• 著者: Sayaka Onoda, Noriyuki Masuda, Takashi Seto, Kenji Eguchi, Yuichi Takiguchi, Hiroshi Isobe, Hiroaki Okamoto, Takashi Ogura, Akira Yokoyama, Nobuhiko Seki, Yoshiko Asaka-Amano, Masao Harada, Akihiro Tagawa, Hiroshi Kunikane, Masanori Yokoba, Kazutsugu Uematsu, Takayuki Kuriyama, Yumi Kuroiwa, Koshiro Watanabe
  • Corresponding author: Noriyuki Masuda, MD, PhD (Department of Respiratory Medicine, Kitasato University School of Medicine, Sagamihara, Kanagawa, Japan)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2006
  • Epub日: 2006-12-01
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 17135647

背景

小細胞肺癌 (SCLC; small-cell lung cancer) は、肺癌全体の約15%を占める極めて悪性度の高い神経内分泌腫瘍である。SCLCは初回プラチナベース化学療法に対して高い感受性を示すものの、ほとんどの症例で早期に再発を経験する。再発後の予後は極めて不良であり、特に初回治療中または治療終了後60日以内に病勢進行を認める難治性 (refractory) SCLC患者では、二次化学療法への奏効率が10%以下、生存期間中央値が4〜5ヶ月と報告されており、有効な治療選択肢が限られていることが大きな課題であった。当時の二次治療の標準薬であったトポイソメラーゼI阻害薬トポテカンは、難治性SCLCに対して2〜11%の奏効率、感受性 (sensitive) SCLCに対して15〜25%の奏効率に留まっていた (vonPawel et al. JClinOncol 1999)。このため、標準治療に抵抗性を示すSCLC患者に対して、新たな作用機序を持つ効果的な薬剤の開発が強く求められていた。

アムルビシンは日本で開発された全合成9-アミノアントラサイクリン系の新規抗悪性腫瘍薬である。その活性代謝物であるアムルビシノールは、DNAトポイソメラーゼIIを阻害することでDNA切断複合体を安定化させ、細胞毒性を示す。前臨床試験では、アムルビシンはドキソルビシンと比較してより強力な抗腫瘍活性を示し、心毒性が軽微であることが報告されていた。また、未治療の進展型SCLC患者を対象とした第II相試験では、アムルビシン単剤療法が79%という高い奏効率を示すなど、その高い抗腫瘍活性が示唆されていた。しかし、プラチナベース化学療法既治療の再発・難治性SCLC患者におけるアムルビシンの有効性と安全性に関する詳細なデータは、本研究開始時点ではまだ不足しており、特に難治性SCLCに対する効果は未解明な点が多かった。この知識ギャップ (knowledge gap) を埋めることが、本試験の重要な目的の一つであった。

目的

本多施設共同第II相試験である TORG 0301 (Thoracic Oncology Research Group Study 0301) は、プラチナベース化学療法を含む1レジメン以上の前治療歴を有する再発または難治性小細胞肺癌 (SCLC) 患者を対象として、アムルビシン単剤療法の抗腫瘍活性(奏効率)、無増悪生存期間 (PFS; progression-free survival)、全生存期間 (OS; overall survival)、および安全性を評価することを目的とした。特に、初回治療からの再発までの期間に基づいて、難治性群 (refractory group) と感受性群 (sensitive group) に層別化し、それぞれの群におけるアムルビシンの効果を詳細に検討することを目指した。これにより、既存の治療選択肢が限られているSCLC患者、特に難治性SCLC患者に対するアムルビシンの臨床的有用性を明らかにすることが期待された。主要評価項目は奏効率であり、副次評価項目はPFS、OS、および安全性であった。

結果

患者背景と治療実施状況: 本試験には2003年6月から2004年12月までに合計60例の患者が登録され、全例が安全性、奏効、および生存期間の評価対象となった (Table 1)。患者背景は、男性46例、女性14例、年齢中央値67歳(範囲52〜79歳)であった。登録時、限局型SCLCが11例 (18%)、進展型SCLCが49例 (82%) であった。全患者がトポイソメラーゼ阻害薬を含む化学療法歴を有しており、24例がトポイソメラーゼI阻害薬(イリノテカンまたはトポテカン)を含むレジメン、20例がエトポシドを含むレジメン、16例が両方のレジメンを受けていた (Table 2)。治療サイクル数の中央値は4サイクル(範囲1〜8サイクル)であり、合計224サイクルが投与された。

