- 著者: Nasser Hanna, Paul A. Bunn Jr, Corey Langer, Lawrence Einhorn, Troy Guthrie Jr, Thaddeus Beck, Rafat Ansari, Peter Ellis, Michael Byrne, Mark Morrison, Subramanian Hariharan, Benjamin Wang, Alan Sandler
- Corresponding author: Nasser Hanna (Indiana University, Indianapolis, IN)
- 雑誌: Journal of Clinical Oncology
- 発行年: 2006
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 16648503
背景
進展型小細胞肺がん (ED-SCLC) は、診断時に半数以上の患者が広範な転移を有し、予後不良である。過去20年以上にわたり、etoposideとplatinum製剤(cisplatinまたはcarboplatin)を組み合わせたEP療法がED-SCLCの標準一次治療として確立されており、全生存期間中央値 (mOS) は8〜10ヶ月と報告されてきた Roth et al. JClinOncol 1992。しかし、この期間においてEP療法を凌駕する新たな治療法の開発は困難であり、多くの第III相試験がEP療法に対する優位性を示すことに失敗していた。
このような状況下で、2002年に日本のJCOG9511試験が画期的な結果を報告した Noda et al. NEnglJMed 2002。この試験では、irinotecanとcisplatinを組み合わせたIP療法がEP療法と比較して、ED-SCLC患者のmOSを有意に改善することを示した (IP群 12.8ヶ月 vs EP群 9.4ヶ月、p=0.002)。また、1年生存率もIP群で58.4%と、EP群の37.7%を大きく上回った。この結果は、IP療法がED-SCLCの新たな標準治療となる可能性を示唆し、世界中の腫瘍学者の注目を集めた。
しかし、JCOG9511試験にはいくつかの懸念点が存在した。まず、各群77例と症例数が比較的少数であったこと、そして単一国(日本)での実施であったため、結果の一般化には慎重な検討が必要とされた。さらに、患者背景においてIP群で女性患者や良好なパフォーマンスステータス (PS) の患者がより多く含まれるなど、治療関連の不均衡が指摘された。また、irinotecanの代謝に関わるUDP-glucuronosyltransferase 1A1 (UGT1A1) 遺伝子多型には民族差があることが知られており Beutler et al. ProcNatlAcadSciUSA 1998、これがirinotecanの毒性プロファイルや有効性に影響を与え、日本人集団と欧米人集団で異なる結果をもたらす可能性が示唆された。JCOG9511試験では、irinotecanの計画投与量強度が80%に留まり、day 15の投与が50%の患者で省略されるなど、投与コンプライアンスにも課題があった。
これらの背景から、JCOG9511試験の結果を北米の患者集団で検証する大規模な確認試験の必要性が強く認識された。特に、JCOG9511試験で観察された生存期間の改善が、患者背景の不均衡や民族特異的な要因に起因するものではないことを確認することが、IP療法を新たな標準治療として推奨する上で不可欠であった。従来のEP療法を凌駕する治療法が不足している中で、IP療法が北米の患者集団においても同様の優位性を示すかどうかの検証は、臨床現場における治療選択に大きな影響を与えると考えられた。本研究は、これらの未解明な点を明らかにし、北米におけるED-SCLC患者に対するIP療法の真の有効性と安全性プロファイルを評価することを目的として計画された。
目的
本研究の主要目的は、未治療の進展型小細胞肺がん (ED-SCLC) 患者を対象に、修正weekly irinotecan/cisplatin (IP) 療法と標準etoposide/cisplatin (EP) 療法の全生存期間 (OS) をランダム化比較試験で検証することである。具体的には、Noda et al. NEnglJMed 2002が報告したJCOG9511試験で示されたIP療法のOS改善効果が、北米(米国、オーストラリア、カナダ)の患者集団においても再現されるかを確認することを目的とした。
