- 著者: Eckardt JR, von Pawel J, Papai Z, Tomova A, Tzekova V, Crofts TE, Brannon S, Wissel P, Ross G
- Corresponding author: John R. Eckardt, MD (The Center for Cancer Care and Research, St. Louis, MO, USA)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2006
- Epub日: 2006-05-01
- Article種別: Original Article
- PMID: 16648504
背景
進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) は、小細胞肺癌の約70%を占め、診断時に遠隔転移を伴う予後不良の疾患である。2006年当時のED-SCLCに対する標準的な一次治療レジメンは、エトポシドとシスプラチン (PE) の併用療法であった。PE療法を用いた過去の第III相臨床試験では、中央全生存期間 (mOS) が8.4ヶ月から10.2ヶ月、2年生存率が約5%という成績が報告されていた (Roth et al. JClinOncol 1992、Sundstrom et al. J Clin Oncol 2002)。しかし、1990年代以降、SCLCの予後はほとんど改善しておらず、より有効な一次治療の開発が喫緊の課題であった。既存のPE療法に代わる、同等以上の有効性と良好な安全性プロファイル、そして利便性を兼ね備えた新規一次治療の確立が未開拓の課題として残されていた。
トポテカンは、カンプトテシン誘導体のトポイソメラーゼI阻害薬であり、再発SCLC(化学療法感受性)において、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン (CDV) に対する単剤での有効性が既に示されていた (vonPawel et al. JClinOncol 1999)。トポテカンとシスプラチン (TC) の併用療法を一次治療として評価した第II相試験(Quoix et al. Lung Cancer 2005、Seifart et al. Lung Cancer 2005)では、奏効率が60%から63%、mOSが8.0ヶ月から9.6ヶ月と報告され、その有効性が確認されていた。さらに、この併用療法は二次治療の第II相試験でも活性を示すことがArdizzoni et al. Clin Cancer Res 2003により報告されている。
経口トポテカン製剤は、静脈内投与製剤と同等の薬物動態と有効性を持つことがvon Pawel et al. J Clin Oncol 2001の第II相比較試験で示されており、外来での投与が可能であるため、患者の利便性向上が期待された。5日間連日経口投与のスケジュールでは、最大耐用量 (MTD) は2.3mg/m²/日であり、骨髄抑制が主要な用量制限毒性であった (Gerrits et al. Eur J Cancer 1998)。しかし、本試験のプロトコル修正前に、2.0mg/m²/日で治療された患者2例がGrade 4好中球減少に伴う腸炎で死亡し、さらに5例で治療関連死が疑われたことから、トポテカン用量を1.7mg/m²/日に減量する改訂が行われた。また、ECOG PSが境界的な患者 (PS 2/3) を除外する基準も設けられた。これらの修正により、経口トポテカン併用療法の安全性プロファイルを改善し、より多くの患者に適用できる可能性を探ることが重要であると考えられた。既存のPE療法に代わる、同等以上の有効性と良好な安全性プロファイル、そして利便性を兼ね備えた新規一次治療の確立が未開拓の課題として残されていた。特に、標準治療であるPE療法と比較して、トポイソメラーゼI阻害薬を含むレジメンの非劣性および優越性が確立されているわけではなく、この点が未解明であった。
目的
本試験の主要目的は、未治療の進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者を対象に、経口トポテカン1.7mg/m²/日 (Day 1-5) と静脈内シスプラチン60mg/m² (Day 5) を3週ごとに投与するレジメン (TC群) が、標準治療である静脈内エトポシド100mg/m²/日 (Day 1-3) と静脈内シスプラチン80mg/m² (Day 1) を3週ごとに投与するレジメン (PE群) に対して、全生存期間 (OS) において非劣性であることを検証することであった。本試験は、国際的な多施設共同無作為化第III相試験 (NCT00006068) として実施された。
