- 著者: Wouter K. de Jong, Johannes L.G. Blaauwgeers, Michael Schaapveld, Wim Timens, Theo J. Klinkenberg, Harry J.M. Groen
- Corresponding author: Wouter K. de Jong (Department of Pulmonology, University Medical Center Groningen, Groningen, The Netherlands)
- 雑誌: European Journal of Cancer
- 発行年: 2008
- Epub日: N/A
- Article種別: Original Article
- PMID: 18068351
背景
胸腺上皮腫瘍 (TET) は、前縦隔に発生する最も一般的な腫瘍であり、胸腺上皮細胞に由来する。胸腺腫は細胞学的異型を欠くものの、局所浸潤性を示すことがあり、潜在的悪性腫瘍と見なされる。一方、胸腺癌は悪性の細胞学的特徴と挙動を示す。TETは希少腫瘍であるため、その発生率、診断手順、治療、および予後に関する集団ベースのデータは依然として不足している。多くの知見は、単一施設の後方視的研究から得られており、集団全体を代表するものではない可能性がある。例えば、Kondo et al. AnnThoracSurg 2003は日本の1,320例を対象とした大規模研究であるが、これは特定の医療機関のデータに限定される。
TETの暫定診断は、臨床的特徴とCTスキャンによる解剖学的所見に基づいて行われるが、確定診断には組織学的検査が不可欠である。組織は経胸壁針生検、外科的生検、または初回切除によって得られる。しかし、細胞診や生検が切除に先行し、正確な分類につながる頻度は不明なままであった。また、胸腺腫は無症状の患者で偶発的に発見されることもあり、診断経路の多様性が示唆される。
TETの分類には、1999年以降、WHO組織学的分類システムが広く用いられている。このシステムは、腫瘍を6つのタイプに分類し、その悪性度と予後を反映するとされる。また、Masaoka病期分類システムは、局所浸潤の程度と全身への拡大に基づいて臨床病期を決定する上で最も広く使用されている。これらの分類システムは予後予測に重要であることが、Okumura et al. Cancer 2002を含む複数の研究で報告されている。
現在のところ、TETの第一選択治療は外科的切除である。しかし、化学療法や放射線療法を併用する治療法は標準化されていない。先行研究では、完全切除の達成、組織学的分類、および腫瘍病期が生存に強く影響すると報告されているが、これらの知見は主に施設ベースの研究から得られたものであり、集団全体におけるこれらの因子の影響を評価した研究は不足していた。特に、オランダを含む欧州では、TETの発生率、診断、治療、および生存に関する系統的な集団ベース研究が不足しており、希少腫瘍の適切な診療体制整備と治療ガイドラインの根拠形成に不可欠なデータが未解明であった。本研究は、この知識のギャップを埋めることを目的としている。
目的
本研究の目的は、オランダ全国組織病理アーカイブ (PALGA) と国立がんレジストリ (NCR) を統合したデータベースを用いて、1994年から2003年までの10年間におけるオランダの胸腺上皮腫瘍 (TET) の集団ベースの発生率、診断手順、治療介入、および生存率を包括的に評価することである。具体的には、WHO分類およびMasaoka病期分類に基づいたTETの疫学的特徴、診断時の初回アプローチの多様性、外科的切除の実施状況と完全性、およびこれらの因子が患者の全体生存率と相対生存率に与える影響を明らかにすることを目的とした。また、先行研究で示唆されている完全切除の予後予測因子としての役割について、集団ベースのデータを用いて再評価することも重要な目的の一つであった。
結果
患者および腫瘍特性: PALGAデータベースの537例中、女性が275例 (51%) を占めた。診断時年齢の中央値は59歳 (範囲1-94歳、四分位範囲48-70歳) であった。重症筋無力症 (MG) は78例 (15%) で認められ、純粋赤芽球癆/再生不良性貧血7例を含む他の傍胸腺症候群が13例で観察された。腫瘍径の中央値は7.5 cm (範囲0.1-22 cm、n=298) であった。WHO型分布は、A型63例、AB型115例、B1型87例、B2型97例 (B1+B2混合3例を含む)、B3型63例 (B2+B3混合8例を含む)、C型 (胸腺癌) 56例 (10.4%、B3+C混合1例を含む)、不明56例であった。A型およびAB型の患者は、B1型以上の患者よりも平均で5歳高齢であった (p < 0.001)。より悪性度の高いWHO型のTETは、診断時にMasaoka病期が高い傾向を示した (p < 0.001)。例えば、stage IはA型/AB型に多く、stage IVはB3型/C型に集中していた (Table 2)。MG合併例では、非合併例と比較して初回切除の割合が高く (90% vs 51%、p < 0.001)、腫瘍が小さく (p = 0.004)、診断時年齢が若い傾向が認められた (p = 0.001)。
