• 著者: Kyung Hwan Kim, Jinhyun Cho, Bo Mi Ku, Jiae Koh, Jong-Mu Sun, Se-Hoon Lee, Jin Seok Ahn, Jaekyung Cheon, Young Joo Min, Su-Hyung Park, Keunchil Park, Myung-Ju Ahn, Eui-Cheol Shin
  • Corresponding author: Eui-Cheol Shin (Korea Advanced Institute of Science and Technology, Daejeon, Republic of Korea); Myung-Ju Ahn (Samsung Medical Center, Sungkyunkwan University School of Medicine, Seoul, Republic of Korea)
  • 雑誌: Clinical Cancer Research
  • 発行年: 2019
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 30647082

背景

抗PD-1抗体であるpembrolizumabやnivolumabは、疲弊したCD8+ T細胞を再活性化することで抗腫瘍活性を発揮することが、Pardoll et al. NatRevCancer 2012やSharma and Allison (2015) の研究で示されている。これらの治療法は、悪性黒色腫や非小細胞肺癌(NSCLC)を含む様々な癌種において治療効果が報告されているが、臨床的有益性は患者の一部に限定されることが課題である。現在、最も広く用いられているバイオマーカーは腫瘍組織におけるPD-L1発現であるが、その予測精度は不十分であることが指摘されている。例えば、一部の臨床試験では、PD-L1発現と治療効果が無関係であることも報告されており、Brahmer et al. NEnglJMed 2015Garon et al. NEnglJMed 2015の研究でもその限界が示されている。さらに、PD-L1発現の評価には組織生検が必要であり、これは侵襲的な手法であるため、反復的な評価が困難であるという問題も存在する。

このような背景から、治療開始後の変化を捉える動的バイオマーカーが、ベースラインで測定される静的バイオマーカーよりも優れた予測能を持つ可能性が示唆されている。特に、末梢血を用いた非侵襲的なバイオマーカーの開発が強く求められていた。先行研究では、治療3週後のPD-1+CD8+ T細胞のKi-67陽性率が腫瘍サイズとの組み合わせでのみ予測能を示し、単独での予測価値は限定的であったことがHuang et al. (2017) やKamphorst et al. (2017) によって報告されている。これらの研究は、早期のT細胞増殖応答が重要である可能性を示唆しつつも、その最適な評価時期や単独での予測能については未解明な点が残されていた。既存のバイオマーカーの予測能には不足があり、より早期かつ高精度な予測バイオマーカーの同定が喫緊の課題とされていた。

本研究では、抗PD-1療法における治療反応性および予後を予測するための、より早期かつ非侵襲的な動的バイオマーカーの同定を目指した。特に、治療開始後早期の末梢血PD-1+CD8+ T細胞の増殖応答に焦点を当て、その予測能を複数の固形腫瘍コホートで検証することで、既存のバイオマーカーの不足を補完し、臨床現場での患者層別化に貢献することを目指した。

目的

本研究の目的は、抗PD-1治療開始後第1週における末梢血PD-1+CD8+ T細胞の増殖応答(Ki-67D7/D0)が、固形腫瘍患者における治療効果および生存を予測する有用なバイオマーカーとなるかを検証することである。具体的には、胸腺上皮腫瘍(TETs)および非小細胞肺癌(NSCLC)の患者コホートにおいて、Ki-67D7/D0の治療反応性(持続的臨床有益性 [DCB])および予後(無増悪生存期間 [PFS]、全生存期間 [OS])に対する予測能を評価する。さらに、このバイオマーカーと既存のPD-L1発現との関連性を解析し、その組み合わせによる予測能の改善の有無についても検討する。最終的に、Ki-67D7/D0が、抗PD-1療法を受ける患者の層別化に貢献し、治療戦略の最適化に役立つ非侵襲的な動的バイオマーカーとしての可能性を確立することを目指す。

