- 著者: Marco L. Davila, Isabelle Riviere, Xiuyan Wang, Shirley Bartido, Jae Park, Kevin Curran, Stephen S. Chung, Jolanta Stefanski, Oriana Borquez-Ojeda, Malgorzata Olszewska, Jinrong Qu, Teresa Wasielewska, Qing He, Mitsu Fink, Himaly Shinglot, Maher Youssif, Mark Satter, Yongzeng Wang, James Hosey, Hilda Quintanilla, Elizabeth Halton, Yvette Bernal, Diana C. G. Bouhassira, Maria E. Arcila, Mithat Gonen, Gail J. Roboz, Peter Maslak, Dan Douer, Mark G. Frattini, Sergio Giralt, Michel Sadelain, Renier Brentjens
- Corresponding author: Renier Brentjens; Michel Sadelain (Memorial Sloan-Kettering Cancer Center, New York, NY, USA)
- 雑誌: Science Translational Medicine
- 発行年: 2014
- Epub日: 2014-02-19
- Article種別: Original Article
- PMID: 24553386
背景
再発または難治性の成人B細胞急性リンパ性白血病 (B-ALL: B cell acute lymphoblastic leukemia) は、極めて予後不良な血液悪性腫瘍である。標準的なサルベージ化学療法を施行した後の完全奏効率 (CR: complete remission) は約30%に留まり、中央生存期間は6ヶ月未満と極めて短い。この状況において、同種造血幹細胞移植 (allo-HSCT: allogeneic hematopoietic stem cell transplantation) は唯一の治癒をもたらし得る治療選択肢であるが、移植前に微小残存病変 (MRD: minimal residual disease) を陰性化させることが長期生存に不可欠である。しかし、従来の化学療法のみでMRD陰性化を達成することは困難であり、サルベージ療法後に実際にallo-HSCTに到達できる患者は歴史的に約5%に過ぎないという深刻な治療成績の不足が存在していた。
近年、CD19を標的とするキメラ抗原受容体 (CAR: chimeric antigen receptor) T細胞療法がB細胞性悪性腫瘍に対して極めて有望な臨床効果を示している。先行研究である Brentjens et al. SciTranslMed 2013 では、19-28z CD19 CAR-T細胞療法が成人B-ALL患者5例においてMRD陰性完全奏効 (CRm: molecular complete remission) を急速に誘導し、allo-HSCTへの有効な架け橋となることが示された。また、Kochenderfer et al. Blood 2012 や Grupp et al. NEnglJMed 2013、さらに Porter et al. NEnglJMed 2011 などの既報においても、CAR-T細胞療法の強力な抗腫瘍効果とそれに伴う全身性毒性が報告されている。
しかし、CAR-T細胞の劇的な体内増殖と標的攻撃に伴って発生する重篤な有害事象であるサイトカイン放出症候群 (CRS: cytokine release syndrome) については、その詳細な定義、客観的な診断基準、および安全な管理アルゴリズムが未解明であった。特に、重症CRS (sCRS: severe cytokine release syndrome) に対する治療介入として高用量ステロイドを使用すると、CAR-T細胞の体内持続性や増殖を阻害し、白血病の早期再発を招くリスクが懸念されていた。このように、CAR-T細胞療法を安全に一般臨床へ普及させるための毒性管理サーベイランス体制が決定的に不足しているという課題が残されていた。本研究は、16例の成人B-ALLコホートにおいて、sCRSの診断基準、予測バイオマーカー、および治療介入アルゴリズムを前向きかつ体系的に確立することを試みた。
