ月以内に再発し、長期生存は困難である。現在の化学放射線療法による限局型SCLCの5年生存率は12〜17%に過ぎない (Jackman and Johnson, Lancet 2005)。歴史的に、1973年のMedical Research Council (MRC) 試験 (英国) が限局型SCLC患者における手術と放射線療法を比較し、4年生存率が手術群3%・放射線群7% (5年生存率は放射線群のみ5%) という結果を示したことから (Fox and Scadding, Lancet 1973)、以後SCLCに対する外科切除は標準治療から排除され、化学療法±放射線療法が主流となった。しかし、この試験は局所進行例を含み、現代のTNM病期分類概念が未確立、精密な術前病期診断 (胸部CT・PET-CT・脳MRI) もなされていない時代のデータに基づくものであったため、その結果には批判的な見方が存在する。同時期に、Green et al. (1969) によって化学療法 (シクロホスファミド vs プラセボ) の有効性が初めて示されたことで、化学療法主体の治療戦略が確立した。

近年、画像診断技術の進歩により、Stage I (T1-2N0M0) の早期SCLCが検出される頻度が増加している (SCLC全体の約5%)。これらの早期SCLC患者において、手術と術後化学療法を組み合わせた集学的治療による優れた生存アウトカムが、複数の後ろ向き研究で報告されるようになった。例えば、Shields et al. (1982) はVeterans Administration Surgical Oncology Groupの経験から、手術は限局期SCLC、特にT1N0で適応があると提唱した。また、Shepherd et al. (1983) はトロント大学の経験から、手術が局所再発の減少と生存改善をもたらすと報告している。しかし、これらの報告は非ランダム化試験であり、手術の役割については依然としてcontroversialな点が残されている。特に、化学放射線療法単独と比較して手術が優位であるか否かについては、前向き無作為化比較試験のデータが不足しており、その位置付けは未解明なままである。本総説は、これらの新しいエビデンスを統合し、早期SCLCに対する手術の役割を再評価し、現代のSCLC治療における手術の最適な位置付けを論じることを目的とする。本レビューは、SCLC治療における知識のギャップを埋めることを目指すものである。

目的

本レビューの目的は、小細胞肺癌 (SCLC) 治療における外科的切除の役割を再評価することである。具体的には、Stage I SCLCにおける手術切除 (+術後化学療法) の治療効果を包括的に評価し、化学放射線単独との比較、病理学的病期別の生存率、術後補助化学療法の役割、および手術適応の限界を明確にすることを目指す。これにより、現代のSCLC治療戦略において、特に早期SCLC患者に対する手術の最適な位置付けを再考し、集学的治療の一部としての手術の可能性を提示することを意図する。また、手術がSCLCの局所制御と長期生存にどのように貢献しうるか、その根拠を既存の臨床データに基づいて整理することも目的とする。

結果

MRC試験の歴史的意義と批判的再評価: 1973年のMRC試験 (Fox and Scadding, Lancet 1973) は手術と放射線療法を比較し、4年生存率が手術群3%・放射線群7%、10年生存率では手術群4%・放射線群3%でほぼ同等とされたことからSCLCへの手術が否定された。しかし本総説では、この試験が局所進行例を含む不均一な集団を対象としており、現代のTNM病期分類に即したStage I SCLC (T1-2N0M0) に特化した評価ではなかったと批判的に論じている。試験参加者は完全切除が行われていなかった場合も多く、手術の利益が過小評価されていた可能性がある。また同時期に、化学療法 (シクロホスファミド vs プラセボ) の有効性がGreen et al. (1969) によって示されたことで、化学療法主体の治療戦略が確立した経緯も整理されている。その後、Lung Cancer Study Group (LCSG) の前向き無作為化試験 Lad et al. Chest 1994 において、導入化学療法後の手術が化学療法単独に対して生存改善・局所再発率減少を示せなかったが、この試験ではT1N0患者が開胸術から除外されていたという重大な方法論的問題があったと著者らは指摘する。TNM病期分類の導入後に手術への関心が再燃し、後ろ向き研究で手術の有用性が次々と報告されてきた。Shields et al. (J Thorac Cardiovasc Surg 1982) はVeterans Administration Surgical Oncology Groupの経験から、手術は限局期SCLC、特にT1N0で適応があると提唱した。Shepherd et al. (J Thorac Cardiovasc Surg 1983) はトロント大学の経験から、手術が局所再発の減少と生存改善をもたらすと報告した。Brompton病院の経験 (Shah et al., Ann Thorac Surg 1992) ではStage Iの5年生存率57.1%が示された。

