• 著者: Girum L. Lemma, Ju-Whei Lee, Seena C. Aisner, Corey J. Langer, William J. Tester, David H. Johnson, Patrick J. Loehrer Sr
  • Corresponding author: Patrick J. Loehrer Sr (Indiana University Melvin and Bren Simon Cancer Center, Indianapolis, IN, USA)
  • 雑誌: Journal of Clinical Oncology
  • 発行年: 2011
  • Epub日: 2011-04-18
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 21502559

背景

胸腺腫および胸腺癌は稀な腫瘍であり、年間発生率は100万人あたり1.5例と報告されているが、前縦隔腫瘍としては最も一般的である。胸腺癌は全ての胸腺悪性腫瘍の約5%を占める。胸腺腫は通常、ルーチンのX線検査や重症筋無力症の評価中に発見されることが多い。多くの場合、腫瘍は限局性であり、外科的切除によって治療される。しかし、胸腺腫患者の約3分の1、胸腺癌患者の約3分の2は、局所進行疾患、遠隔転移、または初回治療後の再発として診断される。このような症例では、手術、放射線療法、化学療法を組み合わせた集学的治療が適応となる場合がある。

胸腺腫および胸腺癌は、起源となる細胞が類似していると報告されており、プラチナ製剤やパクリタキセルを含む広範囲の単剤、および併用レジメンに感受性を示すことが知られている。アントラサイクリン系レジメン、特にシスプラチン、ドキソルビシン、シクロホスファミド(PAC)の併用療法は、55%から90%の客観的奏効率(ORR)と30%から55%の5年生存率を達成していることが報告されている (例: Fornasiero et al. Cancer 1991、Loehrer et al. J Clin Oncol 1994、Loehrer et al. J Clin Oncol 1997)。しかし、アントラサイクリン系薬剤は心筋症や心不全と関連しており、特に放射線療法と併用した場合にそのリスクが高まることが問題視されてきた。胸腺癌患者はしばしば高齢であり、心臓病の既往や放射線療法の必要性から、アントラサイクリン系薬剤の使用が制限される場合がある。そのため、心毒性のリスクを最小限に抑えるために、非アントラサイクリン系レジメンが望ましいとされてきた。

先行研究では、パクリタキセルの単剤療法またはカルボプラチンとの併用療法が、胸腺腫および胸腺癌に対して活性を示すことが症例報告や後方視的研究で示唆されていた (Igawa et al. Lung Cancer 2010、Umemura et al. Jpn J Clin Oncol 2002)。しかし、これらの非アントラサイクリン系レジメンの有効性および安全性に関する前向き多施設臨床試験のデータは不足しており、アントラサイクリン系薬剤の心毒性を回避しつつ、同等以上の治療効果を期待できる新たな標準治療の確立が未解明な課題として残されていた。特に、胸腺腫と胸腺癌の生物学的特性の違いを考慮した治療選択肢の確立は喫緊の課題であった。

このような背景から、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) は、アントラサイクリン系薬剤を含まないレジメンとして、カルボプラチンとパクリタキセルの併用療法が進行胸腺腫瘍患者に対してどの程度の臨床活性を示すかを評価する前向き多施設第II相試験 (ECOG 1C99) を開始した。本研究は、この治療法の有効性、安全性、およびアントラサイクリン系レジメンに対する代替としての位置づけを評価することを目的とした。本試験の知見は、Masaoka et al. Cancer 1981Kondo et al. AnnThoracSurg 2003といった胸腺腫瘍の病期分類や治療戦略に関する重要な先行研究に基づいている。また、Engels et al. IntJCancer 2003の疫学データも、本研究の意義を裏付けている。

