- 著者: Thomas H. Fink, Rudolf M. Huber, David F. Heigener, Corrina Eschbach, Cornelius Waller, Ernst U. Steinhauer, Johann C. Virchow, Frank Eberhardt, Hans Schweisfurth, Michael Schroeder, Thomas Ittel, Simone Hummler, Norbert Banik, Thomas Bogenrieder, Thomas Acker, Martin Wolf (on behalf of the Aktion Bronchialkarzinom [ABC] Study Group)
- Corresponding author: Martin Wolf (Department of Hematology and Oncology, Klinikum Kassel, Kassel, Germany)
- 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
- 発行年: 2012
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 22895140
背景
進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) は、その悪性度の高さから治療が困難な疾患であり、約30年間にわたりシスプラチンとエトポシド (PE) 併用療法が一次標準治療として世界的に確立されてきた。しかし、この標準治療における全生存期間 (OS) 中央値は8.4〜10.2か月、2年生存率は約5%と依然として低く、多くの患者が6〜8か月で再発を経験するため、より有効な治療法の開発が喫緊の課題であった。
トポテカンは、カンプトテシン誘導体のトポイソメラーゼI阻害剤であり、再発感受性SCLCに対する二次治療薬として、1.5 mg/m²を5日間連続で3週ごとに投与するスケジュールで承認されている。これまでの研究では、トポテカン単剤療法が、再発SCLCにおいてシクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン (CAV) 併用療法と比較して同等の奏効率、無増悪期間 (TTP)、およびOSを示すことが211例を対象とした試験で報告されている (vonPawel et al. JClinOncol 1999)。また、一次治療としてのトポテカン単剤の第II相試験では、39%の奏効率と39%の1年生存率が報告されている (Schiller et al. Ann Oncol 1996)。さらに、ECOGの試験では、PE療法後のトポテカン維持療法が無増悪生存期間 (PFS) を延長するものの、OSの改善には至らないことが示された (Schiller et al. JClinOncol 2001)。
一次治療におけるトポテカン併用療法の経験は限られていたが、Sorensen et al. (Ann Oncol 2000) はトポテカン1.5 mg/m² (day 1-5) とシスプラチン50 mg/m² (day 5) の併用療法を21例に投与し、良好な忍容性を示した。また、Seifart et al. (Lung Cancer 2005) による第II相試験では、トポテカン/シスプラチン併用療法の5日間投与と3日間投与を比較し、本試験で採用された用量(トポテカン1 mg/m² day 1-5 + シスプラチン75 mg/m² day 5)の安全性と、5日間投与で62%、3日間投与で60%という有望な奏効率が示された。これらの結果は、トポテカン併用療法がED-SCLCの一次治療において有効な選択肢となる可能性を示唆していた。
しかし、PE療法に代わる新たな標準治療を確立するためには、大規模なランダム化比較試験による検証が不可欠であった。特に、トポテカンとシスプラチン (TP) の併用療法が、既存の標準治療であるPE療法に対してOSで優越性または非劣性を示すか、そしてその安全性プロファイルが許容範囲内であるかについては、依然として未解明な点が多かった。また、トポテカンとエトポシド (TE) の併用療法の安全性と有効性についても、十分なデータが不足しており、これらのギャップを埋めることが本研究の重要な課題であった。
目的