副次目的としては、両治療法の抗腫瘍効果(奏効率 (ORR) および無増悪生存期間 (PFS))を比較評価すること、および各レジメンの安全性プロファイルと忍容性を詳細に評価することが挙げられる。特に、JCOG9511試験で報告されたIP療法とEP療法における毒性プロファイルの違い(血液毒性と消化器毒性のバランス)が、本試験の修正weekly IP療法においてどのように変化するかを明らかにすることも重要な目的であった。また、JCOG9511試験で指摘された患者背景の不均衡(女性患者やPS良好患者の割合)が本試験で是正された場合に、有効性結果にどのような影響を与えるかを評価することも意図された。さらに、irinotecanの投与量強度を向上させた修正weekly IP療法が、JCOG9511試験のIP療法と比較して、より高い有効性または異なる毒性プロファイルを示すかどうかも検討対象であった。最終的には、IP療法が北米のED-SCLC患者に対する新たな標準治療として確立されるための根拠を提供できるか否かを判断することを目指した。
結果
全生存期間 (OS) は両群間で有意差なし: 全331例中305例 (92.1%) が死亡した時点で主要解析が実施された(最小追跡期間18ヶ月)。全生存期間中央値 (mOS) は、IP群で9.3ヶ月、EP群で10.2ヶ月であり、両群間に統計学的に有意な差は認められなかった (HR 1.02, 95% CI 0.82-1.27, p=0.74)。6ヶ月生存率はIP群73.0% vs EP群74.6%、12ヶ月生存率はIP群34.95% vs EP群35.19%、18ヶ月生存率はIP群17.3% vs EP群19.5%、24ヶ月生存率はIP群8.0% vs EP群7.9%であった。Kaplan-Meier生存曲線は、試験期間を通じて両群間でほぼ重複しており、IP群がわずかに下回る傾向が見られたものの、統計的な差は確認されなかった (Figure 2)。サブグループ解析(年齢、性別、LDH値)においても、一貫して両群間にOSの有意差は認められなかった。
奏効率 (ORR) および無増悪生存期間 (PFS) も両群間で同等: 副次評価項目である奏効率 (ORR) は、IP群で48%、EP群で43.6%であり、両群間に有意な差は認められなかった (p=0.42、差4.4%)。病勢安定 (SD) 率はIP群4.1% vs EP群7.3%であった。腫瘍効果が評価不能であった患者の割合は、IP群28.1% vs EP群29.1%であった。無増悪生存期間中央値 (PFS) は、IP群で4.1ヶ月、EP群で4.6ヶ月であり、こちらも統計学的に有意な差は認められなかった (HR 1.09, 95% CI 0.88-1.35, p=0.37、差0.5ヶ月) (Figure 1)。これらの結果は、抗腫瘍効果においてもIP療法がEP療法と比較して優位性を示さないことを多角的に裏付けている。
毒性プロファイルは質的に異なる: Grade 3/4の血液毒性はEP群で有意に高率であった。特に、Grade 3/4好中球減少はEP群86.5% vs IP群36.2% (p<0.01) と、EP群で50.3%ポイントも高かった。同様に、貧血はEP群11.5% vs IP群4.8% (p=0.03)、血小板減少はEP群19.2% vs IP群4.3% (p<0.01) と、いずれもEP群で有意に高頻度であった。発熱性好中球減少症もEP群10.4% vs IP群3.7%とEP群で高かったが、統計的有意差は認められなかった (p=0.06)。脱毛もEP群で有意に高率であった (EP群32.1% vs IP群6.9%、p<0.01)。
一方、消化器毒性はIP群で有意に高率であった。Grade 3/4下痢はIP群21.3% vs EP群0% (p<0.01) と、IP群でのみ発生した。嘔吐もIP群12.5% vs EP群3.8% (p=0.04)、脱水はIP群13.0% vs EP群2.8% (p=0.02) と、いずれもIP群で有意に高頻度であった (Table 3)。感染症 (IP群7.4% vs EP群11.3%、p=0.50)、疲労 (IP群11.6% vs EP群6.6%、p=0.37)、呼吸困難 (IP群5.1% vs EP群5.7%、p=0.98)、食欲不振 (IP群5.6% vs EP群1.9%、p=0.32) については、両群間で有意差は認められなかった。
PS 2患者における治療関連死の高率: ECOG PS 2の患者31例では、治療関連死が7例 (22.5%) と著しく高率であった。これに対し、PS 0/1の患者300例では治療関連死が11例 (3.7%) であった。この高死亡率はIP群とEP群の両方で認められ、PS 2のED-SCLC患者に対する積極的な化学療法実施時の毒性リスクの高さが浮き彫りになった。この結果を受けて、試験プロトコールが修正され、PS 2患者は試験から除外された。
投与量強度と治療サイクル数: irinotecanの計画投与量強度は94% (39 mg/m²/週) と高く、JCOG9511試験のIP群における80% (36.2 mg/m²/週) と比較して、本試験では高い投与量強度を達成した。cisplatinの計画投与量強度も両群で92〜94%と高かった。治療サイクル数中央値は両群とも4サイクルであった (Table 2)。IP群の50.7% (n=112) とEP群の55.5% (n=61) が4サイクル以上を完了した。6サイクル以上継続した患者の割合は、IP群で25.9%、EP群で42.5%と、EP群でやや高かった。