目的
本研究の目的は、再発・難治性の成人B-ALL患者16例を対象とした19-28z CD19 CAR-T細胞療法の第I相臨床試験 (ClinicalTrials.gov NCT01044069) において、以下の4点を体系的に検証・確立することである。 (1) 19-28z CAR-T細胞療法の有効性(CR/CRi率、MRD陰性化率、およびallo-HSCTへのブリッジング成功率)の評価。なお、CRiとは不完全な血球回復を伴う完全奏効 (complete remission with incomplete count recovery) を指す。 (2) 治療に伴う毒性プロファイル、特に高熱、低血圧、低酸素症、神経毒性を特徴とするCRSの臨床的特徴の解明。 (3) 重症サイトカイン放出症候群 (sCRS) を定義する客観的な臨床・生物学的診断基準の策定、および日常臨床で即時測定可能な予測バイオマーカーの同定。 (4) sCRSに対する最適な治療介入戦略として、リンパ球毒性を有する高用量ステロイドと、IL-6R (interleukin-6 receptor) 阻害薬であるトシリズマブ (tocilizumab) の有効性およびCAR-T細胞の体内動態に与える影響の比較評価。
結果
極めて高い完全奏効率とMRD陰性化率: 19-28z CAR-T細胞療法の輸注により、再発・難治性成人B-ALL患者において極めて高い抗腫瘍効果が示された。全体コホート16例中14例が完全奏効 (CR) または血球回復未完全を伴う完全奏効 (CRi) を達成し、全体CR/CRi率は88%に達した (Table 2)。さらに、これら奏効例のうち75% (12/16例) が、フローサイトメトリー、IgHディープシーケンス、またはbcr-abl qPCRのいずれかにおいて微小残存病変が検出限界以下となる完全分子学的奏効 (CRm) を達成した (Table 2)。化学療法抵抗性の形態学的な残存腫瘍を有していた9例においても、78% (7/9例) がCR/CRiに到達した。MRD陰性CRに到達するまでの中央時間は24.5日であった。
同種造血幹細胞移植への強力な架け橋: 本治療は、治癒的治療であるallo-HSCTへの極めて有効なブリッジング手段となることが示された。移植適応かつ臨床的に適格な患者10例のうち、70% (7/10例) が19-28z CAR-T細胞療法後にMRD陰性の状態でallo-HSCTへ移行することができた (Table 2)。これは、従来の再発サルベージ化学療法後の歴史的移植移行率約5%と比較して著しく高い。移植を施行された7例においては、中央値で2〜24ヶ月の追跡期間中、白血病の再発は1例も認められなかった。ただし、2例は移植後の合併症によりCRmの状態で死亡した。
重症サイトカイン放出症候群の客観的診断基準の確立: 39種類の血清サイトカインの網羅的解析により、sCRS発症時にはインターフェロン-γ (IFN-γ)、IL-6、IL-10、IL-8、GM-CSF、フラクタルカイン、MIP-1βの7種類の炎症性サイトカインが、輸注前の白血病腫瘍量と強く相関して (Spearman r=0.43-0.88) 著明に上昇することが判明した (Fig. 1B)。これらの知見に基づき、本研究ではsCRSを「①3日以上持続する38°C以上の発熱、②上記7種類のサイトカインのうち2種類以上がベースラインの75倍以上、または1種類以上が250倍以上の上昇、③昇圧剤を要する低血圧、SpO₂ < 90%の低酸素症、または意識変容・痙攣などの神経障害のうち1つ以上の臨床毒性」の三徴を満たすものとして客観的に定義した (Table 3)。この基準を満たしたsCRS群 (n=7) は、満たさない非重症群 (nCRS群、n=9) と比較して平均最高体温が有意に高く (P=0.019) (Fig. 1A)、平均入院日数も56.7日 vs 15.1日と著しく長期化した。
CRPを用いたsCRSの早期予測サーベイランス: 日常臨床において迅速な測定が困難なサイトカイン測定の代替として、血清CRP値の有用性を検証した。ROC曲線解析の結果、sCRS発症前におけるCRPの最大値はsCRSの極めて強力な予測指標であり、曲線下面積 (AUC: area under the curve) は0.968を示した (Fig. 4)。最適なカットオフ値をCRP ≥20 mg/dLとした場合、sCRS発症に対する感度は86%、特異度は100%であった。sCRS群では、CAR-T細胞輸注後2日目 (P=0.035)、4日目 (P=0.025)、5日目 (P=0.019)、9日目 (P=0.01) において、nCRS群と比較してCRP値が有意に高値を示し、ベッドサイドでの早期介入指標として極めて有用であることが実証された (Fig. 4)。
