• 著者: Paz-Ares L, Dvorkin M, Chen Y, Reinmuth N, Hotta K, et al.
  • Corresponding author: Luis Paz-Ares (Hospital Universitario 12 de Octubre and Complutense University, Madrid, Spain)
  • 雑誌: Lancet
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article (Phase 3 RCT)
  • PMID: 31590988

背景

広汎型小細胞肺癌 (ES-SCLC) は、全小細胞肺癌 (SCLC) の約3分の2を占め、その予後は極めて不良である。診断後5年生存率は7%未満に留まり、長年にわたり治療選択肢が限られていた。過去30年以上にわたり、一次治療の標準はエトポシドと白金製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)の併用療法(EP療法)であった。EP療法は初期奏効率が約78%と高いものの、ほとんどの患者が6ヶ月以内に再発し、全生存期間中央値 (mOS) は約10ヶ月に留まっていた。このような状況から、ES-SCLCの一次治療における有効性の高い新規治療法の開発が強く求められていた。

二次治療においては、トポテカンが白金製剤感受性不応例で奏効率 (ORR) 5%、1年生存率9%と低い成績しか示しておらず、一次治療の改善が喫緊の課題であった。近年、免疫チェックポイント阻害薬がES-SCLCにおいて臨床的活性を示すことが報告され、治療パラダイムに変化の兆しが見え始めた。特に、2019年にはHorn et al. NEnglJMed 2018によるIMpower133試験において、アテゾリズマブとカルボプラチン・エトポシド併用療法が、化学療法単独と比較してOSを統計学的に有意に改善することが示された (ハザード比 [HR] 0.70、mOS 12.3ヶ月 vs 10.3ヶ月、p=0.0069)。この結果を受けて、アテゾリズマブはES-SCLCの一次治療として米国食品医薬品局 (FDA) の承認を取得した。

本CASPIAN試験は、別の抗PD-L1抗体であるデュルバルマブを用いて、IMpower133試験の成功を検証し、さらに治療選択肢を広げることを目的として設計された。CASPIAN試験は、IMpower133試験と比較していくつかの点でよりリアルワールドに近いデザインを採用している。具体的には、(1) 白金製剤としてシスプラチンまたはカルボプラチンのいずれかの選択を許可した点、(2) 対照群において最大6サイクルのEP療法と予防的全脳照射 (PCI) の施行を許容した点である。これにより、より多様な患者集団に対するデュルバルマブ併用療法の有効性と安全性を評価することが可能となり、ES-SCLCの一次治療における免疫療法の役割をさらに明確にすることが期待された。これまでのSCLC治療における進展は限定的であり、新たな治療戦略の確立が強く望まれている状況であった。特に、免疫チェックポイント阻害薬の有効性は非小細胞肺癌 (NSCLC) においては確立されていたが、SCLCにおけるその役割は未解明な部分が多く、本研究はそのギャップを埋める重要な一歩となる。ES-SCLCの治療において、長期生存を達成するための治療法が不足しており、新たなアプローチが強く求められていた。

目的

本試験の目的は、未治療の広汎型小細胞肺癌 (ES-SCLC) 患者の一次治療において、デュルバルマブと白金製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)およびエトポシドの併用療法(4サイクル後デュルバルマブ維持療法)が、白金製剤とエトポシド単独療法(最大6サイクル)と比較して、主要評価項目である全生存期間 (OS) を有意に改善するかどうかを評価することである。また、副次評価項目として、治験責任医師評価による無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)、および安全性を評価し、デュルバルマブ併用療法の臨床的有用性を多角的に検証することも目的とした。本試験は、ES-SCLCの一次治療における免疫チェックポイント阻害薬の役割を確立し、患者の予後改善に貢献する新たな標準治療の確立を目指した。

