• 著者: Ahmad U, Yao X, Detterbeck F, Huang J, Antonicelli A, Filosso PL, Ruffini E, Travis WD, Jones DR, Zhan Y, Lucchi M, Rimner A
  • Corresponding author: Andreas Rimner (Department of Radiation Oncology, Memorial Sloan Kettering Cancer Center, New York, NY)
  • 雑誌: Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery
  • 発行年: 2015
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 25524678

背景

胸腺癌 (TC: thymic carcinoma) は、胸腺上皮性腫瘍 (TET: thymic epithelial tumor) のうち約14%を占める極めて希少な悪性腫瘍であり、その予後や最適な治療戦略に関する大規模なデータは極めて限られていた。これまでの知見は、日本の単施設集積研究である Kondo et al. AnnThoracSurg 2003 の186例の報告や、米国SEER (Surveillance, Epidemiology, and End Results) データベースを用いた Weksler et al. AnnThoracSurg 2013 の290例の解析など、比較的少数のコホートに基づく報告に依存していた。また、欧州における人口ベースの疫学研究である deJong et al. EurJCancer 2008 でも胸腺癌の治療パターンが報告されているが、詳細な予後規定因子や多角的治療の効果については十分に解析されていなかった。特に、組織型の予後的意義については研究間で一致した結論が得られておらず、手術、化学療法、放射線療法の各治療要素が生存期間に与える独立した効果も明確ではなかった。このように、胸腺癌における標準治療の確立に向けた大規模かつ国際的な臨床データの集積は著しく不足しており、詳細な予後規定因子や多角的治療の効果については十分に解析されておらず、未解明な部分が多く、治療方針の確立には多くの課題が残されている状況であった。国際胸腺悪性腫瘍研究グループ (ITMIG: International Thymic Malignancy Interest Group) は、欧州胸部外科学会 (ESTS: European Society of Thoracic Surgeons) と共同で多施設国際データベースを構築し、これにより当時最大規模の胸腺癌解析が可能となった。本研究は、この国際データベースを用いた最初の胸腺癌専用の統合解析であり、世界各国の67施設から集積された1,042例という前例のない大規模コホートを用いて、予後因子と治療アウトカムを詳細に検討したものである。

目的

本研究の目的は、ITMIG (International Thymic Malignancy Interest Group) および ESTS (European Society of Thoracic Surgeons) の国際多施設データベースに登録された胸腺癌患者の大規模コホートを用いて、患者特性、腫瘍因子 (組織型、病期など)、および治療パターン (外科切除、化学療法、放射線療法) と、全生存期間 (OS: overall survival) および再発フリー生存期間 (RFS: recurrence-free survival) との関連性を明らかにすることである。さらに、多変量解析を用いて胸腺癌における独立した予後規定因子を同定し、局所進行例を含む胸腺癌に対する最適な治療戦略 (特に完全切除の意義や術後補助療法の役割) を確立するための臨床的指針を提供することを目的とする。

結果

対象患者の臨床病理学的背景と地理的分布: ITMIGおよびESTSの国際データベースから抽出された1,042例の胸腺癌患者 (n=1042) の地理的分布は、欧州44% (n=456) vs アジア32% (n=328) vs 北米25% (n=258) であった。診断年代は2001年から2010年が67% (n=605) と最多であった。男性が61% (n=624) を占め、平均年齢は56 ± 14歳であった。病理学的Masaoka病期分類では、Stage Iが5% (n=42)、Stage IIが17% (n=138)、Stage IIIが45% (n=370)、Stage IVaが14% (n=114)、Stage IVbが17% (n=139) であり、進行期症例が大多数を占めていた (Table 1)。WHO (World Health Organization) 組織型分類では、扁平上皮癌が79% (n=560) と極めて高い割合を占め、次いでリンパ上皮腫様癌が6% (n=40)、基底細胞様癌が3% (n=21) であった。重症筋無力症 (MG) などの傍腫瘍症候群の合併は7% (n=56) に留まり、91% (n=757) は合併症を認めなかった (Table 1)。

