- 著者: Jose Trigo, Vivek Subbiah, Benjamin Besse, Victor Moreno, Rafael López, Maria Ana Sala, Jaume Capdevila, Emiliano Calvo, Enrique Galvao, Maria Gonzales-Billalabeitia, Cristian Fabian Guida, Neus Pardo, Maria Eugenia Elez, Jose Pablo Berros, Valentina Delmonte, Elena Felip, Rosario Garcia Campelo, Carmen Kahatt, Cristian De Alvaro, Ana Ruiz-Casado, Carmen Valenzuela, Michelle L. Oza, Jonathan Weiss, Jose Maria Tabernero, Xavier Morales-Barrera
- Corresponding author: Jose Trigo (Hospital Universitario Virgen de la Victoria, Malaga, Spain)
- 雑誌: Lancet Oncology
- 発行年: 2020
- Epub日: 2020-03-16
- Article種別: Original Article
- PMID: 32224306
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の約13-15%を占める悪性度の高い腫瘍であり、診断時には進行期であることが多い。プラチナ製剤とエトポシドを組み合わせた化学療法はSCLCの一次治療の基盤であり、初期には高い奏効率を示すものの、その大多数の患者が早期に再発する。再発SCLCに対する治療選択肢は限られており、特にプラチナ製剤治療後に再発した患者に対する有効なセカンドライン治療の確立は長年の課題であった。現在、一次治療としてアテゾリズマブやデュルバルマブなどの免疫チェックポイント阻害剤と化学療法の併用が標準化されつつあるが、再発後の治療戦略は依然として未確立な部分が多く、新たな治療戦略の開発が強く求められている。
これまで、再発SCLCに対する唯一の承認薬はトポテカンであった。トポテカンは化学療法感受性再発(プラチナ製剤中止後90日以上での再発)の患者に限定して適応が認められていたが、その奏効率はわずか約16%と低く、無増悪生存期間 (PFS) および全生存期間 (OS) の延長効果も限定的であった。例えば、vonPawel et al. JClinOncol 1999 や OBrien et al. JClinOncol 2006、Eckardt et al. JClinOncol 2007 などの複数の臨床試験でその有効性が評価されてきたが、いずれも期待されるほどの効果は得られていない。さらに、トポテカンは重篤な骨髄抑制(Grade 3-4の好中球減少が54-78%)や高い治療関連死亡率(約7.9-11.2%)といった安全性プロファイルの問題を抱えていた。特に、化学療法耐性再発(プラチナ製剤中止後90日未満での再発)の患者に対しては、承認された治療薬が存在せず、極めて予後不良な集団であり、新たな治療選択肢の開発が強く求められていた。このような状況は、SCLCのセカンドライン治療における大きなアンメットメディカルニーズを示しており、有効性と安全性を兼ね備えた新規薬剤の導入が不足している状況であった。
ルルビネクテジン (lurbinectedin) は、スペインのPharma Mar社が開発した新規の合成アルカロイドであり、DNAのマイナーグルーブにあるGCリッチな遺伝子プロモーター領域に優先的に結合することで、AP-1などの発癌性転写因子のDNA結合を競合的に阻害し、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する選択的転写阻害剤である。その作用機序は、DNA損傷応答経路の活性化や、RNAポリメラーゼIIの分解を介した転写の抑制を含む。さらに、前臨床研究では、ルルビネクテジンが腫瘍微小環境中の腫瘍関連マクロファージ (TAM) の活性化転写を阻害し、免疫抑制を解除することで抗腫瘍免疫を強化する可能性も示唆されている。先行研究として、ルルビネクテジンとドキソルビシンの併用療法に関する第1相試験では、SCLCの二次治療において有望な抗腫瘍活性が観察されており、この結果を受けて、本試験ではルルビネクテジン単剤としての有効性と安全性を検証することとなった。SCLCの分子サブタイプに関する研究 Rudin et al. NatRevCancer 2019 が進む中で、転写依存性の高いSCLCに対するルルビネクテジンの作用機序は特に注目されている。
