- 著者: Lara PN Jr, Natale R, Crowley J, Lenz HJ, Redman MW, Carleton JE, Jett J, Langer CJ, Kuebler JP, Dakhil SR, Chansky K, Gandara DR
- Corresponding author: Primo N. Lara Jr, MD (University of California Davis Cancer Center, 4501 X St, Sacramento, CA 95817; primo.lara@ucdmc.ucdavis.edu)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2009
- Epub日: 2009-04-06
- Article種別: Original Article (multi-cooperative-group phase III randomized trial, Southwest Oncology Group [SWOG] S0124)
- PMID: 19349543
背景
ED-SCLC (extensive-stage small cell lung cancer, 進展型小細胞肺癌) は小細胞肺癌全体の約 60-70% を占め、診断時に遠隔転移を有する高度悪性腫瘍である。1980 年代以降、cisplatin+etoposide (EP) 療法が標準的な 1 次治療として確立されていた。先行研究である Roth et al. JClinOncol 1992 においても EP 療法の有用性が示されたが、ED-SCLC 患者の生存期間中央値は 9-10 か月で頭打ちとなっており、新規治療戦略の確立が急務であった。2002 年、日本の第 III 相試験である JCOG9511 試験 (Noda et al. NEnglJMed 2002) において、イリノテカン+シスプラチン (IP) 療法が EP 療法に対して全生存期間 (OS) を有意に延長することが報告された (OS 中央値: 12.8 vs 9.4 か月, HR 0.60, 95% CI 0.43-0.83, p=0.002)。この劇的な結果を受け、IP 療法は新たな標準治療として期待された。しかし、JCOG9511 試験は日本人のみ 174 例を対象とした比較的小規模な試験であり、中間解析での早期中止による治療効果の過大評価リスクが懸念された。さらに、北米で実施された modified schedule による第 III 相試験である Hanna et al. JClinOncol 2006 では IP 療法の生存ベネフィットが再現されず、結果は controversial であり、最適な治療選択に関する議論は未解明のままであった。日本人と非日本人における薬物代謝酵素やトランスポーターの遺伝子多型 (SNP [single nucleotide polymorphism]) 頻度の違いが治療成績や毒性に影響している可能性も指摘されていたが、詳細な機序は不明であり、確固たるエビデンスは未確立であった。したがって、北米の患者集団において JCOG9511 試験と完全に同一のレジメンおよび適格基準を用いた大規模検証試験が不足しており、同時に薬理ゲノミクス (PG [pharmacogenomics]) 解析による人種差の検証を行う必要性という大きな課題が残されていた。
目的
本研究の目的は、北米の未治療 ED-SCLC 患者を対象に、日本の JCOG9511 試験と完全に同一の投与設計を用いた IP 療法 (イリノテカン 60 mg/m² day 1, 8, 15 + シスプラチン 60 mg/m² day 1, 4週毎) と、標準治療である EP 療法 (エトポシド 100 mg/m² day 1-3 + シスプラチン 80 mg/m² day 1, 3週毎) を直接比較する大規模共同第 III 相ランダム化比較試験 (SWOG S0124) を実施し、IP 療法の生存期間における優越性を検証することである。主要評価項目は OS とし、副次評価項目は無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、および毒性プロファイルとした。さらに、探索的サブスタディとして患者の germline DNA を用いた薬理ゲノミクス解析を行い、薬物トランスポーターをコードする ABCB1 (ATP-binding cassette sub-family B member 1) 遺伝子や、薬物代謝酵素をコードする UGT1A1 (UDP-glucuronosyltransferase 1-1) 遺伝子などの遺伝子多型と、IP 療法および EP 療法の毒性・有効性との相関を明らかにすることを目的とした。
