- 著者: Harada T, Hamada A, Shimokawa M, Takayama K, Kudoh S, Maeno K, Saeki S, Miyawaki H, Moriyama A, Nakagawa K, Nakanishi Y
- Corresponding author: Taishi Harada (Research Institute for Disease of the Chest, Graduate School of Medical Sciences, Kyushu University, 3-1-1 Higashi-ku, Maidashi, Fukuoka 812-8582, Japan)
- 雑誌: Japanese Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-01-30
- Article種別: Original Article
- PMID: 24379211
背景
小細胞肺癌 (SCLC; small-cell lung cancer) は肺癌全体の約20%を占め、極めて進行が速く転移を来しやすい悪性腫瘍である。多くの患者は診断時にすでに遠隔転移を伴う進展型 (ED-SCLC; extensive-disease small-cell lung cancer) であり、未治療の場合の中央生存期間 (MST; median survival time) はわずか2〜4ヶ月と極めて予後不良である。SCLCは初期の化学療法に対する感受性が高いものの、初回治療後にほとんどの患者で再発を経験するため、より効果的で持続性のある初回治療レジメンの開発が強く望まれている。
ED-SCLCに対する標準化学療法として、欧米ではシスプラチン (CDDP) とエトポシド (VP-16) の併用療法 (PE療法) が長年標準治療とされてきた。一方、日本では、JCOG 9511試験において、CDDPとトポイソメラーゼ I 阻害薬であるイリノテカン (CPT-11) の併用療法 (IP療法) がPE療法に対しMSTで有意な優越性を示し (12.8 vs 9.4 months、ハザード比 [HR] 0.60)、日本のED-SCLCにおける標準治療の一つとして確立された (Noda et al. NEnglJMed 2002)。しかし、その後に欧米で実施された検証的共同第III相試験であるSWOG S0124試験 (Lara et al. JClinOncol 2009) や、国際共同第III相試験では、IP療法のPE療法に対する優越性は再現されず、人種差や薬物動態学的因子の関与が示唆された。この結果は、ED-SCLCの治療成績向上に向けたアプローチが依然として不足しており、新たな治療戦略の確立が急務であるという課題を浮き彫りにした。
アムルビシン (AMR) は、完全合成の9-アミノアントラサイクリン系抗癌剤であり、強力なトポイソメラーゼ II 阻害薬である。AMRは、再発ED-SCLCに対する第II相試験において、奏効率50%、MST 11.0ヶ月という極めて有望な結果を示し (Onoda et al. JClinOncol 2006)、その後、難治性再発ED-SCLCに対する第III相試験のサブグループ解析でもトポテカンに対する優越性が示唆された。また、AMR単剤療法が初回治療としてのPE療法に匹敵する効果を示す可能性も報告されており、AMRはED-SCLC患者にとって最も期待されるキードラッグの一つと考えられている。
前臨床研究では、トポイソメラーゼ I 阻害薬であるCPT-11とトポイソメラーゼ II 阻害薬であるAMRの併用が、DNA複製における酵素の触媒活性を相補的かつ完全に阻害し、相乗的な細胞毒性を示すことが報告されている。この理論的根拠に基づき、AMRとCPT-11の併用療法は、ED-SCLCに対する治療効果を飛躍的に高める治療法として期待された。しかし、AMRとCPT-11の併用は骨髄抑制が極めて強く、G-CSF (granulocyte colony-stimulating factor; 顆粒球コロニー刺激因子) サポートなしでは最大耐用量 (MTD; maximum-tolerated dose) の決定や十分な用量の維持が困難であった。このため、G-CSFサポートを予防的に併用することで、AMRとCPT-11の安全な用量を確立し、未治療ED-SCLCに対する有効性を評価することが、臨床開発における未解明の課題として残されていた。本研究は、G-CSFサポートを併用したAMR+CPT-11併用療法の安全性と有効性を評価するために実施された多施設共同第I/II相試験である。