発生率と経年変化: 10年間 (1994-2003年) で、年平均54例のTETが診断された。全TETの年齢標準化発生率は3.2/1,000,000人年であった (Table 1)。胸腺腫 (A、AB、B1、B2型) の発生率は2.2/1,000,000人年、C型胸腺癌の発生率は0.3/1,000,000人年であった。男女間に発生率の有意な差は認められなかった。観察期間全体 (1994-2003年) では、TETの発生率に有意な増加傾向は認められなかった (EAPC +3.2%、p = 0.12)。しかし、最初の年 (1994年) を除外すると、1995-2003年の期間では有意な増加傾向が観察された (EAPC +6.0%、p = 0.002)。これはCTスキャンの普及による検出増加を反映している可能性がある。
診断手順: 初回診断手順として最も多かったのは一次切除であり、302例 (56.2%) で実施された (Table 3)。次いで、針生検 (組織診) が24.2%、外科的生検が9.7%、細胞診が3.5%であった。Masaoka病期が高くなるにつれて、一次切除の割合は徐々に減少した (stage I: 76%、stage II: 75%、stage III: 46%、stage IV: 23%)。胸腺癌の症例では、針生検が最も頻繁に用いられた初回診断手順であった (56例中20例、36%)。切除を受けた全症例のうち、術前病理診断が得られたのは24%のみであった。術前診断手段としては、針生検が64%を占め、外科的生検 (25%)、細胞診 (11%) が続いた。術前診断から切除までの中央期間は37日 (四分位範囲21-84日) であった。
治療と切除完全性: 537例中419例 (78%) が切除術を受けた (Table 3)。切除例の内訳は、完全切除227例 (54%)、不完全切除129例 (31%)、完全性不明63例 (15%) であった。胸腺癌56例中28例 (50%) が切除された。生存データが利用可能な切除例 (n=180) では、完全切除が74例 (41%)、不完全切除が96例 (53%)、不明が10例 (6%) であった。不完全切除を受けた患者は、完全切除を受けた患者よりも (ネオ) アジュバント療法を受ける割合が高かった (64% vs 39%、p = 0.002)。
生存率: 生存データが利用可能であった232例 (全症例の43.2%) の2年、5年、10年全生存率 (OS) はそれぞれ75%、69%、40%であった。WHO型別の5年OSは、A型87.8% (95% CI 59.4-96.9%)、AB型83.0% (95% CI 63.8-92.6%)、B1型81.7% (95% CI 61.0-92.1%)、B2型81.9% (95% CI 66.6-90.6%)、B3型53.1% (95% CI 32.8-69.8%)、C型37.8% (95% CI 20.5-55.0%) であった (Table 4)。WHO型A型およびAB型を除くすべての型で、超過死亡率 (相対生存率による過剰死亡) が認められた。Masaoka病期別の5年OSは、I期82.9%、II期87.8%、III期57.6%、IV期55.6%であった (Table 4)。手術を受けた患者 (n=180) の5年OSは80.1% (95% CI 72.5-85.9%) であったのに対し、手術を受けなかった患者 (n=52) の5年OSは27.6% (95% CI 14.1-42.9%) であり、手術の有無は生存に有意な影響を与えた (p < 0.001)。しかし、切除の完全性は生存を予測しなかった (完全切除 vs 不完全切除、p = 0.53) (Fig. 1)。
多変量解析: 手術の施行は、生存の最も強力な独立予後因子であった (p < 0.001)。手術変数を多変量解析から除外した場合、WHO分類 (p < 0.001)、Masaoka病期 (p = 0.010)、および年齢 (p < 0.001) が独立予後因子として同定された。性別、MG合併、診断年代 (1994-1998年 vs 1999-2003年) は、いずれも予後因子ではなかった。年齢別の5年OSは、50歳未満で73.8%、50-69歳で74.8%、70歳以上で46.8%であり、年齢が高いほど生存率が有意に低下した (p = 0.0004)。
考察/結論
本研究は、オランダにおける胸腺上皮腫瘍 (TET) の発生率、診断手順、治療、および生存に関する包括的な集団ベースの疫学データを提供するものであり、いくつかの重要な知見をもたらした。
先行研究との違い: これまでの多くの研究が単一施設の後方視的データに依存していたのに対し、本研究は全国的な病理アーカイブとがん登録を統合した集団ベースのデータを用いた点で、これまでの報告とは異なる。特に、切除の完全性が生存を予測しないという本研究の知見 (p = 0.53) は、Kondo et al. AnnThoracSurg 2003や他の先行研究で完全切除が予後因子として強調されてきたことと対照的である。この違いは、本研究がより厳格な完全切除の定義を採用したこと、および不完全切除例に対する術後補助療法の実施率が高かったこと (64% vs 39%) に起因する可能性がある。不完全切除であっても、腫瘍減量 (debulking) 効果や病理診断の確定が予後改善に寄与している可能性を示唆する。