結果
患者背景と治療完遂度: 2002 年 11 月から 2007 年 3 月までに計 671 例が登録され、適格基準を満たした 651 例 (IP 群 324 例、EP 群 327 例) が最終的な解析対象となった (Fig. 1)。患者背景は両群間で極めて良好にバランスが保たれており、年齢中央値は IP 群 62 歳、EP 群 63 歳、男性の割合は IP 群 58%、EP 群 56% であった (Table 2)。白人が全体の 93% を占め、アジア人は 1% 未満であった。LDH 高値 (> ULN) は IP 群 65%、EP 群 67% であり、複数部位への転移は IP 群 76%、EP 群 75% に認められた。予定された 4 サイクルの治療完遂率は IP 群 63%、EP 群 67% であり、両群間で同等であった。平均線量強度 (dose-intensity) は、IP 群でイリノテカン 66%、シスプラチン 78% であり、EP 群でエトポシド 78%、シスプラチン 81% であった。
有効性評価: 主要評価項目である OS において、IP 群は EP 群に対する生存ベネフィットの優越性を示せなかった。OS 中央値は IP 群で 9.9 か月、EP 群で 9.1 か月であり、両群間で有意差を認めなかった。生存期間のハザード比は HR 0.95 (95% CI 0.81-1.11, p=0.71) であった (Fig. 3)。1 年生存率は IP 群 41%、EP 群 34% であった。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は IP 群で 5.8 か月、EP 群で 5.2 か月であり、IP 群でわずかな延長傾向がみられたものの統計学的有意差には至らなかった。PFS のハザード比は HR 0.85 (95% CI 0.72-1.00, p=0.07) であった (Fig. 2)。客観的奏効率 (ORR) は IP 群 60% (95% CI 54-65%)、EP 群 57% (95% CI 53-63%) であり、両群間で有意な差を認めなかった (p=0.56)。
毒性プロファイル: Grade 3 以上の有害事象の発現率は IP 群で 67.2% (213/317 例)、EP 群で 84.6% (274/324 例) であり、総発現数は EP 群で有意に多かった (Table 1)。血液毒性においては、Grade 3/4 の好中球減少 (IP 群 33% vs EP 群 68%) および血小板減少 (IP 群 4% vs EP 群 15%) ともに EP 群で顕著に高頻度であった。一方、非血液毒性においては、Grade 3/4 の下痢が IP 群で 19% に対し、EP 群では 3% であり、IP 群において極めて高頻度であった。治療関連死は IP 群で 11 例 (3.4%)、EP 群で 8 例 (2.5%) に認められた。
薬理ゲノミクス解析結果: 169 例を対象とした探索的 PG 解析において、特定の遺伝子多型と治療関連毒性との間に強い相関が同定された。ABCB1 (C3435T) 遺伝子座において、T/T 遺伝子型を有する患者は、C/C または C/T 遺伝子型を有する患者と比較して、IP 療法による Grade 3 以上の重篤な下痢の発現リスクが有意に高かった (OR 3.9, 95% CI 1.1-13.8, p=0.01)。また、UGT1A1 (G-3156A) 遺伝子座において、A/A 遺伝子型を有する患者は、IP 療法による Grade 3 以上の重篤な好中球減少のリスクが極めて高かった (OR 24, 95% CI 2-282, p=0.02)。Grade 3 以上の好中球減少と下痢の併発リスクについても、ABCB1 (C3435T) T/T 遺伝子型 (OR 5.0, 95% CI 1.2-22.9, p=0.03) および UGT1A1 (G-3156A) A/A 遺伝子型 (OR 7.6, 95% CI 0.9-63, p=0.06) との関連が示された。なお、本コホートにおいて UGT1A1*28 TA7 (thymine-adenine 7 repeats) アレル保有者は 4 例のみであり、毒性との相関解析は不能であった。
考察/結論
先行研究との違い: 本研究 (SWOG S0124) は、日本の JCOG9511 試験 (Noda et al. NEnglJMed 2002) とは異なり、651 例という約 3.7 倍の大規模なサンプルサイズを有し、中間解析による早期中止を行うことなく計画通りに完遂された。JCOG9511 試験で示された IP 療法の劇的な生存期間延長効果 (OS 中央値 12.8 か月) は、本北米共同試験においては再現されず、両群の生存成績は同等であった (OS 中央値: 9.9 vs 9.1 か月)。この相違の原因として、JCOG9511 試験の小規模さによる治療効果の過大評価、および患者背景の不均衡 (女性や PS 良好例の偏り) が挙げられる。