外科切除の根拠と適応:Anraku and Waddell (2006) の5つの正当化理由: 本論文はAnraku et al. SeminThoracCardiovascSurg 2006の総説を引用しつつ、SCLCに対して手術を考慮すべき5つの臨床的根拠を整理している。①小型末梢性肺結節が実際には典型・非典型カルチノイドの誤診であることがあり、外科的診断・切除が正確な診断をもたらす点。②SCLC+NSCLC成分の混合型腫瘍 (組織学的混合腫瘍) は化学放射線療法に対するNSCLC成分の感受性低下のため、外科的切除が有効とされる点。実際、SCLC初期報告例の最終組織でNSCLC成分が11〜25%に検出されており (Asamura et al., JCO 2006)、WHO新分類では切除SCLC全体の26.5%が「combined small cell carcinoma」に分類されている。③T1-2N0M0 SCLCではchemoradiotherapy単独の局所再発率が約50%に達するのに対し (Turrisi et al., N Engl J Med 1999)、R0切除後の局所再発コントロールがほぼ100%に達することが示されている (Eberhardt 2003)。また、5年・10年生存率はStage IIB-IIIAの集学的治療 (術後補助手術含む) で44%・41%という長期生存が確認されている。④救済手術 (salvage surgery) が化学放射線療法後の耐性腫瘍・局所再発に対する二次治療として有効な場合がある点。⑤SCLC根治的化学放射線療法後2年以上経過した後の新規肺腫瘍は二次原発NSCLCである可能性が高く、外科切除が推奨される点。

Stage I SCLCにおける手術+術後化学療法の成績:主要試験の統合: 後ろ向き研究・第II相試験が Stage I SCLCにおける良好な手術成績を示しており、以下の主要試験が本総説でまとめられている (Table 1)。

Brock et al. (J Thorac Cardiovasc Surg 2005、Johns Hopkins、n=82) では、Stage I SCLCの5年生存率58%が報告された (Stages II、III、IVはそれぞれ18%、23%、0%、p<0.001)。この試験の特徴は新時代のプラチナベース化学療法を用いた術後アジュバント療法を行っている点であり、現代的な集学的治療の成績として重要な位置づけを持つ。Brock et al.はこのデータから「SCLCへの手術の時機は到来した (its time has come) 」と結論付けた。

Tsuchiya et al. JThoracCardiovascSurg 2005 (JCOG9101、n=62) では、手術 (完全切除率61/62例) 後にcisplatin+etoposideを4サイクル投与し、病理学的病期別の5年生存率はStage I:73%、Stage II:38%、Stage IIIA:39%が報告された。局所再発率は10%であり、脳再発率は15%だったことからPCI (予防的全脳照射) の必要性も示唆された。Stage IAサブセットの5年生存率73%は、当時の化学放射線療法単独の26% (Turrisi et al. NEnglJMed 1999) を大幅に上回る成績であった。

Bischof et al. (Strahlenther Onkol 2007、n=39) では、手術+プラチナベース化学療法 (90%) ±胸部放射線療法 (41%) ±PCI (54%) を行い、中央生存期間47ヶ月、1・3・5年生存率97%・58%・49%が報告された。PCI施行群で脳転移フリー生存と全生存の改善傾向があり、pN1例では縦隔リンパ節への潜在的微小転移リスクがあるとして胸部照射を推奨した。

Fujimori et al. (Chest 1997、n=22、Stage I-IIIA対象) では、プラチナ+エトポシドによる導入化学療法 (2〜4サイクル) 後に手術を行い、切除率21/22例、全体の中央生存期間61.9ヶ月、3年生存率66.7% (Stage I-II)、Stage IIIAで42.9% (p=0.018) が示された。局所再発率は5%と極めて低く、集学的治療の有効性を示す代表例である。

Lim et al. (JTO 2008、Imperial College、n=59) では、純粋SCLC 43例・混合組織型16例を含む患者集団に対してprimary surgeryとして肺葉切除+縦隔リンパ節郭清を行い、5年生存率52% (Stage I-IIIにわたる全コホート) が報告された。術後補助療法を受けたのは16例 (27%) のみという比較的少ない補助療法にもかかわらずこの結果が得られており、手術自体の局所コントロール効果を強く示唆する。なおT・N・UICC Stageは生存の有意な予測因子でなかった点も注目される。