後治療の状況: 各群の60%以上の患者が試験終了後に何らかの後治療を受けた (Table 4)。IP群の患者では、後治療としてetoposideを含むレジメンを受ける割合が高く (47.2% vs EP群22.6%)、EP群の患者では、topoisomerase I阻害薬(irinotecanなど)を受ける割合が高かった (33% vs IP群24.1%)。これは、各群で未投与の有効な薬剤が後治療として選択されたことを示唆している。
JCOG9511試験との患者背景の比較: 本試験の患者は、JCOG9511試験と比較して病態がより進行している傾向があった。例えば、肝転移の割合は本試験のIP群で50.7%であったのに対し、JCOG9511試験では18%であった。副腎転移も本試験で24.9% vs JCOG9511の6.5%、4部位以上の転移も本試験のIP群で60.2%と、JCOG9511試験よりも広範な転移を有する患者が多かった。CNS転移の割合はIP群19.5% vs EP群17.3%であり、JCOG9511試験のIP群13% vs EP群22%とは異なる分布を示した。これらの患者背景の差異、特に高腫瘍負荷や肝転移の高頻度が、本試験のmOSがJCOG9511試験よりも低い値(9〜10ヶ月)に留まった一因である可能性が考えられる。本試験では、JCOG9511試験で指摘された性別バランスの不均衡(IP群で女性患者が多い)は是正され、両群で男性患者の割合はほぼ同等であった (IP群57.5% vs EP群57.3%)。
考察/結論
本試験は、未治療の進展型小細胞肺がん (ED-SCLC) 患者を対象とした北米での大規模ランダム化第III相試験であり、修正weekly irinotecan/cisplatin (IP) 療法が標準etoposide/cisplatin (EP) 療法と比較して、全生存期間 (OS) の改善をもたらさないことを明確に示した。奏効率 (ORR) および無増悪生存期間 (PFS) においても両群間に有意差は認められず、IP療法が北米の患者集団においてED-SCLCの新たな標準治療に取って代わる根拠は得られなかった。この結果は、Noda et al. NEnglJMed 2002が報告したJCOG9511試験でのIP療法の優位性が、北米の患者集団では再現されないことを実証した重要な確認試験である。
先行研究との違い: JCOG9511試験との結果の相違について、著者は複数の要因を考察している。第一に、本試験ではIP療法の投与スケジュールが変更された点が挙げられる。JCOG9511試験のIP療法はday 1, 8, 15に投与し4週を1サイクルとするものであったが、本試験ではday 1, 8に投与し3週を1サイクルとする修正weeklyレジメンを採用し、irinotecanの投与量強度向上を試みた。実際に本試験ではJCOG9511試験よりも高い投与量強度を達成したが、このスケジュール変更が有効性に影響を与えた可能性は否定できない。SWOG (Southwest Oncology Group) がJCOGと同一スケジュールで確認試験を実施中であり、この点がさらに明らかになることが期待される。
第二に、患者集団の差異が挙げられる。本試験の患者は、JCOG9511試験と比較して、肝転移の割合が50%以上と顕著に高く、4部位以上の転移を有する患者が60%を超えるなど、より広範な転移と高腫瘍負荷を伴う進行した病態であった。一般的に、病態が進行した集団では、治療間の有効性の差が小さくなる傾向があるため、この患者背景の差異が本試験でIP療法の優位性が示されなかった一因であると考えられる。
第三に、薬理ゲノム学的差異、特にirinotecanの代謝に関わるUDP-glucuronosyltransferase 1A1 (UGT1A1) 遺伝子多型の民族差が指摘された。Gilbert症候群に関連するUGT1A1*28/*28ホモ接合体は、アジア人集団では約2%と低頻度であるのに対し、欧米人集団では高頻度であることが知られている Beutler et al. ProcNatlAcadSciUSA 1998。UGT1A1の低活性型多型は、irinotecanの活性代謝物であるSN-38の蓄積を増加させ、毒性、服薬コンプライアンス、さらには腫瘍感受性に影響を及ぼす可能性がある。この民族差が、両試験の結果の相違に寄与した可能性は十分に考えられる。SWOGの進行中の試験では、UGT1A1多型を前向きに評価しており、この点に関するこれまで報告されていない知見が期待される。
新規性: 本研究の新規性は、JCOG9511試験で示されたIP療法の優位性が、北米の患者集団では再現されないことを大規模なランダム化比較試験で初めて実証した点にある。これにより、治療法の有効性には地域や民族による差が存在しうるという重要な知見が提供された。