新規性: 本研究は、がん臨床試験のグローバル化における人種・民族的要因の影響を、同一デザインの試験を通じて初めて実証した。さらに、薬理ゲノミクス解析を組み込むことにより、ABCB1 (C3435T) T/T 遺伝子型がイリノテカン誘発性下痢の、UGT1A1 (G-3156A) A/A 遺伝子型が好中球減少の独立した予測因子であることを新規に同定した。これは、人種間の inherent な遺伝子多型頻度の違いが、抗がん剤の毒性プロファイルや治療送達性に直接影響を与えることを示す重要な知見である。
臨床応用: 本研究結果に基づき、北米および欧州の臨床現場においては EP 療法 (またはカルボプラチン+エトポシド [CE] 療法) が ED-SCLC の 1 次治療における標準治療として再確認され、IP 療法の標準治療化は否定された。その後、免疫チェックポイント阻害薬を併用した Horn et al. NEnglJMed 2018 (IMpower133 試験) などの登場により、EP/CE 療法が標準バックボーンとしての地位を不動のものとした。本研究の薬理ゲノミクス知見は、将来的な個別化医療 (genotype-guided dosing) の基盤となる。
残された課題: 今後の検討課題として、同定された遺伝子多型情報に基づき、治療開始前にイリノテカンの投与量を個別化調整する前向き臨床試験の実施が挙げられる。また、欧州で実施された Hermes et al. JClinOncol 2008 試験のように、カルボプラチン併用レジメンにおける遺伝子多型と治療成績の関連性についてもさらなる検証が必要である。現在の免疫療法併用時代において、IP 療法をバックボーンとした新規モダリティ (DLL3 指向性バイオテクノロジー製剤など) の開発における人種差の考慮も重要な課題である。
方法
本試験は、SWOG (Southwest Oncology Group) が主導し、CALGB (Cancer and Leukemia Group B)、NCCTG (North Central Cancer Treatment Group)、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group)、および CCOPs (Community Clinical Oncology Programs) が共同で実施した北米の多施設共同非盲検ランダム化第 III 相試験である (臨床試験登録番号: NCT01253603 関連)。適格基準は、組織学的または細胞学的に確認された未治療の ED-SCLC、Zubrod performance status (PS) 0-1、適切な主要臓器機能 (好中球数 [ANC] ≥ 1,500/μL, 血小板数 ≥ 100,000/μL, クレアチニンクリアランス ≥ 50 mL/min) を有する患者とした。登録前 28 日以内の胸部・腹部 CT、および 42 日以内の脳 CT/MRI による病変評価を必須とした。ランダム化は SWOG 統計センターを通じて行われ、層別化因子は転移臓器数 (単一 vs 複数)、過去 6 か月以内の体重減少率 (≤ 5% vs > 5%)、および乳酸脱水素酵素 (LDH) 値 (≤ 基準値上限 [ULN] vs > ULN) とした。治療レジメンは、IP 群がイリノテカン 60 mg/m² (day 1, 8, 15) + シスプラチン 60 mg/m² (day 1) を 4 週間隔で 4 サイクル投与、EP 群がエトポシド 100 mg/m² (day 1, 2, 3) + シスプラチン 80 mg/m² (day 1) を 3 週間隔で 4 サイクル投与とした。毒性評価は NCI CTC (Common Toxicity Criteria) version 2.0 を用い、腫瘍縮小効果は RECIST v1.0 基準に従って評価した。統計解析では、EP 群の OS 中央値を 10 か月と想定し、IP 群による 33% の生存期間延長 (片側 α=0.025, 検出力 90%) を検出するために、必要症例数を各群 310 例 (計 620 例) と算出した。生存曲線の比較には層別ログランク (log-rank) 検定を用いた。薬理ゲノミクス解析では、同意の得られた 169 例から germline DNA を抽出し、UGT1A1 (G-3156A) や ABCB1 (C3435T) などの SNP をジェノタイピングし、毒性との関連をロジスティック回帰分析で評価した。