• 著者: Patrick A. Ott, Elena Elez, Sandrine Hiret, Dong-Wan Kim, Anne Morosky, Sanatan Saraf, Bilal Piperdi, Janice M. Mehnert
  • Corresponding author: Patrick A. Ott, MD, PhD (Clinical Director, Center for Immuno-Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, 450 Brookline Ave, Boston, MA 02215; patrick_ott@dfci.harvard.edu)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2017
  • Epub日: 2017-08-16
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 28813164

背景

進展型小細胞肺癌(ED-SCLC: extensive-stage small-cell lung cancer)は、高度な喫煙歴と密接に関連する極めて悪性度の高い神経内分泌腫瘍であり、小細胞肺癌(SCLC)全体の約 60-70% を占める。1次治療として白金製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)とエトポシドを併用する化学療法(EP療法)が行われ、初期には 50-80% という高い客観的奏効率(ORR)を達成するものの、ほぼ全例で早期に再発を来す。再発後の予後は著しく不良であり、全生存期間(OS)中央値は 8-12ヶ月、2年生存率はわずか 5% 程度にとどまることが Roth et al. JClinOncol 1992Lara et al. JClinOncol 2009 などの先行研究で報告されている。2次治療として国内外のガイドラインで推奨されるトポテカン(topotecan)の ORR は 15-20% 程度であり、奏効持続期間も極めて短い。また、代替薬であるアムルビシン(amrubicin)の治療成績も限定的であり、Okuma et al. ClinLungCancer 2017 においても再発SCLCに対する治療選択肢の限界が示されている。

近年、腫瘍細胞が免疫監視から逃避する機序として、PD-L1(programmed death-ligand 1)の過剰発現と、T細胞上の抑制性受容体 PD-1(programmed cell death protein 1)との結合によるT細胞不活化が注目されてきた。抗PD-1/PD-L1抗体は、非小細胞肺癌(NSCLC)や悪性黒色腫などの複数の固形癌において持続的な腫瘍縮小効果を示し、治療体系を劇的に変化させた。例えば、Reck et al. NEnglJMed 2016 の臨床試験では、PD-L1高発現(TPS 50%以上)のNSCLCにおいてペムブロリズマブが化学療法を凌駕する生存ベネフィットを示している。

しかし、SCLC領域における免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の検証は遅れていた。先行研究である CheckMate 032 試験では、PD-L1発現を問わない全コホートにおいてニボルマブ単剤の ORR が 10% であることが Antonia et al. LancetOncol 2016 により予備報告されていたが、PD-L1発現状況に基づく患者選択(biomarker selection)の有用性は未解明であった。SCLCにおけるPD-L1陽性例を前向きにスクリーニングし、選択された集団における抗PD-1単剤療法の有効性と安全性を厳密に評価した試験は存在しなかった。したがって、(a) SCLCにおける正確なPD-L1陽性率、(b) PD-L1陽性SCLCに対するペムブロリズマブの奏効率および奏効持続期間(DOR)が従来の化学療法を凌駕し得るか、(c) SCLC患者における免疫関連有害事象(irAE)のプロファイルと頻度はどうか、という点について臨床データが不足しており、大きな knowledge gap が残されていた。

目的

本研究の目的は、PD-L1陽性の既治療 ED-SCLC 患者を対象とした多施設共同共同第Ib相オープンラベル試験である KEYNOTE-028 試験(NCT02054806)の SCLC コホートにおいて、抗PD-1ヒト化モノクローナル抗体ペムブロリズマブ(pembrolizumab)単剤療法の安全性、耐容性、および有効性を評価することである。主要評価項目(primary endpoints)として安全性、耐容性、および客観的奏効率(ORR)を検証し、副次評価項目(secondary endpoints)として無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、および奏効持続期間(DOR)を算出し、PD-L1陽性 ED-SCLC におけるペムブロリズマブの臨床的有用性を明らかにすることを目的とする。

結果

スクリーニングおよび患者背景の解析: スクリーニングされた ED-SCLC 患者 163例のうち、145例が PD-L1 評価可能な腫瘍組織を有していた。このうち、PD-L1 陽性と判定されたのは 46例であり、陽性率は 31.7% であった(Fig 1)。陽性例 46例のうち、15例が適格基準を満たさず(同意撤回 7例、PS不適合 7例、SCLC組織型否定 1例)、最終的に 24例が登録されペムブロリズマブの投与を受けた。登録患者 24例の背景は、年齢中央値 60.5歳(範囲: 41-80)、男性 14例(58.3%)であった(Table 1)。全例(100%)に化学療法の治療歴があり、21例(87.5%)が 2ライン以上、9例(37.5%)が 3ライン以上の前治療歴を有していた。また、全例が1次治療として白金製剤+エトポシドの投与を受けており、11例(45.8%)は2次治療としてトポテカンまたはイリノテカンの投与歴を有していた。データカットオフ時点における追跡期間中央値は 9.8ヶ月(範囲: 0.5-24.4)であった。