病期別の生存期間と累積再発率の推移: 追跡期間中央値4.4年において、生存状況が判明した836例のうち36% (n=303) が死亡していた。死因が判明した224例のうち、74% (n=164) が胸腺癌に起因し、4%が治療合併症、13%が他死因であった。コホート全体のOS中央値は6.6年 (95% CI 5.8-8.3) であり、5年OS率は60%、10年OS率は40%であった。また、5年累積再発率 (CIR) は35% (95% CI 30%-40%)、10年CIRは40%であった。病期別の5年OS率は、Stage I/IIで80% vs Stage IIIで63% vs Stage IVaで42% vs Stage IVbで30%であり、病期進行に伴い生存率が有意に低下した (p<0.0001) (Figure 1, A)。病期別5年CIRも、Stage I/IIで15% vs Stage IIIで35% vs Stage IVa/bで45%であり、有意な相関を認めた (p=0.0005) (Figure 1, B)。

外科的完全切除の有無による生存率と再発率の有意な相違: 外科切除が施行され切除度が判明した733例のうち、R0切除 (完全切除) は61% (n=447) であり、R1切除は14% (n=102)、R2切除は25% (n=184) であった (Table 2)。手術アプローチは胸骨正中切開が69% (n=433) で最多であり、胸腔鏡下手術 (VATS: video-assisted thoracoscopic surgery) は6% (n=39) であった (Table E2)。R0切除例の5年OS率は70%であり、R1切除例の55%およびR2切除例の48%と比較して有意に良好であった (p=0.0002) (Figure E2, A)。R1とR2の間にはOSの有意差は認められなかった。5年CIRにおいても、R0切除群は34% vs R1/2切除群で45%と有意に高値であった (p=0.0124) (Figure E2, C)。R0切除を達成した症例群に限定しても、病期はOSと有意に関連していた (p<0.0001) (Figure E2, B)。

多変量解析における全生存期間の独立した予後規定因子: 全生存期間 (OS) に対する多変量解析の結果、R0切除の達成および放射線療法の実施が、OSの有意な独立改善因子として同定された。不完全切除 (R1/2) はR0切除と比較して、死亡リスクが有意に高かった。具体的には、R1/2切除群のR0切除群に対するハザード比は HR 2.21 (95% CI 1.24-3.94, p=0.0071) であった (Table 3)。また、放射線療法の実施は、非実施群と比較して死亡リスクを約55%有意に低下させ、そのハザード比は HR 0.45 (95% CI 0.26-0.79, p=0.0055) であった (Table 3)。一方で、化学療法の有無 (HR 1.54 (95% CI 0.83-2.85, p=0.1732))、組織型 (扁平上皮癌 vs その他: HR 0.78 (95% CI 0.39-1.56, p=0.4815))、MGの有無 (HR 0.56 (95% CI 0.19-1.67, p=0.2957))、および腫瘍径 (HR 0.98 (95% CI 0.90-1.06, p=0.5800)) は、OSに有意な影響を与えなかった (Table 3)。

多変量解析における再発フリー生存期間の独立した予後規定因子: 再発フリー生存期間 (RFS) に対する多変量解析では、放射線療法の実施および男性であることが、RFS延長の独立した有意な因子として同定された。放射線療法の実施は、非実施群と比較して再発・死亡リスクを有意に低下させ、そのハザード比は HR 0.53 (95% CI 0.33-0.85, p=0.0090) であった (Table 4)。性別においては、女性は男性と比較して再発・死亡リスクが有意に高かった。女性群の男性群に対するハザード比は HR 1.85 (95% CI 1.14-3.00, p=0.0122) であった (Table 4)。病期においては、Stage IVa群がStage I/II群と比較して再発・死亡リスクが有意に高かった (HR 2.60 (95% CI 1.14-5.96, p=0.0237)) (Table 4) が、Stage III群 (HR 1.77 (95% CI 0.85-3.68, p=0.1279)) およびStage IVb群 (HR 2.30 (95% CI 0.99-5.34, p=0.0541)) では有意差に至らなかった。化学療法の有無 (HR 1.41 (95% CI 0.83-2.40, p=0.2059)) や、組織型 (HR 1.017 (95% CI 0.575-1.802, p=0.9526)) は、RFSに対しても有意な関連を示さなかった (Table 4)。

