- 著者: Satoshi Igawa, Masayuki Shirasawa, Takahiro Ozawa, Noriko Nishinarita, Yuriko Okuma, Taihei Ono, Ai Sugimoto, Shintaro Kurahayashi, Keisuke Sugita, Hideyuki Sone, Tomoya Fukui, Hisashi Mitsufuji, Masaru Kubota, Masato Katagiri, Jiichiro Sasaki, Katsuhiko Naoki
- Corresponding author: Satoshi Igawa (Department of Respiratory Medicine, Kitasato University School of Medicine, Sagamihara, Japan)
- 雑誌: Thoracic Cancer
- 発行年: 2018
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 29870153
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は、その高い化学療法感受性にもかかわらず、極めて予後不良な悪性腫瘍である。多くの患者は初回治療で顕著な奏効を示すものの、薬剤耐性の出現により再発を経験し、その後の治療選択肢が限られることが課題となっている。特に日本ではSCLC患者の約半数が70歳以上の高齢者であり、またECOG Performance Status (PS) 2以上のpoor PS患者も少なくない。これらの脆弱な患者群は、大規模な臨床試験から除外されることが多く、彼らに最適な治療戦略は依然として未解明な部分が多かった。日本肺癌学会のガイドラインでは、高齢者の進展型SCLC (ED-SCLC) に対する標準治療としてカルボプラチン+エトポシド (CE) 併用療法が推奨されている。先行する第III相試験であるJCOG 9702試験では、スプリットドーズのシスプラチン+エトポシド (SPE) 療法が、高齢者またはpoor PSのED-SCLC患者においてCE療法と同等の安全性と有効性を示すことが、Okamoto et al. BrJCancer 2007 により報告されており、CE療法が標準治療の選択肢の一つとして確立されている。
一方、DNAトポイソメラーゼII阻害薬であるアムルビシン (AMR) は、その強力な抗腫瘍活性から注目されてきた。化学療法未治療のED-SCLC患者を対象とした第II相試験では、AMR単剤療法が高い奏効率 (79%) と良好な全生存期間 (OS中央値11ヶ月) を示すことが、Yana et al. InvestNewDrugs 2007 によって報告されている。本研究グループによる以前の後ろ向き研究 (Igawa et al. 2010) でも、高齢者またはpoor PSのED-SCLC患者に対するAMR単剤療法が奏効率70%、無増悪生存期間 (PFS) 中央値6.6ヶ月、OS中央値9.3ヶ月という有効性を示すことが確認されていた。しかし、これらの有望な治療選択肢であるCE療法とAMR単剤療法を、高齢者またはpoor PSのED-SCLC患者において直接比較したデータは不足しており、この特定の患者群における至適一次治療の選択に関する明確なエビデンスはこれまで報告されていないという臨床的ギャップが存在した。
目的
本研究は、高齢者 (70歳以上) または化学療法未治療のECOG PS 2以上の進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者を対象に、一次治療としてのカルボプラチン+エトポシド (CE) 併用療法とアムルビシン (AMR) 単剤療法の有効性 (奏効率 [ORR]、無増悪生存期間 [PFS]、全生存期間 [OS]) および安全性を後ろ向きに比較検討することを主要目的とした。また、副次的に、一次治療後の二次治療を含む治療シーケンスが全生存期間に与える影響を評価することも目的とした。
結果
患者背景:本後ろ向きコホート研究では、2010年3月から2016年12月までに治療を受けた合計84例の患者が特定され、有効性および安全性解析の対象となった。CE群とAMR群はそれぞれ42例であった (Table 1)。両群間で、CE群で男性の割合が有意に高かった点 (CE群 39/3例 vs AMR群 32/10例, p=0.03) を除き、年齢中央値 (CE群72歳、AMR群71歳)、ECOG PS (PS 2の患者はCE群に14例、AMR群に20例含まれた)、乳酸脱水素酵素 (LDH) 値、転移部位などのベースライン特性に統計的に有意な差は認められなかった。間質性肺疾患や心血管系合併症を有する患者は全てCE群に含まれていた。