安全性および治療関連有害事象のプロファイル: ペムブロリズマブの投与を受けた 24例全例(100%)において、何らかの有害事象(AE)が報告された(Table 2)。頻度の高い AE は、無力症(asthenia)7例(29.2%)、疲労(fatigue)7例(29.2%)、咳嗽 6例(25.0%)、関節痛 5例(20.8%)、下痢 5例(20.8%)、不眠症 5例(20.8%)、および発疹 5例(20.8%)であった。治療関連有害事象(TRAE)は 16例(66.7%)に認められ、主なものは関節痛、無力症、発疹(各4例、16.7%)であった。グレード 3以上の AE は 8例(33.3%)に認められ、このうち 2例(8.3%)が治療関連と判定された。治療関連の重篤な有害事象として、肝転移を有する 65歳男性におけるグレード 3 の高ビリルビン血症、および 58歳女性におけるグレード 5 の大腸炎(colitis)とそれに伴う腸管虚血(intestinal ischemia)による死亡例(4.2%)が報告された。

抗腫瘍効果および奏効率の検証: 治験責任医師の判定(RECIST v1.1)による客観的奏効率(ORR)は 33.3%(24例中8例、95% CI 15.6-55.3%, p<0.001)であり、事前に設定された閾値である 10% を統計学的に有意に上回った(Table 3)。奏効の内訳は、完全奏効(CR)が 1例(4.2%)、部分奏効(PR)が 7例(29.2%)であった。安定(SD)は 1例(4.2%、持続期間 6ヶ月未満)であり、13例(54.2%)は病勢進行(PD)が最良総合効果であった。評価可能であった 21例のうち、奏効した 8例において 30% から 100% の腫瘍縮小が確認され、CR の 1例では標的病変が完全に消失した(Fig 2A)。奏効が得られた 8例における奏効までの期間の中央値は 2.0ヶ月(範囲: 1.7-3.7)であり、奏効持続期間(DOR)の中央値は 19.4ヶ月(範囲: 3.6+ から 20.0+ ヶ月)に達し、極めて持続的な効果を示した(Fig 2C)。

生存期間および予後の解析: 無増悪生存期間(PFS)の中央値は 1.9 months (95% CI 1.7-5.9, p<0.001) であった(Fig 3A)。カプラン・マイヤー法による 6ヶ月 PFS 率は 28.6%、12ヶ月 PFS 率は 23.8% であった。初期に病勢進行を来す症例が多いものの、奏効例においては長期にわたる無増悪状態が維持されるテール(tail)状の生存曲線が示された。全生存期間(OS)の中央値は 9.7 months (95% CI 4.1-not reached, p<0.001) であった(Fig 3B)。6ヶ月 OS 率は 66.0%、12ヶ月 OS 率は 37.7% であった。これは、従来の2次化学療法における OS 中央値(5-6ヶ月)と比較して良好な成績であった。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、既治療の進行期小細胞肺癌(ED-SCLC)において、PD-L1陽性例を選択(biomarker selection)して抗PD-1抗体ペムブロリズマブ単剤の治療開発を行った初の臨床試験である。PD-L1発現状況を問わずに登録を行ったニボルマブ単剤療法の先行研究(CheckMate 032試験、Antonia et al. LancetOncol 2016)における ORR 10% と比較して、本研究は PD-L1 陽性例(CPS 1%以上)に絞り込むことで 33.3%(95% CI 15.6-55.3%)という極めて高い奏効率を達成した点が対照的である。また、従来の2次治療推奨薬であるトポテカンの歴史的奏効率(7-24%)や、アムルビシンの成績(Okuma et al. ClinLungCancer 2017)と比較しても、本研究の ORR は優れていた。さらに、化学療法による奏効持続期間が通常 2-3ヶ月と短いのに対し、本研究における奏効持続期間中央値 19.4ヶ月は、免疫療法特有の持続的効果(durable response)を明確に実証した結果である。

新規性: 本研究の新規性は、SCLCにおける PD-L1 発現率が 31.7%(145例中46例)と、NSCLC(50-60%程度)と比較して明確に低いことを前向きスクリーニングにより初めて明らかにした点にある。これは、SCLCがT細胞浸潤の乏しい、いわゆる「冷たい腫瘍(cold tumor)」であることを示唆している。しかし、ひとたび PD-L1 陽性例を選択すれば、ペムブロリズマブ単剤が NSCLC(Garon et al. NEnglJMed 2015Herbst et al. Lancet 2016)と同等以上の高い抗腫瘍活性を示すことを本研究で初めて証明した。また、グレード 5 の大腸炎・腸管虚血による死亡例(4.2%)が報告され、SCLC患者における irAE 管理の重要性を新規に提起した。