考察/結論

本研究は、ITMIGおよびESTSの国際多施設データベースを統合した、胸腺癌における過去最大規模のコホート解析であり、胸腺癌の予後因子と最適な治療戦略に関して極めて重要な臨床的知見を提供している。

先行研究との違い: 本研究は、単一施設からの報告や特定の国・地域のみの登録データに基づいていたこれまでの先行研究と異なり、世界3大陸 (欧州、アジア、北米) の67施設から1,042例という前例のない規模の症例を集積して解析を行った。これにより、従来の小規模研究では検出が困難であった、各治療因子の独立した予後効果を多変量解析によって明確に切り分けることが可能となった。

新規性: 本研究は、胸腺癌における術後放射線療法の生存改善効果を、多変量解析においてOSおよびRFSの両面から本研究で初めて明確に示した。また、組織型 (扁平上皮癌 vs その他) がOSやCIRに独立した影響を与えないことを大規模コホートで実証し、従来の組織学的リスク分類の妥当性に疑問を投げかけた点も、これまで報告されていない新規の知見である。

臨床応用: 本研究の知見は、胸腺癌の治療方針策定における臨床的意義が極めて大きい。局所進行例であっても、R0完全切除を目指した積極的な外科的アプローチが生存期間の延長に直結することが示されたため、臨床現場においては、切除可能性の慎重な評価と積極的な手術適応の検討が推奨される。さらに、術後放射線療法がOSおよびRFSの双方を独立して改善することが示されたため、完全切除後であっても術後照射を標準治療として組み込むマルチモダリティ治療の重要性が支持される。

残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationがあり、これが今後の課題における残された課題となっている。第一に、本研究は後方視的データベース研究であるため、治療選択におけるセレクションバイアスやデータの欠損が避けられない。特に、化学療法が多変量解析で有意な生存改善効果を示さなかった点については、術前・術後・姑息的投与の混在やレジメンの不均一性が影響している可能性があり、前向き臨床試験による検証が必要である。第二に、中央病理査読が実施されていないため、組織型診断の精度における施設間のばらつきが交絡因子となっている可能性がある。今後は、前向きな国際共同レジストリの構築と、標準化された治療プロトコルに基づく臨床試験の実施が、胸腺癌治療のさらなる進歩のために不可欠である。

方法

本研究は、ITMIG (International Thymic Malignancy Interest Group) および ESTS (European Society of Thoracic Surgeons) の国際データベースに登録された胸腺癌患者1,042例を対象とした後方視的コホート研究 (retrospective cohort study) である。本研究の実施にあたっては、イェール大学の機関内倫理委員会 (IRB: Institutional Review Board) の承認 (承認番号: #1307012419) を得て行われた。対象患者の臨床病理学的データ、治療内容、および予後データを収集した。病期分類には、各施設で報告された Masaoka et al. Cancer 1981 分類、またはMasaoka-Koga分類が用いられた。初期解析において、Stage IとStage IIの間で生存アウトカムに有意差が認められなかったため、これら2つの病期を統合して「Stage I/II」として解析を行った。主要評価項目 (primary endpoint) は、全生存期間 (OS) および再発フリー生存期間 (RFS) とした。OSは、手術日 (非手術例では治療最終日) から死亡または最終生存確認日までの期間と定義した。RFSは、手術日または治療最終日から最初の再発確認日、あるいは再発のない最終フォローアップ日までの期間と定義した。統計解析にはSAS 9.3およびRソフトウェアを使用した。生存曲線の推定および単変量解析にはカプラン・マイヤー (Kaplan-Meier) 法およびログランク (log-rank) 検定を用いた。再発リスクの評価においては、死亡を競合リスク (competing risk) とする累積再発率 (CIR: cumulative incidence of recurrence) を算出し、Grayの検定を用いて群間比較を行った。単変量解析において有意な関連を示した因子、および臨床的に重要とされる因子 (年齢、性別、病期、切除度、化学療法の有無、放射線療法の有無、組織型、重症筋無力症 (MG: myasthenia gravis) の有無、腫瘍径) をコックス比例ハザード回回帰モデル (Cox proportional hazards regression model) に投入し、OSおよびRFSに対する独立した予後規定因子を同定するための多変量解析を実施した。