奏効率 (ORR):全患者のOverall Response Rate (ORR) は65.4% (95%信頼区間 [CI] 55.5-75.9%) であった (Table 2)。CE群のORRは66.7% (95% CI 52.4-81.0%)、AMR群のORRは64.3% (95% CI 49.8-78.8%) であり、両群間で統計的に有意な差は認められなかった (p=0.82)。完全奏効 (CR) はCE群で1例のみに認められ、大部分は部分奏効 (PR) であった。病勢進行 (PD) はCE群で5例、AMR群で7例に認められた。
無増悪生存期間 (PFS):全患者のPFS中央値は5.4ヶ月 (95% CI 4.4-6.4ヶ月) であった。CE群のPFS中央値は5.8ヶ月 (95% CI 4.9-6.7ヶ月) であったのに対し、AMR群では4.8ヶ月 (95% CI 4.1-5.5ヶ月) であり、CE群がAMR群と比較して有意に優れたPFSを示した (p=0.04) (Figure 1a)。特に、極めて脆弱な高齢者poor PS患者におけるPFSは、CE群で3.1ヶ月、AMR群で3.0ヶ月と短く、一次治療の種類に関わらず満足のいく効果は期待できない可能性が示された。初回治療後の難治性再発の傾向はAMR群で高かった (CE群47% vs AMR群64%、p=0.09)。
全生存期間 (OS):全患者のOS中央値は10.5ヶ月 (95% CI 7.6-13.4ヶ月) であった。CE群のOS中央値は14.0ヶ月 (95% CI 9.1-18.9ヶ月) であったのに対し、AMR群では8.5ヶ月 (95% CI 5.4-11.6ヶ月) であり、CE群で5.5ヶ月の数値的な延長傾向を認めたが、統計的有意差には至らなかった (p=0.089) (Figure 1b)。病勢進行後の生存期間はCE群で中央値6.2ヶ月 (95% CI 3.1-9.3ヶ月)、AMR群で中央値3.8ヶ月 (95% CI 1.6-6.0ヶ月) であったが、有意差はなかった (p=0.26)。
治療シーケンスの影響:病勢進行後の二次治療はCE群の65% (40例中26例)、AMR群の60% (42例中25例) に投与された (Table 3)。CE群の患者のうち23例が二次治療としてAMRを受け、これらの患者のOS中央値は18.5ヶ月 (95% CI 11.7-25.3ヶ月) と極めて良好な成績を示した (Figure 2)。この結果は、CEによる初期の腫瘍縮小後にAMRを逐次的に投与する戦略が、全体的な生存期間の延長に寄与する可能性を示唆する。三次治療はCE群の23% (9例)、AMR群の29% (12例) に実施された。
安全性プロファイル:有害事象のプロファイルはTable 4にまとめられている。最も一般的な有害事象は好中球減少や白血球減少などの血液毒性であった。グレード3以上の好中球減少はAMR群で64% (42例中17例) と、CE群の40% (42例中14例) と比較して有意に高頻度であった (p=0.02)。発熱性好中球減少症もAMR群で14% (6例)、CE群で7% (3例) とAMR群で高頻度であったが、統計的有意差はなかった (p=0.24)。総サイクル数はCE群で149サイクル、AMR群で153サイクルであり、患者あたりの化学療法サイクル中央値は両群ともに4サイクル (範囲1-6) であった。CE群では6例 (14%)、AMR群では8例 (19%) で用量減量が実施された。AMR群の1例でグレード3の肺炎が報告されたが、非血液毒性 (悪心、疲労、食欲不振など) は両群ともに比較的軽度であり、管理可能なレベルであった。治療関連死は両群ともに報告されなかった。
考察/結論
本後ろ向き研究は、高齢者またはpoor PSのED-SCLC患者において、一次治療としてのCE療法がAMR単剤療法と比較して有意に優れたPFS (中央値5.8 vs 4.8ヶ月、p=0.04) を示し、OSにおいても数値的に良好な延長傾向 (中央値14.0 vs 8.5ヶ月、p=0.089) を認めることを明らかにした。
① 先行研究との違い:これまでの研究では、高齢者ED-SCLC患者に対するAMR単剤療法は有効な選択肢とされてきたが、CE療法との直接比較データはこれまで不足していた。本研究は、この脆弱な患者群における両治療法の有効性と安全性を比較した点で重要な知見を提供する。特に、Okamoto et al. BrJCancer 2007 が報告したCEの有効性や、Yana et al. InvestNewDrugs 2007 が示したAMRの奏効率は本研究のORRと整合的であるものの、PFSとOSにおけるCEの優位性は、両治療法の抗腫瘍効果の持続性に相違があることを示唆する。また、Onoda et al. JClinOncol 2006 らもAMR 40 mg/m²の有効性と許容可能な毒性を報告しているが、本研究ではCEと比較してAMR群で骨髄抑制が有意に高頻度であり、安全性プロファイルにおいて対照的な側面が示された。Sekine et al. 2014 の無作為化第III相試験の結果とも整合的であり、AMR単剤療法は高齢者ED-SCLC患者においてCEと比較して忍容性が低い可能性が示唆される。