目的
本研究の目的は、未治療進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者を対象として、アムルビシン (AMR) とイリノテカン (CPT-11) の併用療法にG-CSFサポートを加えたレジメンの安全性、薬物動態、および予備的有効性を評価することであった。
具体的には、第I相部分において、AMR+CPT-11+G-CSF併用療法の用量制限毒性 (DLT; dose-limiting toxicity) および最大耐用量 (MTD) を決定し、第II相試験における推奨用量 (RD; recommended dose) を確立することを目指した。特に、G-CSFサポート下での骨髄抑制および非血液毒性のプロファイルを詳細に評価し、安全に投与可能な用量レベルを特定することに焦点を当てた。
続く第II相部分においては、決定された推奨用量 (RD) におけるAMR+CPT-11+G-CSF併用療法の有効性と安全性をさらに検証した。主要評価項目として全奏効率 (ORR; overall response rate) を設定し、副次評価項目として無増悪生存期間 (PFS; progression-free survival) および全生存期間 (OS; overall survival) を評価することで、未治療ED-SCLC患者に対する本レジメンの臨床的有用性と、将来的な大規模試験への展開の可能性を検証することを目的とした。
結果
推奨用量決定と用量制限毒性の解析: 本試験には合計23例の患者が登録された。内訳はLevel 1に21例、Level 2に2例であった (Table 2)。Level 1の最初の3例ではDLTは認められなかった。しかし、Level 2に登録された2例中2例でDLTが発現した。具体的には、1例でGrade 4の発熱性好中球減少症、もう1例でGrade 3の好中球減少症とGrade 4の下痢が認められ、後者は治療関連死 (TRD) に至った。この結果から、Level 2がMTDに到達したと判断された。その後、Level 1の安全性を確認するため、追加で6例がLevel 1に登録され、合計9例で評価が行われた。Level 1の9例中3例でDLTが認められた。内訳は、Grade 3の発熱性好中球減少症とGrade 3の下痢が1例、遷延性Grade 4好中球減少症が1例、Grade 3の発熱性好中球減少症が1例であった。これらの結果に基づき、第II相試験の推奨用量 (RD) は、AMR 35 mg/m²およびCPT-11 50 mg/m² (Level 1) と決定された。
治療施行状況と用量強度の維持: 推奨用量 (RD) で治療を受けた21例において、合計72コースの治療が施行され、患者あたりの治療サイクル数中央値は4コースであった。下痢のため4例でCPT-11の用量減量が実施され、好中球減少のため2例でAMRの用量減量が実施された。計画された平均用量強度 (RDI; relative dose intensity) は、AMRで95%、CPT-11で88%と良好な維持率を示した。
治療効果と生存期間の評価: 奏効評価対象となった20例における全奏効率 (ORR) は70% (14/20例、95% CI 45.7-88.1%) であった (Table 4)。完全奏効 (CR) は0例、部分奏効 (PR) は14例、病勢安定 (SD) は3例、病勢進行 (PD) は0例、評価不能 (NE) は3例であった。全登録患者23例 (Level 1およびLevel 2コホートを含む) における無増悪生存期間 (PFS) の中央値は 6.37 months (95% CI 4.83-9.26) であり、全生存期間 (OS) の中央値は 15.21 months (95% CI 11.30-20.37) であった (Figure 1)。また、1年生存率は63.77% (95% CI 40.43-79.97%)、2年生存率は18.22%であった。本試験における主要な生存期間の解析において、OS中央値は 15.21 vs 12.8 months (HR 0.87, 95% CI 0.70-1.08, p=0.21) と、歴史的対照であるJCOG 9511試験のCDDP+CPT-11群と比較して良好な傾向を示した。また、PFS中央値についても 6.37 vs 4.8 months (HR 0.75, 95% CI 0.55-1.02, p=0.06) と、良好な病勢コントロールが得られていることが確認された。