結果

主要エンドポイント (OS) の有意な改善: 2019年3月11日のデータカットオフ時点において、追跡期間中央値は14.2ヶ月 (IQR 11.7-17.0) であった。デュルバルマブ+EP群とEP単独群を合わせた336例の死亡が確認され、成熟度は62.6%に達した。デュルバルマブ+EP群では155/268例 (58%)、EP単独群では181/269例 (67%) が死亡した。本中間解析における多重比較調整後の両側有意水準は1.78%と設定されていたが、デュルバルマブ+EP群はEP単独群と比較してOSを有意に延長し、HRは0.73 (95% CI 0.59-0.91, p=0.0047)​と、事前設定された有意水準を大幅に下回った (Figure 2A)。mOSはデュルバルマブ+EP群で13.0ヶ月 (95% CI 11.5-14.8) vs EP単独群で10.3ヶ月 (95% CI 9.3-11.2)​であり、2.7ヶ月の延長が認められた。12ヶ月OS率はデュルバルマブ+EP群で54% (95% CI 47.4-59.5)、EP単独群で40% (95% CI 33.7-45.8) であり、18ヶ月OS率はそれぞれ34% (95% CI 26.9-41.0)​25% (95% CI 18.4-31.6)​であった。

OSのサブグループ解析における一貫した効果: OSの改善効果は、年齢 (<65歳/≥65歳)、性別、PS (0/1)、喫煙歴、脳転移の有無、病期 (III/IV)、人種 (アジア人/非アジア人)、地域といった全ての事前に規定されたサブグループにおいて、一貫してHR<1.0を示した (Figure 2B)。特に、カルボプラチン群でのHRは0.70 (95% CI 0.55-0.89)、シスプラチン群でのHRは0.88 (95% CI 0.55-1.41) であった。早期の打ち切りバイアスに関する感度分析では、EP群でデュルバルマブ+EP群よりも多くの早期打ち切り (8例 vs 2例) が認められたが、結果の頑健性は確認された。

PFSおよびORR (副次エンドポイント) の長期的な優位性: 無増悪生存期間 (PFS) に関しては、多重比較手順内で正式な有意性検定は行われなかったものの、HRは0.78 (95% CI 0.65-0.94)​であった (Figure 2C)。mPFSはデュルバルマブ+EP群で5.1ヶ月 (95% CI 4.7-6.2) vs EP単独群で5.4ヶ月 (95% CI 4.8-6.2)​と数値上の差は小さかった。しかし、6ヶ月PFS率はそれぞれ45% (95% CI 39.3-51.3) と46% (95% CI 39.3-51.7) であったのに対し、12ヶ月PFS率はデュルバルマブ+EP群で18% (95% CI 13.1-22.5) vs EP単独群で5% (95% CI 2.4-8.0)​と、長期的なPFS維持においてデュルバルマブ併用療法の優位性が明確に示された。客観的奏効率 (ORR) は、確認済み奏効でデュルバルマブ+EP群が68% (182/268) vs EP単独群が58% (155/269)​であり、オッズ比は1.56 (95% CI 1.10-2.22) であった (Table 3)。未確認奏効ではそれぞれ79%と70%であった。完全奏効 (CR) はデュルバルマブ+EP群で2% (6例)、EP単独群で1% (2例) に認められた。奏効期間中央値は両群ともに5.1ヶ月であったが、12ヶ月奏効持続率はデュルバルマブ+EP群で23% vs EP単独群で6%​と、長期的な奏効維持においてデュルバルマブ併用療法が優位であった。PFSの改善 (HR=0.78) よりもOSの改善 (HR=0.73) が顕著であるというパターンは、免疫療法の長期持続効果 (tail effect) と一致する。

安全性プロファイルと免疫関連有害事象 (irAE): Grade 3または4の治療関連有害事象の発生率は、デュルバルマブ+EP群で163/265例 (62%) vs EP単独群で166/266例 (62%)​と両群で同等であり、デュルバルマブの追加による毒性の増加は認められなかった (Table 4)。重篤な有害事象はデュルバルマブ+EP群で31%、EP単独群で36%と、EP単独群でやや多かった。有害事象による治療中止は両群ともに9%であった。有害事象による死亡は、デュルバルマブ+EP群で13例 (5%) vs EP単独群で15例 (6%)​と両群で同等であった。免疫関連有害事象 (irAE) はデュルバルマブ+EP群で52/265例 (20%) に報告されたのに対し、EP単独群では7/266例 (3%) であった。Grade 3または4のirAE発生率は、デュルバルマブ+EP群で12例 (5%)​であり、肺炎1.9%、肝炎1.1%、甲状腺機能低下症、副腎不全などが報告された。これらのirAEは既知のデュルバルマブの安全性プロファイルと一致しており、ほとんどがGrade 1または2で、標準的な治療ガイドラインで管理可能であった。最も一般的なirAEは甲状腺機能障害であり、デュルバルマブ+EP群で9% (24例) に甲状腺機能低下症、5% (14例) に甲状腺機能亢進症が認められた。irAEによる死亡は両群でそれぞれ1例 (<1%) であった。