ノルウェー国家調査 (Rostad et al., Eur J Cardiothorac Surg 2004) の示唆:SCLC患者2442例の全国調査で、大多数が標準的化学療法・化学放射線療法のみを受けた中、38例が外科切除 (+25例でアジュバント治療) を受けた。Stage I SCLCにおける5年生存率は通常治療群11.3%に対し、手術±追加治療群で44.9%と4倍近い差が認められた。この結果から著者らは、末梢型のStage IA・IB SCLCにはより積極的に手術を検討すべきと提言した。なお化学療法単独・化学放射線療法のみの群と比較して手術群は選択バイアスが存在することには留意が必要である。

化学放射線療法との比較:現時点の標準治療との関係:プラチナ+エトポシド+同時胸部放射線療法 (BID 45 Gy/30fr) による限局型SCLCの最良成績は5年生存率22〜26% (Turrisi et al. NEnglJMed 1999; Sundstrom et al., JCO 2002) であるのに対し、手術+術後化学療法によるStage I SCLCの成績 (5年OS 49〜73%) は一貫してこれを上回る (Fig 1)。ただし前向き無作為化比較試験は存在せず、手術群は高度に選択されたバイアスが存在することに留意が必要である。Leo and Pastorino (Semin Surg Oncol 2003) も「手術はT1、T2/N0疾患において導入化学療法後のアジュバントとして提案可能」と結論付けており、Waddell and Shepherd (Thorac Surg Clin 2004) もStage Iへの手術の選択肢を支持している。

Stage II-III SCLCにおける手術:集学的治療の文脈での役割:Stage IIとStage IIIA (N2除外後) においては、導入化学放射線療法後に病理学的奏効が確認された場合に限り手術を検討することが推奨される。Granetzny et al. (Eur J Cardiothorac Surg 2006、n=95) の試験では、Group I (手術+アジュバント化学療法±放射線療法) とGroup II (導入化学療法→手術→アジュバント治療) の両戦略で中央生存期間がそれぞれ31.3ヶ月・31.7ヶ月 (N2陰性例) と良好な成績を示した一方、N2陽性例では12.4ヶ月と不良で、縦隔クリアランス確認の重要性が示された。Group IIの患者では、導入化学療法後に再縦隔鏡でN2病変消失が確認された場合のみ手術の恩恵が得られることが強調された。Eberhardt et al. (Cancer Control 2003) ではStage IB-IIIA対象の集学的治療で全体5年OS 39%・10年OS 35%、Stage IIB-IIIA手術例で5年OS 44%・10年OS 41%という長期生存が報告されている。Stage IIIAでのN2病変については、手術前の再縦隔鏡で縦隔クリアランスが達成されていない場合、手術の生存・局所制御への貢献は疑わしいと結論付けられている。

患者選択と術前評価の標準化:適切な患者選択のために、胸腹部CT・脳MRI・骨シンチグラフィーを含む精密な病期診断が不可欠であり、可能であればPET-CTも推奨される。手術適応例すべてに開胸前の縦隔鏡検査を行い、N2病変を除外することが強調されている。導入化学放射線療法後に手術を計画する場合は、初回縦隔鏡後に再縦隔鏡を行い、N2病変消失の確認が必須とされる。術中凍結切片でSCLCが確認された場合には、縦隔リンパ節を含む根治的切除を行うことが推奨される。bronchoplastic lobectomyをpneumonectomyより優先し、気管支断端の保護 (intercostal muscle flap等) を適切に行うことが重要とされている。

PCI (予防的全脳照射) の重要性と進行中の前向き試験:完全奏効例に対するPCIが脳転移発症率を半減させ、生存改善 (Auperin meta-analysis: LD-SCLC PCIで3年OS 21%対15%) をもたらすことが明示されており、手術+化学療法完了後の完全奏効例へのPCIが標準と位置付けられている。Tsuchiya et al. JThoracCardiovascSurg 2005でも脳再発率15%が報告されており、PCIによる脳転移予防の必要性を裏付けている。本レビューの作成時点 (2009年) で、SCLC手術を含む3件の多施設前向き試験が進行中であった (Table 2):①Essen Thoracic Oncology Trial (CT×3→同時HHRT (hyperfractionated radiotherapy) →手術→化学放射線療法)、②West Japan Thoracic Oncology Group Trial (2アーム:化学放射線療法±PCI→手術 vs 化学放射線療法単独±PCI)、③German Multicenter Randomized Trial (CT×5→手術±放射線療法+PCI vs CT×5+放射線療法+PCI)。これら試験の結果が現代における集学的治療での手術の位置付けをより明確にするとした。