臨床応用: 本研究の臨床的意義は極めて大きい。本試験(KEYNOTE-028)およびそれに続く KEYNOTE-158 試験の統合解析結果に基づき、2019年に米国食品医薬品局(FDA)はペムブロリズマブを「既治療の再発小細胞肺癌(3次治療)」に対して迅速承認(accelerated approval)した。その後、1次治療における化学療法への ICI 併用療法として、アテゾリズマブ(Horn et al. NEnglJMed 2018)やデュルバルマブが標準治療として確立された。ペムブロリズマブを1次治療に併用した KEYNOTE-604 試験では OS の有意差を示せず、後に3次治療の適応は取り下げられたが、本研究が示した「SCLCにおける免疫チェックポイント阻害の有効性」という概念は、今日のSCLC治療開発の強固な基盤(theoretical foundation)となっている。

残された課題: 今後の検討課題として、第一に、SCLCにおける最適なバイオマーカーの確立が挙げられる。PD-L1発現は腫瘍内・転移巣間で不均一(heterogeneity)であり、保存組織と新規組織での一致性の問題が残されている。第二に、SCLCは高い遺伝子変異量(TMB)を有することが知られており(Rizvi et al. Science 2015)、PD-L1発現とTMB、あるいは遺伝子発現プロファイル(GEP)を組み合わせた複合的バイオマーカーの検証が必要である。第三に、SCLCの分子サブタイプ(ASCL1, NEUROD1, POU2F3, YAP1)と免疫微小環境・ICI感受性との関連解明が求められる。第四に、重篤な大腸炎などの irAE を予測するための宿主側因子(HLA遺伝子型や腸内細菌叢など)の同定が挙げられる。今後の研究方向性として、DLL3を標的とした二重特異性T細胞誘導抗体(BiTE)(Giffin et al. ClinCancerRes 2021)や、他の免疫チェックポイント分子(TIGIT, LAG-3)阻害薬との併用療法の開発、および微小残存病変(MRD)ガイド下のICI維持療法の最適化が必要である。

方法

試験デザインと患者選択: KEYNOTE-028 試験(NCT02054806)は、PD-L1陽性の進行固形癌患者を対象とした多施設共同第Ib相オープンラベル試験である。本サマリでは、2014年3月から2015年5月までに登録された SCLC コホートのデータを解析した。対象患者は、18歳以上で、組織学的に確認された SCLC または肺神経内分泌腫瘍(pulmonary neuroendocrine tumor)を有し、標準治療に不応または不耐となった患者である。主な適格基準は、RECIST v1.1 に基づく測定可能病変を有すること、ECOG PS(Eastern Cooperative Oncology Group performance status)が 0 または 1 であること、および適切な臓器機能を有することとした。主な除外基準は、過去の抗PD-1/PD-L1抗体による治療歴、活動性の脳転移、全身性ステロイド投与を要する活動性自己免疫疾患、および間質性肺疾患(ILD)や肺臓炎の既往である。

PD-L1発現の評価: スクリーニング時に、保存腫瘍組織(archival sample)または新規採取組織(fresh sample)を用い、中央測定ラボ(QualTek Molecular Laboratories)にて免疫組織化学(IHC)染色を実施した。一次抗体には 22C3 抗体(Merck & Co.)を使用し、腫瘍細胞の細胞膜における発現、および腫瘍随伴炎症細胞(associated inflammatory cells)における発現、または間質(stroma)における陽性染色のいずれかが 1% 以上(combined positive score [CPS] 様の基準)である場合を PD-L1 陽性と定義した。評価には、少なくとも 50 個以上の生存腫瘍細胞を含む組織標本が必要とされた。

治療プロトコルと効果判定: 適格と判定された患者に対し、ペムブロリズマブ 10 mg/kg を 2週間間隔(q2w)で静脈内投与した。投与は最長24ヶ月間、または画像上の病勢進行(PD)、忍容不能な毒性発現、医師の判断、あるいは患者の同意撤回まで継続された。画像評価は、投与開始後最初の6ヶ月間は 8週間ごと、その後は 12週間ごとに実施し、RECIST v1.1 に基づき治験責任医師が効果判定(CR、PR、SD、PD)を行った。有害事象(AE)は NCI CTCAE v4.0 を用いて評価・グレード分類した。

統計解析: 本コホートでは、評価可能患者 22例を登録することで、ペムブロリズマブの ORR が歴史的対照である 10% を超えることを、片側有意水準 8%、検出力 80% で検証するよう設計された。ORR の点推定値および 95% CI は二項分布の正確確率法(binomial exact method)を用いて算出した。PFS、OS、および DOR の解析にはカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法を用いた。有効性解析は、ペムブロリズマブを 1回以上投与され、ベースライン時に測定可能病変を有していた全例を対象とし、安全性解析は 1回以上の投与を受け、かつ投与後に1回以上の安全性評価が行われた全例を対象とした。データカットオフ日は2016年6月20日とした。