副次目的としては、1年生存率、客観的奏効率 (ORR)、奏効期間、無増悪生存期間 (TTP)、安全性プロファイル、および患者の生活の質 (QOL) を評価し、両群間で比較することであった。QOLの評価には、Lung Cancer Symptom Scale (LCSS) が用いられた。これらの評価を通じて、経口トポテカン併用療法がED-SCLC患者にとって実行可能で有効な代替治療選択肢となりうるかを多角的に検討することを目的とした。特に、経口製剤の利便性が患者のQOLに与える影響も重要な評価項目であった。
結果
患者背景と治療実施状況: 本試験には合計784例の患者が無作為化され、TC群に389例、PE群に395例が割り付けられた。両群間で患者のベースライン特性は均等であり、平均年齢はTC群59.7歳、PE群59.6歳であった。男性が約79%、Stage IV (進展型) が約99%を占め、ECOG PS 0が21%、PS 1が66%、PS 2が12%であった。前治療歴(手術・放射線)は約41%の患者に認められた。経口トポテカンの服薬コンプライアンスは高く、TC群の346例 (90.8%) が処方量の90%以上を服用した。投与サイクル数の中央値はTC群で5サイクル (範囲1〜9)、PE群で6サイクル (範囲1〜8) であった。有害事象による試験離脱はTC群で14%、PE群で10%と、TC群でやや高かった。
全生存期間 (OS) ——非劣性の達成: 主要エンドポイントであるOSにおいて、TC群のmOSは39.3週 (95% CI 37.4〜42.4週) であり、PE群のmOS 40.3週 (95% CI 37.1〜43.6週) と統計学的に有意な差は認められなかった (p=.48)。OSのハザード比 (HR) はTC対PEで1.05 (95% CI 0.904〜1.236) であった (Figure 1)。1年OS率は両群ともに31% (95% CI 27〜36%) であり、1年OS率の差は-0.03% (95% CI -6.53〜6.47%) であった (Table 4)。この結果は、事前に設定された非劣性基準である絶対差10%以内を満たした。2年OS率はTC群6%に対しPE群4%であった。両群で試験後の治療を受けた患者の割合は同等であった (TC群62% vs PE群56%)。
無増悪生存期間 (TTP) と奏効率 (ORR): TTPの中央値はTC群で24.1週 (95% CI 22.1〜25.7週) であったのに対し、PE群では25.1週 (95% CI 24.1〜26.9週) と、PE群で統計学的に有意に延長した (ログランク検定 p=.02、HR 1.19, 95% CI 1.027〜1.383) (Figure 2)。しかし、中央値の差はわずか1週間であり、臨床的意義は限定的と判断され、OSには影響を与えなかった。奏効期間の中央値はTC群20.7週、PE群22.1週と類似していた。ORR (CR+PR) はTC群で63% (95% CI 58〜68%)、PE群で69% (95% CI 64〜73%) であった。CR率はTC群6% (25例) vs PE群5% (21例)、PR率はTC群57% vs PE群64%であり、統計学的な有意差は認められなかった。
サブグループ解析 (OS): 年齢層別解析では、65歳未満の患者ではTC群のmOSが39.9週、PE群が42.9週、65歳以上の患者ではTC群が38.0週、PE群が36.4週と、両群間で類似した結果が示された (Table 5)。ECOG PS別の解析では、PS 0-1の患者ではTC群とPE群のmOSはともに42.3週と同等であった。しかし、PS 2の患者ではTC群のmOSが20.9週 (n=52) であったのに対し、PE群では29.6週 (n=47) と、TC群で数値的な劣勢が認められた。PS 2患者におけるORRもTC群43.1%に対しPE群61.7%と差があり、PS 2の患者ではTC群の奏効率および生存期間がPE群に比べて劣る傾向がより顕著であった (Table 6)。
血液毒性 (Grade 3/4): 両群間で血液毒性のプロファイルは質的に異なっていた (Table 7)。Grade 3/4の好中球減少はPE群で著明に高頻度であり (84% vs TC群59%)、特にGrade 4好中球減少はPE群で58%とTC群の26%の2倍以上であった。一方、Grade 3/4の血小板減少はTC群で38%とPE群の23%より高頻度であり、Grade 3/4の貧血もTC群で38%とPE群の22%より高頻度であった。Grade 3/4の白血球減少はPE群で45%とTC群の30%より高かった。発熱性好中球減少に相当する感染を伴うGrade 4好中球減少は、PE群で9.7%とTC群の4.2%の約2倍の頻度で発生した。敗血症はTC群で4%、PE群で2%とTC群でやや多かった。治療関連死の発生率はTC群10例 (2.6%)、PE群7例 (1.9%) と類似していた。