考察/結論

本レビューは、SCLC治療における外科切除の役割を、1970年代の歴史的否定から2000年代の再評価まで包括的に論じ、Stage I SCLCに対する手術+術後化学療法 (±PCI) が5年OS 49〜73%と、化学放射線単独 (5年OS 22〜26%) を大幅に上回ることを示した。MRC 1973・Lad et al. Chest 1994が手術を否定した根拠は、現代のTNM病期分類・精密画像診断・術後化学療法が未確立の時代のデータに基づき、Stage I SCLCに特化した評価ではなかったという批判は妥当である。

先行研究との違い: 本研究は、単なる文献整理にとどまらず、Anraku et al. SeminThoracCardiovascSurg 2006の5つの手術正当化理由 (カルチノイド誤診・混合組織型・局所制御・サルベージ・二次NSCLC) を体系化した点で、これまでのレビューと異なり、手術の適応をより明確に提示している。また、患者選択・術前病期評価・縦隔評価の標準プロセスを明確化した点も本レビューの独自性である。

新規性: 本レビューは、過去の否定的な見解を覆し、特にStage I SCLCにおいて手術が集学的治療の一部として重要な役割を担う可能性を、複数の非ランダム化試験の統合データに基づいて新規に提示した。これにより、SCLC治療戦略における手術の再評価を促し、新たな治療パラダイムの構築に貢献する。

臨床応用: 本知見は、早期SCLC患者に対する治療選択肢として手術を積極的に考慮すべきであるという臨床的意義を持つ。NCC・ASCO・ESMOなどのガイドラインにおけるStage I SCLC手術推奨の学術的根拠を整理した重要文献であり、臨床現場での意思決定に影響を与える可能性が高い。特に、精密な術前病期診断と縦隔評価の重要性を強調した点は、患者選択の最適化に直結する。

残された課題: 今後の検討課題として、Stage II-IIIA SCLCにおける手術の役割を前向き試験で検証すること、sublobar resectionの位置付けを明確にすること、免疫療法時代における早期SCLCに対するアテゾリズマブ/デュルバルマブ補助療法 (ADRIATIC試験など) との統合、および術後放射線療法の役割の明確化が挙げられる。また、化学放射線療法と一次手術を比較する無作為化比較試験の実施は困難であるため、手術を多角的治療アプローチにどのように最適に組み込むかという問題は依然として残されている。

方法

本レビューは、小細胞肺癌 (SCLC) 治療における外科的切除の役割を評価するために実施された。著者らは、Medline (PubMed) およびEMBASEのデータベースを用いて、1980年1月から2009年1月第1週までの期間に公開された文献を検索した。検索の焦点は、SCLC患者における手術が生存アウトカムに与える影響を病期別に評価した後ろ向きコホート研究、第II相試験、および単一施設経験に置かれた。5年生存率を報告していない研究は除外された。前向き無作為化比較試験は、本テーマにおいて存在しないことが確認された。

検索された文献の書誌情報、および特定された研究やレビュー記事の参考文献リストも手作業で確認された。言語制限は設けられなかった。レビュー記事および胸部外科チームからの後ろ向きシリーズで、SCLCの外科的管理に焦点を当てたものが含まれた。エビデンスレベルの評価には、個々の研究デザインに基づいた一般的な評価基準が用いられたが、特定のGRADE (Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation) システムのような形式的な評価は実施されていない。

主要なレビュー対象文献には、以下のような研究が含まれる: Shields et al. (1982)、Shepherd et al. (1983, 1988, 1991、トロント大学)、Shah et al. (1992、ブロンプトン病院)、Lad et al. Chest 1994 (LCSG 802)、Lucchi et al. (1997)、Rea et al. EurJCardiothoracSurg 1998、Fujimori et al. (1997)、Eberhardt et al. (2003)、Rostad et al. (2004、ノルウェー国家調査)、Brock et al. (2005、ジョンズ・ホプキンス)、Granetzny et al. (2006)、Tsuchiya et al. JThoracCardiovascSurg 2005 (JCOG 9101)、Bischof et al. (2007)、Lim et al. (2008、インペリアル・カレッジ) などである。これらの研究は、SCLCの外科的管理の進化を示す代表的なものとして選定された。統計手法に関する具体的な記述は各研究に依存するが、本レビューでは主に生存率の比較と局所再発率の評価に焦点を当てた。Kaplan-Meier法による生存曲線解析やログランク検定が多くの研究で用いられている。