• 著者: Teachey DT, Lacey SF, Shaw PA, Melenhorst JJ, Maude SL, Frey N, Pequignot E, Gonzalez VE, Chen F, Finklestein J, Barrett DM, Weiss SL, Fitzgerald JC, Berg RA, Aplenc R, Callahan C, Rheingold SR, Zheng Z, Rose-John S, White JC, Nazimuddin F, Wertheim G, Levine BL, June CH, Porter DL, Grupp SA
  • Corresponding author: David T. Teachey (The Children’s Hospital of Philadelphia)
  • 雑誌: Cancer Discovery
  • 発行年: 2016
  • Epub日: N/A
  • Article種別: Original Article
  • PMID: 27076371

背景

CD19特異的CAR (chimeric antigen receptor)-T細胞療法は、再発/難治性急性リンパ性白血病 (ALL) に対し高い有効性を示す新規免疫療法である。しかし、サイトカイン放出症候群 (CRS) は、最も重大かつ生命を脅かす副作用として知られている。CTL019 (CD19-BBζ CAR-T) 療法を受けた患者において、CRSの発生と治療反応性の間には相関が示唆されているが、CRSの重症度と治療成績の間に強い関連は認められていないとMaude et al. NEnglJMed 2014は報告している。また、CRSの重症度は治療時の疾患負荷と関連する可能性が示唆されているものの、疾患負荷のみでは重症CRSの発生を予測するには不十分である。CRSの病態生理に関する理解は依然として不足しており、特に重症CRSを発症する患者を早期に正確に予測するバイオマーカーはこれまで報告されていない。IL-6R阻害剤であるトシリズマブがCRSを効果的に緩和することが示されているが、その作用機序は未解明な部分が多く、早期介入がCAR-T細胞の有効性を低下させる可能性も懸念されている。これらの課題が残されており、CRSの生物学的理解を深め、重症化を予測し、早期介入を可能にするための研究が求められている。

目的

本研究の目的は、CTL019 CAR-T細胞療法を受けた急性リンパ性白血病患者におけるサイトカイン放出症候群 (CRS) の病態生理を詳細に解明し、特に重症CRSの発症を早期に予測できるバイオマーカーを同定することである。さらに、これらのバイオマーカーを用いた予測モデルを構築し、その臨床的有用性を検証すること、およびトシリズマブによるCRS緩和のメカニズムを解明することも目指した。

結果

重症CRS患者における臨床的特徴とバイオマーカーの変動: CAR-T細胞療法を受けた51例中48例 (94%) がCRSを発症し、うち14例 (27%) が重症CRS (Grade 4-5) であった (Table 1)。重症CRS患者は、機械換気 (64% vs 0%, p<0.001) や血管作動薬の使用 (100% vs 18%, p<0.001) を高頻度に必要とした。また、重症CRS患者では、フェリチン中央値が130,000 ng/mL (範囲 11,200-299,000) と、非重症CRS患者 (中央値 8,290 ng/mL) と比較して有意に高値を示した (p<0.001)。CRPも同様に、重症CRS患者で中央値22.9 mg/dLと有意に高かった (p=0.010)。これらの臨床検査値のピークはCRSの重症度と相関したが、投与後3日以内の早期予測には有用でなかった。例えば、CRP > 6.8 mg/dLは感度72%、PPV 43%であり、早期のCRS重症度予測には不十分であった。

サイトカインプロファイルと重症CRSとの関連: 投与後1ヶ月間のピークサイトカインレベルを比較した結果、IFNγ、IL6、sgp130、sIL2Rα、MCP1、MIP1α、MIP1β、GM-CSFなど24種類のサイトカインが重症CRS (Grade 4-5) と有意に関連することが示された (Supplementary Table S9, Fig. 1A, B)。特に、IFNγとsgp130は、投与後3日以内に重症CRS患者で非重症CRS患者と比較して有意に早期に上昇した唯一のサイトカインであった (Supplementary Fig. S2, Supplementary Table S11)。IL6は1ヶ月間のピークレベルでは重症CRSと強く関連したが、投与後3日以内の早期IL6レベルはCRSの重症度と有意な関連を示さなかった。

重症CRSの予測モデルの構築と検証: ロジスティック回帰モデルを用いて、IFNγ、sgp130、およびsIL1RAの3サイトカインの投与後3日以内のピーク値から重症CRS (Grade 4-5) を予測するモデルを構築した。このモデルは、感度86% (95% CI, 57-98)、特異度89% (95% CI, 73-97)、AUC=0.93 (95% CI, 0.86-1.0) で重症CRSを正確に予測した (Fig. 2A, Table 3)。小児コホートに特化したモデルでは、IFNγ、IL13、MIP1αを用いて感度100% (95% CI, 72-100)、特異度96% (95% CI, 81-100)、AUC=0.98 (95% CI, 0.93-1.0) とさらに高い精度を示した (Fig. 2C, Table 3)。これらの予測モデルは、独立した検証コホートの小児患者12例においても高い精度で重症CRSを予測することが確認された (Supplementary Table S12)。

