- 著者: Hoon-Gu Kim, Gyeong-Won Lee, Jung Hun Kang, Myung-Hee Kang, In-Gyu Hwang, Seok Hyun Kim, Jong Ryeal Hahm, Yi Yeong Jeong, Ho-Cheol Kim, Jong Duk Lee, Jong-Seok Lee, Young Sil Hwang
- Corresponding author: Gyeong-Won Lee (Division of Hematology-Oncology, Department of Internal Medicine, College of Medicine, Gyeongsang National University, Jinju, South Korea)
- 雑誌: Lung Cancer
- 発行年: 2008
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 18272249
背景
肺癌は世界および韓国において癌死因の第一位であり、全肺癌の約15%を占める小細胞肺癌 (SCLC) のうち約2/3が診断時にextensive-disease (ED-SCLC) として同定される。ED-SCLCに対する標準的な一次治療としてはイリノテカン (Irinotecan) とシスプラチン (Cisplatin) の併用療法 (IP療法) およびエトポシド (Etoposide) とシスプラチンの併用療法 (EP療法) がある。日本の第III相試験であるNoda et al. NEnglJMed 2002では、IP療法がEP療法に対して有意な生存延長を示した。しかし、米国で行われたHanna et al. JClinOncol 2006の第III相試験では両群間に生存差を示さず、人種差、薬物動態差、投与スケジュール差による有効性・毒性プロファイルの相違が議論されている。このため、IP療法の最適な適用に関する議論は未解明な点が残されている。
米国統計では肺癌の約2/3が65歳以上で診断され、韓国でも高齢者人口増加に伴い高齢肺癌患者の割合が急増していることがGovindan et al. JClinOncol 2006などにより報告されている。しかし、従来の臨床試験では高齢者は除外されるか、performance status (PS) 良好例のみが対象となることが多く、65歳以上、特にPS不良の高齢ED-SCLC患者に対するIP療法の有効性・安全性は十分に検証されていなかった。このため、高齢患者における治療選択の根拠が不足しており、実臨床での適用が困難なケースが散見された。
韓国では化学療法毒性への懸念やQOL低下への不安から、高齢ED-SCLC患者が緩和化学療法を拒否される実臨床も多く、この問題の解決は臨床的に重要な課題であった。特に、高齢患者では若年患者と比較して併存疾患が多く、臓器機能の低下が見られるため、標準的な化学療法の忍容性が低い可能性が指摘されている。このため、高齢者におけるIP療法の安全性プロファイル、特に骨髄抑制や消化器毒性の発生頻度と重症度を詳細に評価し、PSが治療忍容性に与える影響を明らかにすることは、適切な患者選択と治療戦略の確立に不可欠である。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的とした。
目的
本研究の目的は、未治療の65歳以上韓国人ED-SCLC患者に対するイリノテカンとシスプラチン併用療法 (IP療法) の奏効率、生存期間、および毒性プロファイルを前向きに評価することである。具体的には、高齢という因子が治療有効性を損なうか否かを検証し、さらに、併存するperformance status (PS) が治療忍容性および治療成績に与える影響を明らかにすることを目的とした。これにより、高齢ED-SCLC患者に対するIP療法の適切な適応基準と、PSに応じた治療戦略の確立に資するエビデンスを提供することを目指した。特に、PS不良例における毒性の詳細な評価は、今後の治療ガイドライン作成において重要な情報となる。本研究は、高齢者におけるIP療法の安全性プロファイル、特に骨髄抑制や消化器毒性の発生頻度と重症度を詳細に評価し、PSが治療忍容性に与える影響を明らかにすることで、適切な患者選択と治療戦略の確立に不可欠な情報を提供することを目指した。
結果
患者背景: 合計46例の患者が登録された。年齢中央値は70歳 (範囲65-81歳) であり、男性が37例 (80.4%)、女性が9例 (19.6%) であった。ECOG PSの内訳は、PS 0-1が20例 (43.5%、PS 0が7例、PS 1が13例)、PS 2-3が26例 (56.5%、PS 2が20例、PS 3が6例) であり、PS不良例が過半数を占める特徴的な集団であった (Table 1)。転移部位は縦隔/肺門リンパ節が38例 (82.6%)、胸水が12例 (26.1%)、肝臓が10例 (21.7%)、副腎が10例 (21.7%)、骨が9例 (19.6%)、脳が4例 (8.7%) であった。転移臓器数は1箇所が7例 (15.2%)、2箇所が23例 (50.0%)、3箇所以上が16例 (34.8%) と、進行した病態の患者が中心であった。