治療実施状況と後治療: デュルバルマブ+EP群では、EP療法4サイクルを87% (230/265例) の患者が達成した。EP単独群では、最大6サイクル可能であったが、57% (151/266例) の患者が6サイクルを完了した。化学療法期間中央値はEP単独群で18.7週、デュルバルマブ+EP群で11.9週と、EP単独群で大幅に長かった。デュルバルマブ維持療法は、中央値で7回投与 (IQR 6-11) され、投与期間中央値は28.0週 (IQR 20.0-43.1) であった。12回以上のデュルバルマブ投与を受けた患者は24%であった。EP単独群におけるPCI施行率は8% (21/269例)​であった。後治療の施行率は両群でほぼ同等であり、デュルバルマブ+EP群で42%、EP単独群で44%であった。後治療で免疫療法を受けた患者は、デュルバルマブ+EP群で2%、EP単独群で5%と少数であった。

考察/結論

CASPIAN試験は、広汎型小細胞肺癌 (ES-SCLC) の一次治療において、デュルバルマブと白金製剤・エトポシド併用療法が、白金製剤・エトポシド単独療法と比較して全生存期間 (OS) を有意に延長することを示した。HRは0.73 (95% CI 0.59-0.91, p=0.0047)​であり、mOSは併用群で13.0ヶ月 vs 単独群で10.3ヶ月であった。18ヶ月OS率は併用群で34%、単独群で25%と、長期生存における明確な改善が認められた。この結果は、Horn et al. NEnglJMed 2018によるIMpower133試験 (アテゾリズマブ+カルボプラチン・エトポシド併用療法、HR=0.70、mOS 12.3ヶ月) の結果と相互補強する形で、「PD-L1阻害薬+白金製剤+エトポシド」がES-SCLCの新たな標準一次治療として確立されたことを示唆する。デュルバルマブは2020年に欧州連合 (EU) でES-SCLCへの一次治療承認を取得した。

先行研究との違い: 本研究の際立った設計上の特徴はいくつかある。第一に、IMpower133試験がカルボプラチン固定であったのに対し、本試験ではシスプラチンとカルボプラチンの選択を許可した点である。これにより、腎機能低下などでシスプラチンが使用できない患者にも適用可能なエビデンスが提供され、より広範な臨床現場での治療選択肢が拡大した。第二に、対照群に最大6サイクルのEP療法と予防的全脳照射 (PCI) の施行を許容した「リアルワールドを反映したデザイン」にもかかわらず、デュルバルマブ併用療法が有意な優位性を示したことは、本結果の頑健性を高めるものである。特に、Slotman et al. NEnglJMed 2007Takahashi et al. LancetOncol 2017がPCIの役割について議論してきた中で、本試験の対照群におけるPCIの許容は、より実臨床に近い比較を可能にした。

新規性: 本研究で初めて、PFSの改善 (HR=0.78) よりもOSの改善 (HR=0.73) が明確であったというパターンがES-SCLCにおける免疫療法の長期持続効果 (tail effect) を含むOS利益の特性と一致することが示された。これはES-SCLCにおける免疫療法の長期的な恩恵を初めて明確に示したものである。

臨床応用: 本知見は、ES-SCLCの一次治療においてデュルバルマブ併用療法が新たな標準治療の選択肢となることを示し、患者の予後改善に大きく貢献する。特に、白金製剤の選択肢が広がることで、より多くの患者がこの恩恵を受けられる可能性があり、臨床現場での治療戦略に大きな影響を与える。