CAR-T細胞療法後のCRSにおける二次性HLH/MAS様病態: 重症CRS患者は、二次性血球貪食性リンパ組織球症 (HLH) / マクロファージ活性化症候群 (MAS) に類似した臨床的、検査的、サイトカインプロファイルを示すことが明らかになった。重症CRS患者の全例で、HLHの診断基準とされるフェリチン > 10,000 ng/mLが認められた。また、HLHで上昇が報告されているIFNγ、IL10、sIL2Rα、IL6、IL8、IP10、MCP1、MIG、MIP1βといったサイトカインが、重症CRS患者で有意に高値を示した (Supplementary Table S9, Fig. 3A, B)。

トシリズマブによるIL-6シグナル伝達への影響: 21例の患者がCRS治療のためにトシリズマブを投与された。トシリズマブ投与後、IL6レベルは一時的に上昇した後、急速に減少する傾向が観察された (Fig. 4)。sIL6Rレベルは一般的に増加し、少なくとも2~3週間高値を維持した。sgp130レベルは一部の患者で増加したが、他の患者では変化がなかった。これらのデータは、トシリズマブがIL6RとIL6の相互作用を阻害し、sIL6Rレベルを上昇させることでIL6トランスシグナル伝達を多角的にブロックしている可能性を示唆している。

考察/結論

先行研究との違い: 本研究は、CAR-T細胞療法後のCRSにおける網羅的なサイトカインプロファイリングを実施し、重症CRSを早期に予測するバイオマーカーパネルを同定した点で、これまでの研究とは異なる。特に、IFNγ、sgp130、sIL1RAの組み合わせが、患者が重篤な状態になる前に高精度で重症CRSを予測できることを初めて示した。Davila et al. SciTranslMed 2014Lee et al. Lancet 2015などの先行研究では、CRSの重症度と疾患負荷との関連が示唆されていたが、本研究では疾患負荷のみでは重症CRSの予測には不十分であることを明らかにした。

新規性: 本研究で初めて、投与後3日以内のIFNγ、sgp130、sIL1RAのピーク値が重症CRSの強力な予測因子となることを新規に同定した。さらに、重症CRS患者が二次性HLH/MASに類似した臨床的、検査的、サイトカインプロファイルを示すことを明確に示し、CRSの病態生理におけるIL-6トランスシグナル伝達の重要性を明らかにしたことは、これまで報告されていない新規な知見である。

臨床応用: 本研究で開発された予測モデルは、CAR-T細胞療法後の重症CRS発症リスクが高い患者を早期に特定することを可能にする。これにより、患者が重篤な状態に陥る前にサイトカイン指向型治療や積極的な支持療法を早期に開始できる可能性があり、罹病率や死亡率の低減に繋がる臨床的意義は大きい。また、重症CRSのリスクが低い患者を予測することで、不必要な早期入院や過剰な治療を避けることができ、臨床現場での患者管理を最適化する上で有用である。

残された課題: 今後の検討課題として、本モデルが他のCAR-T細胞製品や異なる疾患、あるいは他のT細胞エンゲージング療法にも一般化可能であるかを検証する必要がある。また、早期介入がCAR-T細胞の有効性を損なうことなく、CRSの毒性を軽減できるかを評価するための前向き臨床試験が残されている。本研究では、サイトカイン検査が迅速に利用できない臨床検査室が多いというlimitationも指摘されており、より迅速かつ簡便な予測ツールの開発も今後の方向性となる。

方法

本研究では、再発/難治性ALL患者51例(小児39例、成人12例)を対象とした。これらの患者は、フィラデルフィア小児病院 (CHOP) およびペンシルベニア大学病院 (PENN) で実施されたCTL019 (CD19-BBζ CAR-T) 療法の臨床試験 (NCT01626495, NCT02030847, NCT01029366) に登録された。CRSの診断と重症度分類は、事前に定義された基準 (Supplementary Table S1A, S1B) に基づき実施された。患者から経時的に血清サンプルを採取し、43種類のサイトカイン、ケモカイン、可溶性受容体、およびCRP、フェリチン、LDH、AST、ALT、BUN、Crなどの臨床検査値を測定した。CAR-T細胞の生体内増殖は定量的PCRにより評価した。解析はCTL019投与後1ヶ月間に限定し、特に投与後3日以内のピーク値を重視した。

統計解析には、離散変数にはFisher exact test、連続変数にはexact Wilcoxon rank-sum testを用いた。多重比較の調整にはHolm’s法を適用した。重症CRS (Grade 4-5) の予測モデルを開発するため、ロジスティック回帰分析と分類ツリーモデルを適用した。モデルの候補変数には、投与後3日以内のピーク値が欠損している症例が少ない臨床および検査因子(ALT, AST, BUN, Cr, フェリチン, qPCR, LDH, 43種類のサイトカインマーカー、CRS定義症状、年齢)を含めた。ロジスティック回帰モデルの選択にはAkaike情報量基準を、ツリーモデルの選択には逸脱度統計量を用いた。これらのモデルは、独立した小児患者12例の検証コホートでその精度を評価した。