• 著者: Subbiah V, Paz-Ares L, Besse B, Moreno V, Peters S, Sala MA, López-Vilariño JA, Fernández C, Kahatt C, Alfaro V, Siguero M, Zeaiter A, Trigo J
  • Corresponding author: Vivek Subbiah (MD Anderson Cancer Center, Houston, TX, USA)
  • 雑誌: Lung Cancer
  • 発行年: 2020
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 33096421

背景

小細胞肺癌 (SCLC) は悪性度が高く、診断時には約3分の2の患者が広範囲病期 (extensive-stage) に進行している。標準的な初回治療はプラチナ製剤とエトポシドの併用化学療法であり、近年ではアテゾリズマブ Horn et al. NEnglJMed 2018 やデュルバルマブ Paz-Ares et al. Lancet 2019 との併用療法が初回治療として承認され、生存期間の改善を示している。しかし、SCLCは初回治療後に再発することが多く、再発後の治療選択肢は限られているのが現状である。

再発SCLCの2次治療は、初回化学療法終了から再発までの期間である化学療法フリー期間 (chemotherapy-free interval: CTFI) に基づいて分類される。一般的に、CTFIが90日以上の場合は「プラチナ感受性再発 (platinum-sensitive relapse)」、90日未満の場合は「プラチナ抵抗性再発 (platinum-resistant relapse)」と定義される。NCCN (National Comprehensive Cancer Network) ガイドラインおよびESMO (European Society of Medical Oncology) ガイドラインでは、プラチナ感受性再発SCLC患者に対し、初回治療レジメンの再投与 (re-challenge) が推奨されている。特にNCCNガイドラインでは、CTFIが180日以上の患者に対して初回治療の再投与が推奨される。しかし、このような長期CTFIの患者におけるプラチナ再投与の客観的奏効率 (ORR) は20-30%、全生存期間 (mOS) は6-8か月程度と報告されており、依然として治療成績の改善が不足している。過去のプラチナ再投与に関する研究は、小規模な後ろ向き解析が多く、CTFIが90日以上の患者を対象としたものがほとんどであり、CTFIが180日以上の患者に特化したデータは限られている。例えば、Monnet et al. (2019) の第III相試験では、プラチナ再投与群のORRは49%、mPFSは4.7か月、mOSは7.5か月であった。また、日本の研究では、CTFIが180日以上の患者11例を対象とした後ろ向き解析でORR 46%、mOS 15.7か月が報告されているが、症例数が極めて少ない。これらの歴史的データは、長期CTFI患者におけるプラチナ再投与の治療効果が不十分であり、新たな治療選択肢の開発が喫緊の課題であることを示唆している。

ルルビネクテジン (lurbinectedin) は、新規のアルカロイド誘導体であり、DNAのマイナーグルーブに結合し、RNAポリメラーゼIIのリン酸化型を特異的に分解することで、がん細胞の転写を阻害する作用機序を持つ。この薬剤は、SCLCを含む様々な固形癌を対象としたバスケット型第II相試験 (PM1183-B-005-14試験、NCT02454972) において、有望な抗腫瘍活性を示した。この試験の全体コホート (n=105) におけるORRは35.2%であり、特にプラチナ感受性再発 (CTFI ≥90日) のサブセットではORR 45%であった Trigo et al. LancetOncol 2020。2020年6月には、米国FDAにより、プラチナ製剤を含む化学療法後に進行した転移性SCLC成人患者に対する2次治療として、ルルビネクテジンが迅速承認された。

しかし、NCCNガイドラインでプラチナ再投与の理想的な候補とされるCTFIが180日以上の長期プラチナ感受性再発SCLC患者に特化したルルビネクテジンの有効性と安全性プロファイルに関する詳細な解析は、これまで報告されておらず、この知識のギャップが残されている。このサブセットにおける治療成績に関するデータが不足しており、ルルビネクテジンの臨床的位置付けを明確化し、患者の治療選択に資する上で極めて重要である。