治療曝露と用量強度: 患者は中央値5サイクル (範囲1-6サイクル) の治療を受けた (Table 2)。6サイクルを完遂した患者は19例 (41.3%) であった。1サイクルのみで治療を中止した患者は3例 (6.5%) であり、そのうち2例は治療関連死 (好中球減少性発熱と敗血症) によるもので、残りの1例はイリノテカン誘発性間質性肺炎のためであった。総投与サイクル数は194サイクルであった。このうち100サイクル (51.5%) で投与延期が行われ、延期期間の中央値は2週間であった。58サイクルで用量減量が行われ、40サイクル (22.0%) ではday 8またはday 15のイリノテカン投与が省略された。投与延期および減量の主な原因は、好中球減少症、感染症、および下痢であった。実際の用量強度 (Actual dose intensity) は、イリノテカンで32.5 mg/m²/週 (相対用量強度 72.2%)、シスプラチンで11.6 mg/m²/週 (相対用量強度 77.9%) であった (Table 3)。
治療奏効と生存期間: ITT解析における奏効率 (ORR) は76.1% (95% CI 63.8-88.4%) であった。内訳は、完全奏効 (CR) が9例 (19.6%)、部分奏効 (PR) が26例 (56.5%) であった。病勢安定 (SD) は8例 (17.4%)、病勢進行 (PD) は0例、評価不能は3例 (6.5%) であった (Table 4)。 全生存期間 (OS) 中央値は10.4ヶ月 (95% CI 7.6-13.2ヶ月) であった (Figure 1)。1年生存率は32.9%、2年生存率は3.8%であった。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は8.32ヶ月 (95% CI 6.8-9.8ヶ月) であった (Figure 2)。追跡期間中央値は36ヶ月であった。
パフォーマンスステータスと生存期間の関連: ECOG PS 0-1群の患者は、PS 2-3群の患者と比較して、OSが有意に延長した (Log-rank p = 0.0339) (Figure 3)。発熱性好中球減少症により入院を要した患者群は、そうでない患者群と比較して生存期間が有意に不良であった (Log-rank p = 0.0328) (Figure 4)。これは、治療強度の低下が予後悪化に影響を与えた可能性を示唆する。
血液毒性: Grade 3-4の血液毒性の発生率は以下の通りであった (Table 5)。好中球減少症は58.7% (Grade 3: 39.1%、Grade 4: 19.6%)、白血球減少症は49.9% (Grade 3: 36.9%、Grade 4: 13.0%)、貧血は21.7% (Grade 3: 17.4%、Grade 4: 4.3%)、血小板減少症は28.3% (Grade 3: 26.0%、Grade 4: 2.2%) であった。発熱性好中球減少症は20例 (43.5%) に発生した。ECOG PS別の発生率では、PS 2-3群で70.4%と極めて高く、PS 0-1群の5.2%と比較して統計学的に有意な差が認められた (p < 0.001)。
非血液毒性: Grade 3-4の非血液毒性の発生率は以下の通りであった (Table 5)。感染症は39.1% (Grade 3: 32.6%、Grade 4: 6.5%)、下痢は30.4% (Grade 3: 23.9%、Grade 4: 6.5%) であった。Grade 2の下痢は17.4%に発生した。Grade 3の食欲不振は39.1%、口内炎は15.2%、食道炎は15.2%に認められた。Grade 4の肺炎が1例 (2.2%) に発生し、この患者は治療中止となった。その他の非血液毒性は軽度であった。
治療関連死: 治療関連死は2例 (4.3%) 発生した。いずれもECOG PS 3の患者であり、死因は好中球減少性敗血症と壊死性肺炎であった。PS不良例において致死的な合併症の発生リスクが高いことが示された。
考察/結論
本試験は、ECOG PS 2-3の患者を過半数含む65歳以上の「unfit寄り」高齢ED-SCLC集団において、イリノテカンとシスプラチン併用療法 (IP療法) が、奏効率76.1%、OS中央値10.4ヶ月、PFS中央値8.32ヶ月と、若年者を対象とした従来試験と同等の有効性を示した。この結果は、高齢という因子単独では治療有効性を損なわないことを明確に示した点で重要である。
先行研究との違い: 本研究は、従来の高齢者SCLCに関する研究がPS良好例に限定されることが多かったのと異なり、PS不良例 (PS 2-3) を積極的に組み入れた点で独自性を持つ。これにより、PSが治療忍容性に与える影響を詳細に評価することが可能となった。特に、PS 2-3群では発熱性好中球減少症の発生率が70.4%と極端に高く (PS 0-1群の5.2%と比較してp < 0.001)、実際の治療関連死2例はいずれもPS 3例から発生したことは、高齢者における患者選択基準として年齢そのものよりperformance statusおよび骨髄予備能、肺機能、心理社会的因子が重要であるという先行知見 (Perrone et al. 2004, Gridelli et al. 2002, Rossi et al. 2005) と一致する。