輸血および支持療法: 赤血球輸血の必要性はTC群で42.5%とPE群の21.9%の約2倍であった。血小板輸血もTC群で10.2%とPE群の3.4%の約3倍の頻度で必要とされた。エリスロポエチン (EPO) の使用率はTC群2.6%に対しPE群0.8%であった。顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) または顆粒球マクロファージコロニー刺激因子 (GM-CSF) の使用率はPE群で10.5%とTC群の7.6%よりやや高かったが、大きな差はなかった。
非血液毒性: 非血液毒性プロファイルも両群で異なっていた (Table 9)。下痢(全Grade)はTC群で33%とPE群の18%より高頻度であった。悪心・嘔吐(Grade 3/4)は両群で類似しており、それぞれTC群で5%・9%、PE群で7%・9%であった。脱毛(全Grade)はPE群で40%とTC群の24%より高頻度であった。血清クレアチニン上昇はPE群で12%とTC群の5%より高頻度であった(高用量シスプラチンの影響が考えられる)。疲労はTC群21% vs PE群23%、倦怠感はTC群11% vs PE群13%と、両群で類似した頻度であった。
QOL評価 (LCSS): LCSSスコアのAUC解析では、PE群がTC群よりも統計学的に有意に高い総合スコアを示した (p=.049)。中央値AUCはPE群で60.55、TC群で58.68であり、絶対差は1.87ポイントであった。回帰解析においても、「疼痛」および「肺癌症状」の重症度スコアはPE群で数値的に優れていたが、その差は小さく(変化率の差: -0.17〜-3.51ポイント)、非小細胞肺癌 (NSCLC) におけるLCSSの臨床的意義に関する先行研究で「臨床的意義のある変化は10〜25mm」とされていることから、本試験で認められた差の臨床的意義は不明確であると著者らは判断した。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究の主要結果であるTC群のmOS 9.2ヶ月 (39.3週) およびORR 63%、PE群のmOS 9.4ヶ月 (40.3週) およびORR 69%は、先行する静脈内トポテカンとシスプラチン (TC) の第II相試験 (Quoix et al. Lung Cancer 2005、Seifart et al. Lung Cancer 2005) で報告された奏効率60〜63%およびmOS 8.0〜9.6ヶ月と整合する。また、PE群の成績は、Roth et al. JClinOncol 1992 (mOS 8.4ヶ月) やSundstrom et al. J Clin Oncol 2002 (mOS 10.2ヶ月) など、先行するPEを用いた第III相試験の成績に匹敵しており、コントロール群の妥当性が確認された。しかし、2002年のNoda試験でアジア人集団においてイリノテカンとシスプラチン (IP) がPEよりも有意にOSを改善したという結果 (mOS 12.8ヶ月 vs 9.4ヶ月) が、その後の確認試験 (Hanna et al. ASCO 2005) では再現されなかった経緯を踏まえると、本試験もトポイソメラーゼI阻害薬の優越性を示せなかった結果と整合する。この違いは、薬理ゲノム学的差異(例えばUGT1A1多型によるイリノテカン代謝差)や投与スケジュールの違いが薬理学的背景にある可能性が考察されている。
新規性: 本試験は、進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) の未治療一次治療において経口トポテカンとシスプラチン併用療法を評価した最初の大規模第III相試験であり、この疾患における最大規模の試験の一つである (n=784、31カ国176施設)。OSにおける非劣性が達成されたことで、経口トポテカンとシスプラチンがPEと同等の有効性を持つことが大規模に証明されたことは新規の知見である。経口製剤の利便性(外来投与可能、点滴日数の短縮)という観点から、代替一次治療の選択肢を提供した点は実臨床的意義がある。また、本研究で初めて、二重主要評価項目戦略(OS優越性→非劣性への段階的評価)を採用したことで、優越性が未達の場合でも非劣性の確認が可能な堅牢な統計設計を示した。
臨床応用: OSおよびORRの非劣性が確認されたことから、TCレジメンは、特に経口投与を希望する患者(静脈投与困難例、外来治療希望例)や、特定の毒性プロファイルが適切な患者(Grade 4好中球減少リスクを低減したい場合はTC群が有利、貧血・血小板減少リスクを低減したい場合はPE群が有利)における代替選択肢となりうる。しかし、TC群で顕著な血小板減少および貧血の毒性プロファイルは、赤血球輸血率が42.5%とPE群の21.9%に比べて約2倍高く、血小板輸血率もTC群10.2%とPE群3.4%に比べて約3倍高かったことから、費用や支持療法の観点から実用上の懸念が残る。また、ECOG PS 2の患者では、TC群のORRおよびOSが数値上PE群より劣る傾向が認められたため、PS良好な患者への適応をより厳密に選択する必要性が示唆される。これらの知見は、ED-SCLCの臨床現場における治療選択肢の拡大に寄与する。