目的

本研究の目的は、バスケット型第II相試験 (PM1183-B-005-14) に登録されたSCLC 2次治療症例のうち、NCCNガイドラインで初回治療の再投与が推奨される化学療法フリー期間 (CTFI) が180日以上の「プラチナ再投与候補 (platinum re-challenge candidate)」サブセット20例に焦点を当て、ルルビネクテジン (lurbinectedin) 3.2 mg/m² 3週ごと単剤療法の有効性 (客観的奏効率 [ORR]、病勢コントロール率 [DCR]、奏効期間 [DoR]、無増悪生存期間 [PFS]、全生存期間 [OS]) と安全性を詳細に評価することである。さらに、歴史的なプラチナ再投与データとの比較を通じて、この患者群におけるルルビネクテジンの臨床的位置付けを明確にすることを目的とした。これにより、CTFIが180日以上のプラチナ感受性再発SCLC患者に対する新たな治療選択肢としてのルルビネクテジンの価値を確立することを目指す。

結果

患者背景 (CTFI ≥180日サブセット、n=20): 本解析の対象となったCTFIが180日以上のSCLC患者20例のベースライン特性は以下の通りである。男性が12例 (60.0%)、女性が8例 (40.0%) であった。年齢中央値は57歳 (範囲: 49-75歳) であった。ECOG PS 0-1の患者が19例 (95.0%) を占め、PS 2の患者は1例 (5.0%) であった。初回診断時の病期は、限局期が13例 (65.0%)、進展期が7例 (35.0%) であった。全患者 (n=20) がプラチナ製剤とエトポシドを含む初回治療を受けており、免疫療法歴のある患者はいなかった。初回治療に対する最良効果は、CR (完全奏効) が7例 (35.0%)、PR (部分奏効) が10例 (50.0%)、SD (安定) が3例 (15.0%) であり、85%の患者が客観的奏効を達成していた。CTFIの中央値は7.5か月 (範囲: 6.0-16.1か月、約228日、範囲: 180-489日) であった (Table 1)。

主要評価項目 (ORR): 治験責任医師判定による客観的奏効率 (ORR) は60.0% (12/20例、95% CI 36.1-86.9%) であった。内訳はCR 0例、PR 12例、SD 7例、PD (病勢進行) 1例であった。独立判定委員会 (IRC) 判定によるORRは50.0% (10/20例、95% CI 27.2-72.8%) であった。このORR 60.0%は、全体試験のプラチナ感受性再発サブセット (CTFI ≥90日、n=60) でのORR 45%よりも高い数値であり、長期CTFI群におけるルルビネクテジンの高い抗腫瘍活性を示唆する (Table 2)。

病勢コントロール率 (DCR) と奏効期間 (DoR): 治験責任医師判定によるDCR (CR+PR+SD) は95.0% (19/20例、95% CI 75.1-99.9%) と極めて高い病勢制御を達成した。IRC判定によるDCRは80.0% (16/20例、95% CI 56.3-94.3%) であった。治験責任医師判定によるDoR中央値は5.5か月 (95% CI 2.9-11.2か月) であった。IRC判定によるDoR中央値も5.5か月 (95% CI 2.8-8.5か月) であった。一部の症例では6か月以上の長期奏効が確認された (Table 2)。

無増悪生存期間 (PFS) と全生存期間 (OS): 無増悪生存期間 (mPFS) は4.6か月 (95% CI 2.6-7.3か月) であった。6か月PFS率は40.0%、12か月PFS率は20.0%であった。このmPFSは、全体試験のプラチナ感受性再発サブセット (mPFS 4.6か月) と一致しており、CTFIが短い群 (mPFS 2.6か月) よりも良好な結果であった。中央値15.6か月の追跡期間において、全生存期間 (mOS) は16.2か月 (95% CI 9.6-upper level not reached) であった。1年生存率は60.9% (95% CI 35.7-86.2%)、2年生存率は27.1%であった。このmOS 16.2か月は、歴史的なプラチナ再投与データ (プラチナ感受性再発のmOS 6-8か月、1年OS 20-30%) を大きく上回る結果であり、ルルビネクテジンがプラチナ再投与に代わる有効な選択肢となりうることを強く示唆する (Table 2)。