本研究の主要な目的は、化学療法未施行の進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者において、トポテカンとシスプラチン (TP) 併用療法が、標準治療であるシスプラチンとエトポシド (PE) 併用療法と比較して、全生存期間 (OS) において優越性または非劣性を示すかを検証することであった。優越性が確立されない場合には、事前に定義された非劣性マージンに基づき非劣性を評価する計画であった。
副次的な目的としては、TP療法とPE療法の無増悪期間 (TTP)、奏効率 (ORR)、および毒性プロファイルを比較評価することであった。さらに、トポテカンとエトポシド (TE) 併用療法の安全性と有効性も評価対象に含まれていたが、独立データ監視委員会の勧告により、許容できない毒性のためTE群は早期に中止された。本試験は、ED-SCLCの初回治療における新たな標準治療の可能性を探ることを目指し、特にトポイソメラーゼI阻害剤であるトポテカンの役割を明確にすることを意図した。
結果
患者背景と治療施行: 2002年8月から2006年2月にかけて、合計795例の患者が登録され、ITT解析対象は680例(PE群334例、TP群346例)であった。TE群の92例は許容できない毒性のため早期に中止され、本解析からは除外された。両群間で患者の人口統計学的特性およびベースライン特性はバランスが取れていた (Table 1)。中央値年齢は約61歳、男性が約68%、ECOG PS 0-1が約83%を占めた。LDH上昇はPE群で40.4%、TP群で34.4%であった。全6サイクルを完了した患者の割合は、PE群で55.7%、TP群で55.2%とほぼ同等であった。用量減量はTP群で17.6%、PE群で14.1%に必要であった。治療遅延はTP群で8.4% vs PE群で2.7%と、TP群でより頻繁に発生した。シスプラチンからカルボプラチンへの置換はPE群で6.0%、TP群で2.9%であった。試験後の治療(化学療法、放射線療法、手術)は両群間で同等であった。
全生存期間 (OS) - 非劣性の達成: ITT解析におけるOS中央値は、TP群で44.9週 (95% CI 41.4-48.1週) vs PE群で40.9週 (95% CI 36.7-46.1週) であった (Table 2)。優越性検定では統計的有意差は認められなかった (ハザード比 [HR] 0.92, 95% CI 0.78-1.08, log-rank p=0.30)。しかし、非劣性検定 (per-protocol集団) では、TP群のOS中央値44.9週の99% CI下限が40.6週であり、PE群のOS中央値41.0週から10%減とした非劣性閾値36.9週を明確に上回ったため、TP群のPE群に対する非劣性が確認された (p<0.005)。1年生存率はTP群で39.7% vs PE群で36.1%であり、統計的有意差はなかった (p=0.29)。OSのKaplan-Meier曲線はFigure 2に示されている。
無増悪期間 (TTP) - TP群の優越性: TTP中央値はTP群で27.4週 (95% CI 25.4-29.6週) であったのに対し、PE群では24.3週 (95% CI 23.0-26.1週) であった (Table 3)。TP群はPE群と比較してTTPが有意に延長した (HR 0.81, 95% CI 0.688-0.952, log-rank p=0.01)。奏効持続期間もTP群で25.1週 vs PE群で22.1週と、TP群で優勢な傾向が認められた (HR 0.82, p=0.05)。TTPのKaplan-Meier曲線はFigure 3に示されている。
奏効率 (ORR) - TP群の優越性: 客観的奏効率 (ORR) は、TP群で55.5% (95% CI 50.3-60.7%) vs PE群で45.5% (95% CI 40.2-50.8%) であった (Table 3)。TP群はPE群と比較して有意に高い奏効率を示した (オッズ比 [OR] 1.493, 95% CI 1.104-2.021, Fisher p=0.01)。