結果

末梢血PD-1+CD8+ T細胞の治療開始1週後の増殖応答の動態: NSCLC患者9例のPBMCを解析した結果、PD-1+CD8+ T細胞中のKi-67+細胞の割合は、初回抗PD-1抗体投与後7日目(D7)に有意に増加し、その後2週間で有意に減少することが示された(図1A)。この結果に基づき、本研究ではD7における増殖応答を評価することとした。TETコホート(n=31)およびNSCLCコホート1(n=33)の両方において、D7における末梢血PD-1+CD8+ T細胞中のKi-67+細胞の割合がD0と比較して有意に増加した(p<0.0001、図1B, C)。さらに、HLA-A*0201陽性患者において、NY-ESO-1特異的CD8+ T細胞のKi-67+細胞の割合はD7に有意に増加したが、HCMV pp65特異的CD8+ T細胞では増加が認められなかった(図1D-G)。これは、増殖応答が腫瘍抗原特異的T細胞に依存することを示唆する。

TETコホートにおけるKi-67D7/D0の治療反応性および予後予測能: TETコホート(n=31)におけるpembrolizumabのベスト奏効は、PR 6例(19.4%)、SD 18例(58.0%)、PD 7例(22.6%)であった。持続的臨床有益性(DCB)率は35.4%(11/31例)であった。Ki-67D7/D0は、DCB群で非DCB(NDB)群より有意に高値を示した(p<0.05)。ROC曲線解析では、Ki-67D7/D0がDCBをAUC 0.86(95% CI 0.71–1.00, p=0.001)で予測し、高い予測精度を示した(図2B)。最適カットオフ値は2.8と決定され、このカットオフ値における感度は90.9%、特異度は75.0%であった。Ki-67D7/D0 ≥ 2.8の患者では、DCBの確率が有意に高かった(図2C)。特筆すべきは、Ki-67D7/D0 < 2.8の患者の89%が6ヶ月以内に増悪したことであり、この指標がノンレスポンダーの早期同定に有用であることを示唆する。Ki-67D7/D0 ≥ 2.8の患者群では、無増悪生存期間(PFS)中央値が8.7ヶ月(95% CI 4.3–13.2ヶ月)であったのに対し、Ki-67D7/D0 < 2.8の患者群では3.9ヶ月(95% CI 1.2–6.6ヶ月)であり、有意なPFSの延長が認められた(p=0.027、図2D)。多変量Cox回帰分析では、Ki-67D7/D0はPFSの独立予測因子であることが示された(調整ハザード比 [aHR] 0.27, 95% CI 0.09–0.82, p=0.020)。一方、全生存期間(OS)中央値は、Ki-67D7/D0 ≥ 2.8群で14.8ヶ月、< 2.8群で15.2ヶ月であり、有意差は認められなかった(p=0.78、図2E)。

NSCLCコホート1におけるKi-67D7/D0の予測能の確認: NSCLCコホート1(n=33)におけるDCB率は36.4%(12/33例)であった。Ki-67D7/D0はDCBをAUC 0.78(95% CI 0.61–0.94, p=0.009)で予測した(図3B)。TETコホートと同様にカットオフ値2.8を適用すると、Ki-67D7/D0 ≥ 2.8の患者群ではPFS中央値が6.0ヶ月(95% CI 3.3–8.7ヶ月)であったのに対し、< 2.8群では1.4ヶ月(95% CI 1.0–1.8ヶ月)であり、PFSが有意に延長した(p=0.004、図3D)。OS中央値も、≥ 2.8群で13.8ヶ月(95% CI 10.0–17.5ヶ月) vs < 2.8群で2.0ヶ月(95% CI 0.0–4.6ヶ月)と、有意な改善が認められた(p=0.001、図3E)。

NSCLCコホート2におけるKi-67D7/D0の独立検証: NSCLCコホート2(n=46)におけるDCB率は41.3%(19/46例)であった。このコホートでも、Ki-67D7/D0はDCBをAUC 0.81(95% CI 0.68–0.94, p<0.001)で予測した(図4C)。カットオフ値2.8を適用すると、Ki-67D7/D0 ≥ 2.8の患者群ではPFS中央値が10.9ヶ月(95% CI 4.7–17.1ヶ月)であったのに対し、< 2.8群では2.1ヶ月(95% CI 2.0–2.3ヶ月)であり、PFSが有意に延長した(p=0.002、図4E)。OS中央値は、≥ 2.8群では未到達であったのに対し、< 2.8群では7.0ヶ月であり、有意な改善が認められた(p=0.037、図4F)。これら2つの独立したNSCLCコホートで一貫した予測能が検証された。