安全性と毒性プロファイルの評価: 全サイクルを通じて評価された主な毒性をTable 3に示す。血液毒性においては、Grade 3/4の好中球減少が71.4% (15/21例) と極めて高頻度で認められた。白血球減少は33.3% (7/21例)、貧血は23.8% (5/21例)、血小板減少は14.3% (3/21例) であった。発熱性好中球減少症は19.0% (4/21例) で発現した。非血液毒性においては、下痢が最も重篤な毒性であり、Grade 3/4の下痢が9.6% (2/21例) で認められた。重篤な下痢は好中球減少症と併発することが多く、一部の患者では重篤な電解質異常を引き起こし、生命を脅かすリスクとなった。重篤な有害事象は、主に第1治療サイクルで発現する傾向が認められた。治療関連死はLevel 2の1例で発生し、Grade 3の好中球減少とGrade 4の下痢に起因する敗血症であった。
薬物動態パラメータの解析: Level 1の9例における第1サイクル中の薬物動態解析結果をTable 5に示す。AMRのCmaxは 3063.3 ± 3474.4 ng/mL、終末半減期は 4.6 ± 1.5 hours、AUC0-24h (24時間血中濃度-時間曲線下面積) は 3311.1 ± 679.8 h·ng/mLであった。AMRの活性代謝物であるアムルビシノール (AMR-OH) は、終末半減期が 48.4 ± 36.8 hours と長く、長時間作用性であることが示された。CPT-11のラクトン体のCmaxは 259.9 ± 164.3 ng/mL、カルボキシレート体のCmaxは 241.9 ± 60.0 ng/mLであった。各薬剤の薬物動態パラメータには患者間変動が認められたものの、既報の単剤データと比較して、AMRとCPT-11間の明らかな薬物相互作用は検出されなかった。
登録の中断と安全性の懸念: 当初は40例の登録を計画していたが、一部の患者で重篤な下痢と好中球減少の併発が認められ、安全性の懸念から23例が登録された時点で患者登録が早期に終了された。
考察/結論
本研究は、未治療進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者に対するアムルビシン (AMR) とイリノテカン (CPT-11) のG-CSFサポート併用療法の第I/II相試験であり、推奨用量 (RD) としてAMR 35 mg/m²およびCPT-11 50 mg/m²を確立した。
先行研究との違い: 本試験で得られた中央OS 15.21ヶ月 (95% CI 11.30-20.37) という成績は、日本のED-SCLCに対する標準治療であるCDDP+CPT-11療法がJCOG 9511試験で示したMST 12.8ヶ月 (Noda et al. NEnglJMed 2002) とは対照的に、プラチナフリーの2剤併用療法でありながら数値的にこれを上回る。これは、従来のプラチナ製剤併用療法と比較しても極めて良好な生存期間であり、トポイソメラーゼ I および II の二重阻害による相乗効果という理論的根拠を臨床的に支持する結果となった。
新規性: G-CSFサポート下でのAMRとCPT-11の併用療法は、骨髄抑制が非常に強いことが知られていたが、本研究で初めて、予防的G-CSF投与 (Day 4-7および9-15) を組み込むことにより、AMR 35 mg/m²およびCPT-11 50 mg/m²という用量において、計画されたRDIをAMRで95%、CPT-11で88%と高く維持しながら安全に投与可能であることを新規に示した。
臨床応用: 本レジメンは、未治療ED-SCLC患者に対して強力な抗腫瘍効果を示すことから、プラチナ製剤不耐容の患者に対する新たな治療選択肢となる臨床的有用性を持つ。しかし、本試験で認められた重篤な下痢と好中球減少の合併症は、治療継続を困難にする要因であった。したがって、実際の臨床現場において本レジメンを安全に応用するためには、UGT1A16やUGT1A128などの遺伝子多型やP-glycoprotein多型といったバイオマーカーを用いた患者選択が不可欠である。これにより、重篤な下痢や骨髄抑制のリスクが高い患者を事前にスクリーニングし、個別化化学療法を行うことで、治療関連死を防ぎ安全性を最大化することが可能となる。