安全性プロファイル: 全20例が安全性評価対象であった。投与されたルルビネクテジンサイクル数の中央値は6サイクル (範囲: 2-24サイクル) で、総サイクル数は159サイクルであった。最も頻繁に報告されたグレード3/4の治療関連有害事象および臨床検査値異常は血液毒性であり、好中球減少症が55.0% (11/20例)、貧血が10.0% (2/20例)、血小板減少症が10.0% (2/20例) であった。特筆すべきは、このサブセットにおいて発熱性好中球減少症の報告が0%であったことである。非血液毒性としては、グレード3/4の倦怠感が10.0% (2/20例)、肝機能検査値上昇 (GGT [gamma-glutamyltransferase] 上昇10%、ALT [alanine aminotransferase] 上昇5%、AP [alkaline phosphatase] 上昇5%) が認められた。グレード3/4の悪心・嘔吐、下痢は報告されなかった。治療関連死亡は認められなかった。治療関連事象による治療遅延は8サイクル (5.8%)、用量減量は9サイクル (9.5%) で必要とされ、主に一過性の好中球減少症が原因であった。治療中止 (毒性による) は1例 (5%) であった。全体試験 (n=105) での発熱性好中球減少症発症率は5%と低く、トポテカンやアムルビシンと比較して良好な血液毒性プロファイルを示している (Table 3)。

サブグループ解析: CTFI期間によるサブグループ解析では、CTFIが180日以上365日以下 (n=12) の患者群でORR 58%、CTFIが365日超 (n=8) の患者群でORR 62.5%であり、両群間に有意な差は認められなかった。年齢によるサブグループ解析では、65歳以上 (n=8) の患者群でORR 50%、65歳未満 (n=12) の患者群でORR 67%であったが、統計的に有意な差はなかった (p=0.37)。

考察/結論

本post-hoc解析は、化学療法フリー期間 (CTFI) が180日以上のプラチナ感受性再発小細胞肺癌 (SCLC) 患者20例に対するルルビネクテジン単剤療法が、極めて良好な抗腫瘍活性と許容可能な安全性プロファイルを示すことを明らかにした。客観的奏効率 (ORR) は60.0% (95% CI 36.1-86.9%)、病勢コントロール率 (DCR) は95.0%であり、無増悪生存期間 (mPFS) は4.6か月 (95% CI 2.6-7.3か月)、全生存期間 (mOS) は16.2か月 (95% CI 9.6-NR) であった。特にmOS 16.2か月という結果は、歴史的なプラチナ再投与データ (mOS 6-8か月) を大きく凌駕しており、本研究の最も重要な知見の一つである。

先行研究との違い: これまでのプラチナ再投与に関する研究は、CTFIが90日以上の患者を対象としたものが多く、CTFIが180日以上の患者に特化した大規模なデータは不足していた。本研究は、NCCNガイドラインでプラチナ再投与の理想的な候補とされるCTFI ≥180日の患者群に焦点を当て、ルルビネクテジンがプラチナ再投与に匹敵するか、あるいはそれ以上の有効性を示す可能性を提示した点で、これまでの報告とは異なる。例えば、Monnet et al. (2019) のプラチナ再投与群のmOS 7.5か月と比較して、本研究のmOS 16.2か月は顕著な改善を示しており、対照的な結果である。

新規性: 本研究で初めて、CTFIが180日以上のプラチナ感受性再発SCLC患者という特定のサブセットにおいて、ルルビネクテジン単剤療法がこれほど高いORRと長期のOSを達成しうることを明確に示した。このサブセットは、臨床的に初回治療の再投与が妥当と判断される群であり、ルルビネクテジンが既存の2次治療選択肢 (トポテカン、アムルビシン、プラチナ再投与) を置き換える強力な候補であることを新規に示唆する。

臨床応用: 本知見は、ルルビネクテジンの臨床的有用性を強く支持するものである。2020年6月に米国FDAが転移性SCLCの2次治療としてルルビネクテジンを迅速承認した際、本研究の結果は、特にプラチナ感受性再発、中でも長期CTFI群への強い推奨を裏付ける重要なエビデンスとなった。安全性プロファイルも特筆すべきであり、グレード3/4の好中球減少症は55.0%で認められたものの、発熱性好中球減少症は0%であった。これは、トポテカン (発熱性好中球減少症10-15%) やアムルビシン (15-20%) と比較して明らかに優れており、外来診療や高齢者患者にも投与しやすい薬剤であることを示唆する。この良好な安全性プロファイルは、患者のQOL維持にも貢献し、臨床現場での採用を促進する重要な臨床的意義を持つ。

