• 著者: Shirish M. Gadgeel, Nathan A. Pennell, Mary J. Fidler, Balazs Halmos, Philip Bonomi, James Stevenson, Bryan Schneider, Ammar Sukari, Jennifer Ventimiglia, Wei Chen, Catherine Galasso, Antoinette Wozniak, Julie Boerner, Gregory P. Kalemkerian
  • Corresponding author: Shirish M. Gadgeel (Karmanos Cancer Institute, Wayne State University, Detroit, MI, USA)
  • 雑誌: Journal of Thoracic Oncology
  • 発行年: 2018
  • Epub日: 2018-05-09
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 29775808

背景

進展型小細胞肺癌 (extensive-stage small cell lung cancer, ES-SCLC) は、初回白金ベース化学療法に対して高い奏効率を示すものの、その多くが数ヶ月以内に再発・進行し、極めて不良な予後を呈する疾患である。生存期間中央値 (median overall survival, mOS) は約10-12ヶ月と報告されており、治療成績の改善が喫緊の課題となっている。過去にはtopotecan、bevacizumab、sunitinibなど、様々な薬剤が維持療法として検討されてきたが、全生存期間 (overall survival, OS) の有意な延長を示したものはほとんどなく、有効な維持療法戦略は未解明な状態であった。

一方、SCLCは喫煙との関連が強く、高い腫瘍変異負荷 (tumor mutational burden, TMB) を有することが知られており、免疫チェックポイント阻害剤 (immune checkpoint inhibitors, ICI) の良好な標的となる可能性が示唆されていた。実際に、再発SCLCを対象としたCheckMate 032試験 (Hellmann et al. 2017) ではニボルマブ単剤またはニボルマブとイピリムマブの併用療法で奏効が報告され、PD-L1陽性再発SCLCを対象としたKEYNOTE-028試験ではペムブロリズマブ単剤で33%の奏効率が認められている ( Ott et al. JClinOncol 2017 )。また、非小細胞肺癌 (non-small cell lung cancer, NSCLC) においては、既に Borghaei et al. NEnglJMed 2015Rittmeyer et al. Lancet 2017 が示したように、PD-1/PD-L1経路を標的とするICIがOSを改善することが報告されている。

これらの背景から、初回化学療法後に病勢制御が得られたES-SCLC患者において、維持療法としてペムブロリズマブを投与することで、その有効性と安全性が改善されるのではないかという仮説が立てられた。特に、化学療法後の良好な全身状態の患者では、ICIがより忍容性が高く、効果的である可能性も考えられた。しかし、SCLCにおける維持療法としてのICIの有効性に関する前向きデータは手薄であり、そのギャップを埋める研究が求められていた。

目的

本研究の目的は、ES-SCLCに対する白金ベース化学療法後に病勢制御 (完全奏効 (complete response, CR)、部分奏効 (partial response, PR)、安定 (stable disease, SD)) が得られた患者を対象に、維持療法としてのペムブロリズマブ単剤の有効性および安全性を前向きに評価することである。主要評価項目は無増悪生存期間 (progression-free survival, PFS) の改善であり、歴史的対照 (約2ヶ月) と比較して50%の延長 (3ヶ月) を目標とした。副次評価項目として、OS、奏効率 (objective response rate, ORR)、安全性 (Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v4.0)、ならびに腫瘍細胞および腫瘍微小環境におけるPD-L1発現などのバイオマーカーの予後・治療効果予測性を探索的に評価した。循環腫瘍細胞 (circulating tumor cells, CTC) の評価も副次的に行われた。