② 新規性:本研究で初めて、CE後にAMRを二次治療として施行した患者群でOS中央値18.5ヶ月という極めて良好な成績が示されたことは、臨床的に重要な新規な発見である。この「CE→AMR」という逐次療法が、単剤療法や逆シーケンスと比較して、より効果的な治療戦略となり得る可能性を強く示唆する。この結果は、一次治療で十分な腫瘍縮小を得た後に、異なる作用機序を持つAMRを導入することで、生存期間のさらなる延長が期待できるという仮説を支持する。
③ 臨床応用:これらの結果は、高齢者またはpoor PSのED-SCLC患者に対する一次治療としてCE療法が依然として適切な選択肢であることを支持し、臨床現場での治療アルゴリズム構築に重要な根拠を提供する。特に、CEで初期腫瘍量を十分に縮小させた後にAMRの活性を活用する逐次療法は、生存期間の延長を目指す上で考慮すべき戦略となる。AMRは日本において再発・難治性SCLCの標準二次治療として確立されており、一次治療としてのCEと二次治療としてのAMRの組み合わせは、この脆弱な患者群にとって実用的なアプローチであると考えられる。
④ 残された課題:本研究は後ろ向き単施設研究であるため、選択バイアスやサンプルサイズの限界が存在する。特に、CE群とAMR群で男性の割合に有意差があった点は、結果の解釈に影響を与える可能性のある残された課題である。また、患者のQuality of Life (QoL) 評価は行われていない。今後の検討として、CE先行とAMR先行の逐次療法を前向きに比較する無作為化比較試験や、免疫チェックポイント阻害薬 (ICI) を含む新たな治療時代におけるCE標準療法の位置付けを再評価する研究が必要である。特に、脆弱な患者群における治療戦略の最適化には、さらなるエビデンスの蓄積が求められる。
方法
本研究は、2010年3月から2016年12月までの期間に北里大学病院で一次治療としてCE療法またはAMR単剤療法を受けたED-SCLC患者を対象とした後ろ向きカルテレビューである。適格基準は、組織学的または細胞学的にSCLCと診断されたUnion for International Cancer Control (UICC) 第7版TNM分類によるIV期患者、年齢70歳以上またはEastern Cooperative Oncology Group (ECOG) PS 2以上、および測定可能病変の存在であった。治療選択は担当医の裁量に委ねられた。
CE療法は、カルバートの式を用いて目標曲線下面積 (Area Under the Curve, AUC) 5 mg/min/mLで算出されたカルボプラチンをDay 1に静脈内投与し、エトポシドを80 mg/m²でDay 1-3に静脈内投与する3週サイクルで実施された。AMR療法は、アムルビシンを40 mg/m²/dayでDay 1-3に5分間かけて静脈内投与する3週サイクルで実施された。治療は4〜6サイクル繰り返され、病勢進行、許容できない有害事象、または患者の要望により中止された。
奏効評価は、固形がんの治療効果判定に関する新ガイドライン (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors, RECIST) v1.1基準に従って実施され、最良総合効果が記録された。毒性評価は、有害事象共通用語規準 (Common Terminology Criteria for Adverse Events, CTCAE) v4.0基準に従って実施された。用量減量の基準は、グレード4の好中球減少が4日以上持続した場合、発熱性好中球減少症、またはグレード4の血小板減少症であった。これらの事象が発生した場合、AMRは5 mg/m²/day、CEはカルボプラチンAUC 4 mg/min/mL、エトポシド60 mg/m²/dayに減量された。
無増悪生存期間 (PFS) は一次化学療法開始日から病勢進行または患者死亡までの期間と定義され、全生存期間 (OS) は一次化学療法開始日から患者死亡または最終追跡調査日までの期間と定義された。生存曲線はKaplan-Meier法を用いて推定され、群間比較はログランク検定により行われた。統計学的有意水準はp値0.05未満と設定された。統計解析にはSPSS version 23.0が使用された。