目的

本研究の目的は、未治療の進行胸腺腫および胸腺癌患者におけるカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法の有効性と安全性を評価することである。具体的には、主要評価項目として客観的奏効率(ORR)を評価し、副次評価項目として奏効期間、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)、および毒性を評価した。本試験は、アントラサイクリン系薬剤の心毒性を回避しつつ、進行胸腺腫瘍に対する新たな治療選択肢となりうるか否かを検証することを意図した。特に、胸腺腫と胸腺癌の生物学的特性の違いを考慮し、それぞれの病型における治療効果を層別化して評価することも重要な目的の一つであった。本試験は、アントラサイクリン系レジメンが禁忌の患者群に対する代替療法としての可能性を探ることを目指した。

結果

患者背景: 2001年2月から2008年1月までに合計46例が登録された。同意撤回した1例と、治療後に胚細胞腫瘍と判明した1例を除外し、最終的に44例が主要解析の対象となった(胸腺腫21例、胸腺癌23例)。毒性解析には45例が含まれた。患者背景を表2に示す。両群間で年齢中央値50歳、男性61.4%と、性別、人種、ECOG PSに統計的に有意な差は認められなかった。しかし、病期IVbの割合は胸腺癌群で有意に高く (47.8% vs 胸腺腫群19.0%)、この病期分布の差が両群間の治療成績の乖離の一因となった可能性がある。前治療として放射線療法を受けた患者は全体の18.2% (8例) に限られ、化学療法既往は1例のみであり、本試験は実質的にファーストライン治療の評価であった。全患者の49% (43例中21例) が予定された6サイクル以上の化学療法を完遂した。治療中止の主な理由は、毒性または全身状態の悪化 (約21%)、4サイクル以上後の患者による治療中止希望 (9%)、および疾患進行 (12%) であった。

胸腺腫コホートの治療奏効と生存: 胸腺腫患者21例のうち、完全奏効 (CR) が3例 (14.3%)、部分奏効 (PR) が6例 (28.6%) であり、客観的奏効率 (ORR) は42.9% (90% CI 24.5-62.8%) であった。安定疾患 (SD) は10例 (47.6%) に認められた。以前に化学療法を受けた1例はSDが最良奏効であった。WHO組織型 (A/AB vs B1/B2 vs thymoma-NOS) 間でORRに有意差は認められなかった (p=0.49)。無増悪生存期間 (PFS) 中央値は16.7ヶ月 (95% CI 7.2-19.8ヶ月) であった (Figure 1)。全生存期間 (OS) 中央値は、中央値59.4ヶ月の追跡期間において未到達であった (Figure 2)。解析時点で胸腺腫患者21例中7例 (33%) が死亡していた。奏効期間中央値は16.9ヶ月 (95% CI 3.1-22.0ヶ月) であった。

胸腺癌コホートの治療奏効と生存: 胸腺癌患者23例では、CRは認められず、PRが5例 (21.7%) であった。ORRは21.7% (90% CI 9.0-40.4%) であった。SDは12例 (52.2%) に認められた。このORRは、本試験で事前に設定された成功基準 (20例中7例以上の奏効) を達成できなかった (23例中5例)。PFS中央値は5.0ヶ月 (95% CI 3.0-8.3ヶ月) と短かった (Figure 1)。OS中央値は20.0ヶ月 (95% CI 5.0-43.6ヶ月) であった (Figure 2)。奏効期間中央値は4.5ヶ月 (95% CI 3.4-9.9ヶ月) であった。データ解析時点で、胸腺癌患者23例中16例 (69.6%) が死亡しており、胸腺腫群と比較して予後が著しく不良であることが示された。

群間比較: カプラン・マイヤー曲線 (Figure 1およびFigure 2) は、胸腺腫患者が胸腺癌患者と比較して、PFS (ログランク検定 p=0.06) およびOS (ログランク検定 p=0.01) が良好である傾向を示した。病期、性別、PS、および放射線前治療で調整したコックス回帰分析では、胸腺癌の胸腺腫に対するハザード比は、OSでHR 3.0 (95% CI 1.2-7.8, p=0.02)、PFSでHR 2.1 (95% CI 1.0-4.5, p=0.06) であった。これは、胸腺癌の予後が胸腺腫よりも有意に不良であることを示している。