増殖応答のCD28依存性: NSCLC患者(n=79)において、CD28+PD-1+CD8+ T細胞集団では、CD28-PD-1+CD8+ T細胞集団と比較してKi-67D7/D0が有意に高値を示した(p<0.0001、図4G)。これは、抗PD-1療法によるT細胞の再活性化がCD28(T細胞共刺激受容体)依存的であることを示唆する。

Ki-67D7/D0と腫瘍PD-L1発現の関連性: Ki-67D7/D0と腫瘍PD-L1発現(TPS)との間には、TETコホートおよびNSCLCコホートのいずれにおいても低い相関しか認められなかった(r<0.3、図5A, B)。PD-L1発現レベル(高 vs 低)によるKi-67D7/D0の有意な差も観察されなかった。さらに、Ki-67D7/D0とPD-L1 TPSを組み合わせた予測モデルは、Ki-67D7/D0単独と比較して予測能を有意に改善しなかった(TETコホート p=0.32、NSCLCコホート p=0.57、図5C, D)。

考察/結論

本研究は、抗PD-1療法を受ける固形腫瘍患者において、治療開始後わずか7日で採取可能な末梢血PD-1+CD8+ T細胞の増殖応答(Ki-67D7/D0)が、治療反応性および予後を予測する有用なバイオマーカーであることを初めて示した。

新規性: 本研究で初めて、抗PD-1療法開始後1週目という早期の時点での末梢血PD-1+CD8+ T細胞の増殖応答が、TETsおよびNSCLCの患者において治療効果と生存を予測する強力な指標となることを同定した。特に、Ki-67D7/D0がD7にピークを示すという動態解析の結果は、先行研究で3週後の増殖応答が評価されていたことと異なり、最適な評価時期を明確にした点で新規性が高い。

先行研究との違い: 既存のバイオマーカーであるPD-L1発現は、その予測精度が不十分であり、組織生検という侵襲的な手法を必要とする。本研究の結果は、PD-L1発現とKi-67D7/D0との相関が低いことを示しており、両者が異なる免疫学的メカニズムを反映している可能性を示唆する。これは、PD-L1発現のみでは捉えきれない、治療早期のT細胞の動的な再活性化をKi-67D7/D0が捉えていることを意味し、これまでの静的なバイオマーカーとは対照的なアプローチである。また、Ki-67D7/D0 < 2.8の患者の89%が6ヶ月以内に増悪したという所見は、この指標がノンレスポンダーの早期同定に極めて有用であることを示しており、これまでのバイオマーカーでは得られなかった高い予測能である。

臨床応用: 本知見は、抗PD-1療法を受ける患者の層別化において、非侵襲的かつ簡便な末梢血検査に基づく早期の治療効果予測を可能にする点で、臨床応用に直結する。治療開始後早期にノンレスポンダーを特定できることは、患者が効果のない治療を継続する期間を短縮し、代替治療への早期移行を検討できるという臨床的意義を持つ。これにより、患者のQOL向上と医療資源の最適化に貢献できると考えられる。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが存在する。まず、TETコホートのサンプルサイズが限定的であり、胸腺腫と胸腺癌という異なる組織型が含まれている点である。また、NSCLCコホートにおいても、より大規模な前向き多施設共同試験でのKi-67D7/D0の検証が必要である。さらに、本研究では2種類の固形腫瘍のみを対象としており、悪性黒色腫、頭頸部扁平上皮癌、尿路上皮癌、肝細胞癌など、他の抗PD-1療法が承認されている癌種への応用可能性についても今後の検討が残された課題である。Ki-67D7/D0がNSCLC患者ではOSを予測したが、TET患者では予測しなかったことは、癌種や組織型によって予測能が異なる可能性を示唆しており、さらなる検証が必要である。将来的には、Ki-67D7/D0と他のバイオマーカー(例えば腫瘍変異負荷や免疫微小環境の特性など)を統合的に解析することで、予測能のさらなる改善が期待される。