血液毒性プロファイル: グレード3/4の血液毒性において、好中球減少症はPE群とTP群で同程度であったが、その分布に違いが見られた (Table 4)。グレード3好中球減少症はTP群で34.1% vs PE群で23.1% (p=0.002)、グレード4好中球減少症はTP群で27.2% vs PE群で37.7% (p=0.004) であった。発熱性好中球減少症および敗血症の発生率は両群で同程度 (約2-3%) であった。しかし、グレード3血小板減少症はTP群で36.7% vs PE群で11.7% (p<0.0001)、グレード4血小板減少症はTP群で6.9% vs PE群で2.4% (p=0.006) と、TP群で顕著に高頻度であった。同様に、グレード3/4貧血もTP群で27.5% vs PE群で14.1%とTP群で高く、赤血球輸血の施行率はTP群で58% vs PE群で26%と2倍以上の差を認めた (Table 5)。血小板輸血もTP群で9.8% vs PE群で4.2%とTP群で高かった。
治療関連死: 治療薬に関連する死亡 (SAE報告) は、TP群で5.2% vs PE群で2.7%と、TP群で約2倍の頻度で発生した。試験期間中の全死亡数は、PE群で282例 (84.4%)、TP群で283例 (81.8%) であり、近似していた。統計的有意差はなかった。
非血液毒性およびQOL: 非血液毒性は両治療群で同程度であり、統計的に有意な差は認められなかった (Table 4)。肺癌症状スコア (LCSS) のAUCスコアによるQOL評価では、TP群54.3±17.7 vs PE群51.9±17.2 (Wilcoxon p=0.19) と有意差はなかった。
考察/結論
本第III相試験は、進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) の初回治療において、トポテカンとシスプラチン (TP) 併用療法が、標準治療であるシスプラチンとエトポシド (PE) 併用療法に対し、全生存期間 (OS) で非劣性を示すことを明らかにした (OS中央値 TP 44.9週 vs PE 40.9週, HR 0.93, 99% CI下限 40.6週 > 非劣性閾値 36.9週)。さらに、TP群は無増悪期間 (TTP) (HR 0.81, 95% CI 0.688-0.952, p=0.01) および客観的奏効率 (ORR) (55.5% vs 45.5%, p=0.01) においてPE群に対する優越性を示した。
先行研究との違い: これらの有効性データは有望であるものの、TP群はPE群と比較して血液毒性プロファイルが著しく悪化している点が本研究の重要な知見である。特に、グレード3/4の血小板減少症はTP群で36.7%とPE群の11.7%に対し約3倍高く、貧血および赤血球輸血の必要性もTP群で58%とPE群の26%に対し約2倍高かった。また、治療関連死もTP群で5.2%とPE群の2.7%に対し約2倍の頻度で発生した。この毒性プロファイルは、先行研究であるEckardt et al. JClinOncol 2006による経口トポテカン/シスプラチンとPEの比較試験の結果とは異なり、経口トポテカン群ではOSがPE群と同等であったものの、TTPはPE群で有意に長く、毒性も経口トポテカン群でより悪かったと報告されている。本研究の静脈内投与TP療法は、経口TP療法よりも有効性で優位性を示したが、毒性の問題は依然として残る。
新規性: 本研究で初めて、大規模な第III相試験において、静脈内投与のトポテカン/シスプラチン併用療法がPE療法に対しOSで非劣性を示し、TTPとORRで優越することを示した。これは、トポテカンがED-SCLCの初回治療において一定の有効性を持つことを新規に実証したものである。しかし、同時に、その毒性プロファイルが標準治療としての採用を困難にすることも明らかにした。
臨床応用: 本研究の知見は、TP療法がPE療法に比して生存期間の明確な改善をもたらさず、毒性が高いことから、ED-SCLCの初回標準治療としてPE療法に置き換わる根拠は乏しいと判断されることを示唆する。この結論は、Lima et al. (2010) のメタアナリシス結果(TP vs EP全体でHR 0.99、差なし)とも整合する。したがって、PE療法は引き続きED-SCLCの一次治療の標準であり続ける。近年のIMpower133やCASPIAN試験により、エトポシド/プラチナ併用療法に免疫チェックポイント阻害剤(アテゾリズマブまたはデュルバルマブ)を加えたレジメンが新たな標準治療として確立されつつあるが、本研究は、その前段階における化学療法の最適化に関する重要な臨床的意義を持つ。トポテカンは、再発SCLCの二次治療における位置付けが確立されており、その役割は維持されると考えられる。