臨床応用: 本試験の結果は、IP療法がEP療法と同等の奏効率と生存期間を示す一方で、質的に異なる毒性プロファイルを持つことを示唆している。具体的には、IP療法ではGrade 3/4の血液毒性(好中球減少、貧血、血小板減少)がEP療法よりも有意に少なく、一方で消化器毒性(下痢、嘔吐、脱水)が有意に多かった。このことは、血液毒性のリスクが高い患者(例:骨髄機能低下、前治療による骨髄抑制リスクのある患者)において、IP療法が代替の選択肢として有用である可能性を示唆する。臨床現場において、患者の個々の毒性リスクプロファイルに基づいて、EP療法とIP療法のいずれかを選択する際の判断材料となる。
残された課題: JCOG9511試験と本試験の結果の相違を完全に説明するためには、さらなる詳細な解析が必要である。特に、UGT1A1多型を含む薬理ゲノム学的要因が、irinotecanの有効性と毒性に与える影響について、より大規模なコホートでの前向き研究が今後の検討課題である。また、小細胞肺がんにおける分子生物学的特性の民族差についても、さらなる研究が求められる。本試験のlimitationとして、オープンラベルデザインであったこと、およびPS 2患者が途中で除外されたことが挙げられる。これらの要因が結果に与えた影響も考慮する必要がある。
方法
本研究は、多施設共同、オープンラベル、ランダム化第III相試験 (NCT00004077) として実施された。登録期間は2000年12月から2003年6月までであった。対象患者は、組織学的または細胞学的に確認された未治療のED-SCLC患者であり、測定可能な病変を有し、十分な臓器機能(白血球数 > 3,000/µL、好中球数 ≥ 1,500/mm³、ヘモグロビン ≥ 9 g/dL、血小板数 ≥ 100,000/mm³、ビリルビン ≤ 1.5 mg/dL、AST ≤ 2.5 × 基準値上限 (ULN) または肝転移がある場合は ≤ 5 × ULN、血清クレアチニン ≤ 1.7 mg/dL)を満たす必要があった。Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) PS 0-2の患者が対象とされたが、試験開始後、PS 2患者における治療関連死の高率が認められたため、プロトコール修正によりPS 2患者は除外された。無症候性の脳転移患者は、ステロイド投与が安定しているか漸減中であれば適格とされた。過去にSCLCに対する全身抗がん治療を受けた患者、重篤な心血管疾患、活動性感染症、既知のGilbert症候群、NCI Common Toxicity Criteria (CTC) Grade 2以上の末梢神経障害を有する患者は除外された。
患者は、性別、乳酸脱水素酵素 (LDH) 値(≤ ULNまたは > ULN)、年齢(< 65歳または ≥ 65歳)で層別化され、IP群とEP群に2:1の比率で中央ランダム化された。IP群 (n=221) の患者には、cisplatin 30 mg/m²とirinotecan 65 mg/m²をday 1とday 8に静脈内投与し、21日を1サイクルとした。EP群 (n=110) の患者には、cisplatin 60 mg/m²をday 1に、etoposide 120 mg/m²をday 1からday 3に静脈内投与し、21日を1サイクルとした。治療は最低4サイクル実施され、病勢進行または許容できない毒性が生じるまで継続可能であった。次サイクルへの治療継続は、好中球数 ≥ 1,500/mm³、血小板数 ≥ 100,000/mm³、血清クレアチニン ≤ 1.7 mg/dL、および治療関連の非血液毒性(脱毛を除く)がGrade 1以下に回復した場合にのみ許可された。治療の遅延は最大2週間まで許容された。
主要評価項目はOSであり、最後の患者登録から1.5年後、または220例目の死亡が確認された時点で解析が実施された。OSはランダム化日から死亡日までの期間と定義され、intention-to-treat (ITT) 解析に基づき評価された。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定され、両群間の比較には非層別ログランク検定が用いられた (有意水準 p<0.05)。副次評価項目には、奏効率 (ORR) と無増悪生存期間 (PFS) が含まれた。ORRはResponse Evaluation Criteria in Solid Tumors (RECIST) ガイドラインに基づき評価され、全ての奏効は初回奏効基準達成後4週間以上経過した時点での再スキャンにより確認された。ORRの比較にはカイ二乗検定が用いられた。PFSはランダム化日から病勢進行が最初に確認された日までの期間と定義された。毒性評価はNCI Common Toxicity Criteria (CTC) version 2.0に基づき実施された。独立データ安全性モニタリング委員会が試験期間中の安全性を監視した。ベースラインの患者特性は、カテゴリカル変数には頻度表、連続変数には記述統計量を用いて要約された。有効性解析はITT集団で実施され、安全性解析は少なくとも1回の治験薬投与を受けた患者を対象とした。