方法

本研究は、プレプランドバイオマーカー解析として実施された多コホート研究であり、フェーズII臨床試験(NCT02607631)の一部として行われた。本研究はSamsung Medical CenterおよびUlsan University Hospitalの施設内倫理委員会によって承認され、ヘルシンキ宣言に従って実施された。全ての患者は研究参加前にインフォームドコンセントを提供した。

患者コホート:

  1. 第1コホート(発見コホート): 転移性または再発性の胸腺上皮腫瘍(TET)患者31例(胸腺癌25例、胸腺腫6例)を対象とした。これらの患者はpembrolizumab 200 mgを3週ごとに投与された。治療前には中央値2ラインの全身化学療法を受けていた。
  2. NSCLCコホート1(確認コホート): Samsung Medical Centerで募集された転移性NSCLC患者33例を対象とした。これらの患者はpembrolizumabまたはnivolumabを投与された。治療前には中央値2ラインの全身化学療法を受けていた。
  3. NSCLCコホート2(独立検証コホート): Seoul地区の2施設で募集された転移性NSCLC患者46例を対象とした。これらの患者もpembrolizumabまたはnivolumabを投与された。治療前には中央値1ラインの全身化学療法を受けていた。

サンプル採取と処理: 全コホートにおいて、治療開始前(D0)および初回投与から7日後(D7)に末梢血が採取された。一部のNSCLC患者9例からは、免疫応答の動態をモニタリングするため、D0、D7、D21に末梢血が採取された。末梢血単核球(PBMC)は、標準的なFicoll-Paque法を用いて分離された。

フローサイトメトリー解析: PBMCはマルチカラーフローサイトメトリーにより解析された。PD-1+CD8+ T細胞集団におけるKi-67+細胞の割合が測定された。治療後の検体では、治療薬(ヒトIgG4)のPD-1への結合がPD-1染色を妨げるため、抗ヒトIgG4 Fc染色を併用してPD-1+細胞を定義した。Ki-67D7/D0(Ki-67陽性細胞のD7とD0における割合のfold-change)は、D7とD0におけるKi-67+細胞率の比として定義された。腫瘍抗原特異的CD8+ T細胞の増殖応答を評価するため、HLA-A*0201陽性患者において、NY-ESO-1特異的CD8+ T細胞およびHCMV(ヒトサイトメガロウイルス)pp65特異的CD8+ T細胞のKi-67+細胞率も測定された。

PD-L1 IHCアッセイ: ベースライン時の腫瘍組織におけるPD-L1発現は、PD-L1 IHC 22C3 pharmDx Assay Kitを用いて評価された。腫瘍細胞の膜性PD-L1発現の割合(TPS)が算出され、PD-L1発現はTPS 50%以上を「高」、0%~49%を「低」と分類された。

評価項目: 治療反応性は、RECIST v1.1に基づきCTまたはMRIで8~9週ごとに評価された。持続的臨床有益性(DCB)は、完全奏効(CR)、部分奏効(PR)、または6ヶ月以上持続する安定疾患(SD)と定義された。無増悪生存期間(PFS)は、治療開始から病勢進行またはあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。全生存期間(OS)は、治療開始からあらゆる原因による死亡までの期間と定義された。

統計解析: Ki-67D7/D0の最適カットオフ値は、ROC曲線解析によりYouden indexを最大化する点として決定された。生存曲線はカプラン・マイヤー法を用いて作成され、ログランク検定により比較された。多変量コックス回帰分析を用いて、年齢、性別、組織型、前治療歴、腫瘍量などの臨床病理学的因子で調整した上で、バイオマーカーの独立した予測効果が評価された。統計解析にはPrismソフトウェアバージョン6.0およびR統計ソフトウェアバージョン3.2.2が用いられ、両側p値0.05未満を有意とした。