治療後の外科的切除: 本研究のプロトコルには含まれていなかったが、5例の患者が化学療法後に外科的切除を受けた。これらの5例中2例は、手術後15ヶ月以上および74ヶ月以上にわたり無増悪状態を維持しており、化学療法後のコンバージョン手術の可能性を示唆する結果であった。残りの1例は再発し死亡した。

毒性: 主要な毒性は骨髄抑制であり、グレード4の好中球減少症が24.4%の患者に認められた。グレード3の発熱性好中球減少症が1例、グレード4の発熱性好中球減少症が1例発生した。グレード3の感覚性ニューロパチーは13.3%の患者に認められた。その他の毒性はほとんどがグレード1または2にとどまった。アントラサイクリン系薬剤で懸念される重篤な心毒性は1例も発生しなかった。これは、心機能低下患者や放射線療法との同時投与が必要な患者に対する代替レジメンとしての安全性プロファイルの優位性を示唆する。1例の患者が治療終了後約14ヶ月後に急性非リンパ性白血病を発症したが、これは稀な晩期毒性として記録された。

考察/結論

本研究は、進行胸腺腫および胸腺癌に対するカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法を評価した、最大規模の前向き多施設第II相試験の一つである。胸腺腫コホートにおけるORRは42.9% (90% CI 24.5-62.8%)、PFS中央値は16.7ヶ月、OS中央値は未到達であった。一方、胸腺癌コホートにおけるORRは21.7% (90% CI 9.0-40.4%)、PFS中央値は5.0ヶ月、OS中央値は20.0ヶ月であった。

先行研究との違い: 本研究の胸腺腫群におけるORR 42.9%は、アントラサイクリン系レジメン(ADOCのORR 91.8%、PACのORR 50-70%)と比較して明らかに低い結果であり、これまでの報告とは対照的である。また、非アントラサイクリン系レジメンであるシスプラチンとエトポシド(PE)のORR 56%や、エトポシド、イホスファミド、シスプラチン(VIP)のORR 32-35%とも同等かそれ以下であった。この結果は、カルボプラチンとパクリタキセルがアントラサイクリン系レジメンほどの高い奏効は得られないことを示唆している。

新規性: 本研究は、進行胸腺腫および胸腺癌を対象としたカルボプラチンとパクリタキセルの併用療法に関する初の本格的な前向き多施設試験であり、両疾患におけるこのレジメンの有効性と安全性のプロファイルを明確に示した点で新規性がある。特に、胸腺腫と胸腺癌を層別化して解析したことで、両疾患の生物学的特性と治療反応性の違いが明確に示されたことはこれまで報告されていない重要な知見である。

臨床応用: 本レジメンは、アントラサイクリン系薬剤で懸念される心毒性が認められなかったため、心機能低下患者や放射線療法との同時投与が必要な患者に対するアントラサイクリン代替レジメンとして一定の安全性上の利点がある。しかし、その有効性は限定的であり、アントラサイクリン系レジメンが禁忌でない限り、標準治療としての位置づけは困難である。一部の患者で化学療法後の外科的切除(コンバージョン手術)により長期無増悪生存が達成されたことは、奏効後の集学的治療の可能性を示唆しており、臨床的意義がある。

残された課題: 胸腺癌の予後が著しく不良であること(OS中央値20ヶ月)は本試験でも明確に示されており、この疾患に対するより効果的な治療法の開発が残された課題である。胸腺腫群ではOS中央値が未到達(中央値59.4ヶ月以上)と長期生存が示されており、胸腺腫と胸腺癌を一括して治療評価することの限界が改めて浮き彫りになった。今後の研究では、両疾患の生物学的差異に基づいた個別化治療戦略の確立が求められる。また、本試験の胸腺腫コホートは第1段階の成功基準をわずかに満たさなかったため、カルボプラチンとパクリタキセルが進行胸腺腫の治療としてさらなる検討に値するかどうかについては限定的なエビデンスしか提供できなかったというlimitationがある。稀な腫瘍であるため、前向き無作為化比較試験の実施は困難であるが、累積的なデータから、アントラサイクリン系レジメンが禁忌でない患者群では引き続き標準治療として考慮されるべきである。