残された課題: 本研究は単群の第II相試験であり、対照群がないため、結果の解釈には限界がある。今後の検討課題として、ルルビネクテジンの最適な使用シーケンスや併用レジメンの選択が挙げられる。例えば、第III相ATLANTIS (Lurbinectedin + Doxorubicin) 試験では主要評価項目が未達であったことから、ルルビネクテジンの単剤療法と併用療法の適切な位置付けをさらに検討する必要がある。また、BRCA、MYCファミリー、SLFN11などのバイオマーカーによる治療効果予測値の確立も今後の重要な研究方向性である。さらに、免疫チェックポイント阻害剤 (ICI) が初回治療に導入された後の再発SCLC患者におけるルルビネクテジンの有効性や、ルルビネクテジンとICIの併用療法の開発 (現在治験中) も今後の研究で明らかにするべき課題である。本研究はCTFI ≥180日のプラチナ感受性再発SCLCにおけるルルビネクテジンの臨床的価値を確立した意義深い解析であるが、より大規模な集団での検証が残された課題である。

方法

本研究は、多施設国際共同の単群非盲検バスケット型第II相試験 (PM1183-B-005-14、NCT02454972) の事前計画されたサブグループ解析である。親試験は2015年10月から2019年1月にかけて、欧州6カ国および米国の26施設で実施され、SCLCコホートには合計105例が登録された。本post-hoc解析の対象は、SCLCと病理学的に診断され、18歳以上、プラチナ製剤を含む初回治療を1ラインのみ受けており、中枢神経系 (CNS) 転移がなく、RECIST v1.1基準で測定可能病変を有し、ECOG Performance Status (PS) が0-2、かつCTFIが180日以上の患者20例を抽出した。

治療レジメン: 患者はルルビネクテジン3.2 mg/m²を1時間かけて静脈内 (i.v.) 投与し、これを3週ごとに繰り返した。治療は病勢進行または許容できない毒性が発現するまで継続された。全ての患者に制吐剤の予防投与が行われた。顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) の一次予防投与は許可されなかった。用量減量は最大2段階まで許容され、3.2 mg/m²から2.6 mg/m²、さらに2.0 mg/m²へと減量可能であった。

評価項目: 親試験の主要評価項目は、独立判定委員会 (IRC) によるORRであった。本解析では、IRCおよび治験責任医師 (Investigator) 判定によるORR (RECIST v1.1基準 Eisenhauer et al. EurJCancer 2009)、DCR (CR+PR+SD)、DoR、PFS、OS、および安全性を評価した。DoRは初回奏効日から病勢進行、再発、またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。PFSは初回投与日から病勢進行、あらゆる原因による死亡、または最終腫瘍評価日までの期間と定義された。OSは初回投与日から死亡日、または最終連絡日 (追跡不能患者または臨床カットオフ時点で生存している患者の場合) までの期間と定義された。安全性は、少なくとも1回のルルビネクテジン投与を受けた全ての患者を対象に、有害事象 (AEs)、臨床検査値、身体診察、バイタルサインの評価により行われた。安全性は治療期間中および最終投与後30日まで、または新たな抗腫瘍療法開始まで、または死亡日まで (いずれか早い方) 監視された。

統計解析: 本探索的解析は、CTFIによる事前計画された解析に基づいている。記述統計が用いられ、非連続変数は度数とパーセンテージで、連続変数は中央値、最小値、最大値で記述された。主要評価項目であるORRの評価には、二項正確推定値とその95%信頼区間 (CI) が算出された。DoR、PFS、OSの解析にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法が用いられた。有害事象はMedDRA (Medical Dictionary for Regulatory Activities) v.21.0で記録・コード化され、NCI-CTCAE (National Cancer Institute Common Terminology Criteria for Adverse Events) v.4.0に従ってグレード分類された。統計解析にはSASソフトウェア (v.9.4) が使用された。