目的
本研究の主目的は、プラチナ製剤を含む化学療法後に進行した小細胞肺癌 (SCLC) 患者において、ルルビネクテジン単剤(3.2 mg/m²を3週ごとに静脈内投与)の抗腫瘍活性、特に奏効率 (ORR) を評価することである。副次評価項目として、奏効持続期間 (DOR)、病勢コントロール率 (DCR)、無増悪生存期間 (PFS)(4ヶ月および6ヶ月時点)、全生存期間 (OS)(6ヶ月および12ヶ月時点)、および安全性を評価した。
本報告は、9種類の腫瘍種を対象とした単群オープンラベル第2相バスケット試験 (ClinicalTrials.gov識別子: NCT02454972) のSCLCコホートの結果に焦点を当てたものである。特に、化学療法フリー期間 (CFI) に基づくサブグループ解析として、化学療法感受性再発(CFI ≥90日)と化学療法耐性再発(CFI <90日)の患者群におけるルルビネクテジンの有効性を比較検討することも目的とした。これにより、既存治療選択肢が限られるSCLC患者、特に耐性再発患者に対するルルビネクテジンの潜在的な治療的役割を明らかにすることを目指した。
結果
患者背景と治療遵守: 2015年10月16日から2019年1月15日までに105名の患者が登録され、全員がルルビネクテジンによる治療を受けた。患者のベースライン特性は、男性63名 (60%)、年齢中央値60歳 (IQR 54-68)、ECOG PS 0が38名 (36%)、PS 1が59名 (56%)、PS 2が8名 (8%) であった (Table 1)。広汎型SCLC患者は73名 (70%) を占めた。前治療歴は98名 (93%) が1レジメンのみであり、プラチナ製剤は全患者 (100%) に投与されていた。化学療法フリー期間 (CFI) が90日未満の耐性再発患者は45名 (43%)、90日以上の感受性再発患者は60名 (57%) であった。総投与サイクル数は618サイクルで、患者あたりの投与サイクル中央値は4サイクル (IQR 2-8) であり、46名 (44%) が6サイクル以上の治療を受けた。投与量相対強度の中央値は97.4% (IQR 88.9-99.9) と高く、良好な治療遵守率が示された。
主要評価項目:全体奏効率 (ORR) と奏効持続期間 (DOR): 試験担当医評価による主要評価項目である全体ORRは37名 (35.2%; 95% CI 26.2-45.2) であり、事前規定の統計的境界 (ORR ≥23% で帰無仮説棄却) を満たした。全ての奏効は部分奏効 (PR) であり、完全奏効 (CR) は認められなかった。病勢コントロール率 (DCR; PR+SD) は68.6% (95% CI 58.8-77.3) であった。64名 (65%) の患者で標的病変の縮小が確認された。独立判定委員会 (IRC) 評価によるORRも32.7% (95% CI 23.5-42.9) と、担当医評価と整合的な結果を示した。奏効持続期間中央値は5.3ヶ月 (95% CI 4.1-6.4) であり、奏効患者の43.0% (95% CI 25.6-60.5) が6ヶ月時点で奏効を維持していた (Figure 1)。全生存期間 (OS) 中央値は9.3ヶ月 (95% CI 6.3-11.8) であった (Table 2)。
感受性再発サブグループ (CFI ≥90日) における成績: 化学療法フリー期間が90日以上の感受性再発患者60名において、ルルビネクテジンは特に高い抗腫瘍活性を示した。ORRは27名 (45.0%; 95% CI 32.1-58.4) であった。病勢コントロール率は81.7% (95% CI 69.6-90.5) と非常に高かった。奏効持続期間中央値は6.2ヶ月 (95% CI 3.5-7.3) であり、奏効患者の55.3%が6ヶ月時点で奏効を維持した (Figure 2A)。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は4.6ヶ月 (95% CI 2.8-6.5) であり、4ヶ月PFS率は59.9%、6ヶ月PFS率は43.5%であった。全生存期間 (OS) 中央値は11.9ヶ月 (95% CI 9.7-16.2) と良好な長期生存が示され、6ヶ月OS率は83.6%、12ヶ月OS率は48.3%であった。感受性再発患者のうち29名 (48%) が1年以上生存した。初期奏効が得られた患者における後方視的解析では、OS中央値は15.8ヶ月 (95% CI 10.2-not reached) に達した。