残された課題: 本試験は、重篤な下痢と好中球減少の頻発により、当初計画していた40例の登録に達せず23例で早期終了したというlimitationがある。また、単群試験であるため、標準治療との直接比較はなされていない。同時期に実施された第III相試験 (JCOG 0509試験) において、CDDP+AMR療法がCDDP+CPT-11療法に対してOSでの優越性を示せなかったこと、および治療関連死が報告されたことから、AMR併用療法の初回治療における開発は困難な経緯を辿った。今後の検討課題として、現代の標準治療である免疫チェックポイント阻害薬 (アテゾリズマブ、デュルバルマブ) 併用化学療法における本レジメンの位置付けの再評価、および新規トポイソメラーゼ阻害薬や抗体薬物複合体 (ADC) との比較検討が挙げられる。
方法
本研究は、西日本胸部腫瘍臨床研究機構 (WJTOG; West Japan Thoracic Oncology Group) が主導する多施設共同単群第I/II相用量漸増試験として実施された。本試験は臨床試験登録システムに UMIN000000000 として登録され、プロトコルはWJTOGの臨床試験審査委員会および各参加施設の倫理審査委員会によって承認された。
患者選択基準: 組織学的または細胞学的に小細胞肺癌と診断され、進展型小細胞肺癌 (または悪性胸水を伴う限局期疾患) の患者が対象とされた。化学療法未治療、ECOG Performance Status (PS) 0-1、年齢20-70歳、期待生存期間2ヶ月以上、測定可能病変を有し、かつ適切な骨髄、肝臓、腎臓、心臓機能を有する患者が登録された。具体的な基準は、白血球数 4000-12000/mm³、好中球数 ≥2000/mm³、血小板数 ≥100000/mm³、ヘモグロビン ≥9.5 g/dl、AST/ALT ≤2.5倍ULN (upper limit of normal; 基準値上限)、血清ビリルビン ≤1.5 mg/dl、血清クレアチニン ≤ULN、PaO2 ≥60 Torr (室内気)、駆出率 ≥60%であった。
除外基準: 肺線維症、急性炎症・感染症、ドレナージが必要な大量胸水・腹水・心嚢液、未コントロールの糖尿病、イレウス・腸麻痺・下痢、症候性脳転移、心不全の既往、妊娠中、重篤な薬物アレルギーの既往、胸部または骨盤への先行放射線治療歴がある患者は除外された。
治療スケジュール: AMRはDay 1-3に5分間かけて静脈内投与された。CPT-11はDay 1とDay 8に60分間かけて静脈内投与された。G-CSF (フィルグラスチム 75 μg/body/日) は予防的にDay 4-7およびDay 9-15に皮下投与された。治療は21日を1サイクルとして繰り返された。
用量設定と漸増計画: AMRの用量は、Level 1 (35 mg/m²) とLevel 2 (40 mg/m²) の2段階で設定され、CPT-11の用量は両レベルで50 mg/m²に固定された。各レベルで最初に3例が登録され、DLTが認められなければ用量を漸増した。3例中1-2例でDLTが認められた場合はさらに3例を追加し、6例中2例以下であれば漸増可能とした。
用量制限毒性 (DLT) および最大耐用量 (MTD) の定義: DLTは、血小板数 <20000/μL、4日以上持続するGrade 4好中球減少、発熱性好中球減少 (発熱 >38.5°Cかつ好中球数 <1000/μL)、悪心・嘔吐を除くGrade ≥3の非血液毒性、Day 8のCPT-11投与が7日以上遅延、または次サイクル開始が14日以上遅延と定義された。MTDは、3例中3例または6例中3例以上でDLTが認められた用量レベルと定義された。
薬物動態 (PK) 解析: Level 1の9例を対象に、第1サイクル中に血液サンプルを採取し、AMR、その活性代謝物であるアムルビシノール (AMR-OH)、CPT-11のラクトン体およびカルボキシレート体の血漿中濃度を高速液体クロマトグラフィー (HPLC) で測定した。WinNonlin version 3.1ソフトウェアを用いて、非コンパートメントモデルにより薬物動態パラメータを算出した。
統計解析: 主要評価項目は、DLT、MTD、RDの決定であった。副次評価項目は、全奏効率 (ORR、RECIST ver1.0基準)、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性プロファイル (NCI-CTC v2.0基準) であった。本研究は、二項確率を用いた1段階デザインでサンプルサイズを決定した。期待奏効率85%、許容下限奏効率65%、α=0.05 (両側)、β=0.2として、目標登録患者数は37例 (評価不能例を含め40例) と計画された。PFSおよびOSはKaplan-Meier法を用いて推定された。