残された課題: 本研究の限界としては、(1) TE群が許容できない毒性により早期中止されたため、その有効性・安全性に関する十分なデータが得られなかったこと、(2) 後治療の標準化が不十分であり、二次治療の効果が生存解析に影響を与えた可能性が残されていること、(3) ECOG PS 2-3の高齢者や併存症を有する患者における結果の一般化可能性が限定されること、が挙げられる。今後の検討課題として、より良好な毒性プロファイルを持つ新規薬剤の開発や、免疫療法との併用によるさらなる治療成績の改善が期待される。
方法
本研究は、ドイツおよびオーストリアの84施設で実施された非層別オープンラベル多施設第III相無作為化試験である。本試験は、Declaration of Helsinki (1996年版) およびICH-GCPガイドラインに従って実施され、各施設の倫理委員会により承認された。対象は、組織学的または細胞学的に確診されたED-SCLC患者795例であった。患者はTP群 (n=358)、PE群 (n=345)、またはTE群 (n=92) に無作為に割り付けられた。しかし、TE群は独立データ監視委員会の勧告により、許容できない毒性のため92例で早期に中止され、そのデータは本解析には含まれず、別途報告されることになった。本報告では、TP群とPE群の比較に焦点を当てている。
適格基準は、18歳から75歳までの患者で、測定可能または非測定可能な病変を有し、ECOGパフォーマンスステータス (PS) が2未満、適切な骨髄、肝臓、腎臓機能が保持されていること、症候性脳転移がないこと、および重篤な併存疾患がないことであった。すべての患者は書面によるインフォームドコンセントを提供した。除外基準には、症候性脳転移、併存または既往の悪性腫瘍、活動性感染症、重篤な併存疾患、妊娠または授乳、治験薬に対する過敏症またはその他の禁忌、シスプラチン使用を妨げる程度の既存の聴覚障害または神経毒性が含まれた。
治療レジメンは以下の通りであった。TP群では、トポテカン1 mg/m²を静脈内投与でDay 1からDay 5まで、シスプラチン75 mg/m²を静脈内投与でDay 5に投与した。PE群では、シスプラチン75 mg/m²を静脈内投与でDay 1に、エトポシド100 mg/m²を静脈内投与でDay 1からDay 3まで投与した。いずれのレジメンも3週サイクルで、最大6サイクルまで施行された。病勢進行 (PD) が認められた患者は試験治療を中止し、必要に応じてCAV療法が二次治療として推奨された。
用量調整は、NCI-CTC v2.0に基づき、血液学的および非血液学的毒性に応じて実施された。白血球ナディアが1 × 10⁹/L未満、または血小板ナディアが30 × 10⁹/L未満の場合、トポテカンは0.25 mg/m²/日減量された。クレアチニンクリアランスが40-60 mL/minの場合、シスプラチンは減量され、40 mL/min未満の場合には、カルバプラチンに置換することが許容された (Calvert et al. J Clin Oncol 1989の式に基づき用量を推定)。
主要評価項目は、TP群のPE群に対するOSの優越性または非劣性であった。OSは、無作為化日から死亡日または最終追跡調査日までと定義された。サンプルサイズは、各群350例で、PE群のOS中央値8.5か月に対し、TP群で11.2か月と仮定した場合に、検出力80%、両側α=0.05で設計された。優越性が示されなかった場合、非劣性検定に切り替えられ、非劣性マージンはPE群のOS中央値の10%減 (36.9週) と定義された。非劣性判断には、両側99%信頼区間 (CI) が用いられた。層別因子は、ベースライン時のECOG PS (0-1 vs 2) と乳酸脱水素酵素 (LDH) レベル (正常 vs 高値) であった。
副次評価項目には、TTP、客観的奏効率 (ORR)、奏効期間、および毒性プロファイルが含まれた。TTPは、初回化学療法投与開始日から病勢進行または死亡が最初に確認された日までと定義された。奏効評価は、測定可能病変を有する患者において、WHO基準に基づき完全奏効、部分奏効、安定、進行に分類された。統計解析には、ログランク検定 (log-rank test)、ロジスティック回帰モデル、Cox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model)、Cochran Mantel Haenszel χ²検定、Fisher’s exact検定、またはWilcoxon検定が適用された。