- 著者: Takashi Yana, Shunichi Negoro, Minoru Takada, Soichiro Yokota, Yoshiki Takada, Takahiko Sugiura, Hidehiko Yamamoto, Toshiyuki Sawa, Masaaki Kawahara, Nobuyuki Katakami, Yutaka Ariyoshi, Masahiro Fukuoka
- Corresponding author: Takashi Yana (Division of Respiratory Medicine, KKR Otemae Hospital, Osaka, Japan)
- 雑誌: Investigational New Drugs
- 発行年: 2007
- Epub日: 2006-10-13
- Article種別: Original Article (Phase II Trial)
- PMID: 17039404
背景
小細胞肺癌 (SCLC) は全肺癌の15〜20%を占める高悪性度腫瘍であり、初期の化学療法に対する感受性は高いものの、大多数の患者が2年以内に再発し死亡に至る難治性疾患である。進展型SCLC (ED-SCLC) の標準一次治療としては、1981年以来エトポシドとシスプラチン (EP) の併用療法が世界標準として用いられてきたが (Roth et al. JClinOncol 1992)、生存期間中央値は12.8ヶ月、2年生存率19.5%程度にとどまり、治療成績の向上に大きなギャップが残されていた。Noda et al. (Noda et al. NEnglJMed 2002) はイリノテカンとシスプラチン (IP) 併用療法がEP療法に対してMST 12.8 vs 9.4ヶ月 (p=0.002) で優越性を示したことを報告したが、それでもなお長期生存例は少なく、既存治療では真の治癒を望めない患者が大半を占めていた。1990年代以降に評価された新規単剤—トポテカン (SCLCにおけるORR約24〜26%; vonPawel et al. JClinOncol 1999)、パクリタキセル (ORR 34〜41%)、ドセタキセル (ORR 24〜26%)、ゲムシタビン (ORR 約29%) など—はいずれも30〜40%台の奏効率にとどまり、EP療法を大幅に上回る活性を持つ単剤は手薄な状況であった。このような治療上のギャップ (gap in knowledge) を埋める薬剤として、完全合成型9-アミノアントラサイクリンであるアムルビシン (amrubicin) が注目された。前臨床データではアムルビシンの活性代謝物アムルビシノール (amrubicinol) がdoxorubicin比約20〜220倍の細胞毒性を示し、DNA topoisomerase II (トポイソメラーゼII) のcleavable complex (切断可能複合体) を安定化する独自の機序を持つことが示されていた。さらに、ウサギおよびビーグル犬を用いた慢性毒性試験でdoxorubicin様の心毒性がほとんど認められないことも確認されており、臨床応用上の大きな利点が期待された。非小細胞肺癌を対象とした第I/II相試験では最大耐用量 (MTD) が50 mg/m²/日と決定され、45 mg/m²/日を3日間連続・3週ごとが推奨用量と設定されていた。以上の有望な前臨床・初期臨床データに基づき、West Japan Thoracic Oncology Group (WJTOG) はED-SCLCに対するアムルビシン単剤療法の有効性と安全性を評価する第II相試験を計画・実施した。
目的
WJTOGが実施した多施設共同第II相試験として、未治療の進展型小細胞肺癌 (ED-SCLC) 患者を対象に、アムルビシン単剤療法 (45 mg/m²/日、3日連続投与、3週ごと) の有効性と安全性を評価することを目的とした。主要評価項目は全体奏効率 (ORR)、副次評価項目は全生存期間 (OS) および毒性プロファイルとした。
結果
患者背景と登録状況: 35例が登録され、うち33例が適格かつ有効性・毒性評価の対象となった (n=33例)。不適格2例は治療前の重篤な合併症 (心不全1例、肝炎増悪1例) によりアムルビシン投与を受けなかった (Table 1)。適格患者33例の年齢中央値は66歳 (範囲42〜78歳)、男性29例 (87.9%)、女性4例 (12.1%)、ECOG PS 0が5例 (15.2%)、PS 1が26例 (78.8%)、PS 2が2例 (6.1%) であった。病期はStage IIIBが1例 (3.0%)、Stage IVが32例 (97.0%) で全例が未治療であった。70歳以上の高齢者が13例 (39%) 含まれており、総投与サイクル数は136コースであった。早期中止ルールは発動されず、15例評価時点ですでに10例の奏効が確認された。計画最大コース数6コースを完遂した患者が複数含まれており、治療完遂率の高さが示された。