耐性再発サブグループ (CFI <90日) における抗腫瘍活性: 化学療法フリー期間が90日未満の耐性再発患者45名においても、ルルビネクテジンは一定の抗腫瘍活性を示した。ORRは10名 (22.2%; 95% CI 11.2-37.1) であった。病勢コントロール率は51.1% (95% CI 35.8-66.3) であり、従来承認薬が存在しないこの予後不良な患者集団において、ルルビネクテジンが病勢をコントロールできる可能性を示唆した。奏効持続期間中央値は4.7ヶ月 (95% CI 2.6-5.6) であった (Figure 2B)。PFS中央値は2.6ヶ月 (95% CI 1.3-3.9)、OS中央値は5.0ヶ月 (95% CI 4.1-6.3) であり、6ヶ月OS率は45.8%、12ヶ月OS率は15.9%であった。特に、化学療法フリー期間が30日未満の極めて予後不良な患者21名 (21%) も本試験に含まれており、そのような患者集団にも一定の効果が示された。
安全性プロファイル:管理可能な骨髄毒性: 105名全員が安全性解析の対象となった。最も頻繁に認められたGrade 3-4の有害事象は血液毒性であり、好中球減少48名 (46%; Grade 3: 21%、Grade 4: 25%)、白血球減少30名 (29%; Grade 3: 19%、Grade 4: 10%)、貧血9名 (9%; Grade 3: 9%、Grade 4: 0)、血小板減少7名 (7%; Grade 3: 3%、Grade 4: 4%)、発熱性好中球減少5名 (5%) であった (Table 3)。非血液毒性のGrade 3-4治療関連有害事象としては、疲労7名 (7%)、下痢1名 (1%) が報告された。Grade 3肺炎が2名 (2%) に報告されたが、これらはいずれも発熱性好中球減少に伴うものであり、臨床的後遺症なく回復した。重篤な治療関連有害事象は11名 (10%) に認められ、好中球減少と発熱性好中球減少がそれぞれ5名 (5%) で最多であった。治療関連死亡は報告されなかった。治療関連有害事象による治療中止は2名 (2%) のみであり、トポテカンと比較して治療継続性に優れていた。G-CSF一次予防が禁止されたにもかかわらず、23名 (22%) の患者がG-CSFの二次予防または治療を受けた。
免疫療法前治療歴を有する患者での探索的解析: 前治療として免疫療法を受けていた8名 (8%) の患者を対象とした後方視的探索的解析において、5名 (63%) がルルビネクテジンに対して持続的奏効を示した。これは、Horn et al. NEnglJMed 2018 が報告したように、免疫療法と化学療法の併用が一次治療の標準となりつつある現在の診療状況において、ルルビネクテジンが二次治療として有効である可能性を示唆する重要なデータである。
考察/結論
本第2相試験は、ルルビネクテジン単剤がプラチナ製剤治療後に再発したSCLC患者の二次治療において、有望な抗腫瘍活性と管理可能な安全性プロファイルを示すことを初めて前向きに証明した。全体奏効率 (ORR) 35.2% (95% CI 26.2-45.2) は、事前規定の統計的基準 (ORR ≥23%) を満たし、歴史的対照であるトポテカンのORR約16%を大きく上回る結果であった。この結果は、SCLCの二次治療におけるルルビネクテジンの重要な役割を示唆する。
先行研究との違い: 従来のSCLC二次治療薬、特にトポテカンと比較して、ルルビネクテジンは複数の点で優位性を示した。トポテカンが約16%のORRと6-8ヶ月のOS中央値を示すのに対し、本研究のルルビネクテジンはORR 35.2%、OS中央値9.3ヶ月と、抗腫瘍活性および生存期間の点で優れていた。また、安全性プロファイルにおいても、Grade 3-4貧血 (9% vs 26-30.5%)、Grade 3-4血小板減少 (7% vs 45.5-54.3%)、治療関連死亡率 (0% vs 7.9-11.2%)、毒性による治療中止率 (2% vs 27%) において、ルルビネクテジンはトポテカンよりも明らかに改善されたプロファイルを示した。G-CSF一次予防を適用しないにもかかわらず、発熱性好中球減少の発生率が低かったことも注目すべき点である。さらに、感受性再発患者におけるORR 45.0%は、白金製剤再投与のORR (45-49%) と同等でありながら、OS中央値 (11.9ヶ月 vs 7.5-7.9ヶ月) と安全性(Grade 3-4貧血 9% vs 30%、Grade 3-4血小板減少 7% vs 41%)で優位性を示した。