方法

本研究は、Eastern Cooperative Oncology Group (ECOG) が実施した前向き多施設第II相試験 (ECOG 1C99) である。患者登録期間は2001年2月から2008年1月までであった。

患者選択基準: 18歳以上の患者で、組織学的に確認された切除不能、再発、または転移性の胸腺腫または胸腺癌を有し、根治的手術が不可能な症例が対象とされた。測定可能な病変が少なくとも1つ存在することが必須であった。ECOG Performance Status (PS) は0または1である必要があった。十分な骨髄機能(好中球数 ≥ 1,500 cells/μL、血小板数 ≥ 100,000 cells/μL)、腎機能(クレアチニン ≤ 2.0 mg/dL)、肝機能(血清ビリルビン ≤ 1.5 mg/dL)を有することも求められた。過去に悪性腫瘍の既往がある場合は、5年以上再発の兆候がなく治癒している場合に限り適格とされた。胸腺悪性腫瘍に対する術前または術後補助化学療法の既往がある患者は、再発までの無病生存期間が1年以上であれば登録が許可された。全ての患者は、研究参加前に書面によるインフォームドコンセントに署名した。本試験は、NCT番号が明示されていないが、ECOGの臨床試験として登録された。

治療レジメン: 患者は、パクリタキセル225 mg/m²を3時間かけて静脈内投与し、その後カルボプラチンをAUC (Area Under the Curve) 6で30分かけて静脈内投与するレジメンを3週ごとに受けた。最大6サイクルまで投与された。パクリタキセル投与の1時間前には、シメチジン (300 mg)、ジフェンヒドラミン (25 mg)、デキサメタゾン (20 mg) の静脈内投与による前投薬が行われた。治療は、疾患の進行または許容できない毒性がない限り継続された。6サイクルを超える治療は、担当医の裁量で実施された。

評価: 治療前評価には、病歴聴取、身体診察、血算、代謝プロファイル、胸部および腹部CTスキャン、妊娠可能年齢の女性に対する妊娠検査が含まれた。治療中の評価は、各サイクル前の病歴聴察、身体診察(毒性評価を含む)、血算、生化学検査で行われた。疾患評価は、2サイクル後、4サイクル後、および治療終了時にCTスキャンを用いて実施された。腫瘍評価はRECIST (Response Evaluation Criteria in Solid Tumors) 1.0基準に従って行われた。

病理学的分類: 登録時、患者はいくつかの組織学的分類に基づいて胸腺腫または胸腺癌群に分類された。その後、全ての患者の組織検体は著者の一人 (S.C.A.) によって再評価され、2004年WHO分類に従って再分類された。この解析では、WHO分類B3およびCの患者は「胸腺癌コホート」(n=23) に、A、AB、B1、B2、および胸腺腫-NOS (Not Otherwise Specified) の患者は「胸腺腫コホート」(n=21) に分類された。最終的な結果は、この再分類されたWHO分類に基づく真の組織型に従って分析および報告された。

統計解析: 主要評価項目は客観的奏効率 (ORR) であり、副次評価項目は奏効期間、無増悪生存期間 (PFS)、全生存期間 (OS) であった。ORRの90%信頼区間 (CI) は正確二項検定を用いて算出された。イベント発生までの期間分布はカプラン・マイヤー法を用いてプロットされ、ログランク検定により比較された。ハザード比 (HR) の推定と生存期間の有意性検定にはコックス比例ハザードモデルが用いられた。全てのP値は両側検定であり、特に指定がない限り5%未満が統計的に有意とされた。本試験は2段階デザインを採用しており、胸腺腫コホートでは22例中10例以上の奏効、胸腺癌コホートでは9例中2例以上の奏効が第1段階の成功基準とされた。