新規性: 本研究で初めて、アジア人 (韓国人) 高齢ED-SCLC患者に対するIP療法の前向きデータを提供し、PS別の毒性プロファイルを定量的に示した。これは、韓国における高齢者の化学療法実施率向上の根拠を提示するものであり、これまで報告されていない実臨床における高齢者SCLC治療の課題を浮き彫りにした。
臨床応用: 本知見は、PS良好な高齢ED-SCLC患者にはIP療法が有効かつ忍容可能であるため、積極的な治療を提供すべきであるという臨床的意義を持つ。一方で、PS不良例にはより慎重な適応判断と、減量スケジュールやG-CSF予防投与の検討が不可欠であることを示唆する。この結果は、高齢者SCLCの治療ガイドラインにおいて、年齢だけでなくPSを考慮した個別化治療の重要性を強調するものである。
残された課題: 本研究の限界としては、単一アーム・非対照試験であること、症例数46例と小規模であるためサブグループ解析の検出力が不十分であること、および人種差や薬物動態差を考慮すると欧米集団への一般化可能性が限定的であることが挙げられる。今後の検討課題として、特にPS不良高齢者に対する適切な用量・スケジュール (週毎低用量シスプラチン、一次/二次G-CSF予防投与など) の最適化に関する研究が必要である。また、高齢患者のQOL評価や併存疾患の影響をより詳細に分析する研究も求められる。
方法
本研究は、2003年1月から2007年3月にかけて、Gyeongsang National University病院を含む複数の施設で実施された第II相単施設・多施設共同試験である。
患者適格基準: 組織学的に小細胞肺癌と診断されたED-SCLC患者を対象とした。年齢は65歳以上、ECOG PSは0-3、十分な血液・肝腎機能(ヘモグロビン ≥ 9.0 g/dL、好中球数 ≥ 1500/mm³、血小板数 ≥ 100,000/mm³、血清クレアチニン ≤ 1.5 mg/dL、総ビリルビン ≤ 1.5 mg/dL、AST/ALT ≤ 2×ULN)を有し、WHO基準による2次元測定可能病変を有する症例が組み入れられた。神経症状のない脳転移患者も組み入れ可能であった。本研究は施設倫理委員会によって承認され、全患者は書面によるインフォームドコンセントを提供した。
除外基準: 活動性感染症、過去の化学療法・放射線治療・手術歴、3ヶ月以内の心筋梗塞、コントロール不良の心不全・高血圧・糖尿病、二次性悪性腫瘍(上皮内癌・皮膚癌を除く)を有する患者は除外された。
治療レジメン: 患者には、イリノテカン 60 mg/m²をday 1, 8, 15に、シスプラチン 60 mg/m²をday 1に投与する併用化学療法が4週毎に実施された。最大6サイクルまで治療を継続した。シスプラチンによる腎毒性予防のため、十分な補液が行われた。下痢に対してはロペラミド (loperamide) 4 mg初回投与後、2時間毎に2 mgを投与するよう指導された。制吐剤として5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾン (dexamethasone) が静脈内投与された。
用量調整: 血球減少や非血球毒性に応じた用量調整規則が設定された。絶対好中球数と血小板数がそれぞれ1,500/mm³以上および100,000/mm³以上で、Grade 1以下の非血液毒性(脱毛を除く)を有する患者は、各サイクルのday 1に化学療法を受けた。day 8およびday 15の化学療法を受けるための最低要件は、絶対好中球数1,000~1,500/mm³、血小板数 ≥ 75,000/mm³、およびGrade 2以上の非血液毒性(脱毛を除く)がないことであった。これらの条件が満たされない場合、化学療法は1週間延期された。3週間以上の遅延は試験からの離脱とされた。Grade 3-4の血液毒性または発熱性好中球減少症が発生した場合、次サイクルでは両薬剤の用量を20%減量した。Grade 2-4の下痢が発生した場合は、イリノテカン単独で20%減量した。一度用量減量が行われた場合、再増量は許可されなかった。病勢進行、許容できない毒性、または患者の拒否があった場合、治療は中止された。
評価項目: 主要評価項目は奏効率 (objective response rate, ORR) であり、WHO基準に従って評価された。副次評価項目は全生存期間 (overall survival, OS)、無増悪生存期間 (progression-free survival, PFS) (Kaplan-Meier法により評価)、および毒性 (NCI-CTC v3.0) であった。
統計解析とサンプルサイズ: サンプルサイズはSimon’s two-stage optimal designにより算出された。目標ORR 80%に対し、無効ORRを60%と設定し、検出力0.80、両側α 0.05で43例の評価可能例を計画した。初期段階で13例を登録し、8例以上の奏効が認められた場合に、さらに30例を追加登録して合計43例の評価可能例を達成する計画であった。最終的に46例が登録された。OSおよびPFSはKaplan-Meier法を用いて推定し、95%信頼区間 (95% CI) を算出した。Log-rank検定を用いて群間の生存期間を比較した。