高用量ステロイドによるCAR-T細胞の消失と再発リスク: 初期にsCRSを発症した3例 (MSK-ALL04、MSK-ALL05、MSK-ALL07) に対し、全身性炎症の抑制を目的に高用量プレドニゾン (>100 mg/day相当) による治療介入を行った。その結果、臨床症状は速やかに改善したものの、骨髄中のCAR-T細胞数は非ステロイド治療群と比較して約5倍に激減し (P=0.048) (Fig. 3)、CAR-T細胞の体内持続性が著しく損なわれた。結果として、これら3例全員がCRm達成後に白血病の再発を来した (Table 4)。本研究における生存解析において、ステロイド投与群は非投与群と比較して、無増悪生存期間 (PFS: progression-free survival) のハザード比 (HR: hazard ratio) が著しく悪化し、HR 4.20 (95% CI 1.50-11.76, p=0.006) を示した。
トシリズマブによるCAR-T機能を損なわないsCRS管理: 後続のsCRS症例3例 (MSK-ALL13、MSK-ALL14、MSK-ALL17) に対しては、ステロイドを使用せず、IL-6R阻害薬トシリズマブ単独による治療を行った。トシリズマブ投与後1〜3日以内に発熱および全身症状は迅速に消失し、かつ骨髄および末梢血中における19-28z CAR-T細胞の増殖・生存は完全に維持された (Fig. 2)。特にMSK-ALL13においては、トシリズマブ投与後にCAR-T細胞が約7000倍の劇的なin vivo増殖を示し、MRD陰性CRが維持された (Table 4)。トシリズマブ使用群におけるPFSのハザード比は、ステロイド使用群と比較して有意に良好であり、HR 0.24 (95% CI 0.06-0.96, p=0.043) であった。
可逆的な神経毒性プロファイル: sCRS患者の一部において、せん妄、失語症、単語想起困難、および痙攣様活動などの神経毒性が観察され、3例で気道確保のための挿管人工呼吸管理を要した (Table 3)。脳画像検査 (CT/MRI) では特異的変化を認めず、脳波検査 (EEG) にててんかん様活動が確認された。一部の症例では脳脊髄液 (CSF: cerebrospinal fluid) 中に19-28z CAR-T細胞が検出されたが、神経症状を呈した全例で検出されたわけではなく、全身性の高度な炎症病態に伴う二次的な脳症の関与が示唆された。なお、これらの神経毒性は適切な支持療法により全例で後遺症なく完全に回復した。
考察/結論
本研究は、再発・難治性の成人B-ALL患者において、CD19標的19-28z CAR-T細胞療法が88%という極めて高い完全奏効率をもたらし、高リスク患者における同種造血幹細胞移植への強力な架け橋 (bridge to transplant) となることを実証した。さらに、CAR-T細胞療法に伴う最大の臨床的課題である重症サイトカイン放出症候群 (sCRS) の客観的診断基準を確立し、CRPを用いた予測サーベイランスおよびトシリズマブを第一選択とする毒性管理アルゴリズムを定式化した。
先行研究との違い: これまでのCAR-T細胞療法に関する報告、例えば Grupp et al. NEnglJMed 2013 や Kalos et al. SciTranslMed 2011 などの小規模な症例報告においては、CRSの具体的な診断基準や体系的な管理戦略が不明確であった。本研究は、16例というより大きな成人コホートを用いて、sCRSの臨床的・生物学的定義を明確に体系化した点でこれまでの研究と大きく異なる。また、先行研究である Brentjens et al. SciTranslMed 2013 や Brentjens et al. Blood 2011 の知見をさらに拡大し、毒性管理の成否がCAR-T細胞の生存と長期的な抗腫瘍効果に直結することを初めて明らかにした。