新規性: 本研究で初めて、ルルビネクテジン単剤がSCLCの二次治療において、特に化学療法耐性再発患者(CFI <90日)に対しても22.2%のORRを示すことを新規に同定した。この患者集団にはこれまで承認された治療選択肢が存在せず、ルルビネクテジンが新たな治療選択肢となる可能性を示唆する。また、免疫療法前治療歴のある患者8名中5名 (63%) がルルビネクテジンに奏効したという探索的解析結果は、免疫療法が一次治療に組み込まれた現在のSCLC治療エコシステムにおいて、ルルビネクテジンの二次治療としての役割を支持する重要な知見である。
臨床応用: 本知見は、再発SCLC患者、特に治療選択肢が限られている化学療法耐性再発患者に対するルルビネクテジンの臨床応用を強く支持するものである。本試験の結果を受けて、米国FDAは2020年6月にルルビネクテジンをプラチナ製剤治療後のSCLC二次治療薬として迅速承認した。これは、本薬剤が臨床現場に導入され、患者の治療アウトカム改善に貢献する可能性を示している。
残された課題: 本試験の限界として、単群試験でありランダム化対照群がないこと、脳転移患者が除外されたこと、およびバスケット試験であるためSCLC特異的でない選択基準が用いられた点が挙げられる。これらの限界は、ルルビネクテジンの効果をより強固に確立するために、今後のランダム化比較試験が必要であることを示唆している。また、ルルビネクテジンの有効性を予測するバイオマーカーはいまだ同定されておらず、個別化治療の観点から、今後の研究で予測バイオマーカーの探索が残された課題である。さらに、ルルビネクテジンとドキソルビシンの併用療法を評価した第3相ATLANTIS試験は主要エンドポイント (OS) を達成できなかったが、一次維持療法としてのルルビネクテジンとアテゾリズマブの併用を評価したIMforte試験ではOS改善が示されており、ルルビネクテジンの最適な治療的役割や併用療法に関する今後の検討が求められる。
方法
本研究は、ベルギー、フランス、イタリア、スペイン、スイス、英国、米国を含む6カ国26施設で実施された単群オープンラベル第2相バスケット試験のSCLCコホートである。患者登録は2015年10月16日から2019年1月15日の期間に行われた。
適格基準は、18歳以上の成人患者で、病理学的にSCLCと確定診断されていること、ECOGパフォーマンスステータスが0-2であること、RECIST 1.1基準で測定可能病変を有すること、プラチナ製剤を含む化学療法1レジメンのみの前治療歴があること(免疫療法の上乗せは許容された)、適切な骨髄、腎臓、肝臓機能を有すること、およびベースラインでの脳転移がないこと(強制スクリーニング)であった。除外基準には、ルルビネクテジンまたはトラベクテジンの前治療歴、過去5年以内の他のがんの既往、不安定な心臓病や活動性感染症などの不安定な合併症が含まれた。
治療は、ルルビネクテジン3.2 mg/m²を1時間かけて静脈内投与し、これを3週ごとに繰り返した。治療は病勢進行または忍容不能な毒性が発現するまで継続された。投与量は体表面積 (BSA) に基づいて決定され、3.2 mg/m²から2.6 mg/m²、さらに2.0 mg/m²への2段階の減量が許容された。好中球減少症に対するG-CSFの一次予防投与は、ASCOおよびESMOのガイドラインに基づき禁止されたが、二次予防は許容された。
腫瘍評価は、Eisenhauer et al. EurJCancer 2009 に従い、治療開始から第6サイクルまでは6週ごと、その後は9週ごとに実施された。奏効は、少なくとも4週間後に同じ画像診断法を用いて確認された。主要評価項目である奏効率 (ORR) は、試験担当医による評価に加え、独立判定委員会 (IRC) による盲検中央判定でも確認された。
主要評価項目は、独立判定委員会評価によるORR(完全奏効 [CR] + 部分奏効 [PR] の割合)であった。副次評価項目には、奏効持続期間 (DOR)、病勢コントロール率 (DCR)(PR + 安定病変 [SD] の割合)、無増悪生存期間 (PFS)(4ヶ月および6ヶ月時点でのPFS率を含む)、全生存期間 (OS)(6ヶ月および12ヶ月時点でのOS率を含む)、および安全性プロファイルが含まれた。事前規定のサブグループ解析として、化学療法フリー期間 (CFI) に基づく感受性再発(CFI ≥90日)と耐性再発(CFI <90日)の患者群における有効性の比較が行われた。
統計学的仮説検定は、帰無仮説をORRが15%以下、対立仮説をORRが30%以上と設定し、片側α=0.025、検出力95%で、105例の登録を計画した。もし確認された奏効率が23%以上であれば、帰無仮説は棄却されるとされた。Kaplan-Meier法を用いてDOR、PFS、OSが解析された。追跡期間中央値は17.1ヶ月 (IQR 6.5-25.3) であった。安全性評価は、少なくとも1回のルルビネクテジン投与を受けた全患者を対象とし、有害事象はNCI-CTCAE v4.0に基づき評価された。