高い奏効率と良好な生存成績: 33例の奏効評価において、CR (complete response) が3例 (9.1%、95% CI 1.9-24.3%)、PR (partial response) が22例 (66.7%) であり、ORR (overall response rate) は75.8% (95% CI 57.7-88.9%) と極めて高い値を示した (Table 2)。NC (no change) は7例 (21.2%)、PD (progressive disease) は1例 (3.0%) であった。NC 7例のうちアムルビシン継続基準を満たさなかった6例はサルベージEP療法に切り替えられ、そのうち2例でPRが達成された。生存曲線は Figure 2 に示す通り、全生存期間の中央値 (MST) は11.7ヶ月 (95% CI 9.9-15.3ヶ月)、1年生存率は48.5% (95% CI 31.4-65.5%)、2年生存率は20.2% (95% CI 6.4-34.4%) であった。総136コース中88%が計画用量45 mg/m²で施行され、用量減量を要したのは約12%のサイクルにとどまった。疾患コントロール率 (disease control rate; DCR = CR+PR+NC) は32/33例 (97.0%) と極めて高く、進展 (PD) は1例 (3.0%) のみにとどまった。EP標準療法の歴史的成績と比較すると、本試験のMST 11.7ヶ月 [95% CI: 9.9-15.3ヶ月] vs EP療法の歴史的MST 9.4ヶ月という単剤として際立った成績が示された (Fig 2)。NC 7例のうちアムルビシン継続基準を満たさなかった6例がサルベージEP療法へ切り替えられ、2例でPRを達成したことから、アムルビシン先行後においてもEP療法への感受性は温存されていた。
高頻度だが管理可能な血液毒性: 血液毒性は評価対象33例 (n=33例、100%) で白血球減少および好中球減少を認めた (Table 3)。Grade 3/4の白血球減少は17例 (51.5%)、Grade 3/4の好中球減少は28例 (84.8%) と高頻度であった。Grade 3/4の貧血は7例 (21.2%)、Grade 3/4の血小板減少も7例 (21.2%) に認められた。しかし、発熱性好中球減少症 (febrile neutropenia) は1例も発生せず、治療関連死亡もゼロであった。顆粒球コロニー刺激因子 (G-CSF) は136コース中55コース (40%)、13例 (39%) の患者に投与された。これらの知見は、重度の好中球減少を伴いながらもG-CSFの適切な使用により感染性合併症なく管理できることを示している。
軽微な非血液毒性と心毒性の回避: 10%以上の患者に認められた非血液毒性は食欲不振 (54.5%)、悪心・嘔吐 (57.6%)、発熱 (30.3%)、脱毛 (60.6%)、下痢 (18.2%)、ALT上昇 (27.3%)、AST上昇 (15.2%) であったが、いずれもGrade 1〜2が主体であった (Table 3)。Grade 3以上の非血液毒性は食欲不振3例 (9.1%) と脱毛1例 (3.0%) のみであった。間質性肺炎 (interstitial pneumonia) が1例に発生したが、ステロイド療法とアムルビシン中止により可逆的に回復した。ECG異常 (上室性期外収縮・QT延長・T波平低化が各1例) が3例 (9.4%) に認められたがいずれも臨床的介入不要であった。LVEFの低下は全例で認められなかった点はdoxorubicin系薬剤との安全性上の重要な相違点である。
考察/結論
本第II相試験の結果は、アムルビシンが未治療ED-SCLCに対して極めて高い抗腫瘍活性を持つことを明確に実証した。ORR 75.8% (95% CI 57.7-88.9%)・MST 11.7ヶ月という成績は、1981年以来のED-SCLC標準治療であるEP療法と比較して同等か優れており、これまでの研究で標準薬剤として評価されてきたイリノテカン・トポテカン・パクリタキセル・ゲムシタビンのいずれもORR 26〜47%台にとどまることと対照的な際立った活性である。
先行研究との違い: これまでの新規単剤試験では、トポテカンはORR 26% (Schiller et al. 1996)、パクリタキセルはORR 34〜41% (Ettinger et al. 1995)、ドセタキセルはORR 24〜26% (Hesketh et al. 1999)、ゲムシタビンはORR 約29% (Cormier et al. 1994) と報告されており、ED-SCLCにおけるORR 75%を超える単剤はこれまで報告されていない。また、アントラサイクリン系薬剤で既報のdoxorubicin心毒性 (累積用量依存性のLVEF低下) とは異なり、アムルビシンではLVEFの低下が全例で認められなかった点は新規の安全性プロファイルとして特筆すべきである。