結果

患者背景と治療状況:2015年2月25日から2016年11月7日までに、合計45例の患者が米国5施設で登録された (Table 1)。患者の年齢中央値は66歳 (範囲50-87歳) であり、男性が56% (25/45例)、白人が82% (37/45例)、現喫煙者または既喫煙者が98% (44/45例) を占めた。ベースライン時に脳転移を有する患者は22% (10/45例) であり、全例が全脳照射を受けていた。導入化学療法は、carboplatin+etoposideが80% (36/45例)、cisplatin+etoposideが20% (9/45例) の割合で実施された。導入化学療法後の最良効果は、CRが2% (1例)、PRが71% (32例)、SDが27% (12例) であった。ペムブロリズマブの投与サイクル数中央値は4サイクル (範囲1-26サイクル) であり、4例の患者が18サイクル以上継続して治療を受けていた。最終化学療法サイクルからペムブロリズマブ初回投与までの期間中央値は5週間 (範囲3-9週間) であった。追跡期間中央値は14.6ヶ月 (95% CI 12.3-16.6) であった。

主要評価項目 PFS および OS:試験登録からのPFS中央値は1.4ヶ月 (95% CI 1.3-2.8) であり (Figure 1)、歴史的対照の2ヶ月と比較して有意な延長は認められなかった。3ヶ月PFS率は27%、6ヶ月PFS率は20%、1年PFS率は13%であった。全登録患者におけるORRは11.1% (95% CI 4.8-23.5) であり、CR 1例、PR 4例が含まれた。測定可能病変を有する34例の患者におけるORRは14.7% (95% CI 6.4-30.1) であった。奏効期間中央値は10.8ヶ月 (95% CI 5.8-未到達) であった。OS中央値は9.6ヶ月 (95% CI 7.0-12.0) であり (Figure 2)、6ヶ月OS率は68%、1年OS率は37%、2年OS率は13%であった。OS中央値は歴史的対照 (6-9ヶ月) と同程度であったが、一部の患者で長期生存が認められた。病勢進行した41例のうち、14例は追加治療を受けず、21例は化学療法、2例は免疫療法を受けた。

PD-L1発現頻度と腫瘍細胞PD-L1の関連:PD-L1発現評価に十分な腫瘍組織検体が得られたのは30例であった (Figure 3)。腫瘍細胞におけるPD-L1発現 (≥1%) は、30例中わずか3例 (10%) でしか検出されなかった。これらの3例のPFSはそれぞれ10ヶ月、11ヶ月、13ヶ月と比較的長く、うち2例は病勢進行なく治療を継続していた。腫瘍細胞PD-L1陽性例3例のうち2例は、ベースライン時に測定可能病変を有し、部分奏効 (PR) を達成した。この結果は、SCLCにおける腫瘍細胞PD-L1発現頻度が低いというこれまでの報告と一致するものであった。

間質界面PD-L1発現と治療効果予測:腫瘍-間質界面におけるPD-L1発現は20例で評価可能であり、そのうち8例 (40%) が陽性であった (Table 2)。間質界面PD-L1陽性群 (n=8) におけるPFS中央値は6.5ヶ月 (95% CI 1.1-12.8) であり、陰性群 (n=12) の1.3ヶ月 (95% CI 0.6-2.5) と比較して有意な延長が認められた (p=0.0033)。OS中央値も陽性群で12.8ヶ月 (95% CI 1.1-17.6) であったのに対し、陰性群では7.6ヶ月 (95% CI 2.0-12.7) であった。間質界面PD-L1陽性群では37.5% (3/8例) でPRが認められたが、陰性群では8.3% (1/12例) であった。腫瘍細胞PD-L1陽性例3例のうち2例は、間質界面PD-L1も陽性であった。この結果は、腫瘍細胞ではなく腫瘍微小環境におけるPD-L1発現が、免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測する可能性を示唆する。

循環腫瘍細胞 (CTC) 評価:ベースライン時のCTCは37例で評価され、19例 (51%) で検出された。CTC数中央値は1 (範囲0-256) であった。PFSおよびOSは、ベースライン時のCTC数や治療中のCTC数の変化とは相関しなかった。