残された課題: 本試験では非劣性は達成されたものの、TTPにおいてPE群が有意に延長したこと (HR 1.19、p=.02) は、トポテカンのSCLC細胞に対する腫瘍コントロール速度がエトポシドより劣る可能性を示唆する。ECOG PS 2の患者(TC群52例、PE群47例)では、TC群のmOSが20.9週に対しPE群が29.6週と数値的な差異があり、このサブグループへの適用にはさらなる注意が必要である。QOLにおけるAUCの統計的有意差(PE群優位、p=.049)の臨床的意義については、差が1.87ポイントと小さく、解釈が困難であった。シスプラチンの用量がTC群 (60mg/m²) とPE群 (80mg/m²) で異なっていたことも交絡因子となりうる limitation がある。今後の検討課題として、経口トポテカンとカルボプラチンの組み合わせや維持療法戦略の探索、さらには分子標的療法や免疫療法との組み合わせが挙げられる。実際、その後の研究でトポテカンは主に二次治療の位置付けが確立し、一次治療標準としてのトポテカンとシスプラチンの採用は限定的にとどまった。
方法
試験デザインと患者選択: 本試験は、多施設共同、非盲検、無作為化第III相非劣性試験として実施された (NCT00006068)。2001年7月から2003年4月にかけて、31カ国176施設から合計784例の患者が登録された。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認されたED-SCLC、測定可能または評価可能病変、18歳以上、ECOG PS 0〜2、適切な血液(ヘモグロビン ≥9.0g/dL、白血球数 ≥3,500/mm³、血小板数 ≥100,000/mm³、好中球数 ≥1,500/mm³)、腎(血清クレアチニン ≤1.5mg/dL、クレアチニンクリアランス ≥60mL/min)、および肝機能を有する化学療法未治療患者であった。症候性中枢神経系転移、消化管吸収障害、重篤な合併症、またはシクロスポリン使用患者は除外された。放射線療法は、24時間以上前に完了している場合、または照射野内病変が6週間以上経過し放射線学的進行が確認された場合に許容された。
無作為化と層別化: 患者はTC群とPE群に1:1で中央無作為化された。層別化因子は、性別、ECOG PS、血清乳酸脱水素酵素 (LDH) 値(正常上限の1.5倍未満/以上)、および国であった。
治療プロトコル: TC群の患者には、経口トポテカン1.7mg/m²/日をDay 1から5に、静脈内シスプラチン60mg/m²をDay 5に投与した。PE群の患者には、静脈内エトポシド100mg/m²/日をDay 1から3に、静脈内シスプラチン80mg/m²をDay 1に投与した。いずれのレジメンも21日サイクルで、4サイクル、または最良奏効から2サイクル追加され、最大6サイクルまで投与された。用量減量規則は、Grade 3/4の血液毒性や腎機能障害、神経毒性に応じて規定された(例: 好中球数 <500/mm³または血小板数 <25,000/mm³の場合、トポテカン/エトポシドを0.3mg/m²または25%減量)。トポテカン群では、Day 8、9、10、およびDay 15に血球測定を実施し、毒性を綿密に監視した。
エンドポイントと統計解析: 主要エンドポイントは全生存期間 (OS) であり、ITT (intent-to-treat) 集団で解析された。非劣性基準は、1年OS率の差が絶対値で10%以内(95%信頼区間 (CI) の上限が-6.53%)と事前に設定された。統計設計では、TC群の優越性を検出するために、90%の検出力とα=0.05の有意水準で552イベントが必要とされ、各群380例(計760例)のサンプルサイズが算出された。PE群のmOSを8.6ヶ月(1年生存率38%)、TC群のmOSを11.3ヶ月(1年生存率48%)と仮定して優越性検定が計画された。非劣性検定は、優越性が示されなかった場合に適用された。OSおよびその他のイベント関連データ(TTP、奏効期間、奏効までの期間)は、カプラン・マイヤー法を用いて解析され、ログランク検定 (log-rank test) により比較された。多変量解析にはCox比例ハザードモデル (Cox proportional hazards model) が用いられた。QOL評価には、LCSSスコアの曲線下面積 (AUC) 解析が用いられ、Wilcoxon順位和検定で群間差が評価された。