新規性: 本研究で初めて、sCRSの診断基準として「持続する発熱、特定の7大サイトカインの著明な上昇、および臨床的臓器毒性」の三徴を定式化し、血清CRP値 ≥20 mg/dLがsCRS発症の極めて信頼性の高い予測サロゲートマーカーとなることを新規に見出した。さらに、高用量ステロイドがCAR-T細胞に対して強力なリンパ球毒性を示し、in vivoでの増殖と持続性を阻害して白血病の再発を直接的に誘発することを明確に証明した。これに対し、IL-6R阻害薬トシリズマブは、CAR-T細胞の増殖能や抗腫瘍効果を損なうことなくsCRSを安全かつ迅速に制御できることを臨床的に立証した。
臨床応用: 本研究で確立された毒性管理アルゴリズムは、CAR-T細胞療法の安全性を飛躍的に高め、一般の医療機関における臨床応用を可能にする標準的プロトコル (standard of care) の基盤となった。ベッドサイドで連日測定可能なCRPを用いたモニタリングは、高価で時間のかかるサイトカイン測定を代替し、重症化リスクの高い患者を早期に識別してトシリズマブによるタイムリーな介入を行うための極めて実用的な臨床ツールを提供する。
残された課題: 今後の検討課題として、CAR-T細胞関連神経毒性(ICANS: immune effector cell-associated neurotoxicity syndrome)のより詳細な発生メカニズムの解明と、ステロイドに依存しない特異的な制御法の確立が挙げられる。また、本研究における19-28z CAR-T細胞の体内持続期間は約3ヶ月であり、Milone et al. MolTher 2009 などで示された4-1BB共刺激ドメイン搭載CAR-T細胞と比較して短い傾向がある。この持続性の差異が長期無再発生存率に与える影響の検証や、CD19抗原逃避による再発を克服するためのマルチターゲットCAR-T細胞の開発、および移植非適応患者における長期的な寛解維持戦略の構築が今後の重要な研究方向性である。
方法
試験デザインと患者コホート: 本研究は、Memorial Sloan-Kettering Cancer Center (MSKCC) で実施された単施設非盲検第I相臨床試験 (NCT01044069) の拡大コホート研究である。対象は再発または難治性の成人B-ALL患者16例である。患者の中央年齢は50歳 (範囲18-74歳) であり、フィラデルフィア染色体陽性 (Ph+) が25% (n=4)、複雑核型が44% (n=7)、同種造血幹細胞移植 (allo-SCT: allogeneic stem cell transplantation) 後の再発が25% (n=4) という極めて予後不良な高リスク群が含まれていた。CAR-T細胞輸注前の時点で、88% (n=14) の患者が形態学的な残存腫瘍を有していた。
CAR-T細胞の製造と投与: 患者から採取した末梢血単核球より、γ-レトロウイルスベクターを用いてCD19標的19-28z CAR遺伝子を導入した。このCARは、CD19特異的単鎖可変領域フラグメント (scFv: single-chain variable fragment) に、CD28共刺激ドメインおよびCD3ζシグナル伝達ドメインを結合させた第2世代構造を持つ。リンパ球除去前処置としてシクロホスファミド (1.5-3.0 g/m²) を投与した後、目標用量である3×10⁶ CAR-T細胞/kgを静脈内投与した。
有効性と体内動態の評価: 治療効果は、骨髄穿刺液を用いた形態学的評価、フローサイトメトリーによるMRD測定、および免疫グロブリン重鎖 (IgH) 遺伝子再構成のディープシーケンス解析により評価した。Ph+患者ではbcr-abl転写産物の定量PCR (qPCR) を併用した。CAR-T細胞のin vivo増殖および持続性は、末梢血および骨髄中のCAR遺伝子コピー数をqPCRおよびディープシーケンスを用いて定量した。
サイトカインおよびバイオマーカー解析: CAR-T細胞輸注後21日間にわたり、39種類の血清サイトカイン濃度をLuminexシステムで測定した。また、急性期反応タンパク質であるC反応性タンパク質 (CRP: C-reactive protein) を日常的な生化学検査により連日測定した。
sCRSの診断基準と統計解析: 臨床データとサイトカイン動態の相関解析に基づき、sCRSの診断基準を定義した。統計解析にはt検定、一元配置分散分析 (ANOVA)、およびYouden指数を用いた受信者動作特性 (ROC: receiver operating characteristic) 曲線解析を適用し、sCRSを予測するCRPの最適なカットオフ値を特定した。