安全性プロファイル:全Gradeの治療関連有害事象は82%の患者で報告され、最も頻繁に観察されたのは疲労 (40%)、悪心 (27%)、掻痒 (22%)、咳嗽 (22%)、便秘 (22%) であった (Table 3)。Grade 3-4の有害事象は22%の患者で発生し、5%以上の患者で発生した唯一のGrade 3毒性は低ナトリウム血症 (4例) であった。免疫関連有害事象としては、発疹 (8例)、甲状腺機能低下症 (4例、全例Grade ≤2)、1型糖尿病を伴う糖尿病性ケトアシドーシス (1例) が報告された。重篤な有害事象として、急性冠症候群が2例で発生し、うち1例は死亡、もう1例は完全房室ブロックを伴う心臓合併症で死亡した。しかし、これらは治療関連死亡とはみなされなかった。ペムブロリズマブの中止に至った有害事象は13%の患者で発生した。本試験でペムブロリズマブによる新たな毒性は観察されなかった。

考察/結論

本試験は、ES-SCLCに対する初回化学療法後の維持療法としてペムブロリズマブ単剤の有効性と安全性を評価した第II相単群試験である。主要評価項目であるPFS中央値は1.4ヶ月と、歴史的対照と比較して有意な改善は示されなかった。しかし、1年OS率が37%であったことから、一部の患者ではペムブロリズマブによる持続的な臨床的利益が得られた可能性が示唆される。

① 先行研究との違い: 本研究のPFS中央値は、SCLC維持療法としてスニチニブを評価したCALGB 30504試験のプラセボ群 (2.1ヶ月) と同程度であったが、OS中央値はスニチニブ群 (9.0ヶ月) と類似していた。これは、NSCLCにおけるPD-1経路阻害剤がPFSを常に改善するわけではないが、一部の患者で長期的なOS改善をもたらすという知見と整合的である。また、再発SCLCに対するICIの有効性を評価した Ott et al. JClinOncol 2017 によるKEYNOTE-028試験 (PFS中央値1.9ヶ月、OS中央値9.7ヶ月) やCheckMate 032試験 (ニボルマブ単剤の1年OS率27%) の結果と本研究の維持療法における成績は類似しており、維持療法としてのICI単剤の有効性は、再発時使用と大きく相違しない可能性が示唆される。これまでSCLCにおけるPD-L1発現は、腫瘍細胞では低頻度であることがCheckMate 032試験 (18%) やYasuda et al. 2018の報告 (1例のみ陽性) でも示されており、本研究の腫瘍細胞PD-L1陽性率10%もこれまでの報告と一致する。

② 新規性: 本研究で特に新規な知見は、腫瘍-間質界面におけるPD-L1発現が、維持療法ペムブロリズマブの治療効果予測バイオマーカーとして機能する可能性を示した点である。腫瘍細胞PD-L1発現がSCLCで稀であるのに対し、間質界面PD-L1陽性群ではPFS中央値6.5ヶ月と、陰性群の1.3ヶ月と比較して有意な延長が認められた (p=0.0033)。これは、PD-L1発現が腫瘍細胞だけでなく、腫瘍微小環境の宿主細胞にも存在し、それがICIの効果を決定するという最近の報告 (Lin et al. 2018, Tang et al. 2018) を支持するものである。 Kim et al. JThoracOncol 2018 も、高悪性度神経内分泌肺癌において腫瘍浸潤免疫細胞のPD-L1発現がPFS延長と関連することを示しており、SCLCにおけるPD-L1評価の新たな方向性を示唆する、これまで報告されていない重要な発見である。