新規性: 本研究で初めて、オランダにおけるTETの年齢標準化発生率が3.2/1,000,000人年であることを明らかにした。また、WHO型AおよびAB型を除くすべての胸腺腫タイプ (B1-B3) および胸腺癌 (C型) で超過死亡率が観察されたことは、これまで報告されていない重要な知見である。これは、比較的「良性」とされる胸腺腫においても、標準人口と比較して生命予後が短いことを示唆する。さらに、1994年を除いた1995-2003年の期間でTETの発生率が有意に増加していること (EAPC +6.0%、p = 0.002) は、CTスキャンなどの診断技術の普及による検出増加を反映している可能性があり、これも新規の発見である。
臨床応用: 本知見は、TETの診断と治療戦略に臨床的含意を持つ。手術が最も重要な予後因子であり、たとえ切除が不完全であっても、手術が患者に最良の展望をもたらすことが示された。これは、切除が困難な場合でも、可能な限り外科的介入を検討すべきであることを示唆する。また、WHO型B3およびC型の5年OSが他の型と比較して著しく低いこと (53%および38%) は、これらの高悪性度TETに対するより積極的な全身療法開発の必要性を支持する。診断手順に関しては、初回切除が最も一般的であったが、術前病理診断の割合は低く (24%)、CTスキャンによる切除可能性評価が診断プロセスにおいて重要な役割を担っていることが示唆される。
残された課題: 本研究にはいくつかのlimitationが残されている。第一に、生存データが全症例の43.2% (232例) にしか取得できていないため、選択バイアスが存在する可能性がある。第二に、補助療法 (化学療法、放射線療法) の詳細な情報 (用量、強度、タイミング) が不足しており、これらの治療が生存に与える影響を完全に評価できていない。第三に、PALGAとNCRのマッチング率が完全ではないため、一部の症例が見落とされている可能性がある。第四に、WHO分類はオランダ全国の病理医によって行われており、中央病理審査ではないため、診断の一貫性にばらつきがある可能性が否定できない。今後の研究では、これらの限界を克服し、より詳細な治療情報や長期的な追跡データを含む前向き研究が必要である。また、Engels et al. IntJCancer 2003が報告しているような二次原発癌の発生が生存期間に与える影響についても、今後の検討課題である。
方法
本研究は、オランダの全人口約1,600万人を対象とした集団ベースの記述疫学研究である。データは、オランダ全国組織病理アーカイブ (PALGA) と国立がんレジストリ (NCR) の2つの全国データベースから匿名で収集された。PALGAはすべての細胞病理学的および組織病理学的報告を登録し、NCRは新たに診断された悪性腫瘍の臨床および外科的データを記録する。両データベースの情報は1994年から2003年までの期間で統合された。
PALGAデータベースでは、「thymoma, benign」「thymoma, malignant」「thymoma, lymphocyte-rich」「thymus, neoplasm」「thymus, benign」「thymus, malignant」などのキーワードを用いて初期スクリーニングが行われた。1994年1月1日から2003年12月31日までの期間に1,244件のヒットがあり、これらは750例に由来した。このうち、他の診断 (悪性リンパ腫49例、カルチノイド腫瘍31例など) の151例 (20.1%)、1994年以前に診断された38例 (5.1%)、診断が不明確な24例 (3.2%) が除外され、最終的に537例の原発性胸腺腫および胸腺癌が対象となった。
NCRデータベースからは、同時期に胸腺領域の悪性腫瘍 (ICDコードC.37.9) と診断された269例が収集された。これらの症例は、生年月日、性別、必要に応じて診断日を用いてPALGAの症例と照合された。その結果、232例 (86.2%) がPALGAデータと統合された。
すべての腫瘍は、2名の独立した観察者 (JLGBおよびWKdJ) によってWHO基準に従って組織病理学的に分類された。以前の分類はWHO分類に再分類された。複数のタイプが混在する腫瘍は、予後を決定する最も悪性度の高いタイプに基づいて分類された。臨床病期分類にはMasaoka et al. Cancer 1981のMasaokaシステムが用いられた。
診断手順は、経胸壁細針吸引細胞診、経胸壁針生検、外科的生検、組織学的診断のための初回切除、または偶発的発見 (剖検時または他の手術時) に分類された。切除の完全性は、肉眼的および/または顕微鏡的腫瘍残存がない場合にのみ「完全」と記録された。
統計解析では、発生率はオランダ統計局のデータに基づき、欧州標準人口を用いて年齢標準化された。発生率の経年変化は、推定年変化率 (EAPC) を用いて評価された。群間の差は、カテゴリ変数にはカイ二乗検定またはKruskal-Wallis検定、連続変数にはMann-Whitney検定を用いて評価された。生存期間は診断日から死亡日または追跡終了日までとし、Kaplan-Meier法を用いて推定された。サブグループ間の生存差はログランク検定で比較された。過剰死亡のリスクを評価するため、相対生存率が用いられ、オランダの生命表に基づく年齢、性別、期間でマッチングされた期待生存率と比較された。多変量相対生存解析は、過剰死亡率の比率の推定に基づいた。すべてのp値は両側であり、統計的有意水準はp < 0.05に設定された。