全体奏効率と病勢コントロール: 全60例中、完全奏効 (CR) が2例 (3%)、部分奏効 (PR) が29例 (48%) であり、全体奏効率 (ORR) は52% (95% CI 38-65%) であった (Table 2)。病勢安定 (SD) が12例 (20%)、病勢進行 (PD) が17例 (28%) であった。病勢コントロール率 (DCR) は72%であった。奏効は治療開始から中央値32日(範囲15〜91日)で認められ、脳転移を含む全ての病変部位で奏効が確認された。脳転移を有する21例のうち6例 (29%) で奏効が認められた。性別、ECOG PS (0-1 vs 2)、初回化学療法への奏効、病期 (限局型 vs 進展型) による奏効率の有意な差は認められなかった (p=0.64, p=0.35, p=0.88, p=0.26)。

難治性および感受性SCLC患者における治療効果: 難治性群 (n=16) における奏効率は50% (95% CI 25-75%) であり、PRが8例、CRは0例であった。この群の無増悪生存期間 (PFS) 中央値は2.6ヶ月、全生存期間 (OS) 中央値は10.3ヶ月であった。1年生存率は40.3%であった (Figure 1)。一方、感受性群 (n=44) における奏効率は52% (95% CI 37-68%) であり、PRが21例、CRが2例であった。この群のPFS中央値は4.2ヶ月、OS中央値は11.6ヶ月であった。1年生存率は45.5%であった (Figure 1)。難治性群と感受性群の間で、OSに有意な差は認められなかった (10.3 vs 11.6 months, p=0.974, ログランク検定)。全患者のOS中央値は11.2ヶ月、1年生存率は44.1% (95% CI 30.6-56.8%) であった。

前治療歴別の抗腫瘍活性: トポイソメラーゼI阻害薬を含むレジメンで前治療を受けた40例の患者のうち、21例 (53%) がアムルビシン単剤療法でPRを達成した。また、エトポシドを含む化学療法歴のある36例の患者では、17例 (47%) がPR、2例 (6%) がCRを達成し、合計19例 (53%) で奏効が認められた (Table 2)。これは、アムルビシンと既存のトポイソメラーゼ阻害薬との間に非交叉耐性が存在する可能性を示唆している。

安全性および毒性プロファイル: 最も頻繁に認められたGrade 3/4の血液毒性は、好中球減少 (83.3%)、貧血 (33.3%)、血小板減少 (20.0%) であった (Table 3)。Grade 4の好中球減少は67% (40例) の患者で認められた。発熱性好中球減少症 (FN) は3例 (5.0%) で発生した。G-CSFは224サイクル中134サイクル (60%) で投与され、42例 (70%) の患者がG-CSFの投与を受けた。非血液毒性は概ね軽度であり、主なGrade 3/4の非血液毒性として、食欲不振 (15.0%)、倦怠感 (15.0%)、低ナトリウム血症 (8.3%)、悪心 (5.0%) が報告された。心毒性については1例 (1.7%) で一過性の心房細動が認められたのみで、左室駆出率の低下は認められなかった。治療関連死は0例であった。

治療実施状況と用量調整: 治療サイクル数の中央値は4サイクル(範囲1〜8サイクル)であり、合計224サイクルが投与された。アムルビシンの用量減量は、感受性群においてのみ42サイクル(18.8%)で必要とされた。その結果、全224サイクルのうち80.4%で予定されたフル用量(40 mg/m²)の投与が維持できた。全60例のうち38例(63%)が予定された4サイクル以上を完遂した。治療の早期中止の主な理由は、病勢進行(14例)、急性肺炎(2例)、および患者の拒否(2例)であった。重篤な白血球減少や血小板減少のほとんどはサイクル1で観察され、その後のサイクルで適切な用量調整が行われた。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、当時の標準治療であったトポテカンを用いた第III相試験 (vonPawel et al. JClinOncol 1999) と比較して、難治性SCLC患者において極めて高い抗腫瘍活性を示した点で大きく異なる。トポテカンの難治性SCLCに対する奏効率が2〜11%であったのに対し、本試験におけるアムルビシンの奏効率は50%に達した。これは、アムルビシンがトポイソメラーゼII阻害薬であり、トポイソメラーゼI阻害薬に対する交叉耐性が低いことに起因すると考えられる。また、エトポシド(トポイソメラーゼII阻害薬)既治療患者においても53%の奏効率が認められたことから、アムルビシンとエトポシドの間にも非交叉耐性が存在することが示唆される。