③ 臨床応用: 本研究は、SCLCにおけるPD-L1評価の標準化された方法論が確立されていない現状において、腫瘍細胞のみならず腫瘍微小環境、特に腫瘍-間質界面でのPD-L1発現を評価することの臨床的意義を提起した。これにより、従来の腫瘍細胞PD-L1発現のみではICIの恩恵を受ける患者を特定することが困難であったSCLCにおいて、より適切な患者選択に繋がる可能性が考えられる。しかし、単群試験であるため、このバイオマーカーが予後因子であるのか予測因子であるのかを明確に区別することはできない。その後のIMpower133試験 (アテゾリズマブ+カルボプラチン+エトポシド併用) やCASPIAN試験 (デュルバルマブ+EP/EC併用) で示されたように、ES-SCLCにおけるICIは維持療法単剤ではなく、初回化学療法との同時併用が標準治療となりつつあるが、本研究は、一部の患者がICI単剤から長期的な利益を得られる可能性を示し、個別化医療の重要性を臨床現場に強調する。

④ 残された課題: 本研究の限界として、単群試験であること、PD-L1発現の評価対象患者数が限定的であること、および腫瘍変異負荷 (TMB) が評価されていない点が挙げられる。間質界面PD-L1発現の有意なPFS改善は認められたものの、統計学的有意差は限定的であり、小規模な患者数に起因する可能性も否定できない。したがって、間質界面PD-L1発現の標準化された評価法の確立と、大規模な前向きコホートでの検証が残された課題である。また、SCLCの分子サブタイプ (ASCL1、NEUROD1、POU2F3、YAP1/INFLAMED) に基づく予測バイオマーカーの開発も今後の検討課題となる。将来的には、ICIとDNA損傷応答阻害剤 (PARP阻害剤、ATR阻害剤) などの新たな併用戦略の探索も必要である。

方法

本試験は、米国5施設で実施された多施設共同単群第II相試験である。適格基準は、組織学的に診断されたES-SCLC患者で、白金ベース化学療法を4-6サイクル施行後にCR、PR、またはSDが確認され、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS) が0または1であることとした。活動性の中枢神経系転移や全身治療を要する自己免疫疾患を有する患者は除外された。脳転移を有する患者は治療済みであれば適格とされた。

治験薬はペムブロリズマブ200mgを3週間に1回静脈内投与し、病勢進行または許容できない毒性が発現するまで、最長2年間継続された。ペムブロリズマブの投与は、最終化学療法サイクルの開始から8週間以内に開始された。病勢進行はRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) v1.1基準に基づき評価された。主要評価項目は、試験登録からRECIST v1.1基準に基づく病勢進行までの期間と定義されたPFSであった。副次評価項目にはOS、ORR、および安全性が含まれた。有害事象はNational Cancer Institute Common Toxicity Criteria v4.0に基づき評価された。

腫瘍組織検体は、Qualtek Clinical LaboratoriesにてDako 22C3抗体を用いてPD-L1発現が評価された。PD-L1発現は、腫瘍細胞 (tumor cells, TC) と腫瘍を取り巻く間質細胞 (stromal cells) の両方で評価された。腫瘍細胞におけるPD-L1発現は、少なくとも50個の生存腫瘍細胞または5個のPD-L1染色陽性腫瘍細胞がある場合に評価可能とされ、修正された比率スコアが用いられた。間質界面 (stromal interface) におけるPD-L1発現は、「腫瘍巣を囲む苔癬状のPD-L1膜染色細胞パターン」として低倍率で識別された場合に陽性とされた。循環腫瘍細胞 (CTC) は、ペムブロリズマブ投与前および投与中に採血され、CELLSEARCHシステムを用いて評価された。

統計解析では、PFSおよびOSはKaplan-Meier法を用いて推定され、中央値と95%信頼区間 (confidence interval, CI) が算出された。奏効率はWilson信頼区間を用いて要約された。サブグループ解析にはFisherの正確検定が用いられ、バイオマーカーと時間依存性アウトカムとの関連はCox回帰分析で評価された。片側α値0.05、検出力80%を目標に、目標登録患者数は43例と設定された。統計解析にはSASソフトウェア (v9.4) およびR (v3.4) が使用された。