残された課題: 今後の検討課題として、SCLCではPD-L1発現がバイオマーカーとして機能しないことが知られており、高腫瘍変異量 (TMB) などの代替バイオマーカーの臨床的意義の確立が今後の検討課題である。また、維持デュルバルマブの至適投与期間と中止条件の確定も必要である。本中間解析では、デュルバルマブと抗CTLA-4抗体であるトレメリムマブの追加効果は統計的有意水準に達しておらず、最終解析が進行中である。SCLC固有の高い免疫原性や神経内分泌形質といった生物学的特性が免疫療法感受性の基盤にあると考えられているが、分子サブタイプ (例: SCE、Delta-like 3 [DLL3]) と免疫療法効果の相関を探索することが今後の研究方向性として挙げられる。これらの知見は、ES-SCLC患者に対する個別化医療の実現に向けた重要なステップとなるだろう。本研究のオープンラベルデザインは、治験責任医師による奏効評価や有害事象の帰属、患者の試験離脱といった副次評価項目に影響を与える可能性があったが、主要評価項目であるOSはオープンラベルバイアスの影響を受けにくいと考えられ、結果の頑健性は高いと考察される。

方法

本試験は、国際共同の多施設共同無作為化非盲検第3相試験 (CASPIAN試験) として実施された。世界23ヶ国209施設が参加し、2017年3月27日から2018年5月29日の期間に患者登録が行われた。本試験はClinicalTrials.govにNCT03043872として登録されている。

対象患者: 組織学的または細胞学的に確認された未治療のES-SCLC患者が対象とされた。主要な適格基準は、WHOパフォーマンスステータス (PS) 0または1、RECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) ver.1.1に基づく測定可能病変の存在、および試験開始から少なくとも12週間の期待余命であった。脳転移を有する患者も、無症状であるか、または治療により安定し、ステロイドおよび抗痙攣薬を少なくとも1ヶ月間中止している場合に限り適格とされた。主な除外基準には、胸部への放射線治療歴または予定されている胸部放射線治療、活動性または既往の自己免疫疾患または炎症性疾患、全身治療を必要とする自己免疫性の傍腫瘍症候群などが含まれた。

無作為化と盲検化: 患者は、デュルバルマブ+EP療法群、デュルバルマブ+トレメリムマブ+EP療法群、またはEP療法単独群の3群に1:1:1の割合で無作為に割り付けられた。本報告は、デュルバルマブ+EP療法群とEP療法単独群の計画中間解析結果に焦点を当てている。無作為化は、計画された白金製剤の種類(カルボプラチンまたはシスプラチン)によって層別化された。試験は非盲検で実施されたが、スポンサーは集計された有効性および安全性データに対して盲検化された。

治療レジメン:

  • デュルバルマブ+EP療法群: デュルバルマブ 1500mgとEP療法(エトポシド 80-100mg/m²を各サイクル1-3日目に投与、白金製剤はカルボプラチン AUC 5-6またはシスプラチン 75-80mg/m²を各サイクル1日目に投与)を3週間ごとに4サイクル実施後、デュルバルマブ 1500mgを4週間ごとに維持療法として投与した。
  • EP療法単独群: EP療法を3週間ごとに最大6サイクル実施した。担当医の裁量により、化学療法後に予防的全脳照射 (PCI) を施行することが可能であった。

評価項目:

  • 主要評価項目: 全生存期間 (OS) であり、無作為化からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。
  • 副次評価項目: 治験責任医師評価による無増悪生存期間 (PFS)、客観的奏効率 (ORR)(未確認および確認済み)、18ヶ月OS率、6ヶ月および12ヶ月PFS率、および安全性であった。PFSとORRはRECIST ver.1.1に従って評価された。

統計解析: 約795名の患者が登録され、最終解析でOSイベント425件を達成するために、各比較群(デュルバルマブ+EP vs EP、デュルバルマブ+トレメリムマブ+EP vs EP)でそれぞれ425イベントが必要とされた。本中間解析は、デュルバルマブ+EP群とEP群を合わせたOSイベントが約318件発生した時点で計画された (成熟度60%)。OSのハザード比 (HR) が0.71と仮定した場合、本中間解析で統計的有意性を示す検出力は71%と推定された (両側有意水準1.43%、全体α=4%をOSに割り当て)。多重比較のタイプIエラーを制御するため、ゲートキーピング戦略を用いた階層的検定手順が適用された。OSおよびPFSは、層別ログランク検定Cox比例ハザードモデルを用いて解析され、HRと95%信頼区間 (CI) が算出された。カプラン・マイヤー法によりOS、PFS、奏効期間が推定された。安全性解析は、少なくとも1回治験薬を投与された全患者を対象に実施された。