新規性: 本研究で初めて、アムルビシン単剤療法がプラチナベース化学療法に抵抗性を示す難治性SCLC患者において、50%という極めて高い奏効率と10.3ヶ月のOS中央値をもたらすことを新規に実証した。治療抵抗性の高い患者群でこれほどの高い奏効が得られたことは、これまでのSCLC二次治療の常識を覆す新規な知見である。また、アムルビシンが脳転移病変に対しても奏効(奏効率29%)を示したことは、SCLCの治療において重要な臨床的意義を持つ。

臨床応用: 本試験の結果は、日本におけるアムルビシンの再発SCLCに対する承認(2004年)を強力に支持し、臨床現場における標準的な二次治療選択肢としての地位を確立させた。アムルビシンは、その高い抗腫瘍活性と管理可能な毒性プロファイルから、再発・難治性SCLC患者に対する重要な治療選択肢として臨床現場に導入された。本試験の成功は、その後のアムルビシンとトポテカンを比較する国際共同第III相試験へと発展する契機となった。

残された課題: 今後の検討課題として、本試験が単一アームの第II相試験であり、特に難治性SCLC患者数が16例と限られているため、この集団における真の奏効率を確定するためにはさらなる大規模な検証が必要である。また、欧米で行われた第III相試験ではトポテカンに対するOSの優越性が示されなかったことから、日本人集団と欧米人集団における薬物動態や患者背景の差がアムルビシンの効果に影響を与える可能性があり、この点に関する詳細な検討が今後の課題である。さらに、免疫チェックポイント阻害薬が導入された現在の治療環境において、アムルビシンの位置付けや、新規薬剤との比較研究も今後の重要な研究方向性として残されている。

方法

本研究は、多施設共同非盲検第II相臨床試験 (TORG 0301) として、2003年6月から2004年12月にかけて日本国内の17施設で実施された。合計60例の患者が登録された。本試験は、特定の臨床試験登録番号(NCT番号など)が普及する前に計画・実施されたため登録IDは持たないが、プロトコルは各施設の倫理委員会または治験審査委員会によって事前に承認された。

患者選択基準: 組織学的または細胞学的にSCLCと診断され、プラチナベース化学療法を含む1〜2レジメンの前治療歴を有する患者が対象とされた。測定可能病変を有し、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) Performance Status (PS) が0〜2、十分な臓器機能(白血球数 ≥ 4,000/μL、好中球絶対数 ≥ 2,000/μL、血小板数 ≥ 100,000/μL、ヘモグロビン ≥ 9.0 g/dL、AST/ALT ≤ 100 U/Lまたは肝転移がある場合は ≤ 200 U/L、ビリルビン ≤ 1.5 mg/dL)を有すること、および心機能が良好であること(左室駆出率 ≥ 50%)が求められた。また、前治療の化学療法または胸部放射線療法から4週間以上経過していることが条件とされた。

患者層別化: 患者は、初回化学療法終了からの再発までの期間に基づいて以下の2群に層別化された。

  • 難治性群 (Refractory group): 初回治療中または初回治療終了後60日以内に病勢進行を認めた患者 (n=16)。
  • 感受性群 (Sensitive group): 初回治療終了後60日以降に再発を認めた患者 (n=44)。

治療レジメン: アムルビシンは、40 mg/m²を1日1回、5分間かけて静脈内投与で3日間連続投与された(Day 1-3)。このサイクルは3週ごとに繰り返され、最大9コースまで投与可能とされた。顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF; granulocyte colony-stimulating factor) は治療的使用が許可されたが、予防的使用は任意とされた。次コース開始の条件として、好中球数 ≥ 1,500/μL、血小板数 ≥ 100,000/μL、および非血液毒性がGrade 1以下に回復していることが必要とされた。これらの基準が6週間以内に満たされない場合、患者は試験から除外された。Grade 3以上の発熱性好中球減少症 (FN; febrile neutropenia) やGrade 3以上の非血液毒性が認められた場合、アムルビシンの用量は35 mg/m²に減量された。

評価項目と統計解析: 主要評価項目は奏効率 (ORR; overall response rate) であり、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) ガイドラインに基づき、独立した外部評価委員会によって確認された。副次評価項目は、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS)、および安全性(NCI Common Toxicity Criteria, Version 2.0)であった。生存期間の推定にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法が用いられた。群間の比較にはログランク (log-rank) 検定が使用された。その他の統計解析にはχ²検定またはフィッシャー (Fisher’s exact) 検定が用いられ、p値 < 0.05を統計的有意差ありと判断した。サンプルサイズは、感受性群において目標奏効率を40%(閾値20%)とし、片側α=2.5%、検出力80%で44例が必要と算出された。難治性群では、奏効率が5%を超えることを示すために、16例の評価可能患者で検出力80%(片側α=5%)が計画された。