新規性: 本研究で初めて、アムルビシン単剤が未治療ED-SCLC患者においてこれほど高いORRと許容可能な毒性プロファイルを示すことが実証された。アムルビシンがin vivoでamrubicinolに変換されDNA topoisomerase IIのcleavable complexを安定化させる機序はdoxorubicin (DNA intercalation主体) とは新規に異なる作用様式であり、それが高い抗腫瘍活性の基盤と考えられる。アムルビシノールの細胞毒性がアムルビシン本体の20〜220倍であることも、高いORRの薬理学的根拠となっている。
臨床的意義: Grade 3/4の好中球減少が84.8%と高頻度であるものの、発熱性好中球減少症ゼロ・治療関連死ゼロであった事実は、適切なG-CSF支持療法下での安全管理が可能であることを示す臨床的含意を持つ。88%のサイクルで計画用量が維持されたことは忍容性の高さを裏付けており、本剤が臨床現場における実臨床での投与に耐え得ることを示している。また、LVEFの低下がゼロであったことは、心機能に懸念のある患者への適用可能性を広げるうえでも重要な知見である。
残された課題: 本試験の limitation として、n=33の比較的小規模なサンプルサイズ、1995〜1997年の登録であり現代の支持療法基準との差異、単群試験のため標準治療との直接比較が困難な点が挙げられる。また、70歳以上の高齢者が39%含まれているが年齢別のサブグループ解析は実施されておらず、高齢者に対する有効性・安全性の詳細は今後の検討課題として残されている。本研究の良好な成績を受けてアムルビシンは再発SCLC対象のランダム化試験 (トポテカン対照; Onoda et al. JClinOncol 2006)、未治療ED-SCLCでのシスプラチン併用試験 (Ohe et al. AnnOncol 2005)、さらには大規模第III相比較試験 (Satouchi et al. JClinOncol 2014) へと発展したが、これらの大規模試験でのデータ集積が今後の研究展望として重要である。さらに、どのような患者背景がアムルビシンの恩恵を最も受けるかを探るバイオマーカー研究や、更なる検討による最適な併用療法の確立が今後の課題として残されている。
方法
1995年5月から1997年1月にかけてWJTOG参加施設において患者登録を行った、単群オープンラベル多施設共同第II相試験である。本試験は当時の臨床試験登録制度普及前に実施されたため、NCT番号は登録されていない。
適格基準: 組織学的または細胞学的に確認された進展型SCLC (遠隔転移または対側肺門リンパ節転移を有するもの)、前治療歴なし、ECOG (Eastern Cooperative Oncology Group) パフォーマンスステータス (PS) 0〜2、年齢80歳未満、双方向性に計測可能な病変の存在、生命予後2ヶ月以上、白血球数 (WBC) ≥4000×10⁶/L、ヘモグロビン ≥10 g/dL、血小板数 ≥100×10⁹/L、AST/ALT <100 IU/L、ビリルビン ≤1.5 mg/dL、クレアチニン ≤1.2 mg/dL、正常範囲内の心電図 (ECG) 所見、左室駆出率 (LVEF) ≥60%を満たす患者。全患者から書面によるインフォームドコンセントを取得し、各施設の倫理委員会が承認した。
治療レジメン: アムルビシン45 mg/m²/日を1〜3日目に5分間静脈内投与し、3週ごとに繰り返すことを最大6コースまで実施した。第1コース後に腫瘍縮小率が25%未満の場合、または第2コース後に50%未満の場合は、サルベージ化学療法としてエトポシド (100 mg/m²、1〜3日目) とシスプラチン (80 mg/m²、1日目) の併用療法への切り替えを推奨した。用量修正は、WBCナジルが1000×10⁶/L未満を4日以上持続した場合または血小板ナジルが50×10⁹/L未満の場合に次コースを5 mg/m²減量とし、WBC ≥3000×10⁶/L・血小板 ≥100×10⁹/L回復まで治療を延期した。
効果・毒性判定: 日本癌治療学会の固形癌化学療法効果判定基準 (WHO基準と実質的に同一) に準拠した。CR (完全奏効) は全病変消失の4週以上持続、PR (部分奏効) は測定可能病変の積の和が50%以上減少しかつ新病変がない状態の4週以上持続と定義した。
統計解析 (statistical analyses): 期待奏効率40%において95% CI下限が20%以上となることを保証するため目標サンプルサイズを30例と設定した。15例評価時点で奏効が4例未満の場合の早期中止ルールを設定した。全生存期間の中央値はカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法により推定した。単群試験のため比較統計 (log-rank検定・Cox回帰) は実施しなかった。